「ゆっくり!! ……ゆっくり!! ゆっくりしていってね!!!!!」
 森の中で、一匹のゆっくりアリスが一人で喋っていた。
 延々とそれを呟いては、何かを考えてまた喋る。
 そんな事を、起きてからずっと行っていた。
「ゆゆ!!! よし!! きょうこそは、とかいはのありすがみんなといっしょにあそんであげる!!!」
 そう言い残すと、アリスは勢い良く自分の家を飛び出していった。
 向かう先は近くの広場、そこには沢山の家族がゆっくりと暮らしている。
 個体数は100を超えるだろう。
 ゆっくり霊夢と魔理沙、それにパチュリー。
 それぞれが近くに巣を作り、和気藹々と暮らしているのだ。
「ゆっ、ゆっくりしていってね!!!」
「「「ありすだーー!!!」」」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
 意を決してゆっくりアリスが声をかけたのは、親ゆっくり達だった。
 数にして二十匹程だろうか、そのゆっくり達は皆アリスにとっては友達だった。
 小さいときから一緒に遊んで、今はここに一大コミュニティーを築いているのだ。
 今、ここにいる子供は赤ちゃんゆっくりばかり。
 だが、来年の今頃はきっとお姉さんゆっくりに率いられていく赤ちゃんゆっくりの姿も見れるだろう。
 しかし、元から内気なゆっくりアリスはなかなかそこに加わろうとはしなかった。
 日々、自分の家の仲で、挨拶の練習に明け暮れた。
 そして今日、漸く実行する事ができたのだ。
「ゆ、ゆっくりありしゅもっこでゆっくりしてあげるよ?」
 それだけ口に出して、目をつぶる。
 恐る恐る目を開けると、そこにはニコニコと微笑むゆっくりの姿。
「うん!!! これでみんなでゆっくりできるね!!!!!」
「ゆっくりできるね!!!!!」
「ありすもいっしょにゆっくりしようね!!!!」
 全員、アリスを歓迎してくれるようだ。
「ゆゆ!! みんなありがとーーね!!!!!!」
「ゆっくりしようね!!」
「「「「「「ゆっくり~~~~~~♪」」」」」
 それからは、ゆっくりアリスにとって楽園のような生活だった。
「ありすおねーさん!!! ゆっくりしようね!!!」
 近くに家を移したアリスのもとには、毎日ゆっくり達がやってくる。
 それはあのゆっくり達の子供だった。
「おねーしゃんきょうもゆっくりしようね!!!!」
「うんとかいはのありすがゆっくりさせてあげるよ!!!」
 日に日に、アリスは積極的になっていった。
 そして、初めて人里に降り立った。
「ゆっくり~~♪ ここがにんげんのばしょ~~♪」
 他のゆっくりから、人間の事は教えてもらっていたので荒らすこともなくただ、道をのんびりと歩いているゆっくりアリス。
「やあ!! ゆっくりアリスとは珍しいね」
「ゆゆ!! おにーさんだれ? ありすがおともだちになってあげてもいいよ!!!」
 初めて話しかけてくれた人間に、興味心身で会話をしだす。
「ふふ。いいよ。きみはあのゆっくり達の所に引っ越してきたアリスだろ?」
「ゆゆ!! そうだよ!!」
「皆言ってたぞ!! 都会派のアリスが引っ越してきてくれてよかったねって」
「ゆゆ~~~♪」
 やっぱり、皆アリスのことが大好きなんだね。
 あんまり口に出さないのは照れ隠しなんだね。
 一人で勝手に妄想しているアリスに、更に男は話を続ける。
「それで、今と会のゆっくり達の間で大流行のおしゃれがあるんだけど、しりたい?」
「ゆ!! しりたいしりたい!!! おにーさんはやくありすにおしえてね!!!!!」
「良いとも。そら!!」
 そう言うと、男は勢い良くゆっくりアリスの髪飾りを引き抜いた。
「あああーーー!!!! ありずのかみがざりがーーーー!!!!!」
 自分達にとって、命よりも大事な髪飾りを奪われてしまった事に、アリスは非常に混乱してしまった。
「あああああ!!!! ゆゆゆゆ!!!!!!」
「落ちつきな、これは都会のゆっくり達の最先端ファッションなんだよ!!!」
「ああああ!!! ……ゆとかいの?」
 アリスの動きが止まった。
 どうやら、都会という言葉に反応したようだ。
「そうさ。都会のゆっくりは今皆こうやって生活してるのさ」
「でも!! ゆっくり髪飾りがないと……」
「そんな考え古い古い!! 都会派は、新しい事をやらないとね」
「……うん!!! そうだね!!! ゆっくりそうするよ!!!!」
「よし、おじさんが手伝ってやろう。 一緒に群れの所まで行こうね」
「ゆ!! えすこーとだね!! ゆっくりつれていてね!!!」
 男に抱っこされてご機嫌なアリスは、髪飾りが見えないように抱えられている事など気付くはずもなかった。
「ゆゆ!! ありす!! それにおにーさんも!!!」
「おにーさんもゆっくりするの?」
「ゆっくりしていってね!!!」
「ははは。でもその前に、おじさんとアリスで考えた新しいゆっくりファッションがあるから、またお母さんとお父さんを集めてくれるかな?」
「ゆゆ!! わかったよ!!!」
 そうして、集められた親ゆっくり達。
「むっきゅ~ありすはどうしてかおをかくしてるの?」
「今見せると、つまらないからね。皆がゆっくりファッションをし終えたら皆にも見せてあげるよ」
