「ゆっくり手品」






一週間ぶりに外に出ると、あまりの暑さに逆に清々しい気分になった。
頭がおかしくなる前兆なのか、それともそれとは別の意味でヤバイのか…
どちらかわからないが、ずっと家に篭っているわけにもいかないので里に出て買い物を済ませることにした。

眩しい日差しに目を細めながら歩いていると、あるものが目についた。
店頭に並んでいるのは、真っ黒な箱が5つ。これだけでは一体何に使うのかわからない。
横のプレートに書いてある説明を読むと…どうやらこれで手品をするらしい。
どんな手品が出来るのか、値段はいくらなのか、そんなことが書いてあった。

…ふむふむ、なるほど、把握した。
面白いことを思いついたので、購入を即決。他の買い物も済ませて帰路についた。

荷物を家の中に置いて、僕は籠を担いで再び外に出る。
先ほどの黒い箱をつかった手品…僕なりにアレンジした手品には、ゆっくりの親子が必要だ。
それも、子供が5匹以上いる事が望ましい。

しばらく草原を歩いていると、木陰で昼寝しているゆっくり一家を発見した。
両親であるれいむとまりさ。そして生まれてから2週間程度と思われる赤ちゃんのれいむとまりさが5匹ずつ。
合計12匹の家族だ。僕の手品には最適のゆっくり一家だ。早速連れて帰ることにしよう。

背負っていた籠を静かに下ろすと、未だ眠っているゆっくり一家を一匹ずつ籠に収めていく。
もちろん起こさないように注意深く、だ。起こしてしまったとしても、逃げられる前に籠に投げ込めば済む話なのだが。

そういった具合に12匹全員を捕獲し終え、蓋をして開かないように紐で結んで固定する。
もうここまでくれば、こいつらを起こさないように、などと遠慮する必要はない。
ウキウキ気分の僕はスキップしながら家路を急ぐ。

「ゆ!?ここはどこ!?まっくらでゆっくりできないよ!!」

これだけの衝撃を与えれば、鈍感なゆっくりでもさすがに目を覚ます。
自分の置かれた状況を把握できていない12匹のゆっくりは、口々に不安を漏らした。

「どうしてまっくらなの!!?」「ゆっくちできないよぉ!!」
「ここからだして!!おうちかえる!!」

そんな悲鳴に心を躍らせながら、僕は籠をもっと揺らしてやった。



家に着くと、僕は籠の蓋を開けて蹴り倒した。
籠の口から流れ出るように、12匹のゆっくり一家が飛び出してくる。

「ゆぎゅ!?ここはどこ?ゆっくりできるばしょ?」
「ゆ!おにーさん!!こんなところにとじこめたのはおにーさんだね!!」
「そんなことするおにーさんとはゆっくりできないよ!!」

どうやら僕が真っ暗な籠の中に閉じ込めたってことは把握しているらしい。
ゆっくりにしては、それなりに知能はあるようだ。

「へぇー…君達はゆっくりできないんだぁ…ダメだね!お兄さんは君達よりずぅーっとゆっくりできてるよ!」

この言葉に真っ先に反応したのは、母まりさだった。どうやら負けず嫌いな性格らしい。
それを見た他のゆっくりも、抗議の声を上げる。

「ゆ!!そんなことないよ!!まりさのほうがゆっくりできてるよ!!」
「そうだよ!!れいむたちのほうがゆっくちできゆよ!!」
「あ、そう。それじゃさっきの真っ暗なところでもゆっくり出来たでしょ?」
「むゆ!?ゆ…そ、そうだよ!!ゆっくりできてたよ!!」

そして、嘘をつくのが下手らしいこともわかった。

「ふーん、それじゃあもう一度このゆっくり出来る籠の中に入るかい?」
「ゆっ!!やだよ!!はいりたくないよ!!」
「どうして?君はとてもゆっくり出来るものだから、ここでもゆっくり出来るんだろう?ほら、入りなよ!」
「ゆぎゅぎゅ……!!」

