そのちるのは珍しい事に花を育てていた。
ただ、そのちるのは他のゆっくりちるの同様馬鹿だった。
昔ゆっくりゆうかが育てていたのを見ていただけで、ちるの自身は花の育て方を全く知らなかったのだ。
花の育て方を知らないのに花を育てようとする、馬鹿と言わずなんというのだろうか。
当たり前だが、始めの内は何度も花を枯らした。
ある時は水をやりすぎて根を腐らせ、またある時は水をやらなさ過ぎて枯らしてしまった。
それでもちるのは諦めず、その度に何が悪かったのかを足りない頭で考えた。
今は亡きゆっくりゆうかの姿を思い返しながら、自分がゆうかと比べて何をしていないのかを何度も考えた。
そして、その努力が実を結び、ちるのは漸く初めて花を咲かせたのだ。
それはゆっくりゆうかの花畑と比べると、たった一輪の小さい小さい花だった。
あんなに頑張ったのに咲いたのは簡単に踏み潰せてしまう花だったが、ちるのは逆にやる気を燃やした。
他のゆっくりならば割りに合わないと考えるかもしれないのに、ゆっくりちるのは自分でも花を育てられるのだと考えたのだ。
これは、単純な頭を持つゆっくりちるのならではと言えるだろう。
そこから先は少しずつ、少しずつちるのは花の数を増やしていった。
ゆっくり時間をかけて、昔見たゆっくりゆうかの花畑を再現する為に。
花畑が大きくなると、それを邪魔する存在も増えてしまった。
他のゆっくりの存在である。
普通のゆっくりからすれば、草花は食料でしかない。
ちるのの育てた花を狙うゆっくりが現れるのも仕方ないと言えよう。
実際ちるのも、目の前でゆうかの花を食べようと襲撃するゆっくりを見たことが何度もある。
そして、その様な愚かなゆっくりは全てゆうかが倒している姿も見ていた。
だから、同じようにちるのもゆっくりを倒した。
ある時は噛み付いて凍らせ、ある時は後ろから奇襲をした。
襲撃してきたゆっくりを殺す方が楽ではあるが、そうなるとそのゆっくりが暮らすコミュニティを相手にせねばいかなくなる。
そう考えたちるのはゆっくりを殺さないように気をつけた。
返り討ちにすれば、いずれ来なくなる。そう考えた。
何度襲撃されても、生かしたまま追い返した。
何度も何度も…
やがて、暑い陽射しが穏やかになり木々に色が付き始めた。
秋の到来である。
この時期になると他のゆっくりは越冬の為に餌集めに必死になる。
それはドスまりさの集落でも変わらない。
今も必死に動けるゆっくりは餌集めに全て出ている。
今この集落にいるのは小さい子供と相談役のぱちゅりーにありす、そしてドスまりさだ。
「食べ物はどれくらい集められた?」
相談役のぱちゅりーに声をかけるドスまりさ。
本当は、聞かなくても分かっているが聞かないと不安なのだろう…
「よくないわ… このままじゃみんなでふゆをこすのはむりね…」
「そう…」
ドスまりさは必死に考える… 皆で冬を越す方法を。
今このドスまりさのコミュニティでは食料が圧倒的に不足していた。
相談役のぱちゅとありすの最初の計算では、当初は越冬に十分な食料が集められてはいた。
それが足りなくなってしまった理由は、食料庫に使っていた洞窟が急な地震で瓦解してしまったのだ。
幸い生き埋めになったゆっくりはいなかったものの、食料が全て埋まってしまった。
すぐに掘り出そうとしたものの、外敵に盗られないようにと奥に置いていた為ゆっくりだけの力では掘り出せそうにない。
慌てて動けるゆっくりは餌集めを開始したが、ドスまりさを中心としたコミュニティは普通のゆっくりのコミュニティに比べると規模が段違いに大きい。
夏頃から準備を始めて間に合うようになるのだから、秋の今から始めても遅いのだ…
ドスまりさはある決意をし、二人に話す。
「もし食べ物が足りなかったら… 皆でドスまりさを食べてね…」
自分の大きい体を食べてもらえば、今ある食料と合わせて皆は十分にゆっくりできる。
それならば自分が犠牲になればいい… ドスまりさはそう考えたのだ。
「むぎゅ!? だめよそんなの!!」
「そうよ!! みんなドスまりさがいたからいままでゆっくりできたのよ!!」
当然のように反対するぱちゅりーとありす。しかし、ドスまりさの決意は固い。
