作者:白兎
※虐待成分少なめ。
※独自設定多数。
その頃、夜明けとともに隠れ家を出発した子ぱちゅりーは、
早くも河原に到着していた。
しかし、問題が解決したわけではなかった。
子ぱちゅりーは、まだ人間と話をしたことがない。
どんなふうに話せばいいのかも分からない。
それに、
ゆっくりできない人間もいるということを、子ぱちゅりーは知っていた。
だから、最初に話をする相手は、慎重に選ばなければならなかった。
河原には、いつもよりたくさんの人がいた。
棒のようなものを持って、川岸に
ゆっくり座っているお爺さん。
あの人なら、
ゆっくりできるかもしれない。
あるいは、向こうがわの茂みで、何かをしきりに探しているお兄さん。
あれは、もしかしたら、研究者というものではないかしら。
子ぱちゅりーは、そんなことを考える。
あれこそ逡巡していると、ふいに、川上のほうから、グレーの服を着た一行が現れた。
「よーし!ここで昼食にする!」
先頭を歩いていた中年の男の号令で、一同は解散し、
思い思いの場所で、箱を開け始めた。
どうやら、人間のお弁当のようだ。
こうなってしまうと、ますます誰に話しかけたら良いのか分からない。
川のそばでシートを敷き、楽しそうに談笑している3人の女性。
あの人たちなら、優しくしてくれるのではないだろうか。
いや、それとも、さっきの中年の男性に話しかけるべきか。
もしかすると、あの人が群れのリーダーかもしれない。
いやいや、それとも……。
迷っていると、子ぱちゅりーのいる茂みに向かって、若い女性が歩いて来るのが見えた。
ロングの黒髪をたなびかせて、女性は、近くにあった大きな石の上に腰掛けた。
ここでお弁当を食べるらしい。
だが、なぜだろうか。
他の群れのみんなは、何人かのグループになっている。
女は、少し猫背になると、ぱくぱくと一人で箸を動かし始めた。
なぜだろうか。
妙にこの女性が気になる。
「ゆっくりしていってね。」
子ぱちゅりーは、口もとを髪の毛でおさえた。
なぜそんなことを口走ったのか、自分にも理解できなかった。
小さな声だったが、女は聞き逃さなかったようで、こちらを振り返った。
女は、箸を口に入れたまま、誰にともなくそうつぶやいた。
「ぱ、ぱちゅりーはぱちゅりーなのだわ。」
半ばパニックになり、とりあえず自己紹介をしておく子ぱちゅりー。
「そんなの見れば分かるわ。」
女性は笑いもせずに、冷ややかな声で言ってのけた。
子ぱちゅりーの中で、不安が広がる。
もしかして、
ゆっくりできない人間に話しかけてしまったのではないだろうか。
女性は、ふたたび背を向けて、弁当を食べ始めた。
子ぱちゅりーは少し悩んだが、思い切ってこの女性に事情を話してみることにした。
なぜそんな気になったのかは、自分でも分からないのだが。
女性は、話を聞いているときも箸を休めなかった。
ときどき「へえ」とか「で?」くらいは、相槌を打ってくれた。
裁判にかけられそうになり、こうして河原まで逃げて来たことを話し終えると、
女性はちょうど食べ終わった弁当に蓋をし、手を合わせて何やら呪文のようなものを唱え、
しばらくの間、黙っていた。
「で?何がしたいわけ?」
巣を出たところまで説明すると、最後に女性が尋ねた。
「ぱ、ぱちゅは人間さんと一緒に暮らしたいのだわ。」
「どうやって?どんなふうに?」
好奇心から訊いているのでないことは、ぱちゅりーにも声音で分かった。
女性は、あくまでも、理詰めでぱちゅりーを追求してくる。
いくら子ぱちゅりーの頭がいいとは言え、人間のそれに比べれば差は明白である。
そもそも、子ぱちゅりーには、明確な答えを出すための絶対的な知識量が足りていない。
