書きたかった事
  • 一匹だけ幸せ、他不幸せだよ。
  • ゆっくりの語彙レベルを落としてみるよ
  • 環境物?
  • ちぇえええええん(*´∀`)
注意点
  • テラちぇん贔屓
  • 東方キャラがでます





6/13
ごめんねと少女は泣きながら手のひらに収まるゆっくりちぇんの赤ちゃんに謝っている。
溢れ出す涙を両方の袖を使いながら拭っていくが間に合わずどんどん顔から滴っていく。
やっぱりうちでは飼ってやれないから誰か優しい人に拾われてね。
そう言いながら赤ちぇんに合う小さい髪飾りを付けてやり、森の真ん中で名残惜しくその姿を見つめている。
一方の赤ちぇんには現状を把握する力など持ち合わせるわけもなく、少女の様子にわからないと返すのみだ。
赤ちぇんに責められている様な気がして少女の胸の奥がしくしくと痛む。
そっと地面に赤ちぇんは置かれ、少女は唇を噛みながら後ろを振り向かず走り去った。

そのゆっくりは少女に拾われる前に両親を失っていたようだった。
そして親代わりを務めようとした少女に今まさに捨てられ、また孤児になったのだ。
この体を包み込む空虚感をどのように表現すればいいのだろう。
これから先の生活はどうなるのだろう。
そもそもまだ親からの支援無しでは生きる事さえ困難な時期なのだ。
それに赤ちぇんには難しい事を考えることはできないが、小さい体の中を占めている気持ちは一つだった。
「わきゃらないよー……」
日も沈み森を包みこむ闇にそのつぶやきは融けていった。


6/21
「「ゆっくりしていってね!!」」
「「「「「ゆっきゅりしちぇいちぇね!!」」」」」
「みんなとてもゆっくりできてるね」
ゆっくりの親子達にいつものような朝がきた。
親のれいむとまりさが先に目覚めて、五匹の子供達に起床の挨拶をする。
春先の柔らかい日差しが巣の中まで入り込んでいてとてもゆっくりできる。
河原近くの木の根本に作られたこの巣は、何代ものゆっくり達によって掘られて出来たものだ。
自然の洞窟などに比べ窮屈ではあったが、身の丈にあった大きさである分捕食種のゆっくりや人間に見つからずにすむ利点があった。
根が邪魔をして地下へ掘っていったのか入ってすぐの部屋までは入り口から潜っていく構造をしており、奥に食物庫や赤ゆっくり用の寝床があった。
母親である親れいむは保存していた食べ物を子供達の前に持ってきていた。
「れいむ、まりさ、ちぇんあさごはんをゆっくりたべてね」
「「「「「むーちゃ、むーちゃ、しあわちぇー♪」」」」」
「みんなとてもゆっくりできてるね!」
子供達は声を合わせて虫や木の実のご飯が満足であることを親に伝えた。
この一般的なゆっくりの家族に赤ちぇんは迎えられていた。
親れいむが一匹で彷徨っていたところを不憫に思い自分の子供としたのだ。

