ゆっくりが髪を失った状態をハゲまんじゅうと呼ぶ。
髪を失うことはゆっくりにとって致命的なことだ。
脆弱なゆっくりにとって髪による保温機能、防護機能を失うことは生存率を激減させる。
命の次に大切な飾りが付けられなくなるというのもある。
飾りはゆっくりにとってアイデンティティを司るものであり、これがなくなれば仲間から阻害される。
髪を失って不気味な姿となったハゲまんじゅうが単なる飾りなし以上に迫害されることは自明の理だ。
そればかりか、ゆん格が崩壊する恐れがある。
自分が誰だかわからなくなり、自身と外界の区別がつかなくなり、筋道立った思考ができなくなり、最終的に悪夢めいた意識の混濁のなかで狂い死にすることになる。
また他の動物との関わり方も大きく変化する。
ゆっくりは人間に擬態することで肉体的には遥かに強い動物たちから辛くも逃れられている。
だが、髪がなくなればこの擬態効果も減少する。
また人間はハゲまんじゅうをことの他嫌う。
まず見た目が醜い。ゆっくり自体人間の醜悪なパロディと考える人がいるが、ハゲまんじゅうはそのゆっくりをさらに歪めたおぞましい悪意のオブジェだ。
ハゲまんじゅうとは破壊しつくされたゆっくりの残骸なのだ。
いかなるゆっくり愛好家でもハゲまんじゅうだけは拒絶する。むしろゆっくりが好きな者ほどハゲまんじゅうを激しく嫌う傾向があるようだ。
その存在自体がゆっくりに抱かれる幻想のすべてを否定するからだろう。
これを可愛がれるものはこの世にいないと断言できる。
ハゲまんじゅうとは通常人間による虐待によって生み出される。
前述のとおり、ハゲまんじゅうに変えてやるだけでこの上ない苦痛を与えることができるのだ。
ハゲまんじゅうにして森に捨てる者、命を永らえさせて崩壊する様を観察する者もいる。
世の満たされない紳士淑女諸氏にとって手軽で効果的なストレス解消法だ。
統計によると、ゆっくり出現以来いじめを苦にした自殺が大きく減ったという(要出典)
だがもうひとつ、病気によるハゲまんじゅう化という現象もある。
定期的に流行るゆっくりのみにかかる疫病により、髪が抜け落ち、飾りなどのパーツが腐り崩れてしまうのだ。
ハゲまんじゅうと化したゆっくりたちは森を彷徨い歩くことになる。
ハゲまんじゅうを受け入れてくれるゆっくりはいない。ましてや疫病となれば感染を恐れられて石もて追い払われるのが常だ。
ハゲまんじゅうにはどこにも居場所がない。
ハゲまんじゅうたちはしばしば集団を作り、あてもなく彷徨い歩くことになる。
ハゲまんじゅうたちは救いを求めて歩き続ける。救いがどこかにあると信じて。
しばしば宗教がかった集団となる。一種の巡礼者、苦行者の群れと化すのだ。
「ゆっくり~ゆっくり~、きょうもげんきにゆっくり~」
「ゆっくりのかみさまおすくいください! あわれなかなこをおすくいください!」
ハゲまんじゅうたちは祈りの文句、嘆願の言葉を叫びつつ、お互いに体当たりしながら進んでいく。
体当たりしあうのは苦行であり、前身を促すためのものでもある。
動きを止めたハゲまんじゅうは周囲から袋叩きにされる。そのまま二度と動かなくなるものも多い。
大声を出すのは通り道にいるほかのゆっくりに注意を促すためである。これを怠ったのなら殺されても文句は言えない。
「ばっちいハゲまんじゅうはさっさときえてね!」
「おおきもいきもい! れいむたちに近づかないでね!」
ゆっくりたちは口から石を放って通りがかったハゲまんじゅうたちをいたぶる。
ハゲまんじゅうたちは一切手向かいせず、苦難を甘んじて受け入れる。
その顔ぶれはどれもこれも見分けがつかないが、中にはかつての姿を想像させる痕跡を持つものもいる。
「ぐへへへへへ~~~ぶへへへへへへええええ~~~~~~ぶうええええええええええ~~~~~~」