「二人ともありがとね… でも、冬で食べ物が足りなかったら皆ゆっくりできないから… だから、ドスまりさが犠牲になるしかないんだよ!!」
それから暫くの間三匹の口論が続く。
ドスまりさは自分の主張を変えず、二匹はそれに反対し続けた。
そんな不毛な議論が続く中、一匹のれいむが帰ってきた。
「みんな~ すごいのをみつけたよ!! これでたべものにはこまらないよ!!」
「「「ゆゅ!?」」」
三匹は一斉にれいむを見つめる。その姿はどこか誇らしげであった。
「れいむ、なにをみつけたの?」
ぱちゅりーが声をかける。れいむが言った『たべものにこまらない』というのが気になったからだ。
それはありすもドスまりさも同じである。れいむの言ってることが本当なら、皆でゆっくりすることができるのだから。
「あのねあのね!! すごいおはなばたけをみつけたんだよ!! あれだけあればみんなでふゆをこせるよ!!」
れいむが見つけたのはゆちるのの花畑である。ゆちるのの頑張りによって、とうとうゆうかのような大きい花畑になってきたのだ。
しかし、何度も言うがそれはゆっくりにとって食料でしかない。
しかも今このドスまりさのコミュニティは越冬の食料が足りなくて困っているのだ。
ドスまりさが出した答えは当然と言える…
「早く皆でご飯を集めにいくよ!! これで皆一緒にゆっくり冬を越せるよ!!」
ちるのは困惑していた… 突然現れたゆっくりの集団に。
今まで何度も襲撃されたとはいえ、数は精々五匹くらいだった。
それが、今は目の前に数え切れない程のゆっくりがいた。数は50匹程度なのだが、ゆちるのは2桁以上の数は数えることができないのである。
それでもゆちるのは諦めなかった。今まで通り相手に噛み付いて凍らせ、動けなくしたら別の獲物を狙う。
しかしやはり多勢に無勢。噛み付いている間に他のゆっくりに攻撃され、次第に皮は破れて動きも鈍くなっていく。
仕舞いにはドスまりさに踏まれてしまい、とうとう動けなくなってしまった。
その為ゆちるのが噛み付いても、ドスまりさを凍らせる事はできなかったのだ…
「皆早くどんどん運んでね!! 邪魔者はドスまりさが押さえておくよ!!」
ドスまりさはゆちるのを踏みながらゆっくり達に指示を出す。
この花畑に着いた時、ドスまりさは感動した。
れいむの言った通りそれは大きい花畑で、皆で十分ゆっくりできる量があったからだ。
独り占めしようとしたゆっくりちるのがいたが、それは今自分が押さえている。凍らされたゆっくりは今ありすとぱちゅりーの手で治療中だ。
ドスまりさはゆっくりの神様に感謝した。
これで誰も犠牲にしないでゆっくりできると…
このちるのは皆がご飯を運んだら解放してあげるつもりだ。
邪魔もしてきたし、自分の仲間じゃないゆっくりとはいえ殺すのは可哀想と思ったからだ。
自分は優しいゆっくりなのだと、ドスまりさは優越感に浸っていた。
ドスまりさに踏まれているゆちるのは泣いていた。
二度と泣くまいと決めていたのに、泣いていた。
それは花畑を荒らされて悲しかったからではない、守ることができない無力な自分が悔しかったのだ…
自分の師であったゆっくりゆうかの花畑を、自分の手で再現できたのは本当に嬉しかった。
教えを請う事はもうできない。それでも、この花畑さえあればゆっくりゆうかが側にいる気がしたのだ。
それが、また奪われる事が悔しかった。
自分がこんな奴らに負けたせいで、花畑は荒らされてしまった。
相手は殺す気はないようだが、きっと味を占めてここで花を育てる限りきっと来るとちるのは感じていた。
ゆっくりゆうかがいたここで育てなければ意味がない、だけどここで花を育てる限りこいつらは必ず来るだろう。
どうすればいいのか答えを出せない馬鹿な自分に嘆き、ちるのは涙を流し続けた…
「皆つまみ食いしたら駄目だよ!! 早く運ぼうね!!」
勝手に花を食べようとしたゆっくりに注意しながら、ドスまりさは辺りを見回す。
花は無事に運ばれ、辺りは食べることのできない草しか残ってない。
「これでみんなゆっくりできるわね!!」
「ほんとうね!!」
近くにいたぱちゅりーもありすも嬉しそうに笑っている。誰も犠牲にせずにすむ事が嬉しいのだろう。
全てはゆっくりちるののお陰だ。これが食べ物を独り占めしていたお陰で皆が助かったのだから。
