※これは拙作『
詰め替えゆっくり』の設定を使っています。独立していますが、先にそちらを見ていただいた方が良いかも知れません。
※東方キャラ登場注意
人間の里唯一の喫茶店では、今日も忙しく人が動き回っている。
その中に、ひときわ目立つ客がいた。
男女の二人連れ。
それ自体は珍しいものではない。この店は人間どころか妖怪も来るし、カップルで来る者もいれば、夫婦で来る者もいる。
だが、この二人連れ……特に女性は、ただそこにいるだけで店内の視線を集めていた。
美しい銀髪と同色の輝く瞳、絶世の美女という言葉だけでは表せないほどの、その場が輝いている様に錯覚するほどの美しさ。
更に赤と青の交差した服とお揃いの十字のマークが入った帽子を被るという奇妙な服装となれば、目立たない方がおかしい。
店にいる男性達は、皆がそんな女性を横目で、あるいはじっくりと眺めてしまい、相手のいる者は睨み付けられたり腕や手をつねられたりしている。
また、男性も幾らかの男性から視線を受けている……いや、睨まれている。相手のいない男性が嫉妬しているという所だろうか。
だが、様々な意味で店の注目を一身に受けている当の二人は、そんな事を気にも留めず、のんびりと注文の品を待っていた。
「……で、話はなんだ?」
注文の品が来たと同時に、男は独り言の様に話を切り出した。
直前まで別の話をしていた女は、当然だが突然の男の言葉に目を白黒させる。
美しい灰色の瞳をしばたたかせるその様子は、女を知る者ならば目を疑う光景だろう。
だが、男はそんな珍しい物を見たという事実を気にもせず、更に言葉を重ねた。
「何か用があって呼び出したんだろう。何の用なんだ?」
若干の苛立ちを含んだその声色に、女はふっと微笑んでコーヒーを一口飲んだ。
『ゆっくりのんでいってね!』
「変更?」
「そう」
顔をしかめて聞き返す男に、女……八意永琳は、まだ熱いコーヒーをちびちびと飲みながら一言で答えた。
「どういう事だ」
「言葉通り。別の実験をして欲しいのよ」
お願いね、と付け足して、永琳は満面に笑みを浮かべる。
それを見た周りの者は、客も店員も男女も関係なく、自分が向けられている訳でもないのに顔を赤くした。
ただ一人反応しなかった男は、楽しそうに自分の顔を眺めている永琳に渋面を返しながらも、二つ返事で答える。
その後も様々に話しかけてくる永琳を適当にあしらいつつ、男はこれまでの事を思い出していた。
幻想郷一のひ弱な生物と噂される、ゆっくりの中身を別のものに入れ替える実験。
男が請け負った依頼はそれである。
永琳の依頼を受けて以来、男は毎日実験を繰り返した。
れいむに酒を入れた。まりさにペースト状の唐辛子を入れた。ちぇんに廃油を入れた。みょんには生ごみを入れた。
あらゆるゆっくりの中身を、時には食物、時には金属と入れ替え続けた。
半分以上は即死し、更に半分は精神崩壊し、残りはその後何らかの障害を負った。
実験材料となった全てのゆっくりが、今もなおゆっくりできない状況にある。
男は、それがたまらなく楽しかったし、このまま一生続けても良いと思うほどに生きがいすら感じていた。
それが、急に呼び出されたと思ったら別の実験をしろとのお達しである。腹が立つのも当たり前だ。
――せめてここの払いは割り勘にしてやろう。
そう考えて、男はニヤリと笑った。
「……話、聞いてる?」
ふと気づくと、目の前には白い目で睨む雇用主がいた。
ぼうっとしていたと正直に答えて、男は正面から永琳を見つめる。
「で、具体的な内容は?」
男が別の実験をする様に永琳から依頼を受けて数日後。
彼の目の前には、ゆっくりの中で最もポピュラーなれいむ種・まりさ種が合わせて5匹いた。
どうやら、家族でゆっくりしていた所を捕らえられたらしく、皆上向きに鎖に縛られて居心地悪そうに震えている。
男は、そんな不運なゆっくり家族を、感情のない目でただ見つめていた。
「ゆ……ゆっくりしていってね!」
無言のまま自分達の方を眺めている男にしびれを切らしたのか、中くらいのゆっくりまりさが声をかけた。
だが、男は何か言うどころか、その場に立ち尽くしたまま身動きもしない。
「おにいさん! これじゃゆっくりできないよ! ゆっくりおうちかえしてね!」
子まりさは、沈黙をただ聞こえてないだけだと思っているらしく、縛られている鎖をじゃらじゃらと鳴らして訴える。
同時に、他の家族も口々に帰りたいと騒ぎ始めた。