「そうか~ゆくりまってるよ!!」
「おにーさんがかんがえた、ぼーしにおはなをつけることも、みんなきにいったんだよ!!!」
 男の説明を聞くと、ゆっくり達は納得したようで、それ以上アリスの事を詮索するのは終わった。
「それじゃあまた皆目を瞑ってね」
「ゆ!!!」
「それじゃあいくよ!!!」
 男は、一匹ずつゆっくりの髪飾りを取っていった。
 このために、過去髪飾りに何かを付ける時も一度外していたので、何も言わずに黙って従う。
「それじゃあ目を開けてね」
「「「「「ゆっくり~~~~~♪ !!!!!!」」」」」
「れいむなの?」
「まりさ? ぼうしは?」
「むっきゅ~~~!! ぱちゅりーおぼうしがない~~!!!!」
 混乱するゆっくり達。
 その中で、ゆっくりアリスだけは、少し違っていた。
「ゆゆ!!! あのおにーさんがおしえてくれたんだよ!! とかいでは、これがはやってるんだって!!!」
 ニコニコと皆に伝えるアリスの顔に、ゆっくり霊夢が飛び掛った。
「むじゅ!!! いだい!! いだいよーーー!!!」
「ゆっくりしんでね!!! こんなことするありすはきらいだよ!!!」
「そうだよ!!! ゆっくりしね!!!」
「むっきゅーーー!!!」
 どうやら、ゆっくり達の頭の中ではアリスが男に命令してこのような状態になったと思っているらしい。
 更に暴行を続けようとしたゆっくり達を、男が止める。
「ストーーップ。それ以上やると、これ皆捨てちゃうぞ」
 男が見せた鞄の中には、自分達の髪飾りが入っていた。
「やめてね!!! やめてね!!!」
「じゃあ、アリスを暴行するのは止めてあげてね」
「わかった!!! わかったから、すてないでね!!!」
「そうするよ。それにね、その格好を思いついたのはおにーさんなんだよ」
 一同に驚きが起こる。
「なんで!! なんでおにーさんがこんなことするの!!!」
「むっきゅ~~~!!!!」
「ごめんごめん!! そこまで大事なものだとは思わなかったんだ」
「だったらはやくもどしてね!!!」
「はいはい。でもその前に……」
 目線を変えた男。
 その先には、今の騒ぎを聞きつけた赤ちゃんゆっくり達の姿が。
「お~~いみんな~~♪」
 その赤ちゃん達に向かって話しかける男。
「「「「「にゃに~~~」」」」」
 それらも、男の子とは知っているので元気良く返事をする。
「このゆっくり達しってる?」
「「「しらにゃ~~い!!!」」」
「「「!!! なんでぞんなごというのーーー!!!!」」」
 親は口々に魔理沙だよとか霊夢だよと言ってっているが、あかちゃん達には伝わらない。
「れいむおかーしゃんはきれいにゃりぼんぎゃついてるもん!!!」
「まりさおかーしゃんだってそうだもん!!!」
「おねーしゃんたちはにせもにょだもん!!!!」
「「「「!!!! ひどいよーーー!!!!」」」」
 赤ちゃん達の反応に絶望する親ゆっくり。
 ここで、男は赤ちゃん達の味方をする。
「みんな!! だったらゆっくりしんでもいいよね!!」
 沸き起こるそうだねコール。
 それを聞いた男は、勢い良く親ゆっくり達を踏み潰していく。
「ぶぎゃ!!!」
「ぎゃ!!!!」
「むぎゅ!!!」
 ドンドン潰れていくゆっくり。
「ゆーーー!! どーじでーーー!!! どがいでおーはやりなんでじょーー!!!!」
 残るは、一部始終を見て呆然としているゆっくりアリス唯一匹。
「そんな話嘘だよ」
「!!!!」
 ゆっくりアリスもこの世を去った。
「やっちゃーーーー!!!!」
「にせみょのをやっつけちゃね!!!!」
 赤ちゃん達の勝利の声が響く中、男は鞄の中から髪飾りを取り出し亡骸の元へ駆け寄っていく。
「ゆ? おにーしゃんなにやってるにょ?」
「ん? これを返してあげるんだよ」
 亡骸に帽子を被せる。
「あああああ!!!! みゃみゃーーーー!!!!」
 途端に赤ちゃんが泣き出した。 
 どうやら、このゆっくりの母親だったようだ。
 その後も、きちんとマスキングを残しておいた男は、潰さないで残していたその部分を探し飾りを取り付けていく。
 全てが終わった時、辺りには沢山の嗚咽が漂っていた。
「ど~~じで~~~~!!!」
「おが~~~じゃ~~~ん!!!!」
「むっきゅーーーー!!! むっきゅーーーー!!!」
「それじゃあ。僕はもう帰るよ」
 男が踵を返したとき、赤ちゃんゆっくり達は男を取り囲む。
「おにーしゃんがやったんだよ!!!」
「しょうだよ!!! ゆっくりちねーーーーー!!!!!!」
 口々に、男に向かって暴言を投げつける赤ちゃんゆっくり達。
 しかし、男は涼しい言葉で切り返す。
「君達がゆっくり死んでも良いって言うから、僕はやったんだよ? 君達が言わなかったら、僕はそんな事しなかったよ」
「ゆゆゆ!!!」
「ゆーーー!!!」
「むぎゅ!!!」
 それだけ言い残し、男は去って言った。
 赤ちゃんだけのコミュニティー、それが今後どうなって行くのか今は誰も知りえない。


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最終更新:2022年05月03日 17:17