下唇を噛みながら唸っている親まりさ。悔しそうに顔を真っ赤にしている。
このまま放っておくと中の餡子が爆発しそうなので、話題を変えることにしよう。

「ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ」

僕は籠を退けて、ゆっくり一家の目の前に先ほどの真っ黒な5つの箱を並べた。
ツヤのある材質でできているそれは、妖しく光を反射している。

「ゆ?これはなあに?ゆっくりできるもの?」
「それよりおなかすいたよ!!おにーさん!!はやくごはんをもってきてね!!」
「ゆっきゅりおなかすいたよ!!」「ゆっくちおなかすいた!!」
「あかちゃんたちにもごはんをあげてね!!そしたらおにーさんもゆっくりさせてあげるよ!!」

素人ならここでブチ切れて、怒りのままにブチ撒けるのだろうが…僕はニコニコしながら黒い箱を叩いた。

「ま、君達みたいな出来の悪いゆっくりには、“手品”を見ながらゆっくりするなんてできないんだろうなぁ」

“手品”という耳慣れない言葉に逸早く反応したのは、母れいむだった。

「ゆゆ゛!!れいむたちはとてもゆっくりできるよ!!だからさっさとてじなをみせてね!!」
「ゆっくちみせてね!!」「まりさもみたいよ!!」
「いいよ、きっと皆ビックリするに違いないよ」
「びっくりしないよ!!れいむたちはずっとゆっくりしてるよ!!」
「まりさたちはとてもゆっくりしてるよ!!だからびっくりしないんだよ!!ゆっくりりかいしてね!!」

どうやらこいつらにとって、『びっくり』は『ゆっくり』に反するものらしい。
それはともかく、手品を実行する前準備は整ったので、本準備に取り掛かることにする。

「よし、じゃあ見せてあげよう!準備をするから、黒い帽子をかぶった小さい子はこっちに来てね!」
「ゆ!!ゆっくりいくよ!!」「ゆっきゅりてじな!!」

赤ちゃんまりさを呼び寄せようとすると、当然と言うべきか、両親から抗議の声が上がった。

「あかちゃんたちをどこにつれていくの!?ゆっくりつれてかないでね!!」
「あかちゃんたちにひどいことするきだね!!そんなわるいおにーさんとはゆっくりできないよ!!」

うーん、なかなかの知能だな。ま、所詮ゆっくりだからうまく言いくるめれば問題はない。

「あれぇ、そういうこと言って手品の邪魔をするってことは…君達はやっぱりゆっくり出来ない子なのかな!?」
「ゆぎゅ…ゆ、ゆっくりできるよ!!ばかにしないでね!!」
「だかられいむたちのあかちゃんをさっさとつれていってね!!」

ご両親の承諾を得たので、めでたく5匹の赤ちゃんまりさを確保。
そのうち、一匹は…両親のもとに返してあげる。

「ゆ!れいみゅもじゅんびしゅるよ!!ゆっくりつれていってね!!」
「君はいいんだよ。お兄さんは準備するから、君はお母さん達とゆっくり待っててね!」
「みゅ!わかったよ!!ゆっくりまってるね!!」

僕は残りの4匹を別の部屋に連れて行く。
さぁ…これから、死ぬほどビックリさせてやるぞ。



「さぁ集まって集まって!!手品を始めるよー!!」
「ゆー!!」「てじなてじな!!」「ゆっくりてじなをみせてね!!」

餓鬼を集めて紙芝居をするおじさんのように、僕はゆっくり一家を箱の前に集合させた。
横一列に並んだ黒い5つの箱とは別に、皿の上に乗った4つの饅頭と空の皿一枚を用意して、同様に横一列に並べる。

「さっきのあかちゃんたちはどこにいったの?ゆっくりせつめいしてね!!」
「あの子たちには別の手品の準備を手伝ってもらってるよ。邪魔しないであげてね」
「ゆ!!ゆっくりりかいしたよ!!」

母まりさは、未だ警戒心を解いていないのか…事あるごとに子供の安全を確認している。
だが、口先での安全確認などはっきり言って無意味だ。これからそれを理解させてあげよう。