そのことを、子ぱちゅりーは、痛いほどよく理解していた。
人間はどんなところに住んでいるのだろうか。そこでどういう生活をしているのだろうか。
子ぱちゅりーは、口先で誤摩化すことを諦めた。
「むきゅ……ぱちゅにもよく分からないのだわ……。」
ところが、この返答に、女性はしごくご満悦の様子をみせた。
ゆっくりを論破したことが、それほど嬉しいのだろうか。
いや、女性の真意は、別のところにあった。
「素直でよろしい。」
子ぱちゅりーは気付いていなかった。
自分が、どれほど多くのトラップをかいくぐって来たのかを。
ぱちゅりーがお弁当をねだったら、女性は彼女を潰すつもりだった。
ぷくーをしたり、ばばあ呼ばわりしても、彼女を潰すつもりだった。
それだけではない。
もし子ぱちゅりーが自分の勉強不足を誤摩化して、
何か適当なことを言ったとしても、女性は彼女を潰すつもりだった。
なぜなら、この女性、
ゆっくり駆除のお姉さんだからである。
周りにいるグレーの作業服を着た人々は、河原の清掃のアルバイトであり、
その仕事には、キャンプ場に巣食う
ゆっくりの駆除も含まれていた。
正直なところ、この女性も、子ぱちゅりーが最後の課題をクリアするとは、
微塵も考えていなかった。
無理もない。
これほど異能の
ゆっくりには、お姉さんもまだ出会ったことがなかったからである。
「本当に、群れを離れて生きたいのね?」
「むきゅ?」
「本当に人間と住みたいのかって訊いてるの。」
「も、もちろんなのだわ。」
そうだ。それしか生き残る道はない。
「じゃあ、私が連れてってあげるわ。」
「ほ、ほんとう!?」
ぱちゅりーの顔に、一筋の希望が射した。
「本当。ただし……。」
女性は、弁当ガラをリュックの中にしまうと、小振りな尻を持ち上げた。
「その群れの居場所を教えてちょうだい。」
「むきゅ……?」
ぱちゅりーには、女性の言葉の意味が分からなかった。
いや、意味は分かるのだが、意図が分からなかった。
居場所を聞いて、どうするというのだろう。
自分は、今しがたそこから逃げて来たばかりだと言うのに。
まさか、自分をリーダーに引き渡して、ご褒美をもらうつもりだろうか。
ぱちゅりーは、不安におののいた。
しかし、女性が継いだ言葉は、その不安の斜めうえであった。
「全員駆除するのよ。」
「くじょ……?」
聞き慣れない言葉だ。
街中の野良
ゆっくりなら、それだけでおそろしーしーを垂れ流してしまうそれも、
野生で育った子ぱちゅりーには、ただの空気の振動にしか感じられなかった。
「簡単に言うと、殺しちゃうってこと。」
「むきゅう!?」
「今日は、それがお仕事で来たのよ。どうにも巣が見つからなくて、困ってたところ。
明日には撤収しないといけないし、巣を潰さないとボーナス出ないのよね。」
群れから離れて生きていた子ぱちゅりーは知らなかった。
河原に降りて人間のものを盗んでいる
ゆっくりがいることに。
それは、群れの中では公然の秘密とされており、むしろこっそり推奨されていた。
あの日、森の中で出会った子ちぇんも、実はそのために河原へ行く途中だったのだ。
もっとも、子ぱちゅりーが見つけた河原は、人間さんにはあまり人気のない場所で、
だからこそ他の
ゆっくりと鉢合わせになることもなかったのである。
ゆっくりの間で狩り場とされているのは、もう少し下流にある広いキャンプ場で、
そこのゴミ箱を荒らしては、戦利品をせしめていたのだ。
「こ、こ、ころしゅ……。」
全身の震えが止まらない。
もう駄目だ。
このお姉さんは、
ゆっくりを殺す恐ろしいお姉さんなのだ。
自分も殺されてしまうに違いない。
そんな子ぱちゅりーの反応に、お姉さんは涼しげな顔をしている。
