子れいむたちの挑戦

	書いた人 超伝導ありす



今回は、特に注意点はございません。
レイパーもゲスも、ぺにまむ表現、うんしー設定もございません。





『ゆっきゅりしていってにぇ!!!』

 朝早く。
 三匹の子ゆっくりたちが、部屋の中央で朝の挨拶をしました。

 純粋で素直な、子れいむ。
 繊細で家族思いの、子まりさ。
 優しく夢見がちな、子ありす。

 三匹は、それぞれ一番のお友達。
 赤ちゃん言葉が抜けきらない、小さな小さなお友達。
 背丈は7cmほどしか、ありません。

 昨日の夜は雨でした。
 広い窓から見えるお庭は、キラキラと雫が太陽の光を照り返しています。
 まるで、一面宝石箱みたい。

 その中でも、とびきり大きな宝石に、子れいむは目を奪われました。

「まりしゃ!ありしゅ!おおきなおおきな、にじさんだよ!」

 初めて見た虹に、れいむは大興奮。
 すぐにいいことを思いつきました。

「ゆゆっ!れいみゅはにじさんにあいにいきゅよ!」

 それを聞いた残りの二匹は、綺麗なおめめをパチクリさせて。

「おしょとはあぶないよ!」
「にじさんは、ずっととおくにあるってきいたわ!」

 れいむは一人でも行くつもりでした。
 おかーさんや、みんなに、きれいな虹を取ってきて、プレゼントするつもりでした。

「おひるまでにはかえりゅからね!」

 さっそく行動開始です。
 あんよで絨毯を力強く踏み込み、ぴょんこぴょんこと跳ねていきます。

 家の通路はフローリング。
 玄関はすぐそこです。
 しかし、そこには20cmくらいの高い壁がありました。
 子ゆっくりが逃げ出さないよう、飼い主のお兄さんがバリケードを築いていたのです。

「いまのれいみゅなら、かんたんだよ!」

 れいむの、一世一代の大ジャンプ。

「ゆぺっ!?」

 れいむの体は壁を越え、人間さんの靴に当たって転がりました。
 止まって起き上がると体中がヒリヒリします。
 でも、まだまだ擦り傷。
 れいむは元気いっぱいです。

「とびらさん、ひらいてにぇ!」

 れいむは玄関ドアの前で、『とびらさん』にお願いしました。

「れいみゅはいいこだよ!だから、おねがいをきいてにぇ!」

 ドアにお願いしたって、自動的に開くわけがありません。
 でも、れいむはドアの仕組みを知らなかったので、本気でお願いしていました。
 と、そこへ。

 ガチャ。

 玄関ドアが、開いたのです。
 れいむは駆け出しました。
 『とびらさん』がお願いを聞いてくれたのだと思いっていました。
 靴の裏側が、れいむの頭上に落ちてくるまでは。

