※それなりのグロ要素が含まれますので、気を付けて下さい。
※医学的な部分はかなり曲解しています、信じない方が良いです。







「ゆ”びゅぁぁああああ”あ”ッッ!!」

研究室と思われる無機質な一室で、白衣を纏い両手に白いゴム手袋を嵌めた男が一人。
机に向かいバレーボール程であろうか、
その大人の手の平でも少し余る程度の、ゆっくりれいむという人語を解する饅頭を手にしていた。

そして、彼が右手に掴む細長い針が、れいむの左眼球に真っ直ぐに刺さると、ほぼ同時に劈くばかりの金切り声があがる。

ガクガクと口から泡を吹いて白眼を剥く。
だが、それがいけなかった。何も異物など無い右眼球は自然にくるりと回転し白眼を向くのだが、針の刺さった左眼球はそうはいかない。
刺さった針が上方へと持ち上がり、瞼に引っ掛かるのだ。

「ゅぎゃ!!ゅぎゃ!!........ぃ..」

不幸な事に痛みで一度は覚醒したのだろうか、数回。手の中でビクンビクンと跳ね上がったかと思った後、すぐさま、ブルブルと寒さに震えるかの様に震え出す。
左眼球に刺さった針はというと、眼球の回転する力の限界と瞼に押さえられる力の限界が釣り合っている地点で均衡していた。
瞼に何ミリか、針の中ほどがめり込んでいるといった感じである。

男はそのまま無理やり、グイと黒目が正面へと見える位置へと、下に引っ張って戻す。
若干縦に広がった刺し跡からダラリと、ゲル状の粘り気の有るものが少し流れているのが判る。

餡子――では無い、人間で言えば硝子体か?

「どうだい、見えるかい?」

左手に持ったゆっくりにそう問いただす。
そのような状態で有れば、痛みの余り両瞼が閉じていて当然なのだが、それは不可能で有った。
予め溶剤で瞼の部分を少し溶かし、十分に乾かして硬質化させておいたのだ。
もちろん瞼など閉じるわけが無く、瞳の水分は乾いていくだけである。
ただ、その心配をするのは、このままであれば片方の眼だけで良さそうだが。

「……見えるかい?」

意識が虚ろなのかと感じ、刺激を与えるため針を廻し込む様にしながら奥へと押し込む。
ズブズブと押し込み針の先端が眼底に衝突すると「ぅびゃっ!!」という音と共に、ゆっくりの口から大量の餡子と唾液の混じった泡が男の顔に飛ぶ。
それを、男は何ら拭おうともせず、じっとゆっくりを観察している。

「ぇ…ない……。れぃ…む……め…め……」

「ミエナイ、レイムノオメメ」――かな。

相変わらず小刻みに震えて意識が虚ろではあったが、取り敢えずはそう答えた。
左眼球には真っ直ぐに針が伸び、粘り気の有る液体と涙。右眼球は瞼が閉じず、涙を流しながら血走った白目が覗くという陰惨な状態である。

男は首を傾げた。
この程度の損傷率で有れば、完璧に視えないという事も無いと思うが――これは、いつも通りに視えないという意図だろうか?

そのまま何も言わず針を一気に引き抜く。
少しどろりとした液体が針に付着し、糸を引きその穴から飛び出る。
完全に引き抜くと、ビクリとまた激しくゆっくりは跳ね上がり、
しかし男は、それに構わず素早く手首のスナップを効かして針に着いた粘液を床に振るい落としたかと思うと、また再びゆっくりの前へと戻す。

「ゅ、やみぇ……ゅっきゅ…り、し…たしゅ……」

また再びそれが眼球へと突き刺さるという恐怖だろうか。
必死の想いで、ポツリポツリと哀願の声を吐き出す。ここに連れて来られてから、未だにその願いが叶った事も無いのに、だ。

素早く針が左右に振れられる。
右は相変わらずの白に、紅い線が無数に延びている状態に涙と思われる液体。
左はというと救いを求める黒目が、今まさに隠れるか隠れないかの位置まで押し上がり、涙とゲル状の液体が相容れないもの同士の境界を作り出しているのが判る。

