ここは、
ゆっくり達が住む森の更に奥。
そんな森の中に、ゆっくり一家が住んでいた。
そして、森の奥深くに住んでいたので、人間については話に聞くだけだった。
「ゆ~っくりしようね!!」
「ゆっくりおさんぽするよ!! しっかりついてきてね!!!」
日課のお散歩。
今日は天気が良いので、少し遠くまで出かけるようだ。
「ゆっくり!!」
「ゆっゆ!!」
「ゆ~~♪」
この一家は特に仲良し。
それは、この母親がはじめての子育てだからだ。
交尾相手のゆっくり魔理沙は交尾が終わると干からびて死んでしまった。
残された魔理沙の子供と自分の子供、合わせて十数匹を育てる母親霊夢。
根が純粋なので、一家もどこかのほほんと育った。
「ゆっゆ♪」
お母さん霊夢の周りを、未だ飾りが生えていない赤ちゃんゆっくり達が踊るように飛び跳ねる。
珍しく、誰も離れないので、何時もより長い距離を散歩できた。
「ゆゆ!!!」
そしてたどり着いた人里。
大きな家々はこの一家には高い洞窟のように見えるかもしれない。
その中の一軒、新しく建てたのであろうその家に一家は心を奪われた。
「ゆ~!! すっご~~い!!」
「かっこいいど~くつ~♪」
「おか~さんはいってみようよ!!!!」
「「「「ゆっゆゆゆ~♪」」」」
家に目を奪われながら、ゾロゾロと庭まで入ってゆく一家。
しかし、厳重に施錠がしてある家に、進入手段を見つけられない。
「ゆ~……。ゆゆ!! ここからなかがみえる!!!!!」
「すごい!! ここからはいれるよ!!!」
一枚のガラス越しに、中を見ていた一匹の赤ちゃん霊夢が叫んだ。
即座に、ガラスに向かって体当たりするお母さん霊夢。
「ゆゆ!! まくがあるよ!! !!! ゆーーーーーくり!!!!!」
思い切り助走をつけ、ガラスに当ってゆく。
その衝撃に、ガラスはゆっくりが通れる程の穴を作った。
「ゆ~♪ ひろいどーくつ~♪」
「すご~~い!!!」
入った先はリビングだった。
物珍しそうに辺りを伺うゆっくり一家は、この後探検を始めた。
――
男が家に帰ると、リビングの明かりが点いている事に気付いた。
消し忘れか、と思い急いで玄関を開けると、中からは楽しそうな話し声が聞こえてくるではないか。
その言葉の中には、ゆっくり、という単語も含まれていた。
全てを悟った男は、勢いよくリビングのドアを開け放つ。
「ゆ~っくりくり♪ ゆっゆゆ~♪」
一番初めに目に付いたのは、壊されたテレビの近くて歌を歌っていたゆっくり霊夢の赤ちゃん。
次は、買い置きしていた瓶の中身を床にばら撒き美味しそうにのんでいる赤ちゃん魔理沙。
壊れた窓、中の綿が飛び出しているソファー。
そこで追いかけっこをしている沢山の赤ちゃんゆっくり。
「ゆっくりしていってね!!!!!」
声の下方向へ向き直ると、そこにはソファーの中身を集めている一匹のゆっくり霊夢。
どうやらこれが親らしい。
男は確信した。
「ゆっくりしていってね!!!!」
言葉に反応を示さなかったのが気になったのか、お母さん霊夢は今一度男に呼びかける。
「おにーさんもここをみつけたの? れーむたちもここをみつけたんだよ!!! いまね、あかちゃんたちにゆっくりできるべっどをつくってあげてるの!!」
今まで、話でしか人間を知らなかったお母さん霊夢が、ピュアな瞳で話を続ける。
「おにーさんもこのどうくつでゆっくりする? ここにはゆっくりできるものがいっぱいあるよ!!!」
