公園で遊ぶ子ゆっくりたち。その集団を見つめるゆっくりの中に、まりさが一匹いた。
まりさは、自分の帽子を見てため息をついた。
最近、刺激が足りない。刺激といっても世界をめぐる大冒険や人間との死闘を求めているのではなく、ささやかなイベントが欲しいのである。毎日決まった時間に起きて、狩りをし、ごはんを食べたらすぐに散歩に行く。いつもと違うコースを選ぶこともあるが、基本的には同じ道を歩くことにしている。そして、行き止まりになったらそこでおしまいだ。そこがこの公園の特徴だったりするのだが、特に何も起こらないし、何もないからこそ面白いという気持ちにすらならない。とにかくつまらない、というのがまりさの日常だ。だが、そんな日々も今日で終わるかもしれない。
昨日、新しい遊びを思いついたのだ。普段は昨日の記憶なんてうんうんとなってほとんど消えてしまうが、この新たなる刺激への期待はそのまま残っていたのだ。
その遊びとは”影踏み”。公園にいた人間のおちびから着想を得たものであるが、まりさは自ら考えたと記憶を改ざんしていた。要するに自分が考えたと思い込んでいるわけであるが、それが真実かどうかを確かめるすべはない。しかし、少なくともまりさにとってそれはとても楽しいものになるであろうことは間違いなかった。まりさといえども、いやむしろまりさだからこそ、子供らしい無邪気な発想には敏感であった。
まりさは、子ゆっくりたちを集めてこう宣言した。
「おちびたち、これからかげふみをするのぜ!」
初めて聞く言葉に子ゆだとは困惑する。
「かげふみ?そりぇってにゃんにゃのじぇ?」
「はじめてきくんだねー わからにゃいよー」
「しょんなこちょいいきゃら、はやくれいみゅにあみゃあみゃもってきょい!ぐじゅ!」
予想していた反応に思わずまりさは笑ってしまう。ふっふっふ、やはり知らないか。これは確かに新感覚のゲームなのぜ。
まりさはこの瞬間、自分が天才であることを悟った。まりさを天才にした最大の要因は何よりもその知識欲にあった。他の動物なら一生かかってようやく知ることのできるようなことを、まりさはわずか数秒で理解できてしまう。実際はただのパクリなのだが。
「ゆぷぷ。まりさがせかいがどうようするきだいまれなるあそびをかんがえたのぜ!それがかげふみなのぜ」
「はやくやりかたをおしえるんだねー わきゃれよー」
「ゆっくりするのぜ、ちぇんのおちび。いまからるーるさんをおしえるのぜ。いっかいしかいわないから、ゆっくりりかいするのぜ?」
「むじゅかししょうなのじぇ…」
「ちょっちょとあみゃあみゃもってきょい!ちゅかえないにぇ!」
「かげふみはかげをふむあそびなのぜ!かげをふむとかちなのぜ!!」
「「ゆ?」」「あみゃあみゃ!このにょろま!」
子ゆたちは、影踏みのルールを理解することができず、不満の声を上げるばかりであった。ルールを理解していないどころか、そもそもルールという概念すらわかっていないだろう。だが、そんなことまりさには全く関係ない。自分がルールを分かっていればそれで良いのだ。
まりさは自分の説明不足など一切気にせず、勝手に影踏みを始めた。
「それじゃあかげふみをはじめるよ!ゆっくりりかいしてね!」
「わきゃらないよおおお!!!」
すかさず、子ちぇんの背後に回り込む大人気のないまりさ。子ゆたちの叫び声を聞いて、さらに調子に乗る。まりさにとっては影踏みも狩りも同じようなものなので、獲物を前に舌なめずりする狩人のような気分になっていた。
まずは手始めに一番近くにいるちぇんに狙いを定めて飛びかかる。