だが、男はそれら全てを聞こえてないかの様に無視して、別の部屋へと移動する。
「ゆっ、どこいくの……まって! まっでよぉぉぉ! おうぢがえじでぇぇぇ!!!」
ゆっくり家族の嘆きを背に、男は実験の準備を始める。
「おにいさん! まりさたちすごくゆっくりしてるんだよ! だからおうちに……」
帰らせて、と言いかけて、子まりさは言葉を失った。家族も騒いでいたが、子まりさと同じ様に呆然としている。
当然の事だ。戻ってきた男は、明らかに異常な物を持っているのだから。
何かの容器に入った、灰褐色の液体。
ゴミを数日放置したらこうなるだろうと思われる異様な臭いを、辺りに撒き散らしている。
あまりの悪臭に小さいゆっくり達はけほけほと咳き込み、親ゆっくりと思われる大きめの二匹すら顔色を青くした。
小さいゆっくりの中には、あまりの事に耐えられず、アンコを吐こうとしているものもいるが、上向きのため吐き出せないでいる。
「おにいさん……なに、それ……」
饅頭としては食べたくないと思わせる顔色のまま、震える声で問いかける親れいむ。
男はそれを無視し、無言のまま液体を親れいむの口に流し込んだ。
「やべっでっえぇぇぇぎゃっぴぃぃぃ!!! ……ぴゃっ、びきぃ、ぴぇぇぇぇ……」
液体を口に流し込まれる度、親れいむは珍妙な声をあげた。
痛い。苦い。すっぱい。気持ち悪い。
すぐにこんな物は吐き出したかったが、上向きに縛り付けられているため吐き出したくても吐き出せない。
やめて欲しい。いっそ殺して欲しい。ゆっくりしたい。楽になりたい。おうちにかえりたい。
意識にノイズがかかった様な世界の中、親れいむはただ流し込まれる何かに耐え続けた。
「ごぶぼぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!!! げぶっ、ごぶっ……」
親れいむの口に液体を流し込んでいた男が、不意に手を止めた。
容器の液体は、もう半分程度しか残っていない。逆に言うと、親れいむはゆっくりと時間をかけて容器半分に値する毒液を流し込まれた事になる。
その間、子供達どころか、つがいと思われる大きめのゆっくりまりささえ、あまりの恐怖に涙を流して眺めているだけだった。
もし、親れいむが何か言える状態なら、液体を流し込まれている間の苦しみを家族に訴えていただろう。
だが、今は寒天の目がぐるんと裏返っている。自己防衛なのか、親れいむはとっくの昔に意識を失っていたのだ。
「げぼっ……げぼっ、がぶばぁぁぁ……げぼっ……」
既に気絶しているはずの親れいむの口の中から、壊れた水道管の様にごぼごぼとにごった音が聞こえてきた。
体が、吐き出さなくてはならないと判断しているのだろう。
音と同時に、灰褐色のしぶきが辺りに飛び散っていく。黒いものが混じっているのは、アンコも一緒に吐き出しているからだろうか。
いずれにせよ、この親れいむはもう長くないだろう。
男がそう考えながら親れいむを見ると、顔全体ににきびの様な何かが浮き出ていた。
「れいむ……れいむぅぅぅ!!! じなないでぇぇぇ!!! じんだらゆっぐりでぎないよぉぉぉ!!!」
やっと気を取り直したのか、つがいのまりさはがしゃがしゃと鎖を鳴らし始めた。
寒天の目には涙があふれ、鎖に接している皮は動く度にぼろぼろになっていく。
それでも、まりさはどうにかしてここから抜け出そうと、必死にもがき続けた。それもこれも、全てはれいむのためである。
あんな毒液を飲まされたのだ。このままでは、もう二度とれいむと一緒にゆっくりする事はできないだろう。
だからこそ、少しでもれいむのそばに行ってやりたかった。ほほをすり寄せて、一緒にゆっくりしたかった。
「おにーざん、ゆっぐりだずげでぇぇぇ! れいむといっじょにゆっぐりざぜでぇぇぇ!!!」
もはやれいむと一緒にゆっくりする事しか頭にない親まりさは、こんな状況に追い込んだ男に声をかけた。
「おでがいでずぅぅぅ! なんでもやるがら、まりざをはなじでぇぇぇ!!!」
がしゃがしゃと鎖を鳴らしながら、親まりさは男に向かって悲痛な声をあげた。
自分を解放できるのは男だけだと判断して声をかけたのは、間違ってはいない。男なら鎖を外す事は簡単に出来るからだ。
だが、まだ容器に半分の毒液がある事を、まりさは忘れていた。
「なんでもすると言ったな」
呟いた男の手にある毒液が、微かに波立った。
「ゆっぐりやべでね! ゆっぐりやべでね! ……いやぁぁぁぁぁ!!!」
