ゆっくりいじめ系3171 不幸な“れいむ”

  ※注意

  • 俺設定あり
  • 明確な虐待描写は少なめ
  • 詳細な描写はありませんが性的な行動が描かれています




   不幸な“れいむ”



 ゆっくりありすは、佇んでいた。

 このゆっくりはありす種のなかでも特に性欲が強く、よく発情して他のゆっくりを襲っていた。また、そんな自分にどこか誇りのようなものを抱いているきらいもあって今まで一度も、れいぱーと呼ばれる自分の所業を悔いることはなかった。
 最近もある公園でゆっくりたちを見つけて、餌食にしてきたばかりだ。

 しかし今、一仕事終えたれいぱーありすは、とても空虚ななにかを感じて動くこともできずにいた。
 こんなことは初めてだ。
 ことが終わって正気に戻っても、いつもはただすっきりしている自分と被害者たちの姿を見比べて、どこか勝ち誇るような感情すら抱いていた。
 それが今はどうした。特に目の前の残骸どもに、見覚えがあるわけではない。
 それでもなぜか、なにかわからない空虚なものに押しつぶされそうになって、苦しみを感じてしまうのだ。よくはわからないが大事なものを欠いてしまったと、心の片隅から何かが訴えるような感じがする。
 奇妙な虚無感。
 だが、むしろそれをもっと強く訴えていたのはなんといっても、動けないでいる体そのものであるようにありすは感じた。
 ありすにとっては、それこそが違和感を感じる原因だというのに。
 何かを虚空に求めるように、意識と体は、ぼんやりとありすをそこにとどめるのだった。



 男はドアを恐る恐る開いた。
 彼は俗に言う、虐待おにいさん。虐待をして感情と欲望を満たす人間たちの一人だ。
 彼は決して、ドアの奥を恐れているわけではない。が、中の状況が伺いしれない以上、万全を期するに越したことはなかった。
 ドアを開けきり部屋のなかを見るが、そこにはこちらに背を向けた一匹のゆっくりが佇んでいるだけ。こちらの動きにも気づかない風で、どうやら心配は杞憂に終わったようだ。
 そして部屋の状況は、男が発情させて放り込んだれいぱーが、目的通りに動いてくれたことを示している。部屋に残った残骸がその証拠だ。
 一家の崩壊。そんな光景がこの部屋で繰り広げられていたのだ。
 そしてそれを、仕掛けたビデオカメラがさぞかし如実に記録していることだろう。そのビデオカメラは、目立たないよう棚の上に隠して置いていた。
 本当はこの目で見たかったが、仕方ない。
 その空間には、人間などいない方がいいだろうと思ったのだ。なにせそれは家族の時間だ。

 彼は今このように性的な虐待方法を用い、録画なぞしているが別にHENTAIおにいさんというわけではない。手を下すための方法そのものには特別こだわりがないだけだ。
 彼はゆっくりの虐待のなかでも家族が崩れていく瞬間に心惹かれていた。
 他の多くの生物と同じくゆっくりたちにとっても家族の存在は大切だ。
 そんな一家が引き裂かれる瞬間、その形や方法がどんなものであれ、彼にとっては嗜虐心やら何やら、色々なものを特別に満たしてくれる光景であった。
 子供を差し出し、許しを請う親もいい。
 逆に、子供を、死の間際だろうと守り続けようとする親でもいい。そんな場合は自分が悪役を買い、家族を引き剥がすはめになる。ゆっくり達にとっては、どちらにしろ彼は悪人なのだからかわりないが。
 とにかく彼は、ゆっくりの一家がその絆を失う瞬間がたまらなく好きだった。

 そして今も、一家にれいぱーを放り込み襲わせた。きっとカメラにはさぞかしいいものが撮れているだろう。
 彼は早く見ようと逸る心を押さえながら、ゆっくりと部屋を出て、今だ動かない一匹のれいぱーの後ろ姿を見ながらゆっくりとドアを閉めるのだった。
 鍵を閉める音が廊下に響いた。