「皆ちょっと集まってね!!」
感謝の気持ちを伝える為に、皆を集めたドスまりさ。
「この子にお礼を言うよ!! この子が食べ物を集めてくれてたお陰で皆でゆっくりできるんだからね!!」
少し体を動かして踏んでいるゆちるのから退くドスまりさ。これからお礼を言うのだからいつまでも踏んでいるのは可哀想である。
踏み付けから解放されたゆちるのは羽を動かして近くにいたぱちゅりーに噛み付いた。
「むぎゅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「ぱ、ぱちゅりー!!」
もう花畑はない… 守るものがなくなった今、自分に意味は無い。
ならどうするか… 最後まで足掻き、足掻いて、足掻き続けて殺される。それしかないとゆちるのは考えたのだ。
自分のできる最後の抵抗… いつ潰されても構わない… ただ、黙ってこいつらを見送ることだけはしたくなかった。
手加減も容赦もしない… 完全に凍らせて命を奪う… もう、手加減をするつもりはゆちるのになかった。
「さっさとはなしなさい!!」
飛び掛ってきたありすを凍らせたぱちゅりーをぶつけて潰す。ありすは悲鳴をあげる間も無く絶命した。
「やべでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ごないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「どぼじでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
逃げ出すゆっくりにも容赦はしない。噛み付き、凍らせ、別のゆっくりにぶつける。
それだけで相手は簡単に死ぬし、生かすつもりもなかった。
今はただ、あのでかいのが動く前にできる限りこいつらを殺さなければいけない…
「やべでやべではなじでえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!! まりさはわるくないよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「れいぶがなにをじだのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「わがらないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! だずけでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ドスまりさは何が起きているのか分からなかった…
自分たちがお礼をしようとしたら、あのゆっくりはいきなり側にいたぱちゅりーを殺したのだ…
分からない… 分からない… 分からない…
仲間の悲鳴が聞こえるが、なんで殺されなくてはいけないのかわからなかった…
ただ、今は止めなければいけないということだけはわかった。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁべぇぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
今も尚仲間を殺すゆっくりを踏み潰すために、ドスまりさは高く飛ぶ。
しかし、素早いゆちるのは羽を動かしそれを避けまた別のゆっくりに噛み付く。
ドスまりさが着地した場所には凍らされたゆっくりがあり、衝撃に耐え切れず砕け散った。
「よぐもみんなぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
何度も潰すために飛ぶドスまりさ、それを避けて別のゆっくりを凍らせるゆちるの。
たくさんいたゆっくりはドスまりさに砕かれて、とうとう花畑に残るゆっくりはゆちるのとドスまりさだけになった。
ゆちるのはもう自分が動くことができないと理解した。
元々傷ついていたのに無理やり動かし、冷気を吐いて多くのゆっくりを凍らせる。それはゆちるのの体力を根こそぎ奪ってしまったのだ。
後に残るはあのでかいゆっくりだけ… あれは自分の力では倒せないし、他のゆっくりは全員殺せたのだからゆちるのは満足していた。