「ゆゆ~~♪」
「ゆっくり~~♪」
赤ちゃんゆっくり達も、男の近くに集まり出してきた。
そのどれもが、ピュアな瞳を男に向けて言葉を発している。
「ここは、俺の家だよ」
その視線に呆気に取られていた男だが、何とかそれだけを口に出した。
「ゆゆ!! そうなの!!!!」
心底ビックリしたようにお母さん霊夢は呟いた。
もしも、これで引いてくれるなら、まだ考えてやっても良かっただろう。
「だったらおにーさんもいっしょにゆっくりしよう!!!」
ニパー、っと、満面の笑みを浮かべて男に提案するゆっくり霊夢。
更に、彼女の話は続く。
「みんなでゆっくりするのはたのしいよ!!!」
「「「「「ゆっくりしていってね!!!!」」」」」
最後は、子供達も声を合わせての大合唱。
それが終わると、この話は終わったようで、子供達は男の周りでキャッキャと飛び回る。
「おかーしゃん、おなかへっちゃ~!!」
そんな中、一匹のゆっくり魔理沙が母親に食事を催促する。
「ゆゆ!! そうだね!!!」
催促された母親は、男の方を向き、先ほどの笑顔で言い放つ。
「おにーさん!! はやくごはんたべようね!!! れーむはあかちゃんたちのめんどうをみてるから、おにーさんはごはんをじゅんびしてね!!!!」
夫に話しかけるように、フレンドリーに男に食事の用意を言い放ったお母さん霊夢。
男が怒りで震えている事は、気が付かないようだ。
しかし、男はこの場は一旦引いた。
そして、リビングのドアから奥へと消えていった。
――
「おい。ごはんを持って来たぞ。お母さん霊夢、は何処だ?」
暫くしてリビングへ戻ってきた男。
その手には、確かに何か持っている。
「ゆゆ!!! いまいくよ!!! ゆっゆゆゆ~♪ ゆっくり~していってね~♪」
一塊の、音痴な合唱をしていた集団から声が上がる。
呼び出された母親だ。
元気よく男の下へ駆け寄っていく。
瞬間。
ズボ!
「ゆ!! ゆゆゆ!!!!!!」
霊夢の頭に何かが刺さった。
「ゆーーー!!! いだいよーーーー!!!! ゆぐりさせでーーー!!!!!」
それは、筒の先に注ぎ口が付いた様なもの。
こちらの世界で例えるなら、ボトル容器のポンプ部分。
男はそれをお母さん霊夢の頭に突き刺したのだ。
「ゆーーーー!!!!! おうじがえらせでーーー!!!!」
「おかーーさーーーん!!!!」
「ゆっくりさせてあげてーーーー!!!!!」
やがて、お母さん霊夢の周りに子供達が駆け寄ってくる。
全員がそろった事を確認すると、男は数回ポンプを押した。
ベチョ! ベチョ!
母親の目の前に集まっていた赤ちゃんゆっくりの前に、餡子が次々に落ちてゆく。
「いだいよ!!! ゆっくりさせでーー!! おうじかえるーー!!!!」
「ゆっくりさせてあげてね!!!」
「ゆっくりさせてあげてね!!!」
半透明なチューブ部分、そこを黒い物体が移動するのを見て、何かが母親の体から抜けている事は分かるのだろう。
赤ちゃんゆっくり達は、必死に声をあげてゆっくりさせてあげて、と男に良い続ける。
「ほら、ごはんだよ。ゆっくりたべていってね!!」
「ゆーーーー!!!」
既に大粒の涙をこぼしている母親の前で、赤ちゃんゆっくり達を急かす。
赤ちゃん達も、それが母親の所から出た事はなんとなく理解しているが、何となくなので意識では理解していない。
「ゆ? ゆゆ?」
一匹の赤ちゃん霊夢が、ソロソロと餡子の山に近づいていく。
パク!