 グチャリ。
「ゆびゅえええええ!!」

 落ちてきたのは、朝の散歩から帰ってきた、お兄さんの足でした。

「うげ!?なんか踏んだ…って、チビ助じゃねえか!?」

 真っ平らに潰れたれいむを見て、お兄さんは顔をしかめると、れいむの死体を手に持って。

「おらー。子供の面倒みろやー!脱走しようとしてたぞー!」
「あちびちゃんがああああ!!」

 居間で母れいむの悲鳴が聞こえました。

「ちゃんと育てられるって言うから許してやったんだろーが!悪いゆっくりはお仕置きだああ!」

 悲鳴は、絶叫に変わりましたとさ。





 ふと、まりさは目を覚ましました。
 なんだか悪い夢を見ていたようです。
 れいむが潰されて親がお仕置きされる夢でしたが、1秒後には忘れていました。

「しずかにいくよ。そろーり、そろーり」

 気がつくと、目の前にれいむがいて、静かに寝床を出て行くところでした。

「おねーしゃんについていくよ。そろーり、そろーり」

 まりさは、いつものように一つ上の姉である、れいむに付いていきました。
 両親である、れいむとまりさ、それ以外の姉妹たちは、まだ夢の中です。

『ゆっきゅりしていってにぇ!!!』

 朝早く。
 三匹の子ゆっくりたちが、部屋の中央で朝の挨拶をしました。

 三匹は、それぞれ一番のお友達。
 赤ちゃん言葉が抜けきらない、小さな小さなお友達。

 まずは何して遊ぼうか。
 まりさが考えているうちに、れいむは窓の方へと跳ねて行きました。

「まりしゃ!ありしゅ!おおきなおおきな、にじさんだよ!」

 しばらく、お庭を眺めていたれいむは、突然嬉しそうに声を上げました。

「にじしゃん!?」

 まりさは姉の言葉に誘われて、自分も窓のそばへと行きました。
 宝石箱のようなお庭の先から、七色の光が伸びています。

「ゆゆっ!れいみゅはにじさんにあいにいきゅよ!」

 れいむは、いいことを思いついた!とばかりに、胸を張って宣言します。
 それを聞いた残りの二匹は、綺麗なおめめをパチクリさせて。

「ましりゃは、れいみゅおねえちゃんについていきゅよ!」
「あぶないわよ!にじさんは、ずっととおくにあるってきいちゃわ!」

 まりさは、れいむとだけでも行くつもりでした。
 あの虹の根元は、どうなっているんだろう。
 想像すると、わくわくが止まりませんでした。

「おひるまでにはかえりゅからね!」
「ありしゅにも、おみやげばなしをしゅるよ!」

 さっそく行動開始です。
 二匹は、あんよで居間の絨毯を力強く踏み込み、ぴょんこぴょんこと跳ねていきます。

 家の通路はフローリング。
 玄関はすぐそこです。
 しかし、そこには20cmくらいの高い壁がありました。
 子ゆっくりが逃げ出さないよう、飼い主のお兄さんがバリケードを築いていたのです。

「いまのれいみゅなら、かんたんだよ!」

 れいむの、一世一代の大ジャンプ。
 しかも、妹が見ている前ですから、俄然、やる気になっていました。

 れいむの体は見事に壁を越え、人間さんの靴の向こうまで飛べました。
 しかし、気がつくと妹のまりさの姿が見えません。

「みゅえ~!まってよ!れいみゅおね~ちゃん!」

 まりさは壁の高さを見ただけで尻込みしてしまったようです。

「まりしゃならとべるよ!」
「ゆゆっ!?」

 壁の向こう側から、れいむが声援を投げかけてきました。

「れいみゅのじまんのまりしゃなら、とべりゅよ!」

 自慢の妹だから、絶対飛べる。
 それを聞いて、まりさは奮い立ちました。
 大好きなお姉ちゃんが、自分に期待してくれている、信頼してくれる。
 まりさの餡子に力が漲ります。

 ぽ~ん!

 と、まりさの体が跳ね上がります。
 その軌跡は、れいむのジャンプをなぞり、れいむの隣に着地しました。
 次の障害は、玄関ドアです。

「れいみゅおねーしゃん、そろそろ、おにーしゃんがかえってくるじかんだよ!」

 まりさは、ドアが開いても大丈夫な場所、ギリギリに陣取ります。
 れいむもそれに続きました。

 ガチャ。

 まりさが思った通り、玄関ドアが開きました。
 ぬっと入ってくるお兄さんの両足を横目で見つつ、二匹は慌てて外へと飛び出しました。

「おしょと!おしょとだよ!おねーしゃん!」
「まりしゃ、まってね!れいむおねーしゃんをおいていかないでね!」

 二匹は、太陽の光を直接受け、体を撫でる風に大はしゃぎ。
 虹のことなんてすっかり忘れて、庭を横切る小道を跳ねてゆきます。
 散歩に出かける両親と一緒に、お兄さんが抱えたバスケットの中から見た景色とは、まったく違いました。

 お外はこんなにも楽しい場所だったんだ!
 野生の本能も少し手伝って、二匹はここが本来の自分たちの世界だと、信じて疑いませんでした。
 黒い塊が突っ込んでくるまでは。

 プチ。
「びゆぎゅげっ!?」

 それは車のタイヤでした。
 二匹の悲鳴は騒音にかき消され、運転手はそれに気づくこともありませんでした。
 一瞬の、出来事でした。





 ふと、ありすは目を覚ましました。
 それはそれは恐ろしい夢を見ていたようです。
 愛しのまりさが、れいむと共に潰される夢でした。

 恐る恐る寝床の外を見てみると、正面の別の寝床から、れいむとまりさがいつものように出てくる所でした。
 ありすは、ほっと肩をなで下ろします。
 彼女にとって、早起きのまりさは特別な存在でした。
 大人しく、寂しがり屋で、まりさっぽくないまりさでしたが、それでも将来を共に歩みたいと思っていました。
 ありすは、まりさが無事だと分かると、夢の内容をすっかり忘れてしまいます。
 いつものように、まりさの後についていきました。