「あら、大丈夫よ。あんたは殺さないから。町へ行くんでしょ。」
「ほ、ほ、ほ、ほんちょに?」
余りの恐怖で、赤ちゃん言葉になってしまう子ぱちゅりー。
「本当だってば。
ゆっくりの癖に、疑り深いのね。で、巣はどこにあるの?」
女性は、子ぱちゅりーの顔を凝視した。
その目は、嘘を吐いているようには見えなかった。
もしかすると、自分を殺さないというのは、本当なのかもしれない。
淡い期待が、子ぱちゅりーの餡子に、ふつふつとわいてきた。
だが、それと同時に、別の問題が子ぱちゅりーを襲った。
お姉さんに群れの居場所を教えるということは、要するに、
群れのみんなの命を引き渡すということだ。
いったいどんなことが起こるのかは、子ぱちゅりーにも容易に理解できた。
それは、
ゆっくりにとって最大のタブー、
ゆっくり殺しの共犯になるということ。
「ぱ、ぱちゅは……ぱちゅは……。」
「教えるの? 教えないの? それとも、まだなにかウラがあるのかしら?」
お姉さんは、そう言って一歩を踏み出した。
その振動と威圧感に、ぱちゅりーは気を失ってしまった。
「あら、もう目が覚めたの?」
ぱちゅりーが目を覚ましたとき、日は山の端にかかり始めていた。
妙な揺れを感じる。
これが地震というものかしら。
そんなことを考えたぱちゅりーであったが、すぐに誤解であると気づいた。
「むきゅ? これは自動車さん?」
「よく知ってるわね。
ゆっくりはみんな『すぃー』なんて呼んでるのに。」
お姉さんは、感心していた。
一方、ぱちゅりーはそれ以上の事態が飲み込めなかった。
自分は自白してしまったのだろうか。
それとも……ごうっもんにかけられるのだろうか。
「ぱ、ぱ、ぱ、ぱちゅはどこへ行くの?」
「とりあえず、ふもとで一泊して、それから町にもどるわ」
「そ、そ、そ、そこでなにをするの?」
震えるぱちゅに、お姉さんはきょとんとした。
「町に行きたいんじゃなかったの?」
「ま、町には行きたいのだわ。でも、ごうっもんはイヤなのだわ。」
お姉さんはすこしばかりくびをひねって、それから大笑いした。
「そのことなら、もういいわよ。主任が『もう間に合わない』って言ってたし」
「しゅにん……?」
「とりあえず、あんたは潰さないでいてあげるわ。今のところはね。」
なんだか物騒なことを言われて、ぱちゅりーは身をこわばらせた。
「体調が悪いとか、そういうことはない?」
「たいちょう?」
「元気かって訊いてるのよ。」
「ぱ、ぱちゅは元気なのだわ。」
「ゆカビのチェックはしといたけど、念のためクリニックに行きましょう」
お姉さんの言葉を理解するのは、ぱちゅりーにも難しかった。
小学生が大人の会話を理解できないような、そんな状態だった。
「ひ、ひとつ聞いてもいいかしら?」
「なに?」
「ぱ、ぱちゅの群れは、どうなるのかしら…?」
お姉さんは肩をすくめてみせた。
「さぁね。今年度の駆除予算はもうないみたいだし、しばらくは安全なんじゃないの?」
またよく分からない返しをされた。
ぱちゅはそれ以上たずねる勇気がなかった。
お姉さんはそんなぱちゅりーをよそに、車の窓から空をみあげた。
「それにどうせ…。」
窓越しに広がる空は、真っ黒な雲で一面を覆われていた。
「あめさんがすごいのぜ…。」
じめじめとした空間に、リーダーまりさの声がこもった。
普通の
ゆっくりでは考えられない、豪勢なおうち。
群れの幹部たちのパーティーは、不穏な空気に包まれ始めていた。
テーブルのうえに乗ったごはんさんも、あまあまな花のミツも、
なかなか量が減らない。
食べているのは、こどもたちばかりだった。
「うっめっ!これめっちゃうめっ!」
「まりさ、もっとおぎょうぎよくたべるのぜ。」