もはやゆっくりとさえ言えなくなったあるゆっくりは、頭の側面にある突起によってゆっくりすいかだったことがわかる。
突起は病によって崩壊した角の名残であろう。ゆっくりすいかはゆっくりの中でも膂力に優れた種だが、角を失うとその力は普通のゆっくり以下に落ち込む。
自慢の力比べで他のゆっくりに負けて精神崩壊したのかもしれない。
「おお……おおお……おお……」
背中に黒い羽の残骸のついたハゲまんじゅうは、元きめぇ丸だ。
自慢の飛行能力を失って地べたを這い回る様は哀れ極まりない。この種は地上での生活は不得手なのだ。
歩くごとに全身に苦痛が走ったような表情を浮かべている。あのふてぶてしい表情はかすかに残っているだけだ。
「じね……じね……じねぇ……」
呪詛の言葉をぶつぶつ呟いているのはゆっくりふらんだ。
あの派手な翼は見る影もく腐り落ちている。
きめぇ丸と同じく地上での生活は不得手(そもそも歩くことが無い)ので、歩行には相当の困難が伴うようである。
飛行能力と共に狩りの能力も失った。甘いゆっくりの餡ではなく、草や虫(それも普通のゆっくりは目もくれないような)を食べて命をつなぐしかない。
死ね、死ねという呪詛は他の健康なゆっくりに対するものか。それともいまや苦痛の塊と化した自分に対するものか。
「おばなああああああああああ!! おヴぁなあああああああああああああああああああああ!!!」
奇妙な叫びをあげているのはおそらく元ゆっくりゆうかだ。
ゆうかは花を育てる種として知られているが、このハゲまんじゅうは道端の花を抜いては土を掘って埋めるようなことを繰り返している。
そういった花壇もどきは後続のハゲまんじゅうたちに踏みにじられていく。
「がぱ……かぱ……かぱぱ……」
干乾びかけたような姿のハゲまんじゅうがいる。これは元ゆっくりにとりだろう。
にとりは水に耐性を持つ珍しいゆっくりだが、病気によってその能力を失ったようである。
しかし、にとりは長い間水から外に出られない種でもある。体が干からびて崩壊してしまうのだ。
元にとりは歩くたびに体にヒビが生え、己の小さな残骸を後に残していく。もう長くないだろう。
「おぜうさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! おぜうざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
このハゲまんじゅうはゆっくりさくやに違いない。
病気にかかったことで共生関係にあるゆっくりれみりゃから追い出されたのだろう。
かつての(ゆっくりとしては)瀟洒な姿は微塵も残っていない。
決して再会することのできないおぜうさまの名を叫び続けている。
「じゃおおおおおん! じゃおおおおおおおおおん!」
その傍らにいるのは一緒に追い出された元ゆっくりめーりんか。
もともと言語能力、高度な精神能力を持たない劣等種なので、ハゲまんじゅうになってもあまり変わりないようだ。
それでも守るべき場所を失った衝撃は心に深い傷を与えたことだろう。
「カサカサ……カサカサ……」
これらの破壊されたゆっくりの残骸たちの間を、これまたハゲまんじゅうと化した元ゆっくりリグルの大群が這い回っている。
もちろん、死んだハゲまんじゅうを掃除するためだ。ハゲまんじゅうの病にかかった死肉を食らうことで、元リグルはますます捻じ曲がった姿になっていく。
この芥虫たちはまさにこのおぞましい群れに相応しく、汚辱色の彩りを添えていた。
ハゲまんじゅうたちは歩き続ける。
ありもしない救いを求めて。救いがどこにもないとわかっていても。
「ゆっくり~ゆっくり~、きょうもげんきにゆっくり~」
「ゆっくりのかみさまおすくいください! あわれなハゲまんじゅうをおすくいください!」
最終更新:2011年07月28日 19:55