 ゆっくりれいむは一匹で歩いていた。
 そこはれいむにとって見知らぬ町。簡素な町並みで、人通りはほとんど見られない。とは言え、れいむは下を見ながらとぼとぼと歩いていたので、視界にうつるのは歩道のアスファルトくらいだったが。
 空は今のれいむの心情を表すように曇っていた。空が同情すらしてくれているように、れいむには感じられた。
 なぜこんなところを歩いているのか、わからなかった。そしてなぜたった一匹なのかも。

 れいむは記憶を辿る。
 一番新しいと思われる記憶は人間だ。彼にさらわれたのだ。一家まるごと。
 だが、その先の記憶はわからない。
 気づいたら道を歩いていて、一匹になっている現状をぼんやりした頭で妙に納得していた。
 自分はたった一匹で助かったのだろうか。家族を見捨てたのか。
 答えはわからないままだったが、罪悪感がただひたすられいむの心を苛んだ。
 自分は一体何をしたのだろう。あの家族を失って、生きていけると思ったのだろうか。自分はそこまで愚かだったか?
 れいむはすべてのはじまりに思いを馳せた。


 れいむはシングルマザーだった。
 相手が死んだのではない。れいぱーのありすによってにんっしんさせられた子を持たされたのだ。
 産まれたのは三匹の赤ちゃん。上の一匹はありす種で、下の二匹はれいむ種。
 れいむは彼女らを可愛がる暇もなく、狩りにひた走った。れいむは狩りがとても下手で、元々自分の食べるものすらぎりぎりだったのだ。
 結局食料を充分に集めることはできず、下のれいむ二匹はやがて餓死した。
 れいむはあの時のありすを恨んだ。
 奴があんなことをしなければ、この子達は死ななくてすんだのに。奴があそこまでげすじゃなければ、れいむを放っていくこともなくなりこの子達を育てるのを手伝わせられたのに。
 そうして恨んだその夜、れいむは夢を見る。
 あの時間の再現。あの時も、そして今でも鮮明に思い出すことのできる、あの最悪の時間だ。

 ありすがその丸い体を擦り寄せれいむの名を呼ぶ。
 その視線はれいむに一心に注がれ、口はにやついて涎を垂らしていた。ねっとりとした生温かい息を浴びせ、金髪は汗で体に張り付いていた。身体中から甘ったるい臭いをはなち、れいむに自分のその部分を押し付けて、やがて果てた。
 ともにすっきりーしたれいむは、怖い、そして気持ち悪いと、行為中、終始思っていた。

 あの感覚も感情も忘れてはいない。
 自分に入り込まれる違和感。自分の体に、ありすの居場所を作られたようだった。
 そしてあとになって思い出すと、共に怒りもわいてくる。
 しかし夢に見る再現は、怒りになど軽く勝る不快感と恐怖を感じさせた。
 そばに眠る残った子を見て、れいむは思った。この子だけでも育てあげねばと。
 残った赤ゆありすは穏やかな寝顔を見せていた。
 それが愛情から来る誓いだったのか、今はもうわからない。
 れいむは、とにかく必死だった。考える暇などなかったし、考えたくはなかった。
 子供はみんなゆっくりさせなくては。それだけの思いを抱えていた。
 だからこの子もまたありす種である、などということにかまっていられる暇はなく、ただ目をそらし続けていた。心のどこかでは大事なことで、またどこかでは大したことではなかった。
 そんなせめぎあいからただ逃れ、必死にやって来た。
 娘もそんなれいむの姿を見て、必要以上の要求をすることもなく、ただそばでいい子にしていてくれた。あんなげすなど比べ物にならないいい子に彼女は育っていってくれたのだった。

 まりさと出会ったのは、ありすもそろそろ子ゆと言えるかという頃だった。
 一匹だったまりさは、こんな子持ちのれいむを気に入ってくれた。
 だが最初、れいむはその気持ちを拒否していた。自分などと一緒になってはいけないと。自分は一人でこの子を育てていかなくてはいけないのだ、と。
 それでもまりさは踏み込んできた。
 何度も猛烈なアタックをされて、やがてれいむの方が折れ二匹は番になった。
 まりさは、もちろんありすも快く受け入れてくれた。
 まりさはれいむとは比べ物にならないくらい狩りが上手で、食べ物に困ることはなくなった。
 さらにその後すぐ、二匹の間にさらに三匹の娘が産まれた。
 ありすも妹達と仲良くできた。
 家族は、とてもゆっくりしていた。
 こんなにも、赤ゆはゆっくりできる存在だったんだとれいむは思った。最初の子達が産まれたときはそれどころではなかったのだ。
 そしてまりさもゆっくりできる。まりさがそばにいて、まりさのそばにいられる。とても幸せだった。