リーダーまりさに注意されて、長男まりさは一瞬だけ食べるのをやめた。
だが、父親をじろりとにらみ、またがつがつと食べ始めた。
リーダーまりさのため息は、嵐の音にかき消された。
なぜこんなゲスに育ってしまったのだろう。
後悔はつきない。だが、自業自得という考えは、みじんも思い浮かばなかった。
「こんなにつよいあめさんは、はじめてなのぜ。」
「とかいはじゃないわね。」
「わかるよー。さっさとやめよー。」
妻のありすと側近ちぇんは、おたがいに相槌を打った。
そして、ありすのほうは夫に耳打ちをした。
「そろそろつぎのりーだーをきめないとだめよ。」
「……わかっているのぜ。」
ふたりは、パーティー会場を見回した。
まりさとありすのあいだには、5匹の子がいた。
そのうちの2匹がまりさ種で、のこりはありす種だった。
群れの慣例からして、この2匹のうちのどちらかが次期リーダーになるはずだった。
そして、その2匹の両方を父親まりさは評価していなかった。
「ねぇ…もういっかいくらいすっきりして…。」
「だめなのぜ。いまからそだてていたらまにあわないのぜ。」
「だいじょうぶよ。いちねんあれば。ふたりともいなかものだもの。」
「ふたりもあにがいたら、ぜったいにもめるのぜ。それに…。」
そのときだった。入り口のほうから、次男まりさがぴょんぴょんと飛び跳ねてきた。
「おとうさん!おみずさんがはいってきてるのぜ!」
「「「!?」」」
その場にいた全員が凍りついた。
リーダーまりさと側近のちぇんは、さっそく入り口の様子をみにいった。
すると、ぎっしり積み上げられた木の枝のスキマから、水が漏れているのがみえた。
「なんでおみずさんがはいってるのぜ!?」
「わからないよー!いつもどおりつくったよー!」
台風。人間ならだれでも知っている自然現象を、
ゆっくりたちは知らなかった。
ここ数年、一度も直撃していなかったからだ。
災害を記録しておくという習性のない
ゆっくりたちには、
それだけで完全に忘れ去られてしまっていた。
「もっとコケをもってくるのぜ!おれがおさえておくのぜ!」
「わかったのぜ!」
「すぐもってくるよー!」
次男まりさと側近ちぇんは、倉庫から大量のコケを持ち出してきた。
「おとうさん、もってきたのぜ!」
「おみずさんがはいってきてるあなに…ぶべっ!?」
一瞬のできごとだった。
入り口の一部が決壊し、木の枝がリーダーまりさの目や口に突き刺さった。
「おとうさん!」
「は、はやくそこのあなを…ぐぼぼぼっ!?」
空いた穴から鉄砲水が流れ込んだ。
それを顔で受け止めたリーダーまりさは、一瞬にしてお化けのように様変わりした。
皮は剥がれ、目は水圧で飛び出し、砂糖の歯は水に溶けて流された。
ふりかえったリーダーまりさの形相に、ほかのふたりは悲鳴をあげた。
「お、おとうさんがたいへんなのぜ!」
次男まりさは、助けを呼ぼうとした。
側近ちぇんは、それを引き止めた。
「もうたすからないよー!」
「ひゃ、ひゃひゅへへ…。」
「たすけてっていってるのぜ!はなすのぜ!」
「だめだよー!」
次男まりさと側近ちぇんが揉めているところへ、ひとつの影が飛び出した。
長男まりさだった。
「やくにたたないやつらなのぜ。さっさとなおすのぜ。」
「にいさん!」
目を輝かせる次男まりさ。口もとをほころばせるリーダーまりさ。
ゲスに育ってしまった長男が、立派な態度を……。
そのよろこびは、長くは続かなかった。
「おやじはもうたすからないのぜ。さいごにやくにたってもらうのぜ。」
長男まりさはそう言って、父親を穴に押し込もうとした。
抵抗する父親まりさ。だが、水鉄砲を食らった身では、まったく力が出なかった。