縛られている鎖をがしゃがしゃと鳴らすまりさ。その目には、涙があふれている。
あれから、親まりさに残り半分、子供達には同じ液体を一割ずつ流し込み、残りは中くらいの子まりさだけになっていた。
「やべでぇぇぇ!!! ゆっぐりでぎないよぉぉぉ!!!」
子まりさは悲鳴を上げつつ、少しでも液体を飲まない様に暴れ続ける。
液体が顔にかかっておぞましい感触が伝わってくるが、それでも飲むよりはましだ。子まりさは、そう考えていた。
先ほど毒液を飲まされた親れいむも親まりさも子ゆっくり達も、まだ意識を回復せず、皆白目をむいて小刻みに震えている。
顔全体ににきびの様なものが浮き出ている有様は、最初からゆっくりはこういう物体だったと錯覚してしまうほどに不気味なものだった。
そんな家族の末路をゆっくりと見ていた子まりさは、これは絶対に飲んではいけないものだと分かっていた。
だから、流し込まれないため、生きるために、今は必死に避け続けているのである。
「ゆっぐりざぜでぇぇぇ! おでがいだがらやべでよぉぉぉ!!!」
泣き叫びつつも、子まりさの目は冷静に容器を見つめていた。
六割程度あった毒液が、もう三割程度まで減っている。
このまま避け続けていれば毒はなくなる。後で体を洗わなければならないだろうが、飲んで家族の様になるよりはずっとマシだ。
更にこぼれていく毒液を見て、内心ほくそ笑む子まりさ。
だが、そこで安心してしまったのか、僅かに反応が遅れた。
その隙を見逃す男ではない。
素早く子まりさの左右に余った鎖を詰め込み、上向きのまま全く動けなくさせてしまった。
「ゆっ! ……ゆっぐりじでいっでねぇぇぇ!!!」
混乱しているのか、なぜかいつもの鳴き声を上げる子まりさの口に、毒液が流し込まれた。
「やべべべべぇぇぇ!!! げげぼぼぼぼぉぉぉ!!!」
灰褐色のよだれをたらしながら、おぞましい感触に身を震わせる子まりさ。
なぜ自分達がこんな目に遭うのか。そんな無意味な事を考えながら、子まりさは意識を失った。
●ケース5 生ゴミ
親ゆっくりれいむ 1
親ゆっくりまりさ 1
子ゆっくりまりさ 1
小ゆっくりれいむ 1
小ゆっくりまりさ 1
合計 5
数日放置して醗酵させた生ゴミから漏れ出した汁を摂取させる。
摂取直後、全体にアレルギー反応と思われる湿疹が浮き出る。
親ゆっくり・子ゆっくりは摂取後3日で死亡。小ゆっくりは4時間後に死亡。
なお――
報告書を書いている最中、ふと何かを思い出した様に顔を上げる男。
その表情には、若干の不快感がにじみ出ている。
彼は、数日前の出来事を思い出していたのだ。
「で、具体的な内容は?」
「簡単な事よ。生ごみでも油でも硫酸でも、これまでアンコを取り去って詰め替えていた物を、今度は食べさせるの」
さらりと恐ろしい事を言う永琳に、男は首を傾げた。
ゆっくりが哀れに思った訳ではない。単純に理解できなかっただけである。
「食べさせる……とは?」
「ゆっくりのエサを、詰め替えていた物に変えて欲しいって事よ。基本的にはそれだけ」
分かった、と頷いた男を見て、永琳は物分りが良くて助かると微笑んだ。
「液体・固体の区別なく食わせるが、それは良いのか?」
「良いわよ。その辺りは任せるわ」
笑顔を崩さずに軽く答える永琳に、ああ、などと気の抜けた返事をしつつ、男はこれからの事について思いをめぐらせていた。
生きがいとも思っていた詰め替えはもう出来ないが、今度は食べさせる事が出来る。
要は、口から入れるか、体に直接入れるかの違いなのだ。
やる事はほとんど変わらない。ならば、楽しんだ方が良い。
問題は、どう楽しむかだ。
考えはじめた男に、よろしくと言い残し、伝票を渡して去っていく永琳。
「あれを使って……いや、いきなり殺すのはよろしくないな。時間はあるんだから、もっと……」
ぶつぶつと呟く男が残された伝票に気づいたのは、永琳が去ってから一時間後の事だった。
しばらくぼうっとしていた男は、ふと顔を下に向けた。
そのまま、硬筆のカリカリという音だけが響いた。
なお――この報告書を受け取った日は、そちらにおごって頂くのでそのつもりで。
ニヤリと凶悪な笑顔を見せる男。
食い物の恨みは、恐ろしいのだ。
37スレ670台の薬関連の話題を見て思いついたのでつらつらと。
ところでこの男、虐待お兄さんなんでしょうかね?
by319
最終更新:2022年05月03日 15:06