「ごはんとってくるからじっとしてるんだぜ」
「かえってきたらゆっくりあそびましょうね」
「「「「「ゆっきゅりしちぇるね!!」」」」」
子供達のご飯が済むと両親は揃って食料の調達に出かける。
本当なら親のどちらかが巣に残りたいところだが、何かと食料が必要なため名残惜しそうに出かけていく。
子供達はれいむ種、まりさ種ともに二匹ずつ、そしてちぇんの全5匹だ。
いずれもほぼ同じ大きさで生まれた日もだいたい一緒なのだろう。
いつものように赤ゆっくり達のためにご飯を採りに行く親まりさとれいむ。
巣から出ると入り口に草や小枝を立てかけて森の中に消えていった。
その親の影が見えなくなるまで笑顔で見送っていたが、赤ゆっくり達の顔は次第に変わっていった。
「きょうもごはんがしゅくなかったんだじぇ」
「ちぇんのしぇいでいちゅもゆっきゅりできないよ」
親が居ないと赤まりさ二匹はこうして陰険にちぇんの悪口を言う。
二匹が頭が良いところは親の前ではこの姿を微塵も出さないところだ。
赤れいむ達は赤まりさに強く注意することができないし、ちぇんを庇うこともできない。
その親れいむ譲りの優しい性格が仇になり、部屋の隅でオロオロするしかない。
この状況は赤ちぇんが拾われてきたその日からもう一週間も続いている。
そして赤ちぇんはずっと同じ台詞を呟き続けるしかなかった。
「わきゃらない、わきゃらないよー……」
自分は既にこの家族の一員なのだ。最初からいた赤ゆっくり達と何も変わらないとちぇんは思っていた。
この赤ちぇんの反抗する訳でもなく、自分の境遇を受け入れる訳でもない煮え切らない態度は赤まりさ達を刺激していった。

そのまま赤ちぇんは赤ゆっくり達と同じように食べ、遊び、寝る日々を続けた。
立場はけして良いものではないが、独り身だったにしてはゆっくりできる幸福な生活が送れた。
逆に赤まりさのフラストレーションは溜まる一方だ。
ご飯を横から奪い取り、遊ぶときには突き飛ばし、寝るスペースを大きく取って赤ちぇんの寝床を奪いとってなんとか精神衛生を保っていた。

6/24
しかしついに赤まりさ達の感情が爆発した。ちぇんが巣に来てから十日目の厚い雲が空を覆った日だった。
「ちぇんはゆっきゅりできないやちゅだぜ」とちぇんを突き飛ばす赤まりさ。
ちぇんは壁に打ち付けられて苦しそうにうめく。うずくまるちぇんにもう一匹のまりさが飛びかかり、その小さい体の上で何度も跳ねてみせた。
「へへっ、まりしゃはつよいんだぜ」
「ゆうっ、ぐっ……」
言葉にならない言葉でちぇんは助けを求めるが、赤れいむはかかわれば自分たちも痛いことをされると思い見て見ぬふりをした。

ここにいるのはまだ巣の外の事情など知らぬ赤ゆっくり達である。
仲間殺しの重大さは親からはまだ教わっておらず、赤まりさ達は容赦無い攻撃をちぇんに向ける。
ちぇんは次第に体中に黒い染みを増やしていき、もはや口から漏れ出す餡子を止める術はない。
意識は何度も途切れ、丸々とした体型から掛け離れた姿に変形してしまった。
「もうやべでぇええ!! じぇんがゆっぐりでぎないよ゛おおお!!」
流石にこの状況が恐くなり始めて赤れいむが暴行の制止に入る。
この兄弟の叫びにまりさ達も冷静になり始めた。
「なくんじゃにゃいぜれいみゅ」
ゆぐっゆぐっと涙ぐむれいむの頬を舐めて、頬をすり合わせながらこれからの事を考えはじめた。
傷だらけのちぇんを親が見たら何というだろうか。
餡子脳をいくら振り絞っても自分たちが犯人でないという言い訳を思い浮かべる事が出来ない。
そもそもその場しのぎの嘘や責任転嫁の戯れ言など幼すぎて考えつくわけ無い。
まりさ達が恐れたのは親に怒られる事だ。
自分たちよりも大きく強い親に叱られるのは恐くて、想像するだけで体が震えてとまらない。
「まりさ、どうするんだぜ?」
「ちぇ、ちぇんをかくすんだぜ」
赤まりさがようやく思い浮かべたのは、ひとまず事件の発覚を遅らせることだった。