一口食べる。
「!!!!! おいちい!! あまくておいちい!!!!」
直ぐに、驚いた顔を浮かべ更に一口・二口と食べ進めてゆく。
「ゆゆ!! ほんとうだ!!!!」
「れーみゅもたべるーー!!!」
「まりしゃもーーー!!!!」
次々と、餡子の山に赤ちゃん達が群がってゆく。
「ゆっゆゆゆ~♪」
「ゆゆゆ~♪」
「ゆ~~~~~!!!! ゆ~~~~~~!!!!!」
その様子を見て、更に涙を流すお母さん霊夢。
それは自分から出たもの、それを美味しそうに食べる赤ちゃん達。
どうして良いのか分からずに泣いているのだ。
「おい!!! 自分の母親の餡子を食べるとは何て奴だ!!!」
「ゆぶ!!!」
ここに来て、漸く男がお母さん霊夢の心労を軽減させた。
餡子を食べるのはお仕置き、という手段で。
真上から殴られたゆっくり霊夢は、一番最初に駆け寄ってきたゆっくりだった。
今は、体から大量の餡子を流しながら、必死に他の赤ちゃんの元へ近づいてゆく。
「ゆ! ゆっぐり……しようね!……」
餡子の後を残し、その赤ちゃんは、他の赤ちゃんの目の前で命を落とした。
「ほら、お前もだ!」
「ゆぐひゃ!!!」
その近くに居た赤ちゃん魔理沙へも鉄槌を下す。
今度は、力が入りすぎたのか一瞬で絶命した。
「まだまだ終わってないぞ!!」
「ゆっくりしゃせてね!!」
「にげよーーね!!」
「おうちかえるね!!!」
「ゆ……!! ぐえ!!!」
騒然と逃げ惑う中の一匹に的を絞り、後ろからBBQ用の串を放つ。
見事、後ろから口に向かって貫通したそれを、カセットコンロにかけ焼き饅頭に仕上げていく。
「あじゅいよーー!!! たずけでーーーー!!!!」
「れーみゅをはなしてね!!!」
断末魔の叫びを上げながら焼かれている赤ちゃん霊夢の元へ、一匹の赤ちゃん魔理沙が駆け寄ってきた。
「あずいーー!! おかわにはいろーー!! おがーーさーーーん!!!」
無謀にも、男に攻撃しようとしているのだ。
「れー!! むびゃら!!!!」
スリッパで簡単に潰されてしまった魔理沙。
時を同じくして、喋らなくなった焼き饅頭も完成した。
「!! むひゃ!!!」
「あぎゃああ!!!!」
「こっこぁ!!!!」
「うぎゃーーーーー!!!!」
焼き饅頭片手に、男は次々とゆっくりを駆逐していく。
「やめてあげてね!!! あかちゃんがゆっくりできないよ!!!!」
「やめてあげてね!! れーむたちはもとのどーくつにかえるから、こどもたちをおこしてね!!!」
痛みは引いたが、頭にポンプを差し込まれ目の前の光景を見せられているお母さん霊夢は、ただただ男に語りかけるしかない。
「やめ!! ゆゆゆ!!!」
それも、終わりを迎えた。
全ての赤ちゃんゆっくりを処分した男は、煩いお母さん霊夢のポンプを更に数回押したのだ。
あれほど煩かったお母さんゆっくりは黙り、代わりに大量の涙を流す。
「それじゃあ行こうか?」
「ゆーー……。どごへ?」
男に抱きかかえられながら、何とかそれだけ言葉をひねり出す。
「加工場だよ。これが製品化されれば、一攫千金だからね!」
「いいいやだーーー!!! おうじ!! おうじにかえらせでーーーーー!!!!!!」
加工場の事を知っているのか、はたまた自分の運命を感じ取ったのか。
闇夜に浮かぶ加工場の看板を見ながら、男はそんな事を考えていた。
最終更新:2011年07月28日 00:53