それは人間が知覚出来るか出来ないかの僅かな時間であり、すぐさま右も左も血走った白い眼球を覗かせる事となった。

「針穴程度では、失明はしない……と」

その数瞬の間に、男は左右に振った針をゆっくりの右目が次の恐怖を予期しながら、眼を離さずに捕らえているのを見逃さなかった。

「ゆ……もぅ、ゃめて、くだ…ひゃい……」
「この辺は、人間とさして変わらないか」

ゆっくりが何を言うのも気にせずに、そんな独り言を言い回しながら、右手に持った針を近くの机に置く。
そのまま一呼吸も置かずに、人差し指をゆっくりの先程回転したばかりの眼に横から滑り込ます。
第二間接が入り込んだ辺り、其処まで差し込むと間髪居れずに一気に手前へ引き戻す。

再び耳を劈くばかりの音が聞こえた。

「ゆ”ぎゃあぁぁぁあああ!!お”め”めぎゃッ!!おびぇめぎぃぁ!!」

取り出したその眼球を、ゴム手袋一枚で隔てた人差し指と親指でコロコロと転がしてみる。

先程空けた穴から多少のゲル状の液体は流れ出るものの、弾力は中々で人間のそれと対して変わらない。
そして、人間でいう所の脳に繋がる視神経の部分。其処には見た目は若干違えど紐の様なモノが付いていて、それには餡子が付着している。

「構造的にはこの紐が人間の脳に当たる餡子に直結。別種の死体解剖で見た事と、さして変わらないか……」

まじまじとそれを観察しながら、手に持ったゆっくりを丁寧に机の上の容器の中に入れる。

その後、すぐさま眼球をメスでぐるりと一周切り裂く。
それは真っ二つに別れ、内部から――先程まで見掛けていたゲル状の何かが、一気に外へと広がる。
その切り裂いた眼球の片方を、鼻の位置まで持って行き、匂いを嗅ぐ。何処と無く甘ったるしい。

透明な蜜のようなものか?

うーん、何処と無く水あめのようにも見えるが……。

取り敢えずこの眼球の構造は後で調べるため、シャーレに丁寧に広げて置き、蓋を閉める。

しかし興味深い――と、男は感じた。

このゆっくりという生物、確かに眼球に「毛細血管らしき物」が存在していた。
だが、現実はどうか。
血など一滴も流れないではないか。

もちろん、人間も「眼球だけ」を切開した際の出血はそれ程でも無い。
だが出血はする。毛細血管が通っている以上は、切り裂けば確実に血は流れる。
このゆっくりという生物のように全く出血無しという事は有り得ない。
なのに、これは血が流れなかった。

そもそもこのゆっくりという生物、血など何処を傷付けても出ない代物なのだ。
代わりに餡子が流れるかと予想していたのだが、それは外れた。

まぁ、詳細は後で調べるとして。

これは生態として確立する途中なのだろうか?
進化した生物が、その進化する前の名残を持っている事例は多い。
その逆として、目指すべき対象の構造が予め定められているが、身体の機能事態がそれに追い付いていない、といった事も有りえるのではないか?
それに、僕は詳しく無いが彼女達は幻想郷の要になる人や妖怪の姿を真似しているらしく、身体付きなる物や、突然変異や亜種も存在するらしい。
だとしたら、充血した白目を剥き出して顔を怖ばらせるのは、人間の必死な表情を真似るといった擬態の一種なのかも――。

部屋を彷徨いながら、つらづらと思案していた男はハッとした。
直ぐに机の上の透明な水槽上の容器に入れたゆっくりを診る。

それはまぁ、もちろん其処には居るのだが痙攣も、もう弱い。
余程力んだのか。右の瞳は元より、眼球が無くなり眼窩が覗く左の瞳も大きく見開いたまま、
時折「ゆっ!!ゆっ!!」と声を上げ、穴という穴から今もなお大量の餡子を噴出していた。
全身餡子だらけで、その上涙や涎といった体液と混ざり合い、少しというか大分液状化している。

これはまずい。

すぐさま近くの薬品棚に向かい、必要な器具・薬品・材料を持ってくると、手早く準備を整える。
手の平で軽く触れ、ゆっくりの弾力を調べる――ああ、この張りなら約半分と言ったところか。