『ゆっきゅりしていってにぇ!!!』

 朝早く。
 三匹の子ゆっくりたちが、部屋の中央で朝の挨拶をしました。

 三匹は、それぞれ一番のお友達。
 赤ちゃん言葉が抜けきらない、小さな小さなお友達。

 まずはまりさにすりすりしたい。
 ありすが考えているうちに、れいむは窓の方へと跳ねて行きました。

「まりしゃ!ありしゅ!おおきなおおきな、にじさんだよ!」

 しばらく、お庭を眺めていたれいむは、突然嬉しそうに声を上げました。

「にじしゃん!?」

 まりさは姉の言葉に誘われて、自分も窓のそばへと行きました。
 ありすも放っておけなくて、まりさの横に並びます。
 お庭の先には、七色の光。
 ありすは自分にとって、七色の光は特別なものなんだと、なぜか感じていました。

「ゆゆっ!れいみゅはにじさんにあいにいきゅよ!」

 れいむは、いいことを思いついた!とばかりに、胸を張って宣言します。
 それを聞いた残りの二匹は、綺麗なおめめをパチクリさせて。

「ましりゃは、れいみゅおねえちゃんについていきゅよ!」
「きれいなひかりね!ありしゅもいくわ!」

 三匹は意気投合し、虹の根本を目指すことにしました。

「でも、にじさんはとおいわよ!しっかりじゅんびしてね!」
「わかっちゃよ!ありしゅ!」

 さっそく行動開始です。
 三匹は、あんよで居間の絨毯を力強く踏み込み、ぴょんこぴょんこと跳ねていきます。

 家の通路はフローリング。
 玄関はすぐそこです。
 しかし、そこには20cmくらいの高い壁がありました。
 子ゆっくりが逃げ出さないよう、飼い主のお兄さんがバリケードを築いていたのです。

「まりしゃ!れいみゅ!ちょっとまってね!」

 ありすは居間にあった小さな遊具を、壁の近くまで運びました。
 子ゆっくりたちが飛び乗って遊ぶ、積み木のパーツです。
 それだけで壁は越えられませんでしたが、三匹は軽いジャンプだけで越えられました。

「さすがはありしゅだね!」
「とかいはのたしなみなのよ!」

 まりさに賞賛されて、ありすは鼻高々でした。
 次の障害は、玄関ドアです。

「れいみゅおねーしゃん、そろそろ、おにーしゃんがかえってくるじかんだよ!」

 まりさは、ドアが開いても大丈夫な場所、ギリギリに陣取ります。
 れいむとありすも、それに続きました。

 ガチャ。

 まりさが言った通り、玄関ドアが開きました。
 ぬっと入ってくるお兄さんの両足を横目で見つつ、三匹は慌てて外へと飛び出しました。

「おしょと!おしょとだよ!おねーしゃん!」
「まりしゃ、まってね!れいむおねーしゃんをおいていかないでね!」

 二匹は、太陽の光を直接受け、体を撫でる風に大はしゃぎ。

「まりしゃ!れいみゅ!にじさんをさがしにいくわよ!」
「そうだったね!」

 ありすの言葉で、はたと目的を思い出した二匹は、ゆっくりと道路へ向かいました。

「どうろは、くるまさんがいるから、あぶないわよ!どうろのはしを、あるいてね!」
「ゆっくりあるくよ!」

 ありすの忠告に、れいむとまりさは道路の中央に飛び出る事無く、道路の端を跳ね始めました。
 しかし、道路の一番端には、フタのない側溝が続いています。
 ウキウキ気分だったまりさは、それに気がつかず、側溝の中へと飛び込んでしまいました。

「まりしゃああああ!!」

 雨が上がったばかりの朝。
 側溝は雨水を流す役目を、十分に果たしていました。
 そのまま流されて行くかと思いきや、まりさは運よく水面に突き出ていた、ブロック塀の欠片の上に着地しました。

