※一部東方や
ゆっくりと関係の無いものを使っています。申し訳ありません。
一日の勤めを終え、自宅への道のりを歩いた時、ふと私はそれを発見した。
ゆっくりの家族だ。
西瓜程の大きさを持つ親れいむと親まりさ。
それに子れいむと子まりさがそれぞれ二匹ずつの、計六匹の一家だった。
既に日が沈んだ夜。
人間の時間が終わり妖怪の時間になろうかという時間。
一体何をしているのかと近づいてみれば、どうやら畑の野菜を狙っているようだった。
人間に気づかれないように気配を殺しているつもりなのか
「そろ~り、そろ~り」
などと間抜けにも口に出しながら歩いていた。
人間に気づかれないようにしているとは、この
ゆっくり達は人間の怖さを知っているのか。
私は
ゆっくり達の進行方向先へ視線を向け……嘆息した。
そこは私が子供の頃から知っているおじさんの家だった。
おじさんは家屋のすぐ隣に畑を作って野菜を育てているのだ。
「ゆっ、ついたよ。おいしいおやさいをおなかいっぱいたべようね」
「しずかにしなきゃだめだよ。にんげんにきづかれちゃうからね」
一家が畑に辿り着いた時、親まりさと親れいむが後続の
ゆっくり達に囁きかけた。
囁くといっても、二十歩も後方にいる私(
ゆっくり達はどうやら私には気づいていないようだった)にすら聞こえるほどだったが。
だが日が沈んでもう家の中にいるおじさんには聞こえなかったろう。
「ゆっ、
ゆっくりちずかにちゅるよ」
「れいみゅはいいこだもん」
「たべられなかったびゅんはおうちにもってかえりょうね」
親の言いつけどうり静かな声で返す子
ゆっくり達。
親のいいつけを守る、随分といい子じゃないか。
しかしこのままではおじさんの野菜が食べられてしまう。
あのおじさんの作った野菜はおいしい。食べたらまさに「しあわせ~」だろう。
だが私は、
ゆっくりの「しあわせ~」など糞喰らえだ。
私は最後尾の子
ゆっくりれいむに狙いを定めた。
私はその中に潜り込むイメージを膨らませる。子
ゆっくりれいむと自分の姿を重ね、皮を破る感覚を想像する。
頬にぴりぴりと電気のようなものが走る。
次の瞬間
「〝ゆっ!!
ゆっくり静にちゅるよ!! みんなで美味しく人間のお野菜をちゃべようね!!〟」
一番最後尾の子
ゆっくりれいむが、辺りに響き渡るほどの大声で叫んだ。
辺りに反響する子
ゆっくりの声。
その響きが鎮まった時、親れいむが子
ゆっくりれいむに向かって静に叫んだ。
「ゆぅぅぅぅ! なんでおっきなこえだすのぉぉ!」
「ゆっ? れいみゅおっきなこえなんだしちぇないよ?