 そしてその幸せは、あの人間に取り上げられた。


 今からでも、家族を取り戻しにいくべきだろうか。
 だがそれはどこに行けばいい。そもそも人間に勝つことなどできるのか?
 思考が渦巻き、そして詰まる。

 れいむはまりさのことを思い出した。
 とてもゆっくりしたまりさ。
 まりさの帽子は、他のどんなまりさにも負けずかっこいい。そうれいむは思っていた。
 まりさもまた、れいむのことをほめてくれた。この黒髪を、それにおかざりを。
 だがれいむには、その言葉が思い出せなかった。確かにほめてくれたはずなのに。
 れいむは焦りを感じた。なんとか思い出そうと奮闘するも、一向にその言葉は出てこない。
 れいむは愕然とした。なんということだ。
 一番大切な思い出のはずなのに。自分は忘れてしまったのか。
 なんと情けない。こんな自分では、もうまりさに会う価値はない。

 家族を見捨てた自分は、かつてのようにほめてもらうわけにもいかない。
 きっと最後には、家族はあの人間に殺されてしまうだろう。
 そして自分は何もできない。家族を守れる立場にもないのだ。
 ならせめて最後に、一緒にゆっくりできる方法をとりたいと思った。
 家族とできる限り同じ時間のうちに、自分も永遠にゆっくりしてしまいたい。


 ふと気付くと、れいむは公園らしき場所の入り口にいた。
 木が道に沿って遠くまでならび、かなり広そうなところだ。少しくらいなら、狩りをすることもできるだろう。
 きっとゆっくりにも重宝されている場所なのだろう。
 そうだ、水を飲ませてもらおう。
 そもそも精神的にぼろぼろだがここまで歩いてきたのもあって喉もからからなのだ。少しでも気分の悪さからは逃れたい。
 死ぬのはそのあとでも決して遅くないはずだ。
 僅かに言い訳が混じったことから目をそらしながら、れいむは決めた。
 そして、ゆっくりと公園の中へ歩みを進めた。

 入ってみると、すぐのところにゆっくりまりさがいるのを見つけた。
 娘のありすと同じくらいの大きさだった。どうやら子ゆのようだ。
 れいむは声をかけてみる。

「ゆっくりしていってね」

 正直れいむとしては、現状にそぐわない挨拶だった。
 飲もうとなれば水は早く飲みたいし、元気良くともいかなかった。だがやはりゆっくりとしては、この挨拶から始めなければならないだろう。
 しかし、本来ならすぐさま返ってくるはずの挨拶が、聞こえることはなかった。さぞ元気な声で返してくれるだろう、と思っていたのだが。
 子ゆの様子をうかがうと、どこか怯えているように見える。何かあったのだろうか?
 れいむが次の言葉をかけようと口を開いたそのとき、

「ゆわああぁぁぁー!!」

 という悲鳴と共に、子ゆは逃げ去ってしまった。
 怖がられてしまったのだろうか。
 自分はなんのへんてつもない、ただのゆっくりれいむのはずなのだが。
 状況の飲み込めないれいむだったが、今の自分には関係ないことだと思いなおし、公園の中へと進むことにした。

 その後だんだんと、入ってすぐから見えていたオブジェが近づいてきた。
 囲いの大きさと背の低さが、奥のオブジェと不釣り合いなため、水があるかもと踏んで近づいてみたが案の定、それは噴水だった。
 水の音からすれば、それなりの量の水がたまっていることだろう。
 奥まで進んできたことで、更に奥に人が遊んでいるのも見えるようになってきた。遠くてまだ気づかれてはいないし、危害を加えられるとは限らないが面倒事は避けておきたい。
 さっさと飲んで去ってしまうべきだろう。
 噴水に近づきそのへりに上ろうとした時、後ろかられいむに声がかけられた。
 れいむはすぐさま振り向く。その声はこういっていた。