「お、おおおお、おみじゅさん!ゆっきゅりしていっちぇね!?」

 まりさの周りでは、水が勢いよく流れていました。
 上を見れば、まりさでは飛び上がれない程の高さ。
 ゆっくりできるはずもありません。

「まりしゃ!れいみゅおねーしゃんがすぐにたすけるからね!」

 そこへ、姉であるれいむが飛び込みます。
 しかし。

「どーしてれいみゅまでー!?」

 姉として、咄嗟に身を投げたれいむの行動は正しかったのでしょうか?
 ありすには、理解できませんでした。

「ゆゆっ!?どーしちぇぇ!?れいみゅでられないよおおお!!」

 結果は二重遭難です。
 二匹のジャンプ力は大差ありません。
 助けに来たはずの姉が泣き始めると、まりさも釣られて泣き始めました。

「おかーしゃんたちに、たすけてもらうわ!そこでまっていなさい!」

 二人を助けられるのは自分しかいない。
 そう理解したありすは、慌てて来た道を戻ります。
 愛しのまりさの絶体絶命のピンチ。
 ありすは生まれて初めて、全力で跳ねました。
 道路を駆け抜け、お庭の小道に入り、玄関へと、一生懸命、跳ねました。

「おにーしゃま!とびらさんをあけてね!まりしゃとれいみゅが、たいへんなのよおおお!!」

 いつも両親を、生まれてきた自分たちを、たっぷりと愛してくれたお兄さん。
 叫べばお兄さんは開けてくれる。
 ありすは信じて疑いませんでした。
 それが、勢いよく開くまでは。

 ガチャっ!!!
「ゆぴゅぎょ!?」

 玄関ドアが勢いよく開き、飛び上がっていたありすは、ピンポン玉のように勢いよくはじき飛ばされました。
 ありすの体は、それはそれは芸術的なライナーアーチを描き、庭の壁に激突しました。 

「くそっ!三匹ともどこに行ったんだ!?庭か!?外に出てないでくれよ!?」

 お兄さんが血相を変えて、玄関から出てきます。

「あの三匹は愛男に譲る約束してたのに!」

 お兄さんは、茂みの中を一生懸命探していました。
 そのすぐ近くの壁には、新鮮なカスタードクリームが、べっとりと付着していましたとさ。




 一方、れいむとまりさは。

「でられないよおおお!ありしゅはやくたすけてえええ!!」
「げんきをだしてね、まりしゃ!おねーしゃんがついてるよ!」

 一番最初に泣き出してしまったれいむでしたが、妹が泣いているのに気がつくと、気を強く持とうと泣きやみました。

「ゆゆ!れいみゅ、いいとこをおもいついたよ!」

 れいむは閃きました。
 相手は、玄関よりも、ずっとずっと高い壁。
 ヒントは、ありすが持ってきた積み木でした。

「まりしゃ!れいみゅおねーしゃんのうえに、のってじゃんぷしようね!」
「ゆうう?」
「もしかしたら、とどくかもしれないよ!」

 泣きやむ、まりさ。
 それを見て、れいむはいよいよ希望を持ちました。

「でも、おねーしゃんがつぶれちゃうよ!」
「おねーしゃんはつよいから、まりしゃがのってもへいきだよ!」
「まりしゃがたすかってから、れいみゅおねーしゃんはどうするの?」
「おねーしゃんはまってるから、まりしゃがおかーさんたちをよんできてね!じゅうだいなしめいだよ!」

 れいむは、まりさを励ますために、助けを呼んで来て欲しいと頼みました。
 まりさも、姉を助けるためにと、気合いを入れ直します。

「のりゅよ、おねーしゃん!」
「ゆぷぷぷぷ」

 まりさが、れいむの頭の上に乗りました。
 自分と同じ体格のまりさが乗ったのですから、れいむが苦しくないはずがありません。
 でも、れいみゅはおねーさんだから。

「すぐにおかーしゃんたちをよんでくるからね!!」

 大好きなお姉ちゃんが、自分に期待してくれている、信頼してくれる。
 まりさの餡子に力が漲ります。

 ぽ~ん!

 まりさはのジャンプは、一世一代のジャンプ。
 姉直伝の、火事場の馬鹿力。
 まりさの体は側溝の高さをギリギリ越えました。

「どぴゅべ!」
 バシャン!

