男は畑へと急いでいた。
育てていた大根がそろそろ収穫の時期なのだ。
柵でゆっくりが入れないようにはしていたが、それでも油断はできなかった。
幸い、作物は全て無事だった。
次々と収穫していく男。
そろそろ残りも少なくなってきたところで、それは現れた。
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっくりかいつうしたよ!」
「これでここのごはんはれいむたちのものだよ!!」
それはゆっくりれいむとゆっくりまりさであった。大きさはハンドボールよりやや小ぶりといったところだろうか。
既に殆どの野菜を収穫していたが、侵入者を好きにさせる気も無い。
男は自分の服にあるスイッチを押すと、ゆっくり達に近づいていった。
「ゆっくりいただくよ!」
「きょうからここがまりさたちのゆっくりぷれいすだね!!」
好き勝手なことを言いながら大根へとかけて行くれいむとまりさ。
だが、そこで異変が起きた。
「ゆっ、おそらをとんでるみたい!」
「すごいね、これならおそらでゆっくりできるね!!」
男はゆっくり達を手に持ち、
「ゆぎゅっ」
「ゆぐっ」
そのまま柵へと投げつけた。
勿論、潰れないように手加減をしてだ。
「ゆっ? ゆっくりごはんをたべるよ!」
「いただくよ!!」
先ほど起こったことが理解できずに再び大根へとかけて行く。
だがしかし、何度やっても結果は同じ。
「ゆぎゃっ」
「ゆぎぃっ」
「ゆげぇっ」
「ゆぎゅぅうっ」
特定の場所まで進むと柵まで飛ばされてしまう。
「ゆぎぃ゛ぃぃ゛ぃぃぃ゛れいむのごはんな゛のにぃ゛ぃぃ゛ぃ」
「なんだかわからないけどはやくたべさせてね!」
何度も何度も向かってくるれいむとまりさ。
目の前にエサがあるのに食べられないことでかなりイライラしていた。
それを気にせず、何度も捕まえては投げる男。
ここまできても、れいむとまりさは男に気づく気配どころか気にしてる素振りも無い。
それもそのはず、男の姿は見えていないのだ。
光学迷彩スーツ。
河童のテクノロジーが人間の里にも浸透し、今や大人気となっていた。
「ゆぎいいい゛いいい゛いぃぃぃぃいぃおねが゛い゛だがら゛だ゛べざぜでぇぇぇっ」
「ま゛り゛ざのごはんな゛んだ゛からゆっぐりだべら゛れで゛ぇぇぇえ゛えぇっ」
さて、次はどう遊んでやろうか―あ、そうだ。
男は一本の大根を引き抜いた。
そして柵の近くで悔しがっているれいむ達の前で突き出した。
「ゆっ、やさいさんからきてくれたよ!」
「さいしょからそうしてよね!!」
それを見るや否や、即座に食いついてくるまりさとれいむ。
あと少し、というところで男は大根を引っ込めた。
「ゆっ? やさいさんはあそこだよ!」
「そこからうごかないでね!!」
再び飛びついてくるゆっくり。
男はもう少しというところでやはり避けさせ、徐々に畑から離れるように誘導していった。
「まって、まって、そこでゆっくりしてね!」
「まりさのごはんなんだからそこでゆっくりしててね!!」
そのことに気づかずに追いかけてくるれいむとまりさ。
やがて、森の中の川に差し掛かってきた。
「ゆ、ゆっくりまってね…」
「まりざのごばんなの゛にぃ゛ぃぃっっ」
疲労困憊ながらも追いかけてくるゆっくり。
男は川の瀬に立つと、大根を持っている手を川の方に伸ばした。
ちょうど、川の上に大根が浮いている形である。
「ゆっ、かわのうえにやさいさんがいるよ!」
「ゆっくりおりてきてね!!」
ようやく追いついてきたゆっくり達。
ぎりぎりの位置まで進むがそれでも届きそうに無かった。
男は無視してそのまま大根をぷらぷらと漂わせた。
「れい゛むのごはん゛の゛ぐぜにぃぃぃっっぃっ!!」
「ふんっ、もうしらないよ! そこでずっとゆっくりしててね!!」
やがて諦めたのか、思い思いの捨て台詞を口にして去っていくゆっくり。
そこで男は大根をゆっくり達に向かってひょいっと投げた。
「ゆぎっ、やっとたべられてくれるんだね!!」
「きのきかないやさいだったけどゆっくりたべてあげるよ!!」
頭にぶつかったのが大根と確認すると、今度こそとかぶりつこうとする。
そこで男は大声で叫んだ。
「おうおうおうおう、俺を食べようなんてふてぇ奴がいたもんだ!!」
「ゆっ、だれ? これはれいむたちのみつけたごはんだよ!」
「そうだよ! だれなのかしらないけどゆっくりかえってね!!」
ゆっくり達が周りを警戒している間に男は大根を拾い上げ、ゆっくり達の目の前に立てた。
「俺だよ、俺! まったくゆっくりの分際で俺を食おうなんて失礼な奴らだぜ」
「ゆゆっ、このやさいさんしゃべったよ!」
「へんなこといってないでまりさたちにたべられてね!」
「面白ぇ、やれるもんならやってみな!」
そう言って挑発的な動きをする大根。
八の字のようにゆらゆらと動いていた。
「ゆっくりたべられてね!」
突進してくるまりさ。
それをスッと避けると、そのまままりさに体当たりを喰らわせた。
吹っ飛んで木にぶつかるまりさ。力を入れすぎると自身が砕けかねないので、十分に手加減して叩きつけてやった。
「ゆべっ」
「うわ、よっわー」
「やさいさんはれいむのごはんだよ!!」
今度はれいむの突進。
さっきのまりさを見ていなかったのかというくらいの単調な突進であった。
先ほどと同じように避け、今度は地面に叩きつけてやった。
「ゆぎゅぅい」
「ほらほら、そんなんじゃ俺を食べるどころか逆に食べられちまうぜ」
「よぐもれ゛い゛むをぉぉぉぉっゆぎゅぇ」
「はい外れー」
「ま゛り゛ざぁぁぁぁゆぶぇっ」
「おぉっと危ない、なーんてね」
10分後。
そこには何度も叩きつけられぼろぼろになったれいむとまりさの姿と、そのままの大根があった。
「なんだなんだ、おめーらすっげぇザコだな」
「ゆぎぃ゛ぃぃぃぃぃっ! ごばん゛の゛ぐぜにぃぃっっ!!」
「い゛い゛がらだべら゛れ゛ろぉぉっっぉお゛ぉ!!」
歯をむき出しにしながら怒りを露にしているゆっくり達。
しかしいつまでたっても一噛みすら与えることができない。ゆっくりの餡子脳なんてその程度のものなのだ。
「ま、これに懲りたら俺達野菜を食べようなんて思わないこったな」
そういい残して畑の方へ戻っていく大根。もとい、男の手で運ばれる大根。
後ろには満身創痍のゆっくり達の悔しそうな悲鳴だけが聞えていた。
「やざい゛の゛ぐぜににぃ゛ぃ゛ぃっっっ!」
「ゆぎぃぃぃっっっっ! ゆ゛っぐりだべざぜ゛ろろ゛ぉぉっっっ!」
最終更新:2008年09月14日 06:22