「またきたのぜ!?」

 またとは、いったいどういう事だ?
 れいむが振り向くと、少し離れたところに二匹のゆっくりまりさが並んでいた。
 先程とは違い、今度は成ゆっくりらしい。とは言え片方は、なりたてか、もしくは直前という程度かもしれない。少しばかり小さかった。
 こいつらはこの公園に住み着いているのだろうか。
 いや、これだけの場所では来る人間はかなりの数だろう。食べるものをとりに来るのが精一杯か。
 とにかく、どちらもれいむには見覚えのあるまりさではない。
 れいむはまわりを見て、自分に声をかけられたのが勘違いではないことを確認してから口を開く。

「またきたって、なんのこと? しらないよ?」

 小さめのまりさが反論する。

「まえにもきたぜ! とぼけるなだぜ!」

 そうは言われても、れいむにそんな記憶はない。
 れいむがたじろぎながら返す。

「そんなこといわれても、しらないものはしらないよ……」

 この公園だって見覚えはない。知らないのは真実なのだ。

「とぼけるなっていってるんだぜ!」

 それでもまりさはしつこく食い下がる。

「ほんとうにしらないんだよ……」

 彼らの敵意は変わっていない。表情からそれが読み取れた。
 どうやら聞き入れてくれる気はないらしい。
 疲れきった体で、こんな意味のないやり取りを繰り返すのは辛かった。
 今度はもう片方のまりさがれいむに喋りかける。

「いいからさっさとでていくんだぜ。おまえがわすれても、こっちはすこしもわすれてないんだぜ」

 間を作らず、小さめのまりさが言葉を続ける。

「せいっさいしないであげることを、かんしゃしてほしいぐらいだぜ!」

 小さめの方のまりさはやたらと得意気に、今の状況を知らしめてやるかのようにその台詞をはいていた。
 とはいえ実感のないれいむには、未だ言葉の意味すらつかめない。
 話は通じないようだし、このやり取りはただただ面倒だ。
 たとえ無実の罪を吹っ掛けられていようが、これからいなくなるれいむには関係ないことだ。
 あちらも出ていけばいいと言ってくれているし、さっさと切り上げよう。

「じゃあおみずさんだけのませてくれたら、でていくよ」

 れいむがそう言うとまりさが返した。

「ちょっとくらいならのませてあげるぜ。だから、さっさとでていくんだぜ!」

 意味不明な言いがかりは続いているものの、やはり同じゆっくりはゆっくり。
 れいむは、一応の感謝を伝えることにした。

「ありがとう。これでれいむもすこしはゆっくりできるよ」

 言ってから噴水に振り向こうとしたその瞬間、「え?」という声が耳に入った。

「れいむ…? なにいってるんだぜ」

 やれやれ、まだ声をかけてくるとは。やはり飲ませないとでも言うつもりだろうか。
 振り向くのをやめてまりさ達に向き直り、次の言葉を促した。

「おまえはありすだぜ? あたまがおかしくなったのぜ?」

 はあ?
 れいむは思わず叫び返しそうになる。なぜその名が出てくるのだ。
 れいむがありす?
 おかしいのは誰だ。
 そんなことあるわけがない。そんなことが、あってたまるか。
 先ほどの不毛な会話ですら、呆れしか浮かばない、疲れきったれいむの心に一気に嫌悪感が湧いて出る。