「さて、さっきの黒い帽子の子、ちょっとこっちに来てくれるかな」
「ゆ!まりしゃもてつだうの?」
「そうだよ。とりあえず、このお皿の上に乗ってね」

ぴょんぴょんと、嬉しそうに跳ねて赤ちゃんまりさは皿の上に乗った。
それを確認して、僕は一家の注目を促す。

「それじゃあ説明するよ!これから4個の饅頭とこの赤ちゃんを黒い箱の中に隠します。
 そして、箱の並び順をどんどん入れ替えていきます。
 最後にお母さんまりさに、赤ちゃんがどの箱に入ってるか当ててもらいます。
 赤ちゃんが入った箱を当てられたら、みんなの勝ちです。ゆっくり理解したかな?」
「ゆ!!わかったよ!!おかーさんにまかせてね!!」
「おかーしゃんがんばりぇ!!」「まりさ!!がんばってあかちゃんをみつけてね!!」

やる気になってもらったところで、僕は黒い箱に饅頭と赤ちゃんまりさを収め始めた。

「中は暗いけど、少しの間我慢してね」
「がまんしゅるよ!!まりしゃはつよいこだもん!!」

そんな声も箱の中へ消え、準備は整った。
今、赤ちゃんまりさは5つの黒い箱のうち、真ん中の箱に入っている。

「ゆ!あかちゃんはまんなかのはこにいるね!!」
「そうだね。それじゃあ箱の位置を入れ替えるから、しっかり見ててね。まずは練習だから、簡単にしてあげるよ」

僕は箱の位置をシャッフルし始めた。もちろん、ゆっくりの動体視力で追いつける速さである。
僕自身も赤ちゃんまりさの位置を把握しながら、十数回箱の位置を入れ替えて…

「はい!それじゃあお母さんまりさは、赤ちゃんがどの箱に隠れてるか当ててね」
「ゆゆ!!あかちゃんはこのはこのなかにいるよ!!」

母まりさは迷わず、僕から見て右から二番目の箱に飛びついた。
箱の蓋を開けると……その中には、赤ちゃんまりさが入っていた。

「おお、すごいね!当たりだよ!」

赤ちゃんまりさは箱から解放されるや否や、母まりさに飛びついて頬ずりする。
母まりさもそれに応えるように身体を動かしている。愛情の証なのだろうか。気持ち悪い。

「えっへん!!こんなのかんたんだよ!!もっとむずかしくてもだいじょうぶだよ!!」
「まりさすごい!!さすがれいむのゆっくりぱーとなーだね!!」
「おかーしゃんすごい!!」「おかーさんしゅごい!!」

だが、これだけでは手品とは言えない。これから…本物の手品を見せてやることにしよう。

「練習は終わりにしよう。これから本番を始めるから、赤ちゃんまりさはもう一度箱の中に入ってね」
「ゆ!またおかーしゃんがゆっくりみつけてくれゆよ!!」

自分の母を信頼しきっている赤ちゃんまりさ。
残念ながら、これから君が無事に助かるかどうかは…完全に運次第なんだよ。

「まりさはもっと難しいのがいいか…わかったよ、じゃあこうしよう」

饅頭と赤ちゃんまりさを箱に収め終えた僕は、5つの箱を隠すように黒い敷居を立てた。
その動作を見た瞬間、母まりさの顔から自信が失われていくのが手に取るようにわかった。

「こうすると箱を入れ替える動きが見えないから、すごく難しいね」
「こんなのむずかしすぎるよ!!おにーさん!!ゆっくりそのくろいのをどけてね!!」
「あれぇ?まりさは難しくても大丈夫なんじゃないの?やっぱりさっきみたいに、すっっっっごく簡単なほうがいいの?」
「ゆぐ!!そんなことないよ!!まりさはむずかしくてもだいじょうぶだよ!!」
「そうだよねぇ。だったらこの黒い板を退けなくても大丈夫だよね!」

相当プライドの高いやつだな、こいつは。
そのおかげで交渉がスムーズに進むので、とても助かる。

「わかったらさっさとはじめてね!!まりさがかんたんにあててあげるよ!!」
「おかーしゃんがんばれぇ!!」「おかーさんがんばっちぇ!!」
「始める前にもうひとつ、手品を面白くするために…」