 しかし、まりさは着地に失敗し、壁を転がって水面に叩き付けられてしまいました。

「ゆゆ?」

 水しぶきが、れいむの顔にひっかかります。
 まりさの重さから解放され、ふと上を見ようと思って顔を上げた目の前で、まりさは水に沈んでゆきます。

「ゆあ…あ、あああああ!!」

 水深はそれほどではありません。
 しかし、流れは急でした。
 急流にゴロゴロと押し流されてゆくまりさを、れいむは嗚咽をあげながら、見ているしかありませんでした。

「まりしゃああああああああ!!」

 水流ギリギリに身を乗り出して、まりさの流れていった方向を眺めるれいむ。
 万事休す。
 そう思った直後、上流から発砲スチロールが流れてきたのです。
 躊躇することはありませんでした。
 側溝に飛び込んだ時と同じように、体は自然と動いていたのです。

 れいむは、さながらサーフィンのように、発砲スチロールの上にふんばりました。

「いまいくからね!まっててね、まりしゃ!!」

 必ず助けるよ!
 妹の姿は、ずっとずっと遠くです。
 それでも、れいむは諦めずません。
 不安定に揺れる発砲スチロールを乗りこなし、どんどんと進んで行ったのでした。





「むきゅ!?」
 ぱちゅりーは、うなされて目を覚ましました。
 なんだか、とてつもなく不吉な夢を見たような気がします。
 そして、ぱちゅりー種は頭が良いので忘れられませんでした。

 ぱちゅりーは、寝床を見渡します。
 両親である、ありすとぱちゅりー、それ以外の妹たちは、まだ夢の中です。
 家族で一番早起きの、妹ありすを除いては。

 ぱちゅりーは、この家で飼われている二つの家族の子供たちの中では、一番の年上でした。
 親ありすの頭上から生まれた妹たちとは違い、それよりもずっと先に親ぱちゅりーのお腹の中から生まれていたのです。
 背丈も、他の妹たちより倍以上あります。

「なんてゆめをみてしまったのかしら…」

 ぱちゅりーは、少し心配になって、寝床の外に出ました。
 ひんやりと涼しい、朝の空気。
 いつもなら、まだ目が覚めない時間です。

 しかし、いくらなんでも静か過ぎました。
 いつもなら、妹と、お向かいさんのれいむとありすのじゃれあう声が、隣の部屋から聞こえるはずです。

「ありす!れいむ!まりさ!どこへいったの!?」

 ぱちゅりーは居間を駆け抜け、フローリングの通路に出ました。
 そこにはちょうど、積み木を踏み台にして、ジャンプするありすの後ろ姿がありました。
 積み木を使えば簡単に出られることは、ぱちゅりーがありすに、こっそり教えたアイデアでした。

「まちなさい、ありす!」
「ぱちゅりーおねーしゃま!」

 ぱちゅりーが呼びかけると、壁の向こうから、嬉しそうなありすの声が返ってきました。

「おそとはきけんだわ!ぱちゅりーのいうことを、ゆっくりきいてね!」

 二つの家族の子供たちの中では、一番のお姉さんであるぱちゅりー。
 彼女の緊迫した声に対して帰って来た答えは、とでも純粋なものでした。

「れいみゅは、にじさんをさがしてくるよ!ぱちゅりーおねーしゃんにも、わけてあげるね!」
「まりしゃも、れいむおねーしゃんについていくよ!にじしゃんは、すごくたのしそうだよ!」
「ありしゅは、まりしゃがいくっていうから、しかたなくいくわよ!でも、たのしそうだわ!」

 ぱちゅりーは迷いました。
 叱ってしまうのは、簡単です。
 でも、純真な気持ちを、軽率に潰してしまうわけにはいきません。

 世の中は、思っている以上に汚くて、思っている以上に厳しい。
 それだけではありません。
 ゆっくりにとっては、想像を絶するほどの理不尽も存在します。

 れいむたちも、いつかはそれに気づく日がくる。
 ならば、それまで見守ってあげよう。
 ぱちゅりーは決心しました。

「みんながいくなら、ぱちゅりーもいくわ!ほんとうに、めがはなせないこたちね!」

 ぱちゅりーも、ジャンプしてありすたちに続きます。
 ドアが開き、四匹は庭へと駆け出しました。
 朝日が、そよ風が、四匹を歓迎します。

 その昔、ゆっくりたちは野原を駆け、森に住み、大地とともにありました。
 本能が、今一瞬をゆっくり堪能しろと、ささやくのです。

「にじさんはとおいわよ!どうろははじをあるきなさい!だけど、はじすぎるとおちてしまうわ!」
「ゆっくりいくよ!」

 れいむ、まりさとありすは、ぱちゅりーの的確な指示に従って、道路を進みます。
 まりさが脇に目をやると、深い溝があって、水が勢いよく流れていました。

「ぱちゅりーおねーしゃん、これはなに?」
「むきゅ。これは、はいすいこうよ」

 ぱちゅりーは、おちたらあぶないわ、と付け加えて続けます。

「あめさんを、かわにつれていってくれるのよ。ながれがはやいのは、ちかくにかわがあるからだわ」
「おみずさんはゆっくりしてないね!」
「おみずさんは、ゆっくりしないでにじさんをみつけたいのよ!」