突然怒られてわけのわからない、という反応を示す子
ゆっくりれいむ。
当然だ。今のは私が言わせたのだから。
私にはちょっとした能力があった。
自分の考えていることを他人に喋らせる能力。
求聞史紀風に言えば『好きな言葉を喋らせる程度の能力』といったところか。
私はこれを『腹話術』と呼んでいるが。
人語を解すのならば人間はもちろん、妖怪や妖精だって能力の対象とすることができる。
もちろん
ゆっくりもだ。
そしてこの能力によって喋らされた相手はその間のことは覚えていないのだ。
「なんでうそつくの! うそつきはだいきらいだよ!」
「ゆっ、うそなんてちゅいてないよぉぉ!」
よって子
ゆっくりれいむは現在自分に覚えのないことで怒られているのだ。
わけがわからないだろう。自分は喋ってもいないのに怒られているのだから。
うそをついた、ついていないの親子の問答に、他の家族まで混じり始めたその時。
バーン!! と大きな音を立てて畑の隣の家の扉が開かれた。
そして扉から飛び出してきたのは鍬を持つ家主。私のよく知るおじさんだった。
般若の形相で
ゆっくりの一家へと襲い掛かっていくおじさん。
当然、私がさっき叫ばせた子
ゆっくりの声が聞こえたので飛び出てきたのだろう。
おじさんの姿を確認した
ゆっくりの親子が揃って青ざめた顔をすると、それまでの喧嘩を切り上げて一目散に逃げ出した。
「ゆゆっ、
ゆっくりはやくにげるよ!」
「
ゆっくりできなくなるよ!」
「ゆぶぅぅぅ、れいむのしぇいだよぉぉぉ!!」
「ゆっ、なんでしょんんなごどいうのぉぉ!!」
「れいみゅがおっきなこえだしゅからだよぉぉ!!」
「だちてないよぉぉぉ!!」
逃げながらも覚えのないことで姉妹に糾弾され涙目になる子
ゆっくりれいむ。
やがて子
ゆっくりれいむのすぐ前をはねていた子
ゆっくりまりさが
「れいみゅのしぇいなんだかられいみゅがあしどめしてね!」
と言いながら子
ゆっくりれいむを後方へ突き飛ばした。
「ゆぶぅぅぅ! なにしゅるのぉぉぉ!!」
コロコロと転がり体中泥まみれの涙まみれという酷く汚い状態になった子れいむ。
たった今自分を突き飛ばした姉妹へと恨みの視線を向けるがおじさんの事が気になるのかすぐに後ろを振り返る。
おじさんはすぐそこまで迫っていた。
「ゆ゛ぅぅぅぅ!! たぢゅげで! たぢゅげでよぉぉ!! だぢゅ────ゆぼっ!」
助けの声はおじさんの鍬で潰された。
真上から脳天へと振り下ろされた鍬によってグチャグチャになった子れいむ。
皮は無惨に潰れ、餡子は四散し眼球は勢いよく前方に飛び出て。
肉親に裏切られ、背後から最大の恐怖が迫ってくるという状況で絶望しながら死んでいったことだろう。
「れいむのあかちゃんがぁぁ!!」
「だめだよれいむ! にげないところされちゃうよ!」
「おかあしゃんにげよ!」
潰された子れいむへと駆け寄ろうとする親れいむを押しとどめ、畑から離れていく
ゆっくり一家。
おじさんは追っ払うことさえできればいいのか追撃はせずそのまま家の中へと戻っていった。
子
ゆっくりの死骸はそのままだ。
もっとも、放っておいても蟻が勝手に片付けてくれるだろうが。
おじさんも帰り、
ゆっくり一家も去っていった。
さて、私はというと────。
ゆっくり一家の後を尾行することにした。
どうせ
ゆっくりのことだ。また別の人間の食物を狙うに違いない。
私はそのような
ゆっくりの「しあわせ~」をぶち壊すため、
ゆっくり一家の後方を静かに歩いていった。
間抜けな
ゆっくりは私に気づかない。
やがて子を失ったショックから回復したのか親れいむも大人しくなった。
ただ、流石に家族を失ったばかりだからだろうか、人里を歩く家族の口数は少なかった。
「ゆぅ……れいむのあかちゃんがぁ……」
「ゆっ、おかあしゃんきにすることないよ! あれはおっきなこえをだちたばかなれいむのしぇいなんだから!」
「そうだよ! そのばかなれいむはもうちんだんだからだいじょうぶだよ!」
「そうだよれいむ。 ほらげんきをだして、またばかなにんげんのたべものをいただこうよ!」