あれに潰された後、自分はゆうかに会えるだろうか…
昔みたく馬鹿って言われるのだろうか…
そんなことを楽しみに思ってる自分に苦笑しながらゆちるのは目を閉じた。
どうせ死ぬのなら、夢を見たまま死にたいと…
相手が目を瞑ったのを確認したドスまりさは自分のできる最大の跳躍を行った。
自分の身にも支障が出るかもしれないが、仲間を全て殺したあのゆっくりだけはどうしても赦せなかったのだ。
「じねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
自分の体の奥から、叫ぶドスまりさ。
最大の威力で相手を踏み潰そうとしたのだが、何者かに掴まれてしまい失敗した。
「はなぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ガラガラの声で、自分を掴む相手に叫ぶドスまりさ。
しかし相手は短く「嫌よ」と言ってドスまりさを投げ飛ばす。
「なんでじゃばをずるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ドスまりさは悔しかった…
自分は仲間を殺したそのゆっくりを潰したいだけなのに…
頭の良いぱちゅりー、相談相手になってくれたありす、いつも陽気で皆を和ませたれいむ。
みんな… 目の前にいるあのゆっくりが殺してしまった…
「だがらどいでよ!! まりざがかだぎをうづんだがら!!」
「勘違いしてるわよ。あの子が殺したのは最初のありすとぱちゅりーと数匹だけ、他の子は全部凍らせただけで貴方が全部砕いたんじゃない」
「うるざいうるざい!! いいがらどいでよ!! まりざはみんなのがだぎをうづんだがら!!」
「嫌ね、そもそもこの子の花を奪っていった貴方達が悪いんじゃない」
目の前の相手に自分を思いをぶつけるドスまりさ。だが、相手は理解してくれなかった。
「もういいよ!! いっじょにじねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ドスまりさは己の口内に力を溜める。特殊なキノコを燃料とした、光線を発射して邪魔者も一緒に消そうとしたのだ。
だが、相手は持っていた傘をこちらに向けると光の束を放ち、ドスまりさを飲み込んでそのままドスまりさは塵一つ残さず消滅した。
「偽者の偽者如きが、私に敵うわけわけないでしょ」
傘を閉じながら、風見幽香はそう呟いた。
後ろにいる眠ったゆちるのを腕に抱え、軽く撫でる。
「よく頑張ったわね… 偉いわよ」
そのまま空を飛び、幽香は自分の家を目指す。まずはこの子を治療が優先だ。
最近の風見幽香の趣味は『花を育てるゆっくりの保護』である。
ゆっくりにとって食料でしかない花を育てるという変り種が、近頃幽香のお気に入りなのだ。
今回も実はゆちるのが捕まっている頃から見ていたのだが、ギリギリまで手は出さないように幽香はしている。
ただ危なくなったら助けるのではなく、その子のしたい事をやらせてから助けるのだ。
こういう変り種は土壇場で力を発揮すると何度も見てきたので幽香にはわかるのだ。
現にこのゆちるのも、解放されると同時に相手のゆっくりに喰らい付いた。
どのような爆発をみせてくれるのか、それを見るのも幽香の楽しみの一つである。
ゆっくりちるのは夢の中でゆっくりゆうかに出会ったばかりの頃の事を思い出していた。
綺麗なお花畑の中で、7匹のゆっくりに勝ったゆっくりゆうか。
今日の自分は、あのゆうかのように動けただろうか?
夢の中で自問しながら、ゆっくりゆうかと同じお花の香りに包まれゆっくりちるのは幸せそうに眠るのだった…
こんな駄文を最後まで読んでいただき本当にありがとうございます!! まさにお目汚し失礼!!
wikiの
感想フォームに感想書いてくださった方本当にありがとうございます!!
『作者名つけてくれるとありがたい…』との事ですが、勝手に付けちゃって下さい。お任せします。
今までに書いた作品並べます!!
fuku1431.txt
fuku1438.txt
fuku1524.txt
fuku1542.txt
fuku1608.txt
fuku1625.txt
最終更新:2011年07月28日 03:49