僕はフライパンと携帯用のガスコンロを用意して、一家の目の前に置く。

「まりさがもし赤ちゃんを見つける事が出来たら、それ以外はただの饅頭ってことかな?」
「そうだよ!!あたりまえでしょ!!かんがえなくてもわかるよ!!」
「だったら、僕はまりさが選んだ箱以外の箱に入ってるものを、このフライパンで焼くことにするよ。
 美味しい焼き饅頭を作ろう。完成したら皆に食べさせてあげる。
 でも、もしまりさが間違えたら……赤ちゃんがフライパンで焼かれることになっちゃうんだけどね」

僕の物騒な発言に、一家の顔が一瞬で青ざめた。

「ゆ!そんなことしないでね!!あかちゃんがかわいそうだよ!!」「ゆっきゅりやめてね!!」
「そうだよねぇ。かわいそうだよねぇ。だから、まりさがちゃんと赤ちゃんが入ってる箱を当てればいいんだ。
 そうすれば赤ちゃんは焼かれずに済む…簡単なことだよね、まりさ?」
「ゆゆ…か、かんたんだよ!!まりさにかかれば、こんなのかんたんにあてられるよ!!
 まりさはあかちゃんのいばしょをあてるから、ほかのまんじゅうはやいちゃってもいいよ!!」

まったく根拠のない自信である。
子供の命より自分の意地を優先するようでは…母親として失格だぞ?

「わかった。じゃあ始めるから…ちょっと待っててね」

僕は箱を適当にシャッフルする。

「ゆむむ…!」
「ゆゆ…おかーしゃんがんばれ!!」
「まりさ!!あかちゃんをたすけてあげてね!!」

透視するつもりなのか、黒い敷居を穴が開くほど見つめている母まりさ。そんなことをしても無駄だというのに…
箱をシャッフルした後、もうひとつある動作を加えて…僕は敷居を取り除いた。

「はい!今度は難しいよ!赤ちゃんがどの箱の中にいるか…ゆっくり当ててね!
 正解しないと赤ちゃんが焼かれちゃうから、絶対に当てないとね!」

ここからが本番である。さぁゆっくりども…“死ぬほど”びっくりさせてやるから、覚悟しておけ。

「ゆぐぐ…どこにいるの?あかちゃんはどこにいるの!?」

先ほどと違って、僕以外は箱がシャッフルされる様子を見ていない。これだ、と確信を持って箱を指し示すことなど不可能だ。
さらに、もし間違えれば赤ちゃんが焼かれる、というペナルティ付。赤ちゃんの命が懸かっている。
適当に選んで、ハイ間違いでしたー、では済まされないのだ。

「ゆっぐりぃ!!あかちゃんどこお゛お゛お゛ぉぉぉ!?わからないよおお゛お゛ぉぉぉ!!……ゆゆ?」

完全な運任せ…と思いきや、何かを思いついた母まりさは大声で叫んだ。

「はこのなかのあかちゃん!!おかーさんのこえがきこえたら、おもいっきりはねてね!!」

すると…

ガタッ

僕から見て一番右の箱が、一瞬だが振動した。
その一瞬を、母まりさは見逃さなかった。迷わずその箱に飛びついて、ケラケラ笑いながら宣言する。

「げらげら!!まりさのかちだね!!こうすればぜったいにあかちゃんのばしょがわかるよ!!」
「なるほどぉ…その手で来たか、まいったなぁ」
「これであかちゃんはやかれずにすむね!!ゆっくりしないであかちゃんをだしてあげてね!!」
「はいはい、今出すよ…」

僕は母まりさが選んだ箱の中から赤ちゃんまりさを取り出すと、母まりさのほうへ放ってやった。
子供の命を救うことに成功した母まりさは、いつも以上に赤ちゃんまりさに頬ずりして愛情を表現する。
一方赤ちゃんまりさは、どうして自分がここにいるのかわからないようだ。
きょろきょろ周りを見回しても、その疑問は解消されそうにない。