不意打ちを受けた子ちぇんは、驚きで目をぱちくりとさせた後、怒りで顔を真っ赤にして叫んだ。
しかし、すぐにまりさと目が合うと、怯えた表情になり、ゆっくりと後退し始めた。ほかの子ゆたちがその様子を見て笑う。まりさはその様子にも満足すると、今度は逃げようとする子ちぇんを追いかけ始めた。
まりさは、影を踏みながら、素早く逃げる子ちぇんを追い回した。やがて、体力が尽きた子ちぇんがへたり込む。
「これでまりさのかんしょうっ!なのぜ!かんねんするのぜ」
まりさは影を踏もうと思いっきり飛び跳ねたが、うっかり子ちぇんを踏みつぶしてしまう。
「わぎゃら…ないよぉ…もっちょゆっ…」
永遠にゆっくりした子ちぇんを尻目に、まりさは次の標的を定める。
「まりちゃは、すてるすもーどでいないいないするよ!」
もるんもるんとその場を立ち去ろうとするまりちゃ。まりちゃの中では新幹線も楽々に追い越すような速度で移動しているようだが、さほど移動できていないのが実態だ。
「ぐじゅなまりさは、くしょにんげんのあしよりおしょいんだよ? はやくれいみゅにあみゃあみゃもっちぇきちぇね?」
れいみゅがそう言って嘲笑したが、まりさはこのワードを聞き逃さなかった。
「ゆっくりできないことばをはいたくそちびは、まりさがせいっさい!するのぜ!」
「ゆべぇっ!?」
まりさは、思い切りジャンプしてれいみゅの背中(?)に飛び乗った。そしてそのまま全力疾走を始める。
「まりさちゃんしゅっぱつしんこーなのぜえ!! ゆっきぃーーーーー!!!」
れいみゅを尻に敷きながら全力疾走でまりちゃを追いかけるまりさ。一瞬でつぶれたれいみゅは地面にすり潰されて平べったくなっている。
「こわいのじぇええ!!」
必死ににげるまりちゃ。れいみゅだったナニカを敷いて更にノロくなったまりさと、どっこいどっこいのスピードで真昼のデットヒートが始まった。
「にげるなああ!くそちび!とっととまりさにふみつぶされるのぜ!」
もはや目的が崩壊したまりさ
「いやなのじぇ!まりちゃはこんなところでしぬわけにはいかないのじぇ!」
「まりさをばかにしたおまえらがわるいんだから、まりさがこうなってもしかたがないんだぜええ!!!」
「ゆぅーっ!……」
「ゆ?」
ふと下を見て、ぺしゃんこになったれいみゅを見て、まりさは我に返った。
「これ、ほんとにれいむにのおちびなのぜ?」
ぼけっとしているまりさの背後から声が聞こえる。
「まりちゃのしょうりなのじぇ!これでまりしゃはせかいをすべるはしゃになったのじぇ!」
「ゆ、ゆえ!?」
まりさが振り向くと、そこにはまりさの影を踏むまりちゃの姿が
「まりさ…まけたのぜ?こんなちびにまけたのぜ…?」
愕然とするまりさ。そんなまりさの周りに群れのゆっくりたちが集まってきた。
「どぼじてれいむのおちびちゃんがしんでるのおおお!」
「ちぇんのおちびがしんでるんだねー わからないよー」
「あのまりさがころしたんだぜ。おさをよぶのぜ」
「まりさはなにもしらないのぜ!かってにおちびたちがしんだのぜ!ゆっくりにげるよ!」
逃げようとするまりさであるが、すぐ用心棒のみょんに捕まる。
「まりさはただかげふみしてただけなのぜ!みょんもかげふみするのぜ!たのしいのぜええええ!」
「わけがわからないこというんじゃないみょん。かんねんするみょん。」
その後、長のもとに連れていかれ、ゆっくりごろしの罪で潰されたまりさであるが、あまりにもテンプレ展開なので割愛。
生き残ったまりちゃが調子にのって人間にケンカを売り、群れが一斉駆除されるのは別のお話である。
最終更新:2022年05月01日 16:00