ここで、餡子の入った容器を取り出す。
それにチューブが装着された注射器を突っ込むと、一気に吸い上げる。
そしてれいむを仰向けに寝かせ、左眼窩・抉り取った左眼の奥の部分に小さな穴が空いているので、チューブをそこに突き刺し餡子を注ぎ込む。

「ゆぎゅうッッッ!!!」

ブバッっと口から大きく餡子が吐かれる。

それでも、注入している70%くらいは入っている――外傷は無い分、この調子でいけば。

数十秒間そんな事を繰り返したか、ゆっくりに張りが戻ったのを確認し、チューブを取り除くと、ガーゼに薬品のような物と白い粉を塗し眼窩の奥の穴を塞ぐ。
そして一気に口の中に綿のような詰め物をして、餡子の流出を防止。
体に付いていた餡子や体液を綺麗に拭き取った後は、いつものウッドチップを敷き詰めたそのゆっくりにしては少し大きめの箱庭へと移す。

衰弱は相当なモノだが、取り合えずこれで一命は取り留めただろう――。

「……いやぁ、よくやるもんだね。」

後ろの入り口の辺りから声が聞こえた、この声はこの施設に於ける僕の先輩に当たる人だ。












れいむは夢を見ていた。
それはほんの数週間前まで、しあわせに森の中で過ごしていた時の夢である。

「むきゅむきゅ……むきゅーん。れいむ、まりさぁ、まってよぅ」
「ゆっ、ごめんねぱちぇ。ゆっくりあるこうね♪」
「そうだな、ぱちぇのぺーすにあわしてゆっくりいこうか」

いつもの様に、仲良しのまりさとぱちぇとの三人で、家からそんなに離れていない森の中で遊んでいた。

キレイなちょうちょさんをおいかけ回し、あとちょっとの所で逃げられたり。
それをうまく捕まえる事ができた時もあったけど、
ぱちぇが「むきゅー、ちょうちょさん、かわいそう」って言って、「だったら、にがしてあげるね!!」って事で逃がしてあげたり。

それで、ぱちぇやまりさに「れいむはやさしいね!!」ってほめられたんだよ。

その後、みんなでおいしいお花さんがたくさん有る場所を見つけて

「しあわせー!!」

そう言っちゃうくらいに、ひさびさにおなかいっぱいにお花を食べたね。

「これは、ちょうちょさんのおんがえしかな?」って思ったよ。

たまに、みんなできょうりょくして少したかい木の上にのぼろうとしたり。
ぱちぇがとちゅうで落ちた時、下でようすを見ていたまりさがしたじきになってうけとめたり。

あの時は、まりさが死んじゃうってれいむもぱちぇも、大泣きしていたけど。
すぐにまりさは起き上がって、みんなでよろこび合ったね。

ひみつのゆっくりぷれいすを作るために、おかあさんたちにないしょで大きな穴をほったり。
そこに色々な物をはこびこんで、ないそうをととのえたり。

しょうらいはそこで、なかよく三人の群れを作ろうとか話し合ったりしたね。

れいむの家でお泊りしたりした時は、夜までれいむのかわいい妹たちといっしょに遊んでくれたりしたね。

その晩、ぱちぇには少し悪い気もしたけど、まりさと二人で夜空のお星さんを見にこっそり出掛けたよね。

「れいむ……もし、わたしたちがおおきくなったら、いっしょにかぞくをつくらないか?」
「ゆっ、でも、ぱちぇのこともあるし。ぱちぇもまりさのこと……」
「だいじょうぶ、ぱちぇにはまりさのほうからゆっくりつたえておくから」

そうやって、よりそってくれたまりさの体はとても暖かかった。

「れいむ、なにがあってもわたしが……おまえをまもるぜ」
「うん……うん、ぜったい…ふたりでゆっくりしあわせになろうね」

その時、れいむが急に泣き出しちゃって、まりさにはめいわくをかけちゃったね。

毎日がとてもゆっくり出来て、とてもしあわせな日々だった――けど。
でも、それはとつぜんのできごとで終わりをむかえてしまった。






晴れた日、三匹がいつものゆっくりプレイスの近くで遊んでいた時の事である。
れいむとまりさはピョンピョンと跳ね回り追いかけっこをし、ぱちぇりーはというと、先日道端に捨てられていた人間の本を、理解しているのかは不明だが眺めていた。