 ありす、その名前を聞くだけでもれいむには即座にあの顔が浮かんだ。それから感触、温度、匂い、声。れいむの脳裏にこびりついて離れないそれらは嫌悪感をより強く、大きくしていく。
 嫌悪が強くなるのは、記憶に根付くありすが、ただ嫌だからというだけではなかった。
 強く主張する、ありすの存在感。れいむのなかでそれが日に日に強くなり、自分が征服されていく感覚。
 それはあの時からだ。そしてそう、行為そのものも。
 自分のなかに入り込み一体化していく感じ、植え付けられるありすの分身。
 れいむは、体をありすに征服されていく感覚を、あの時からずっと感じていた。
 自分がありすに埋め尽くされる。自分がありすになっていくような。
 そんなこと、有り得ないのはわかっていた。
 それでもれいむは、それを否定した。嫌悪の感情をあのありすに向け、強くなる存在感に対抗するように感情を強く大きくした。ぶつかりあう二つの合間で、れいむはぎりぎりの自分をなんとか保ってきた。
 ありすに侵食される自分、それはれいむが今まで必死に否定してきたものなのだ。
 一番嫌なことだった。

 それを、あのゆっくり達は突きつけた。
 れいむが一体何をしたと言うのか。あんなやつらに、なぜそんなことを言われなければいけないのか。
 れいむが震える口をゆっくりと開く。

「れいむがありすって、なに? なにをいってるの!?」

 れいむは動揺を隠せない。
 次第に強くなるのは、目の前のゆっくりたちへの怒り。ふざけたことを言う、ゆっくりできないゆっくり達だ。
 有り得ないことなのだ、これも言い掛かりに決まっている。
 まず、真意を聞いてやろう。それがしょうもない理由だったら、さて、どうしてやろう。
 小さめのまりさが声を出す。

「だって……ありすだぜ。どっからどうみても」

 瞬時にれいむの怒りが膨れ上がる。
 罵倒が口をついて出ようとする、その前に、もう一匹のまりさが続けた。

「とにかく、しんじられないなら、おみずさんにうつってみるといいんだぜ」

 うつる?
 れいむはその言葉に一瞬戸惑った。
 そこに映るのは自分、つまりれいむのはずだ。
 そうだ、れいむがありすだなどと言うのはあり得ない。
 水も飲むつもりだったのだし、さっと映して証明してやればいい。
 そしたらこいつらの嘘が暴ける。泣いて謝らせてやるのだ。いい気味だ。
 れいむは噴水のへりに飛び乗った。
 水に写る自分を確認する前にまりさ達に敵意の目を向ける。
 謝らせて、この怒りをきちんとぶつけてやる。そんなことを改めて心のなかで誓い、噴水へと向き直る。

 一面の水が視界に入り、少し冷えた空気がれいむを包む。
 自分の姿は足元だ。
 噴水は赤ゆが飛びこめばぎりぎり潜りきってしまうくらいには水が張っていた。素直に飲んでいたらさぞかしおいしく水が飲めていたことだろう。
 どこか心地いい水の音と、揺らめく水面がれいむを受け入れる。
 実に平穏な空間だ。

 れいむは思った。
 なんだ、自分はなぜこんなにいらついていたのだ。本来ならこんなことも、全部今の自分には関係ないのだ。
 れいむは自分の心が少し落ち着きを取り戻したのを感じながら、水を覗きこんだ。

 すぐさま、れいむはわずかにうしろに飛び退く。
 時間が、止まった。
 噴水の水の音が消えた。人間たちの遊ぶ声が消えた。動くものも、音も、すべてが止まった。
 その瞬間、れいむの心がすべての情報をシャットアウトしていた。
 れいむの口は疑問の言葉を紡いだ。

「なん……で」

 だがそれでも、頭ではありえないと否定を続ける。
 確認せねば、とあんよがもとの位置へと戻ろうとする。だがその足取りは僅かに重い。
 れいむがもう一度自分の姿を目にしたとき、

「ど……じで」

 そこにいたのは、

「どぼじでれいぶじゃだいのおおおおおぉぉぉぉぉぉお!!!!」

 ありすだった。

 どう見てもれいむの顔ではなかった。
 黒髪ではなく、金髪。れいむ種のあのリボンなどはなく、赤いおかざりが真ん中にがぽつんと収められているだけ。
 その姿はここにいるのが正にゆっくりありすであると示していた。
 れいむの視界が歪む。
 混乱し、思考がねじまがる。ふとその思考の中から、れいむはひとつ光明を見つけたように弱々しい笑みを浮かべて言葉をひねり出す。

