春先。
ゆっくり達にとっては、長く苦しい越冬が終わりを迎え、食料が不足する季節。
何とか食料を確保しようと、森を駆け巡り、畑に侵入し、民家にまで忍び込む。
あるゆっくり一家も、その例に漏れず人間の畑へ忍び込んでいた。
「ゆっくりできるくらい、おやさいさんがいっぱいだよ!!」
「ゆっくりたべようね!!」
「ゆゆ!! これまだちいさいね!!」
「でもおいしーよ!!」
「ここにいっぱいたべものがあってよかったね!!!」
自分達で見つけた食料を、美味しそうに頬張る一家。
畑の真ん中で、ささやかに行われている一家団欒。
無理も無い、冬の間厳しい食事制限があったのだから。
そのためか、荒々しく音を立てながらやってくる人間がいても気付く事はなかった。
「おい貴様ら!! なにやってるんだ!!!」
すなわち、直ぐに人間に見つかったのだ。
それでも、一家は食べる事をやめずに、未だ畑に居座り続けていた。
「ゆゆ!! ここはれいむたちがさきにみつけたんだよ!!! おじさんもゆくりしていってね!!」
「そうだよ!! このゆっくりすぽっとは、まりさたちが……」
「うるせーー!! ここは俺の畑だ!! おまいらが行かなきゃならねぇのは加工場だろうが!!」
ゆっくりなりの理屈を並べ立てる一家だったが、人間に通じる訳も無く、男はお構いなしに一匹のゆっくり魔理沙を踏み潰した。
「ぶぎゃら!!!」
少しだけ甲高い悲鳴を上げて朽ち果てた魔理沙。
その一匹の姉魔理沙が潰されたことが引き金になり、一家は蜘蛛の子を散らすように逃げ去ってゆく。
「ゆ!! ゆっぐりしないでにげるよ!!」
本当ならまだまだ宴会が続くかと思われた時間。
その漆黒の闇の中を、命からがら逃げてきた一家が歩いていた。
「れーむのーー!! れーむのあがじゃんがーーー!!!」
「まりざのあがじゃんがーーー!!!」
この、ゆっくり霊夢と魔理沙夫婦は三十匹もの子供達がいた。
だが、それも先ほどまで。
我先に逃げていった子供魔理沙が一番に捕らえられ、その後は助けようとした姉たちがズルズルと捕まっていった。
「ゆーー!! おねーーじゃーーん!!!」
「もっどゆっくりしちゃかっちゃー!!!」
今残っているのは、つい最近生まれたばかりの赤ちゃんが六匹のみ。
半数の魔理沙に、半数の霊夢。
それと両親を合わせて八匹の家族。
全員が、薄暗い洞穴の中へ入って行く。
そこは、ゆっくり一家のお家だった。
しかし、昨日までは三倍・四倍近くいたゆっくり達の楽しそうな笑い声はもう聞こえない。
シーンと静まり返った音だけが、ゆっくりの家という場違いな場所で響いている。
「ゆーーーーーー……」
お母さん霊夢が声を漏らす。
大抵のゆっくりは直ぐに忘れてしまうが、いきなり大量の子供を失ったこの親はそうはいかなかった。
自分達が見つけた食べ物を人間に略奪されて、その上子供達まで持っていかれた。
しかし、力の無いゆっくりではどうすることも出来ない。
自分達は、人間とは比べ物にならないほど無力な存在だから。
「おかーさんゆっくりげんきだしてね!!!」
「れーむたちがいっぱいゆっくりするからね!!!」
「まりさもゆっくりするよ!!!」
お母さん魔理沙と子供達が一生懸命励ましてくる。
すると、次第にお母さん霊夢の顔も緩んできた。
「うん!! のこっためんなでゆっくりしようね!!!」
「「「「「うん!!! ゆっくりしようね!!!!」」」」」
その晩。
残った一家は何時もより近寄って眠った。
翌朝、まだ朝露が残っているうちから一家は人里に下りていった。
目的は、以前聞いたことのあるゆっくりブリーダーの話。
自分達が人間と一緒にゆっくり出来るように、色々なことを教えてくれる人がいるところ。
ゆっくり達のおぼろげな記憶だが、これだけはしっかり覚えていた。
「れいむたちもゆっくりできるね!!!」
「あそこでいっぱいごはんがたべれるね!!!」
昨日は、暗い気持ちで通ったゆっくり道。
しかし、今日は希望を持って進んでいる。
「ゆ!! れいむ!!! どこかにおでかけ?」
「むっきゅ~?」
ゆっくり道を抜けたとき、目の前に顔見知りのゆっくりアリスとゆっくりパチュリーが近寄ってきた。
どうやら、体の弱いパチュリーが出来るだけ平坦な所に家を移していたらしい。
「うん!! あのね!! あのね!!」
霊夢と魔理沙が、まるで漫才の掛け合いのように二匹に説明する。
昨日、忍び込んだ所で人間に追い掛け回された事、家族を沢山失った事。
そして、ゆっくりブリーダーの事。
全てを話し終わると、真剣に聞いていた二匹が自分たちも付いて行くと言い放った。
「とかいはのありすは、もっときょうようをみにつけたいよ!!!」
「むっきゅ~♪ ぱちゅりーももっといろんなことをしりたいよ!!!」
人間に襲われないように、と言う本来の趣旨とは外れているが、この二匹もそれぞれ思う所があったようだ。
「うん!! ありすもぱちゅりーもゆっくりしようね!!!」
「まりさと、れいむとこどもたちといっしょにぶりーだーのところにいこうね!!」
仲間が増えて、喜ぶ一家。
昨日減った分には及ばないが、馬鹿煩いアリスと、馬鹿へ理屈をかますパチュリーが加わった事で一家の笑顔も柔らかくなっていった。
「それじゃあ!! みんなでゆっくりぶーりだーのおうちにいこうね!!!」
「「「ゆっくりいこうね!!!」」」
出発するその集団を見つめていた大きな花。
まさに、その集団の賑やかさを象徴するような花だった。
だが生憎と、その花はポッキリと折れてしまっていたが……