「にいさん!なにをしてるの!?」
「
ゆっくりはみずにとけたらドロドロになるのぜ。あなもふさがるのぜ。」
あろうことか、長男まりさは父親を凝固剤に使おうとしているのだった。
群れのリーダーに対する恐ろしい仕打ち。次男まりさは蒼白になった。
「ちぇんおじさん!にいさんをとめて!」
次男まりさは、側近ちぇんに助けを求めた。
ところが、ちぇんはまったくの無表情で、手を貸してくれなかった。
「ちぇんおじさん!」
「わかるよー…むのうなリーダーはしんだほうがいいんだよー…。」
「!?」
ちぇんの瞳に、侮蔑の炎が燃え上がる。
このぐずなリーダーは、ぱちゅりーに逃げられた。
自慢の息子、長男ちぇん殺しの容疑者であるぱちゅりーを逃がした。
あのとき、長男まりさのような残忍な行動に出ていればよかったのだ。
さいっばんなどせず、すぐに殺しておけばよかったのだ。
「にいさん!とうさんをはなせ!」
次男まりさは長男まりさに飛びかかった。が、すぐに弾き飛ばされた。
ガタイだけは群れ一番なのだ。そこにゲスの力が加わっていた。
父親まりさは穴に頭を突っ込み、もるんもるんと尻を振るばかりだった。
「あかゆみたいにケツをふってもムダなのぜ。」
「…!…!」
「さっさとまりささまにリーダーをつがせておけばよかったのぜ。そうすれば…。」
「!!!」
ぶりゅう!ぶしゃぁああああ!
父親まりさの肛門が爆ぜた。
口をあけて抵抗していたのだろう。
鉄砲水の第二弾が、肛門まで一気に突き抜けたのだ。
父親まりさは、水圧を最大にしたゴムホースのように跳ね回った。
「くっさ!うんうんくっさ!」
うんうんの混ざった水が、あたりに流れ込む。
長男まりさは、あろうことか父親まりさの体からとびのいた。
その拍子に、小枝のダムは決壊を始めた。
「た、たすけてよー!」
「おまえたちがとめるのぜ!」
長男まりさは、次男まりさとちぇんを突き飛ばして、巣の奥へかけだした。
「れいむ!すのいちばんおくににげるのぜ!」
長男まりさは、即席舞台のうえにたたずむれいむに声をかけた。
あの歌姫のれいむだった。
「れいむ!なにをぐずぐずしているのぜ!」
「……。」
「れいむ!」
長男まりさは、れいむのもみあげを引っ張った。
すると、彼女の体はぐずりと崩れ去り……何百という虫が這い出てきた。
「なんなのぜぇ!!!!!!!!!!?」
絶叫するまりさ。
あたりを見回すと、パーティー客はみな、一様にもぞもぞと動いていた。
それは、皮下を這いずり廻る虫たちの狂宴だった。
台風を察知して、土中の生き物がこの空間に集まってきたのだ。
まりさは逃げようとした。
れいむのもみあげに触れたとき、いや、この部屋にもどったとき、運命は決していた。
蟻の大群が長男まりさを取り囲み始めた。
父親まりさのうんうん汚水の匂いにつられたのだ。
「ぐる”な”ぁ”あ”あ”あ”!!!ま”り”ざばだべも”の”じ”ゃ”な”い”い”ぃ”い”い”!!!!」
まりさの目に、一匹の蟻が噛み付く。
激痛に悶えるまりさ。
ゴマをまぶしたようなまんじゅうができあがるまで、数秒とはかからなかった。
「ま”り”ざは”ぜがい”ざい”っ”ぎょ”う”な”ん”だ”ぼぉおおお!!!!!!!!」
死のダンスをおどるまりさ。
その声は、にわかに台風の轟音にかきけされた。
翌朝、野原にはさわやかな風が吹いていた。
なぎたおされた草に、露がともる。
ところどころに浮いたおかざりも、朝日を浴びて美しく光っていた。
数年、あるいは十数年続いたのかもしれない群れは消えた。
ただひとつの叡智を輩出する以外には、なんの意味もなかったかのように。
終わり
これまでに書いた作品
最終更新:2022年01月31日 03:16