傷ついて動く事のないちゃんは食物庫に運ばれた。
そして赤ゆっくり達は巣の外から石や土を運び入れてその入り口を閉じることにしたのだ。
自分たちが生まれたとき親まりさはうまく壁を作って寝室をこしらたのを憶えていた。
巣の入り口をカモフラージュするための枝や持ってきた石をある程度重ねた後、土で隙間を埋めていく。
小雨が降り始めていた今、土は湿り気を含み都合良く掘り出す事も隙間を塞ぐこともでき、お腹を使いながら土壁をならしていく。
四匹で壁の材料を運び入れて一気にちぇんを部屋ごと隠すように壁を作っていく。
「「ゆっきゅりできちゃよ!!」」
「とてもゆっきゅりしたかべしゃんだね!!」
「まりしゃはすごいんだぜ」
入り口に詰めたものは手前の部屋の壁からは盛り上がったように出っ張っており、
入り口の上のほうも背が届かないから塞ぎきれてないので明らかに不自然であった。
しかし当初の目的を忘れた赤ゆっくり達は自分たちの作った壁の出来に満足し、
その上小さい体での作業による疲労が重なって深い眠りに落ちていった。

広い居住スペース側で眠りこけていた赤ゆっくり達が目を覚ますと巣の外は本格的な雨になっていた。
「あめさんがふっちぇるよ!」
「おそとはゆっくりできないぜ」
「おとーしゃんとおかーしゃんまだかなー」
「おにゃかすいちゃね!」
若干の空腹感はあったがちぇんのことを忘れたようにすーりすーりしたり、歌を歌いながらゆっくりしあった。
このゆっくり達には知る由はないのだが、両親が出かけて既にまる1日経っていた。
つまり彼らはいつもの起床時間に目覚めていたことになる。
未だ帰らぬ両親は自分たちの為のご飯をがんばって確保しているとまだ思っているのだ。
そしてこの雨は梅雨と呼ばれる雨である事も赤ゆっくり達が知っているはずもなかった。
6/27
閉じこめられたちぇんが目を覚ましたのは食物庫に閉じこめられておおよそ三日経とうとしていた頃だった。
生死の境をさまよいながらも何とか生きながえることができたのは、その若さから来る生命力と、
部屋の中まで進入してきていた巣の上に存在する木の根からしたたり落ちる雨漏りの雫であった。
意識が覚醒していくうちに状況が把握できてきた。
暗く何も見えないが匂いからここが食物庫であること、外から他の赤ゆっくり達の声が聞こえてくること、なにより自分自身の事だ。
体中が痛く、満足に動けそうもないがもう既に餡子が出てくるような傷は塞がっていた。

ちぇんがゆっくり這うようにして塞がれている部屋の出口の方に向かうと、ようやく外からのまりさ達の声がはっきりと聞こえてきた。
「ごはんをひどりじめじでないでででごいぃぃ!!」
「ごのかべをざっざとどげるんだぜぇぇぇ!!」
ゆっくり脳ここに極まりである。
自分達でちぇんを閉じこめておいて、その壁をどけろと体当たりしながら叫んでいるのだ。
まりさ達はかれこれ1日近くこの作業をしている。
壁に体当たりをすることで土壁の密度を上げ頑丈にして、今や乾燥が始まり赤ゆっくりにとっては屈強な城壁と化していた。

そのころ赤ゆっくり達が帰りを待ちわびていた両親はもうすでこの世にはいなかった。
赤ゆっくりのために一生懸命ご飯を集めるあまり遠出してしまっていたのが原因だった。
「ゆぐっ!! ゆっ、ゆっ、ゆっ」
「むっぐぎ、ぎががっがご……」
「ゆう!! んぺっ!! ばでぃざああぁぁぁぁじっがりじでえぇぇぇ!!」
突然の雨の中を急いで帰ろうとしていたが大量の虫や草を口に抱えた状態ではそれも叶わず、ついに力尽きてしまっていたのだ。
両親を待ち続けた子供達は空腹に耐えかね今や食物庫への進入を試みていたが、結果はこのざまである。
長雨を警戒して十分に保管されていたご飯を前に、自分達の行いが仇となり餓死してしまう状況に陥っていた。