「まけいぬおにーさんは、さっさとのこりのまんじゅうをやいてね!!」
「そしてれいむたちにゆっくりたべさせてね!!」
「ゆっくちまんじゅう!!」「まんじゅうちょーだい!!」

勝ち誇る一家は、赤ちゃんまりさの様子に気づいていない。
そりゃそうだろうな……


その赤ちゃんまりさが、さっき箱に収めた赤ちゃんとは別物だってことにも気づかないんだから…


「そうだね、お兄さんは負けたから…残りの“4匹”は焼くことにするよ」
「さっさとやいてね!!さっさと………ゆ?」

僕は残りの4つの箱を開けて、その中身を手に取る。
箱の中から出てきたのは…

「ゆ!!ここはどこ!?」「くらくてゆっくちできなかったよ!!」
「おにーさんはまりさたちにゆっくちあやまってね!!」「あやまったらゆっきゅりさせてあげるよ!!」

なんと、4匹の赤ちゃんまりさだった。

「すごい!!さっきまでおまんじゅうだったのに!!あかちゃんにかわってるよ!!」
「ゆゆゆ!!おにーさんすごいね!!でもさっさとあかちゃんをはなしてあげてね!!」

先ほどまでは確かに4つの箱には饅頭が入っていた。しかし、今出てきたのは赤ちゃんまりさだ。
さすがの餡子脳でもこの不思議さは理解できるようだ。手品は成功である。

「さあ、美味しい焼き饅頭を作っちゃうぞ~!」

僕は“ただの饅頭”4つを、十分に加熱されたフライパンの上に放った。

「いっぎゃあかかかけrgりげ!!!」
「あづいあづいあづいいだいいぢあいいああいあいあ゛あ゛あ゛!!!!」

精一杯跳びはねて脱出しようとするが、赤ちゃんゆっくりの跳躍力で脱出できるほどこのフライパンは小さくない。

「ゆっ…ゆぎゃああぁぁぁぁぁあぁあ!!!がえじで!!まりざのあがぢゃんがえじでえぇぇぇぇえ!!!」
「れいむのあがぢゃんになんでごどずるのお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛おぉぉぉぉぉ!!!!」

何が起こっているのか即座に理解した母まりさと母れいむは、一目散にフライパンへと向かう。
だがフライパンの放つ熱気に怖気づいたのか、一定の距離をおいて立ち止まってしまった。

「おにいさん゛!!さっざとまでぃざのあがたんがえじえええぇぇえ!!!」
「え?それは無理だよ。だって、君はこいつらの入ってる箱を選ばなかったじゃないか。
 それってつまり、こいつらはただの饅頭であって、君の赤ちゃんじゃないって事だろ?」

母まりさは、無駄に知能があるせいか論理的に攻められると反撃できないようだ。
すると今度は、無知で無能な母れいむの出番である。

「ゆ゛!!ぞんなごどばいいがら!!ざっざどあがぢゃんだじげでおおおおおぉぉぉ!!!!」
「でもこれはルールだから。そんなに助けたかったら、お母さんがフライパンに飛び込めばいいじゃないか。
 それとも何?フライパンに飛び込まないってことは、助けたいって言うのは口だけなの?口先だけなの?え?どうなの?」
「ゆぐぐぐ…ゆ!こうなったのはまりさのせいだから、まりさがたすけにいけばいいよ!!」
「ゆぶ!?どうじで!!れいむだっでおがーざんでしょ!?れいぶもだじゅげでよ゛!!」

パートナーのご指名である。うろたえるまりさ。震えながらまりさをぐいぐいと押すれいむ。
どうやら赤ちゃんを助けたいというのは口先だけで、本当は2匹とも自分の身の安全が第一らしい。

「までぃざがあかちゃんのはこをえらばないからこうなっだんだぼ!!ゆっぐりぜぎにんどっでね゛っ!!」
「どうじでぞんなごどいうぶぎゅえっ!!?」

言いたいことを言い終える前に、まりさはれいむに弾き飛ばされてしまった。
着地点は…もちろん、フライパンのど真ん中である。

「あんぎゃあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁあ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁ゛あ゛!!!!!!」
「お、おがじゃん!!だじゅげでえぇええぇぇぇぇぇえぇ!!!!」
「あぢゅぐでじんじゃうよおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