 こんな、ふざけた、おかしなことが、ありえていいわけがない筈だ。そうしつこく訴え続ける頭も、れいむを圧迫し始める。

「おみずざん、やべでね……ぢがうでじょ? れいぶはれいぶでじょ……?」

 ひねり出した言葉も、状況を変えてはくれない。
 そこには、にやついたゆっくりありすがうつっているだけだ。
 目の前の事実が、れいむに現実を認めることを強要する。
 れいむはそこから逃れるように、少しずつ後退した。

 ありすが見えなくなった。入れ替わるように、そして重なるように脳裏にあのありすが浮かぶ。
 瞬時に嫌悪が湧き上がり、怒りが沸き起こる。やたら苛立ち、戸惑いも強くなった。そして悲しみと、喪失感。
 様々な感情が渦巻く。
 そんな感情は、れいむを守ってすべてを拒否し、そして同時に、れいむを追い詰める。

 後ずさりしたれいむは噴水のへりからぽてっと落ちた。衝撃にれいむは硬直する。
 あお向けに倒れて空を見あげる。
 あまりの感情の動きに、れいむの精神は逆に安定を迎えていた。こぼれ落ちたその感情の一欠片を掬って、れいむは笑う。

「ゆへへ……ゆへ。ありすに……なっちゃった」

 言葉にしたことで、思考が現状を受け入れていく。
 なってしまった。
 ありすに。
 あのげすなれいぱーと同じ姿だ。
 奴に埋め尽くされてしまった。そして姿まで、変わってしまったのだ。

 れいむは苛立ちが隠せなくなる。行きどころを失った感情がたまる。やるせなさが募る。
 体を動かし、噴水の壁にその身をぶつけた。
 こんな体などどうなってもいい。そんな考えも働いてぶつかる力は大きかった。
 壁も体も、もちろんそんなことでは崩れることなどなかったが。
 れいむは軽く跳ね返され情けなく飛び、転がる。
 それでも感情は消えず、れいむは更に力を強めて何度もぶつかった。
 だんだんと弱って霞んでいく頭は新たな考えを浮かべ始める。漠然と浮かんだそれは少しずつ形を整えていく。
 れいむはそれが最低の可能性であることを感じ、かきけすように体当たりを強くした。


 その後も何度も何度もぶつかり、れいむの体力はもはやつきかけていた。頭もすっかり疲れきって、感情は静まりかけていた。体は傷だらけになり、あんこが少しはみ出している。
 この期に及んで意識は警告を発した。
 このままつぶれればそれでいいのに。そうぼんやりと考えるも、ろくに動かないあんよ。
 それでもまたぶつかろうとしたれいむは、転んで前に倒れ込んだ。
 ゆっくり顔をあげる。

 もう動けない。もう何も考えられない、考えたくない。もう何もしたくない。

 そう思った途端、さっき沈めた考えが再度浮かび、れいむの思考を導く。
 勝手にその考えが組み上がっていくのを、れいむは止められなかった。疲れた頭は可能性を否定できず、制御もできず、ただ引きずられて、受け入れることしかできなくなっていた。
 そして答えが出る。
 れいむの体に悪寒が走った。

 さいしょかられいむはありすだったのでは

 勘違いだったのでは?
 思い込みだったのでは?
 嘘の記憶なのでは?
 れいむという自分など、存在しなかったのでは?

 体が震える。
 れいむはなんとか否定しようと記憶を探る。
 だが疲れて思考力を失った頭はうまく動いてくれなかった。

 さいしょからありす?
 ではどうしてみんながじぶんをれいむといったのだ
 れいむれいむとよんでいたじゃないか
 このきおくはうそなのか?
 みんながうそをついていたのか?
 じぶんがありすとれいむをかえていたのか?