その時ガサガサと、近くの茂みが何やら動く気配があった。

それに最初に気が付いたのはれいむである。

仲間のゆっくりと思ったのだろうか、姿が見えない内に「ゆっくりしていってね!!」と大声で挨拶し、
それに反応してまりさもぱちゅりーも「ゆっくりしていってね!!」と声を出す。

だが、そこから顔を覗かせたのは意外なモノだった。

多くのゆっくりを何処かへと連れ去る存在。そして普段から自分達の親が、見掛けたら逃げるようにと何度も教え込まれた生物。
初めて見た人間であった。
が、ゆっくりにしては様々に教育されていた三匹は直ぐにそれが人間だと判った。

「ふーん、こんな所にもゆっくりが生息していたんだな。研究班のために一匹連れて帰るか……って」

その男は意外な事に少し驚いた。
茂みから出てきてそんな事を呟いている隙に、ゆっくり三匹は一目散に近くのゆっくりプレイスとして作っておいた穴の中に逃げ込んだからだ。

ゆっくりとしては何と判断力が良く、何と素早い事か。

その男は感心しながら、ゆっくり達が逃げ込んだ穴の前にやってきて「ゆっくりしていってね!!」と叫んだ。
感心したのも事実だが、穴の中から愚かにも返事の声が聞こえる。

どうやら何処かに通じている穴という訳では無い。事は判った。

それを確認すると男は穴の前で身を屈めて大きさを確認する。
入り口の大きさはかなり小さく、成人男性の頭がギリギリ通る程度であった。
そのため、身体を乗り入れて捕獲する事は諦めた。

「まりさぁ!!にんげんのこわいおじさんたちだよ!!」
「むきゅー、ゆっくりできないようぅ」
「だ、だいじょうぶだぜ。ふたりはぜったいにまりさがまもってやるぜ」

中から声が聞こえる、その辺りに目星を付けながら腕を伸ばす。
指先に何かが当たる感触がして、それを人差し指と親指で掴む。

「ゆきゅ!?いたいぃ!!いたいよぉぉ!!」

この声はゆっくりぱちゅりーだろう。
感触的に頬の辺りを掴んでいるのか。

伸ばし入れる事が出来る腕はここまでが限界、このまま引きずり出すしかない。

男がそう思い、そのまま一気に引きずり出そうとした瞬間、何やら先程より大きな抵抗を感じる。

「じゃめ、ばじゅりーふゎ、じゅれていがざないよ!!(だめ、ぱちゅりーはつれていかさないよ)」
「おにゅぅしゃんひゃ、ゆっぎゅりどっきゃいっひぇね!!(おにいさんは、ゆっくりどこかにいってね)」
「む”きゅうぅぅ!!いやだよぉ!!ゆっくりはなしてぇ!!」
「ひゃぢゅも、ひゃいへんだきぇどがんばってね!!(ぱちぇも、たいへんだけどがんばってね)」

他の二匹がぱちゅりーの何処かに噛み付いて引っ張っているのだろうか。
くぐもった声と、こちらと向こうとで引っ張られるぱちゅりーの悲鳴が聞こえる。

それでもゆっくり程度ならどうにかなるだろうと、男は腕に力を込めて引っ張ってみる。

「む”ぎゃうぅぅん!!」

急に抵抗が軽くなった。
そのまま腕を外に出してみると、指先に掴まれていたのは少しの饅頭の皮とそれに付着した餡子である。

恐らくは、引っ張り合いの力にぱちゅりーの皮が耐え切れなかったのだろう。

ううむ、どうしたモノか。
そこいらで棒か何かを持ってくるか――。






「むきゅっ…むきゅっ……」
「ゆっ、ぱちぇ。だいじょうぶだからね、このていどのきずならすぐになおるからね」

先程の人間が引っ張ったせいで皮が一部千切れ、そこから粘性の弱い餡がどろどろと流れている。
れいむはその傷口を舐めながらぱちゅりーを励ますが、容態は良くなく、息も絶え絶えに短く声を上げるばかりだ。