ジューッといい音をたてて焼けていく母まりさと赤ちゃんまりさ4匹。

「どぼじでだずげでぐでないの゛!?」「どぼじでええぇぇぇぇ!!!」
「みでないでだじゅげでおおおおぉぉぉぉ!!!」
「あんびゃあおあろぎあじぇろgじゃえおりgjぽあえいrgぱ!!!!」
「ゆ…ゆっくりがんばってでてきてね゛!!」

子供たちの叫びに、母れいむはただ見つめているだけだ。
自ら助けに行こうとしない。それは残された子供を守るために自分がいなくなってはいけないという高尚な判断なのか…
それとも、自分が母まりさや赤ちゃんまりさのようになりたくないだけなのか……たぶん後者だろうな。

「あ…ばば…だじゅ…げで……!」
「じ、じに……だぐ……だいびょ…!!」
「うーん、良い匂い♪」

そんなことをしているうちに、まりさ計5匹の底面がこんがり焼きあがった。あまりの激痛に全員気絶している。
これ以上焼くと命に関わる。今回はこの辺で勘弁してやろう。
広く知られているように、ゆっくりは底面の組織をやられると自力で跳ね回る事が出来ない。
こいつらは、後で自然に放って観察してやろう。面白いことになりそうだから。
香ばしい匂いを放つゆっくりを、僕は袋につめて適当に押入れに放り込んでおいた。



「おにーさんとはゆっくりできないよ!!れいむたちはおうちかえるね!!」
「ゆっくちかえるよ!!」「ゆっきゅりかえるにょ!!」

残っているのは、母れいむと子れいむ5匹に子まりさ1匹である。
あんなことを言っているが無視していいだろう。どうせ自力でドアを開けられないのだから。
それより…僕は、知能の低いゆっくりに対して試したい事がひとつある。今回、それを試してみようと思う。

「へぇー、家族を放っておいて帰っちゃうの?酷いねぇ…全然ゆっくり出来ない人だねぇ…」

底面が完全に焦げているまりさたちを指差して、くすくす笑いながら問いかける。
ゆっくりには“自分は一番ゆっくりしてる”というプライドがあるので、すぐに突っかかってくる。

「ゆぐぐ!!れいむはゆっくりしてるよ!!しつれいなこといわないでね!!」
「ふぅ…はいはいわかったよ。そんなにゆっくりしてるなら一人で帰れば?子供たちはお兄さんが食べちゃうから」

僕は適当に赤ちゃんれいむを掴みあげると、口の中に放り込もうとする。
本当に食べるつもりはないのだが、こうでもしないと必死になってくれないだろうから。

「れいむはたでものじゃないよぉ!!ゆっくちだべないでええぇええぇぇ!!!」
「おにーさん!!あかちゃんをはなしてね!!ゆっくりたすけてあげてね!!」

ぽよんぽよんと、体当たりしてくる母れいむ。もちろん痛くない。むしろ気持ちいい。
そんな母れいむの頭を僕はむんずと掴んで、ぐっと握り締める。

「あ?『はなしてね』?『たすけてあげてね』?…言葉遣いに気をつけろよ」
「いだだだだ!!!いだいだいだいだいだいだいだいだいだいいいいぃぃぃ!!!!」
「『放してあげてください』『助けてください』だろ?言ってごらん」
「ゆびゃああぁぁぁぁあぁ!!!たずげでぐだざいいいぃぃぃい!!!!
 れいぶのあがだんんん!!!!はなじであべでぐだだいいいいいぃぃぃぃ!!!!」