と、落ち込む親れいむに声をかけるのは子まりさ達と親まりさだった。
……どうやら、落ち込んでいるのは同種の
ゆっくりれいむだけのようだった。
事実、子れいむを突き飛ばした子まりさを他の
ゆっくりまりさは糾弾していない。
親れいむと子れいむはZUN、と俯いて落ち込んでいるようだからそこまで今は気が回らないのだろう。
ぴょこぴょこと人里を闊歩する
ゆっくり達。
いくら日が沈んだとはいえ他の里の者に出会わないのはここが里の外れの方だからだろうか。
それとも気が早くもう飲みに行ったのか。
どちらにせよ、運良く
ゆっくり達は私以外の誰にも見咎められなかった。
見つかったら殺されていたことだろう。
やがて私は
ゆっくりより先に
ゆっくりの食べ物になりそうなものを見つけた。
民家縁側に干されていた柿だ。
ゆっくり達は次はこれを狙うだろう、と思って視線を
ゆっくり一家に戻す。
が、
ゆっくり達はその柿に気づくことなくその民家の側を通り過ぎようとしていた。
いかん、このままでは今思いついた私の計画が狂ってしまう。
それを阻止するため、私は再び『腹話術』を使用した。
「〝ゆっ! お母しゃん。あそこに柿しゃんがあるよ〟」
子まりさの一体に『腹話術』をかけ思い通りの言葉を発せさせる。
子まりさのその言葉に
ゆっくり一家はぴたりと足を止めると、キョロキョロと辺りを見渡し始めた。
「ほんとうだ! かきしゃんがあるよ!」
やがて子れいむが柿の所在に気づく。それに続いて他の
ゆっくり達も柿を確認したようだ。
「あんなところにむぼうびにおいてあるなんて、あれはきっとまりさたちにたべてくれってにんげんがおいたんだよ!」
などとひどく
ゆっくり本位な考えをする親まりさ。
だが他の
ゆっくり達もその考えに異存はないとか「そうだね!」「だったらたべてあげないとかわいそうだね!」などと賛同の声をあげた。
……まったく、呆れた屑どもだ。
私はその認識を一層強くすると、子まりさの一体に狙いを定め
「〝じゃあ柿しゃんとってきてね、お母しゃん!〟」
『腹話術』を使用した。
「ゆっ!?」
驚愕の声をあげる親れいむ。
さもありなん。てっきり他の
ゆっくりが取りに行くものだと思っていただろうからだ。
もちろん、それは他の
ゆっくり全てに共通する。
自分のために他が動くのが当たり前だと思っているのだ。
だから
ゆっくり達の柿を取りに行く役目の押し付け合いになる前に、私が流れを決める。
今度は子れいむに向けて『腹話術』を使う。
「〝お母しゃんなら出来るよ! がんばっちぇね!〟」
続いてもう一体の子まりさ。
「〝お母しゃんはあんなばかなれいみゅと違うもんね!
ゆっくり取りに行ってね!〟」
「ゆっ、ゆっ~……」
愛しい子供達に揃って懇願され困り果てる親れいむ。
愛する子供達の願いとあっては断れないだろう。しかし怖い人間の家へと行くのは怖い。
助けを求めようと親まりさへと視線を向けるも
「〝バカな人間と違ってれいむは優秀だもん! れいむならできるよ!〟」
親まりさの口から出るのは、私の『腹話術』による私の言葉だけだった。
親れいむは親まりさから突きはなされたかのような驚愕の顔を見せるも、すぐに気をもちなおしたのか、キッと柿の方へと視線を向け、駆け出した。
「れいむが
ゆっくりかきさんとってくるからね! まっててね!」
勢いよく飛び出したが、もちろん人間に気づかれないように静かに這っていく親れいむ。
ゆっくり一家のいる道から縁側までは十メートル程の距離があった。
その距離を「そろ~り、そろ~り」とまたもや間抜けな声を出して這う親れいむ。
親れいむの姿を後ろから見守る他の
ゆっくりは「がんばっちぇね」と小声で声援を送る。
さっきの会話では親れいむ以外は意識が飛んでいて会話の一部内容を知らないはずだが、自分の都合の良い展開となっているので特に気にしていないようだ。
まさに
ゆっくりの餡子脳といえよう。
少しずつだが確実に縁側へと近づいていく親れいむ。