 れいむが水の流れにムズがゆさを感じていると、ありすがそう言いました。
 水も一緒に同じ方向に向かっていることが、嬉しかったのでしょう。
 途中、発砲スチロールが流れてきて、ゴミに引っかかり、ひっくり返って流れていきました。

 ぱちゅりーの先導で、三匹は何回も道路を無事に渡ることがでました。
 そうして四匹は、お昼頃になって、ようやく家の近くの土手にたどり着いたのです。

「さあ、れいむ、まりさ、ありす!このさかをのぼってみなさい!」

 こんなところかしらね、ぱちゅりーは三匹をここで引き帰らせようと思っていました。
 虹の根本なんてあるわけないし、この土手の景色を見れば満足するはずだと確信していたからです。

「ゆんしょ!ゆんしょ!」
「ゆーえす!ゆーえす!」
「もうすこしよ、まりしゃ!」

 三匹は、土手を根気よく登っていきます。
 階段は高くて使えないから、草むらにしがみついて行くのです。
 そして、三匹は土手を登り切り。

「ゆううううう!!!」
「ど、どうしたの?まりしゃ!?」

 一番先に登り切ったまりさが、悲鳴に近い歓声を上げました。
 それに驚いたれいむとありすが、慌てて追いつき、その横に並び…。

『ゆ、ゆうううううう!!!』

 三匹は並んで、目の前に広がる光景に、打ち震えていました。
 土手の先には、人間さんが玉突きをしている広い芝生や、すすき野原があり。
 ゆっくりにとっては大河とも呼べる川は、さらにその向こうにありました。
 一級河川の眺めは、ゆっくりには想像できない程の、別世界のようでもありました。

「むきゅう、むきゅう」

 遅れて来たぱちゅりーは、土手の上の遊歩道で感動している三匹を見つけます。
 虹の事は、すっかり忘れているようでした。

 それから、四匹はお昼にしました。
 まりさが帽子に入れて持ってきた、3粒のゆっくり用フードではもちろん足りません。
 ぱちゅりーが、食べられる野草をごちそうしました。

「ゆ、うう…れいみゅ、ねみゅい…よ…」

 お腹がいっぱいになると、三匹の目はとろーんと蕩け、まぶたがゆっくり降りて来ます。
 お姉さんぶっていたれいむも、例外ではありません。

「ありす。れいむ。まりさ。ぱちゅりーと一緒にお昼寝しようね」
「ゆぅぅん…」

 ぽかぽかの日差しを浴びて、草むらで三匹は眠りにつきました。
 母親のように、ぱちゅりーを中心にして、三匹は寄り添って眠ります。
 どんなに威勢がよくても、三匹はまだ、赤ちゃんゆっくりでした。





 お昼寝から目覚めた三匹は、そのまま草むらを転げ回っていました。
 夜になれば、帰りが危なくなってしまう。
 そう何度注意するぱちゅりーの声を無視していた三匹は、最後にとても良いものを見ました。

 ずっと遠くに沈んでゆく夕日。
 それは、とても綺麗なものでした。
 目覚めてから見上げた、七色の宝石にもひけはとりません。
 れいむたちは満足げに、川波に背を向けました。

「じゃあ、おうちまできょうそうだよ!」
「まけないわ!」

 駆け出す三匹。
 とはいえ。
 そこそこ急いでも、家に着く頃には暗くなっているはず。
 心配をかけて、おかあさんたちも、お兄さんも怒るだろう。
 ぱちゅりーは内心ドキドキでした。

 でも、れいむたちはこうやって貴重な体験をした。
 将来はもしかしたら、とても賢い子になるかもしれない。
 ちゃんと事情を説明して真摯に謝れば、お兄さんも許してくれるはず。
 ぱちゅりーは、そう思っていました。