ご飯とちぇんへの執念を糧として動き続けるまりさに引き替え、れいむ達はその内の一匹は目を見開いたまま意識を失い、
もう一匹はそのれいむに頬をすりながら弱々しく歌を歌ってやっている。
外の雨のせいで近くの別のゆっくりの巣に助けを求める事も出来ず、すでに諦めきっているようだった。
そしてほどなく雨の音を聞きながら二匹は穏やかに息を引き取った。
最期に両親に会いたかった。そしていつも通り仲良く遊んで、すーりすーりして欲しかった。
叶わぬ夢を想像しながら安らかな表情でれいむ達はゆっくりできる場所に向かっていった。

ちぇんは外のゆっくり達をよそに食物庫のご飯に手を付け始めた。
まりさ達に対して恨みや憐れみといった感情は一切無かった。
自身の空腹だけがご飯を食べるための理由だった。本能のままを生きる赤ゆっくりにとってはいたって当然の行動であるし、別にまりさ達を挑発するつもりも毛頭ない。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわしぇー♪」
しかし声に出てしまうのだ。久しぶりのご飯は味わった事のない満足感と共に幸福感も押し寄せてくる。
「「ゆがあああああああああ!!」」
食物庫の中から聞こえてくるゆっくりとできている声にまりさ達はもはや怒りで我を忘れていた。
何度も体当たりをし、幾度も罵声を浴びせ、そして無駄に体力と体皮をすり減らしていった。
じっとしていれば雨も止み外へ出られるやもしれないのに。そうすれば別のご飯にもありつけたろうに。

7/11
食物庫に保管してあったご飯は家族が四,五日は充分食べていけるだけの量があった。
ちぇんは食べては寝て、起きては食べてを二週間繰り返した。
そのうちにまりさ達の声も聞こえなくなり、心身ともに充分回復したちぇんはその体も赤ゆっくりから子ゆっくりサイズになっていた。
この大きさになれば赤ゆっくりが作った壁はいとも容易く崩す事ができ、久々の外の世界に出る事が出来た。
さして感慨はないがさながらもう一度この世に生を受けたようであった。
実際は両親を失って少女に拾われて一回目、森に捨てられてゆっくりの家族に拾われて二回目、実に三度目の生き続けるチャンスを得たわけだからもう一度どころではない。
そっと居住スペースに入ると、黒ずんだ小さい帽子と赤い小さなリボンだけが転がっている。
彼らはすでに虫か何かに食べられてしまったのだろうか。その姿は見えなかった。
ちぇんはそれらに目もくれず、明るく輝く外の世界に足を向けた。
これからは自分の力で生きなければならない事を、生き延びれるだけ強くなる事を誓いながら新しい一歩を踏み出した。



10/25
夜のとばりが降りる頃、ちぇんはゆっくりぱちゅりーと向かい合っていた。
六家族43匹にもなる中規模な群れのまとめ役であり、現在のちぇんの家族の一員であり親役を務めるぱちゅりーはいささか焦っている様子だった。
「もりのはっぱがおちてくるのがはやいわ……」
「そうなの? わからないよー」
ちぇんはひらひらゆっくり落ちているのに速いと言うぱちゅりーの言葉が理解できなかった。
「ちぇんがきてくれてからたべものあつめははかどっていたんだけど」
ぱちゅりーがむきゅーと溜め息をつくのも無理はない。
無計画なにんっしんっにより増えすぎた群れの子供達のせいで集めた食料はその日のうちにほとんどに消費されていくのだ。
そのうえ今年は冬の到来がいつもより早そうな気配を見せている。
このままでは待っているのは群れの崩壊に他ならない。ぱちゅりーは苦渋の決断を迫られていた。
「ちぇん、いつもみたいにみんなをよんできて」
ぱちゅりーはそう言うと目を瞑り何やら考え事をしはじめたようだ。
そしてちぇんはその指示に従い、巣を一つ一つ廻って親ゆっくりを集めていった。