 すべての記憶が遠いものになっていく。現実感を失って、淡白で薄っぺらい、寒々しいものに思えてくる。
 世界がひっくり返ったように感じた。
 すべてが否定され、なかったことのようになった気がした。
 ふと、脳裏にまりさの顔が浮かんだ。
 自分を大切にしてくれたまりさ。自分もそのまりさを愛した。二人の愛がたしかにそこにあった。
 れいむは思った。
 それは否定されないはず、と。それは、真実だ。
 ほら、まりさが口を開く。
 一番大切な思い出。まりさが、“れいむ”をほめてくれた。
 確実にそれは、“れいむ”にむけた言葉だった。
 ありすじゃない。
 まりさが口を動かす。そうだ、そうやってあの時も。

 ほめてくれた、

 その言葉が、

 待っても、

 待っても、

 聞こえなかった。

 れいむはやはり思い出せなかった。一番大切な、あの記憶を。

 なかったのか?
 思考で呟くかのように、そう言葉がぽつりと頭に浮かんだ。

 れいむにとってすべてが終わった。
 すべて失い、すべて否定され、確固なものだった筈の愛は消え去った。
 ひっくり返った世界が、れいむを飲み込み押し込んだ。
 自分のすべてが反転して、めちゃくちゃになる様を頭のなかで見せられるようだった。
 思考が歪められて、潰されて、とうとう体さえも、自分を否定した。
 内側から、圧迫感が一気にれいむを襲い、止める間もなく口からあんこが吐き出される。黒い吐瀉物がれいむから、流れ出ていく。
 一度出始めてしまうと、止めることはできなかった。

「エレエレエレエレ」

 あんこが押し出されてくるのを感じる。
 一気に押し出し、勢いが一度弱る。そしてまた、強い力が起こる。
 あんこが出ていくのは止まらなかった。
 体を捨て、自分が流れ出ていく。否定された自分がそこにあるのを見てしまう。
 苦しいのに、それでも吐き続ける。
 なんともできず、悲しかった。自分を否定する自分が、情けなくて、苦しかった。
 このまま出尽くしてしまうのだろうか?

 だんだんと慣れ、霞んだ意識が体と剥離する。
 思考も感情も、やたらと落ち着きはじめた。
 未だに口からはあんこが吐き出されていたが。

 ふと、周りを見る。いつのまにか人間が集まっていた。
 奇妙なものを見る顔で、こちらを眺めていた。
 まりさたちはいない。逃げたのかもしれない。
 そういえば、大声を出したりしたような。それでこいつらは寄ってきたのか。
 本能が危険だと、逃げろと命令する。そうだ、逃げなくては。

 なんで逃げる?どうやって逃げればいい?
 ほら、見ろ。こいつらみんな首から上はまるでゆっくりだ。
 仲間がいる。

 危険なんてない。

 みんなでゆっくり……し





 男はつまらないと感じていた。

 ビデオカメラを回収した男は、早速それを見ていた。
 今ちょうど、家族のなかで父に当たるらしいまりさが、愛し尽くされ、干からびたどす黒い塊へと、成り果てたところだ。
 れいぱーの魔の手は、長女で一匹だけ成長の度合いが抜き出ている子ゆのありすに、向かった。
 れいぱーは、まだ満足していない。部屋の端でふるえる残りの三匹も、このあと餌食になることだろう。
 それは先程入った部屋の惨状からもわかっている。

 子ゆや赤ゆが対象の場合、性的な虐待ではその命はすぐ尽きてしまう。
 強いて言うなら、怯えるその表情が最後の楽しみだが、それはこんな方法をとらずとも見られる顔だ。

 もっと信頼が崩れる過程を表情で見せてほしかったが、赤ゆには土台無理な話か。かなり最初の時点からやつらは怯え、長女ありすの影に隠れてしまっていた。
 そのありすはといえば、これは逆に、信頼を寄せた表情のままれいぱーに身を任せた。
 男が欲しがったのは、その間のバランスだというのにだ。
 まりさもそうだ。
 最初こそおかしな相手の様子に訝しがる顔を見せたが、受け入れたのかなんなのか、

「……わかったぜ。れいむのしたいようにするといいんだぜ……」

 と、様子のおかしい伴侶に素直に体を寄せたのだった。
 そしてれいぱー“れいむ”は、まりさをその愛で貪りつくし、今は娘のありすとともにすっきりーした姿を、ビデオカメラ越しに男に見せてくれていた。
 ありすもまりさも、その表情は最期まで安らかだった。