 彼らがやって来るまでは…。

「あの夕日に向かって走れー!」
『ファイトオー!ファイトオー!ファイトオー!』
 ぐしゃぐしゃぐしゃ。

「む…きゅ?」

 それは、部活動中の熱血お兄さんたちでした。
 川の土手に作られた遊歩道を、信念を持ったお兄さんたちが駆け抜けてゆきます。
 雑踏が、三匹の将来を、打ち砕いたのです。

「むきゅうううううう!!?」

 思わずぱちゅりーは、三匹が跳ねていたはずの場所に駆け寄っていました。
 そこにあるのは、原形をとどめない、二つの黒いシミと、カスタードを垂れ流すひしゃげた塊。

 死んでしまった。
 ありすも。れいむも。まりさも。
 目の前で。

「ゆげえええええええ!?」

 体内から迸る、熱い液体。
 ぱちゅりーの口からは、生クリームが流れて出ていました。
 あまりのショックに、ぱちゅりーの精神が耐えられなかったのです。

「む…きゅ…」

 自分の中身が、妹たちの亡骸を穢していくのを、ぱちゅりーは咳き込みながら見ていました。
 ありすの体は、まだ判別が付きました。
 冷たくなっていく妹のそばに、寄り添ってあげたいのに、体は動きません。
 すでに体外に出た生クリームは、危険な量に達してしたのです。

 ああ、自分はここで死ぬのか。
 ぱちゅりーは、そう考えました。
 両親や、たくさんの妹たちを遺して逝ってしまうことに、ただただ申し訳ありませんでした。
 救いがあるとすれば、目の前のありすたちと、共に旅立てることだけ。

 あの時、もっときつく注意していれば…。
 せめてもの、これが償い…、ぱちゅりーはそう思っていました。
 その声が聞こえるまでは…。

「ぱちゅりいいいいいい!?」

 その声を聞いて、ぱちゅりーの意識は、ぐっと踏みとどまります。

「目を開けてね!?ぺろぺろしてあげるからね!おかあさんをおいていかないでねええええ!?」

 ゆっくりと目を開き、おぼろげな視界に移っていたのは、親ありすだったのです。
 信じられませんでした。
 でも、思わずぱちゅりーは涙していました。
 もうこれ以上、体から流れ出るものなど、ないと思っていたのに。

「おか…さま…」
「ぱちゅりいい!!ぱちゅりいい!げんきをだしてね!もうだいじょうぶだからね!」
「よかったね!みつかったね!」
「ゆゆ!れいむはおにいさんをつれてくるね!!」

 その側には、れいむとまりさの両親も居ました。
 親ぱちゅりーを子守に残して、三匹は家を抜け出した子供たちを探しに出ていたのです。

「大丈夫か?」

 しばらくすると、飼い主のお兄さんがやってきました。
 汚物にまみれたぱちゅりーを、嫌な顔もせず優しくすくい上げる、お兄さん。
 スポイトでオレンジジュースを口の中に注ぎ込みます。

「む…きゅっ。おにいさん…ありすたちが…そこに…」
「ああ、そうみたいだな」

 お兄さんの足下では、三匹の親ゆっくりたちが、うつむいていました。

「何があったかは、後で聞く。今は、元気になるんだ、ぱちゅりー」
「むきゅう…むきゅうう…」
「三匹のぶんまで、しっかり生きるんだぞ、ぱちゅりー」

 お兄さんの励ましの言葉に、ぱちゅりーはゆっくりと大きく頷くのでした。





 その晩。

「ちゃんと育てられるって言うから許してやったんだろーが!悪いゆっくりはお仕置きだああ!」
「どおしてええええええ!?」
「むきゅうううう!?」

 結局、ぱちゅりーは許してもらえませんでした。
 ちゃんと事情を説明して真摯に謝ってもダメでした。
 両親とぱちゅりーの悲鳴は、絶叫に変わりましたとさ。


 続きます。
 が、今回はここまでです。
 登場キャラはこれ以上増えません。




あとがき
 仕事中に思いついた小ネタを煮詰めて形にしてみました。
 使い古されているパターンかとは、思いますが。
 たまにしか飲まない缶コーヒーなんかガブ飲みした結果がこれだよ!!
 あー、カフェイン中毒っていうのもあるらしいですねー。当日はすごいハイでした。

 今回はコメディ調でしたが、続きはシリアス成分が追加される予定です。
 是非、感想をお聞かせ下さい。

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最終更新:2022年04月17日 00:07