「いいよゆっくりでていってね!!」
「ゆへへ、これであかちゃんたちとゆっくりできるんだぜ」
「ぱちゅりーといっしょじゃゆっくりできないかったよ」
「とかいはにめいれいするぱちゅりーはいなくなってね」
「ゆっ!! ぱちゅりーのごはんはおいていってね!!」
ぱちゅりーは自身の想像の上を行く彼らの言葉にもはや怒る気も起きなかった。
群れの親ゆっくり達の前でこの群れを出て行くと突然言い出したのはぱちゅりーだった。
驚いたのはぱちゅりーの言う事をよく聞き、理解し、子供も作らず、作っても体内にんっしんっをしていた二家族のゆっくり達であった。
そんな彼らがぱちゅりーを止めようとする前に残り三家族の親が晴れ晴れとした表情で次々と信じられない言葉を吐いた。
春先のにんっしんっ規制から疎ましく思い、ことある毎にねちねちと文句を言われることに苛立っていたからだ。
すっきりしたいのに、子供はかわいいのに、冬の前からずっと我慢しているのに……。
そして彼らは禁じられていたすっきりを秋に行った。植物型にんっしんっであり9,10匹の子供をそれぞれが授かる事となった。
これにはぱちゅりーは怒りを通り越して呆れるしかなかった。そしてこのことによりぱちゅりーのご飯集めの指示が激しくなった。
頑張って集めてもご飯はそんなに集まらないのに、ゆっくりお昼寝もしたいのに、もうご飯集めは疲れたのに、たまには子供とゆっくりしたいのに……。
不真面目なゆっくり達は不満をいくら積もらせてもどうすることもできなかった。
その気持ちを解決する真っ当な方法を知らなかったからだ。
それが原因となっている相手が向こうからいなくなってくれるというのだ、これ以上嬉しい事はない。

「ぜんぜんわからないよー……」
「むきゅぅ、いいのよこれで」
すでにぱちゅりーの気持ちは固まっていて、への字口を結んで決別の意思を見せた。
私がこの群れを出て行けばこのゆっくり達は間違いなく冬を越える事ができない。
ならば私は一人野垂れ死ぬ事で仲間を死に導いた事を償おう。
それがぱちゅりーの決意だった。
しかしその決心を許してくれないゆっくりがいた。
「それならちぇんもいくよー、かぞくなんだよー」
ちぇんはぱちゅりーをじっと見据えてこの主張を曲げないことを家族だからという理由で誇示した。
あの巣を脱出して以来、各地を放浪して新たに拾われたのがこの群れであり、このぱちゅりーだった。
村の長として勤めていたぱちゅりーは群れで唯一一人っきりだったから子供代わりにちぇんを迎え入れていたのだ。
「でも、ぱちゅりーについてきたら……」とぱちゅりーが牽制しようとしたが、
「うんうん、わかるわかるよー」そういうちぇんはいつもの台詞で遮った。
別にちぇんは何かを理解しているわけでもなんでもないが、別にそれでいいのだ。
ちぇんの笑顔を見ては流石のぱちゅりーもちぇんの同行を許さざるを得なかった。

そしてぱちゅりーとちぇんが群れを離れた。
その次の日から残ったゆっくり達は各々にゆっくりした。
親ゆっくり達は幼い子供達と思う存分ゆっくりすることができた。
ぱちゅりーの賛同者であったゆっくりも楽な方に流されていくのも時間の問題だった。
このゆっくり達は山の中腹付近に巣を設けていたが、そこは平地よりも二週間は早く冬がくる場所であった。
そのため冬籠もり中の餌不足は抗えぬ問題であった。
しかも巣周辺の食べられそうなものはすでに取り尽くした状態である。
遠出をしても往復に時間が掛かるため量も沢山は採れず、取ってきた分はその日の内に消える。
ならば保存してある分を食べてしまおう。ゆっくり達がそう結論づけるのはあっという間だった。
ご飯もない上冬はすぐそこまできている。何度か冬を越したゆっくりであれば焦ってもいいところだが彼らは違った。
冬の恐ろしさを知らぬゆっくりではない。冬の恐ろしさなぞすでに忘れたゆっくりなのだ。
「どぼじでごはんがもうな゛いのお゛ぉぉぉぉ!!」
「おかーしゃんおにゃかへっちゃよ!!」
「しゃっしゃとごはんもっちぇきてね!!」
巣に轟く親の絶望の叫びとご飯も満足に出せない親への不満を口々に吐き出す子供達の叫びは雪に掻き消されるという運命を辿る事になる。