「どうしよう、まりさぁ。このままじゃあ、ぱちぇがゆっくりしんじゃうよぉ!!」
「いえまでかえれば、ほうたいっていうあんこをとめられるどうぐがあるんだけど……」

穴の中では、まりさとれいむは現在の状況をどう打開するか思案していた。
れいむは涙声では有ったが、今この状況をどうにかしようという意志はまだ萎えてはいなかった。

「さっきのあしおと。あのおにいさん、あきらめてどっかにいっちゃったのかも。いまのうちに、ゆっくりはやくにげだせば……」
「ゆっ、だめだよれいむ。きっと、あきらめたふりをして、まりさたちがゆっくりでてくるのをまってるんだよ」
「ゆー、でも…でも……」

ちらりと、ぱちゅりーの方を見る。
傷口は酷い訳では無いが、ゆっくりの中でも随一に体力が無いパチュリー種。
憔悴は激しく、苦しそうな呼吸をしながら横たわっている様を見ると、とてもこのままにはしておけない。

そう思ったれいむは、決意を固めた眼でまりさに視線を送る。

「れいむが……れいむがおとりになるから、まりさとぱちぇはそのすきににげだしてね」

まりさは驚きに眼を見開いた。

今、れいむは何と言ったのか!?

――囮!?

そんな危険な行為、人間相手にやればまず間違い無く捕まってしまう。

他のゆっくり仲間が言ったとしても認められない行為だ。
ましてやれいむはまりさにとって最愛のゆっくりだ、許せる筈が無い。

「なにいってるんだよ、れいむ!!そんなことぜったいさせないぜ!!」
「ゆぅー、でもこのままじゃあ、ゆっくりみんなつかまっちゃうよ」
「だったら、まりさがおとりになるぜ!!」
「だめだよ、ぱちぇはけがをしているから。ちからもちのまりさが、いえまではこんでくれないと」

まりさの必死の説得でも、れいむの決意は頑として曲がらないようだ。

二匹は、ぱちゅりーの様子を見る。
れいむの言う通り、とても一匹では歩ける様子でも無く、このまま人間が戻ってきて先程の様な事が起これば死んでしまうかもしれない。

認める訳にはいかない。
だが、れいむの判断は正しい。

「むきゅぅぅ、だめよ……れいむ……」

ぱちぇりーが苦しそうに声を出し、れいむを止める。
その顔はもう、かなり青白く、治療に一刻を争うものであるのは明白だった。

時間が無い――早く決断をしなければならない。
まりさはわなわなと震えて眼から涙を零しながらも、それでもなみだを飲んで言葉を紡いだ。

「……ぜったい、ぜったいにげきるんだぜ、れいむ」
「うん、だいじょうぶだよ。れいむがゆっくりなかまのなかで、いちばんかけっこがとくいなのはまりさもしっているでしょ?」
「ゆぅ~、そうだったな。れいむならにんげんあいてでもだいじょうぶだな!!」
「そうだよ!!それに……それに、もしつかまっても、まりさならきっとたすけにきてくれるってしんじてるから!!」

自分に言い聞かせるように、そう叫んだれいむの眼からも涙が零れる。
そのまま、まりさの隣までゆっくりとにじり寄ると頬を摺り寄せた。

暖かい――やっぱりまりさはとても暖かいゆっくりだ。

二匹の間で、短いながらもとてもゆっくりした時間が流れた。
以前、将来を誓い合った夜の事を思い出す。
あの時は、いつまでもゆっくり出来ると思っていたのに、こんなにも突然にそれは壊れてしまうものかと、幸せを打ち壊すその何かを呪いたくなる。
このまま時が止まってしまえば、どれ程に幸せな事か――。

しかし、現実はそうもいかない。
いつまでもこうしている訳にはいかないのだ。

「ゆっ、それじゃあいくね!!」

思い立ったようにまりさから離れたれいむは、勢い良く跳ね、その穴の中から飛び出して行った。

「れ、れいむぅぅぅッ!!」

後ろから聞こえるまりさの呼び掛けに対して、れいむは歯を喰いしばって耐えた。
もし振り返ってしまえば、きっともう、まりさから離れる事が出来ないと判っていたからだ。


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最終更新:2022年05月03日 09:40