 男がそのありすを捕まえたのは、一週間ほど前のことだった。
 近くの公園から出てきたのを見かけて声をかけてみると、やたら満足した顔で、今まさにたくさんすっきりーしてきたところだと言う。
 男はそのありすがとても性欲が強く自分勝手なすっきりを良しとするげすなゆっくりであることを確信した。そして何かに使えないかと家に誘い込み、確保しておいたのだ。
 さらに男が今回犠牲になった一家を近くの山からわざわざ見つけ、一匹も欠くことなくさらってきたのは三日前。
 最初は素直に、家族にありすを放り込んでみようと思っていた。

 だがそこでひとつ案を思い付いたのだ。
 あんこを混ぜるという方法。小耳にはさんだ話では、ゆっくりを繋げてお互いのあんこを混ぜると、記憶や意識がごちゃ混ぜになったりするらしい。
 もちろん、そんな状態でまともな精神ではいられるわけもないため、ゆっくりの心をただ壊すだけの虐待だとも聞いた。
 そのような方法、男は自分には縁はないと思っていた。

 しかしこの今手元にいるありす。こいつはどうだ。
 限りなく本能の赴くままに動くこいつは、精神に異常をきたしても、発情さえしてしまえば関係ないのではないだろうか。
 そして男は、家族の一員であるれいむに、こいつの意識か、もしくは本能の強さの一端を植え付けることで、家族を襲わせることができるのではと考えた。

 そして、彼は実行に移した。
 二匹にラムネを食わせて眠らせ、体を切り取り、穴を開けてあんこを露出させる。それを繋ぎ合わせ、体の中であんこを混ぜる。終わったあとは、オレンジジュースを利用して傷を塞ぐ。
 菓子職人でも医者でもない男にとってそれは大作業で、おぼつかない手つきもあり、やたらと大変だったがなんとかすべては無事に終わった。

 その結果は、期待以上のものだった。
 二匹の中身は、ほぼ完璧に入れ替わっていたようなのだ。
 あんこを混ぜるのが単純に足りなかったのかもしれないし、実際はそれぞれの内容物があんこにカスタードと別物なのもあって、思ったほど混ざらなかったのかもしれない。
 そもそも聞いた話事態がでたらめの作り話で、ゆっくりのあんこは混ざるものですら、なかったのかもしれない。

 だが、男にとってはそんなことどうでもいいことだった。
 この結果はなかなか目的にそっている。

 そうして二匹の中身は入れ替わり、中身がありすの“れいむ”と、中身がれいむの“ありす”が、生まれたのだった。

 実際には、それを男は眠りから覚めた“れいむ”との会話で知った。
 ごく最近の記憶や、特に大切な記憶など、一部失われていたものもあるようだがほぼ中身は変わっていた。深いところでは、もっと混在したものがあるかもしれないが、そこまで確認するのは難しいだろう。
 会話の途中で“れいむ”が、黒髪やもみあげのおかざりに気付いたため、男は発情させてごまかした。その後男は“れいむ”を家族の中に投入した。

 一方の“ありす”は、ラムネでぼやけた意識のままで、お前はれいむだな? とだけ確認し、すぐ外に放り出していた。
 一匹でしかなかったありすは、そもそも彼の虐待の対象ではないのだ。とはいえ、必要以上に危害を加えずに助けたのは、男の気まぐれでもあった。
 とぼとぼと道を歩いていく後ろ姿は、当然ながらゆっくりありすのものだった。

 しかし今思えば、はやまったかもしれない。
 中身はれいむなのだ。この場面に立ち会ってもらったりしたら、それもまた面白かったかもしれないと男は思ったが、後の祭りだった。

 なんにせよ、あの一家は絆が少し強すぎたらしい。結局、映像は最後までさほど面白くならなかった。
 残ったのは“れいむ”一匹。すっきりーに満足しているのかなんなのか、一切動きを見せないが、関係ないことだ。
 今後の彼女に、使い道はあるだろうか。
 さて、それがあるにしろないにしろ、次はどんな家族をどんな方法で引きさいてみよう。


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最終更新:2012年08月22日 17:39
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