10/26
一方のちぇん達も群れを離れた初日から前途多難であった。原因はちぇんの親代わりのぱちゅりーにあった。
「ごはんはどこにあるのかしら」
「わからないのー? いっぱいあるよー?」
ちぇんも負けず劣らずだが、実にこのぱちゅりー、箱入り娘ならぬ巣入りゆっくりだったのだ。
親であり、あの群れの元リーダーであったぱちゅりーの様子を見て群れのゆっくりへの指示の出し方は心得ていたが、
ご飯の採り方や危険な物を避ける知識はからっきし駄目であった。
このぱちゅりーが巣の外の世界を教えてもらう前にその親ぱちゅりーがぱちゅりー種特有の体の弱さで死んでしまい、
急遽リーダーの代わりとしてあの立場に居ただけなのだ。
そのためぱちゅりーが出していた指示自体もそれほど的確なものではなかった。
それ故かなりの無理を群れのゆっくりにさせていたのも事実だが、本人は正しい事をしたつもりでいるし、それを理解する機会ももはやないだろう。
賢いがずぼらなリーダーに振り回されただけのあのゆっくり達は、
どうせ餓死するなら最初から思うがままゆっくりしていたほうがよかったのかも知れない。

群れを離れたちぇんとぱちゅりーの二匹は何かに導かれるように山を下りていった。
丸っこい体が重力に従って坂を転がった、みたいなものだろう。
とにかくとりあえず二匹が生き延びるチャンスは拡がった。
麓の森はまだ秋深く木々の葉は色とりどりに染まりはじめ、木の実やキノコも探せばまだちらほらある状態だった。
木の実の探し方はちぇんはかろうじて把握していた。一匹でいた頃の知恵なのだ。
木の種類を葉っぱや木肌で確認すれば木の実のなる木かどうかがわかっていた。
だが惜しい事に落ち葉の下に潜む虫の居所まではわからないようで幾度も栄養価の高い食べ物を得られずにいた。
その日の食料をなんとか食いつないでいる二匹であったが、やはり冬の到来は近かった。
「どこかですをみつけないといけないわ」
「わかるよー、ごはんもあつめないとだねー」
これからなんとか二匹で冬を越えるための準備をしなければならなかった。


10/31
「ぷくぅぅ、ぱちゅりーとちぇんはゆっくりでていってね!!」
「そう、ここもだめなのね……」
巣の入り口で体を膨らましているれいむに背を向けて二匹はとぼとぼと森の中に戻っていく。
このように威嚇され追い返されるのはもう何度目だろうか。ゆっくりにとって数え切れない回数であったのは間違いない。
巣を飛び出てから五日経って未だ二匹は冬を越すための食料と何より巣の確保に手を焼いていた。
この時期にゆっくりにとって適度な大きさの空間が空いている事はほぼない。
だいたいの空間には既に住民がいるし、越冬の為かそこに他のゆっくりが進入してこないよう警戒しているからだ。
そもそも普通のゆっくり達にこの二匹を受け入れる余裕というものはない。
巣にいる家族が冬を越せるだけの食料をきっかりしか集めていないからだ。
もはやどこかの群れに迎え入れてもらう事は不可能に近い。
次第に二匹の間には諦めの気持ちが漂いはじめる。