民家の明かりはついているようだから、住人は中にいるはずだが、やはり気づかないか。
ならば、次にとる手段は────。
「〝ゆっ!! 人間に気づかれなかったよ!! バカな人間だね、
ゆっくり柿は頂いていくよ!!〟」
親れいむが柿のある縁側へと辿り着いた瞬間の『腹話術』。
もちろんさっき子れいむに発せさせたのと同等の大声だ。
「なんでおおごえだすのでいぶぅぅぅ!!」
「おかあしゃんのばかぁぁぁぁ!!」
「やっぱりおかあしゃんもばかなんだにぇ!!」
スパーン、と障子を開き人間が現れた瞬間、大声を出した親れいむへと一斉に罵声を浴びせかける
ゆっくりまりさ達。
当然れいむはそんなこと知らない。
「ゆっ、なにいってるの? れいむはおおごえなんてだして────」
踏み潰された。
死なない程度に餡子を吐き出させる見事な力加減だった。
「いだぁぁぁぁい……なんでごんなごどずるのぉぉぉ!!」
皮が変形し滝のような涙を流しながら後ろを振り返った親れいむは、後ろにいた青年を見つけ愕然とした。
「ゆっ……ゆっ……、
ゆっくり……かきさんちょうだいね?」
発した言葉は恐る恐るといった感じで、できるだけ怒らせないようにとした結果だろう。
だが所詮は餡子脳。それで怒らない人間などあんまりいない。
むんず、と青年に髪をつかまれた親れいむ。
「ゆっ、ゆっ、
ゆっくりはなしてね!」
パシーン! と、
ゆっくりの言葉など無視する痛烈なビンタ。
右頬をはたかれたれいむはさっきよりも涙目になっていた。
「ゆぐっ……ごめんなさい、でもかき──」
パシーン! 左頬。
「ごべんなざいぃぃぃ! でもごはんたべないとれいむたち──」
バチーン! 右頬。
「ゆっ……ゆっぐりでぎ──」
バチーン! 左頬。
「おうぢがえぢ──」
バチーン! 右頬。
「ごべんなざ──」
ビターン! と痛烈に顔面から親れいむは床に叩き付けられた。
子
ゆっくりなら即死だろうが親
ゆっくりの弾力性なら大丈夫、死なない。
散々痛めつけられた親れいむだが
「ゆっ、ゆぐっ……」
と立ち上がろうとする。
しかし、青年はそれを許さなかった。
ドゴム!
と親れいむを庭へと蹴り飛ばした。
破裂しない程度に吹っ飛ばされた親れいむは、餡子を飛び散らせながら空を舞い、地面へと落ちた。
ゆっくり一家はというと、一連の惨状をガタガタ震えながら見守っていただけだった。
だが地面へと落ちた親れいむへと歩み寄っていく青年を確認すると、親まりさが何事か子
ゆっくり達に囁きかけた。
子
ゆっくり達はそれを聞くと、親まりさと共にその場を駆け去っていった。
このまま青年が親れいむの許へと近づいていけば、庭の外にいる自分たちも気づかれると思ったのだろう。(道と庭がちょっとした柵があるため、しかも夜のため見難い)
そんな薄情な
ゆっくり一家の行動に、親れいむは気づかなかった。
そんな余裕は既に無かったのだ。
「ゆぐっ……ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ゛ぐ……」
ボロボロになりながらもなお立ち上がろうとするが
「ゆ゙っっ!!!」
むんず、と髪を掴まれ顔面を地面へと叩き付けられる。
「も゛う゛や゛め゛でえ゛えええ!!!!」
顔面を地面につけたまま、ガリガリと家へと連れて行かれる親れいむ。
当然顔面は土や石によって削られていく。
親れいむが通った後は涙等によって濡れていた。
やがて縁側まで引きづられた親れいむは、そのまま青年に抱えられ
「い゛や゛だあああ! ゆ゛っぐり、じだいいいい!!!」
家の中へと連れ去られていった。
ピシャン、と障子が閉められ完全に親れいむの姿は見えなくなった。
それを見届けた私は、もちろん家族を放って逃げた
ゆっくり一家の後を追った。
─────────
あとがきのようなもの
作中に出てきた『腹話術』とは、「魔王」という小説に出てくる能力です。
面白そうなので一度使ってみたかったのです。
はい、完全に自己満足です。本当に有難うございました。
最終更新:2018年08月29日 00:28