「もうあるきつかれたわ」そう言うとぱちゅりーは重量に任せて体を横に伸ばす。
「うんうん、わかるわかるよー」
もはやいつもの事になり始めたぱちゅりーの我が侭であった。ここ最近は歩き始めて半刻もしないうちに勝手に休憩を始めるようになっていた。
ちぇんも体に染みついている『ぱちゅりーはからだがよわい』ということを理解してか一緒に歩を休める。
しかし本当のところ指示をするだけで何もしようとしないぱちゅりーに対して、ちぇんはどうすればいいかわからないのだ。
隣で口うるさく巣や、食料や、冬をどうにか越えること、また巣を出た理由や後悔などを言われ続けていたちぇんもそろそろ我慢の限界が近かった。
そんな二匹にとって招かざる客が来たのはそんなときであった。

「ゆっくりしていってね!!」
「「ゆっくりしていってね!!」」
背後から突然かけられた挨拶に脊髄反射で応えながら二匹が振り向くと、
そこには竹籠を背負った人間の男が立っていた。
二匹にとって人間は初めて見るゆっくり以外の動物だった。
本来ゆっくりが持つ人間への警戒感を全く引き出せない二匹は野生の中でも異端な部類に入るだろう。
「君たち随分ゆっくりしているね」
冬も近いというのにご飯を集めるでもなく、寒い空の下休んでいるゆっくり達に男は笑顔でそんな言葉を投げかけた。
ゆっくりからすれば誉め言葉を掛けられて二匹は照れくさく身をよじった。
「こんなところでゆっくりせずに巣の中でゆっくりしたらどうだい」
「ゆゆっ、ぱちゅりーとちぇんはすをさがしてたのよ」
「ということは家族は君たち二匹だけかい?」
「そうだよー、わかってねー」
「なんだそうか……」
「むきゅ?」
男はふむと呟き、口元に手をあてながら考え事を始めた。
二匹はこれから起こるであろうおおよその事態を知るよしもない。
そもそも人間がゆっくりにとってどのような存在であるかを、
両親や人間と関わった事のあるゆっくりが身近に居なかったため教わった事がないのだ。
そんな事情を知らない男は目の前のゆっくりが逃げないうちにと笑顔を崩さず二匹をまくし立てた。
「うちに来ればゆっくりできるよ!!」
「ゆぅ! おうちにしょうたいしてくれるの?」
「もちろんさ。うちまでは背中の籠に乗せて運んでやろう」
「よかったわちぇん。これでたすかるかもしれないわ」
「わかる、わかるよー」
どことなく生気が戻ってきたぱちゅりーは縦に伸びたり縮んだりして喜んだ。
「さてそれじゃ早速と。ほいっ、ほいっ」
男はそんなぱちゅりーとちぇんを余所目に二匹を慣れた様子で片手で掴んでは籠に放り込んでいく。
喜びをかみしめていた二匹は突如頭を捕まれて狭い籠に入れられ訳が分からない様子で叫んだ。
「むぎゅ、どおじでなげだのぉぉお」
「いだいよー、わからないよー」
「ごめんごめん。これもうちまでの辛抱さ」
背中の二匹に適当に詫びをいれて、男はさっさと自宅に帰り始めた。
ちぇんとぱちゅりーは男の家に向かう間にひとしきり文句をぶつけたが男は応える様子もない。
しかもごはんを満足に食べれていない二匹はすぐに叫び疲れてぐったりしはじめた。
籠からは丸く切り取られた空しか見る事が出来ず、さすがに心配しはじめたようでもあったが、
なによりゆっくり出来る場所に行ける事の方が勝って気分はどことなく高揚していた。
「ちぇん、なんとかふゆをこえられそうでよかったわ」
「そうだねー、わかるよー」
男に聞こえないつもりの聞こえる会話で自分たちの状況が好転していることを認識し合った。

後半に続く

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最終更新:2022年05月18日 22:06