もう発音が滅茶苦茶で半分聞き取れないが、それらしいことは言ってるので助けてやろう。
このれいむは無知で無能だと思っていたんだが、やれば出来る子じゃないか。

「よしわかった。でもひとつだけ条件がある」

僕は手に持っていた赤ちゃんれいむを放してやる。
解放された赤ちゃんれいむは、他の赤ちゃんゆっくりたちと同じように部屋の隅に跳ねていってガクガク震え始めた。

「お前、子供を全員食べろ。そしたら子供たちは助けてあげよう」
「……ゆ?」

僕の言葉を、ゆっくりと理解していく。
部屋の隅にいる自分の子供と、僕の顔とを…何度も何度も見比べて。

「もう一度言う。子供を全員食べろ。そしたら子供たちは助けてやる」
「……ゆゆゆ?ほんとう?あかちゃんたべたらあかちゃんをたすけてくれるの!?」
「本当だ。お兄さんは嘘をつかないよ」

…母れいむの視線が一箇所に定まった。
もちろん、その視線の先にいるのは…6匹の赤ちゃんゆっくりである。

「……ゆ!!ゆっくりたべるよ!!あかちゃんたべてあかちゃんをたすけるよ!!」

その動きに迷いはなかった。そして、やはり無知で無能だった。
『赤ちゃんを助けるために、赤ちゃんを全員食べる』…なんら矛盾を感じないとは、正直言って驚きである。

「おかーしゃん!!ごわかっだぶゆぎゅうううぅぅぅ!!!だだだだべべべべべなななないいでええぇぇぇえ!!!??」

一匹目の犠牲者は赤ちゃんれいむ。
母れいむと一緒にゆっくりしようとして飛びついたところを、ガブリと噛み付かれてしまった。

「むーしゃむーしゃ…みんながまんしてね!!おかーさんがたすけてあげるからね!!」
「おがーしゃんだべないでえ゛え゛え゛ぇぇえ゛ぇぇぇえ゛!!!」
「れいむだぢはだべものじゃないよお゛お゛お゛お゛ぉぉぉぉ!!!!」

逃げ惑う子供たちと、それを追いかける母れいむ。子供たちは命が懸かっているので必死に逃げる。
しかし、どんなに必死になったところで、その体格差は覆せない。

「ゆがあああああああぁぁぁぁ!!!やべ…ぶびゅっ!!!」
「がまんしてね!!みんなをたべればみんなたすかるんだよ!!!」
「いぎゃあああぁぁあぁ!!!ゆっぐでぃでびば…ぶへっ!?!?」
「どぼぢで…どぼぢでごんにゃごどずるぶゆえ゛!!??」

母れいむの食事が終わったのは、それから5分後だった。



口の周りを餡子で汚した母れいむが、僕のもとに駆け寄ってきて宣言する。

「やくそくだよ!!こどもたちをぜんいんたべたから、こどもたちをたすけてあげてね!!」
「うん、いいよ」

………

数秒の静寂。僕はニコニコしながら、母れいむの顔を見つめる。

「…なにしてるの!!さっさとあかちゃんをたすけてあげてね!!やくそくしたよ!!」
「うん、だからいいよって言ってるでしょ」

晴れやかな顔になった母れいむは、僕が子供を助けるのを待っている。
しかし、動こうとしない僕を見て母れいむは顔を真っ赤にして激怒した。

「…いいかげんにしてよね!!ゆっくりあかちゃんたすけてくれないとおこるよ!!」
「うん、だからさっさと赤ちゃん連れて帰ってよ」

僕は玄関の扉を開け放って、母れいむに呼びかけた。

「ほら、助けてやるって約束だもん。どうぞ連れて帰ってくださいよ。そこにいたでしょ?君の子供」
「ゆ?なにいってるの!!あかちゃんはここにいないよ!!ゆっくりみればわかるでしょ!!」
「そうだね。じゃあ君の赤ちゃんはどこに行っちゃったの?」

これだけ言っても、まだわからないのだろうか。
僕の提示した条件、自分のしたこと、そして…その結果。僅か数分前の出来事だというのに…

「君は…さっきまで“何を”食べてたんだっけ?」

母れいむの口についた餡子を指でとって、じっくりと見せ付ける。

「君は…赤ちゃんを助けるために“何を”食べてたんだっけ?」
「ゆ…ゆゆゆ…!?」

その餡子を口の中に突っ込んで、無理やり飲み込ませる。

「君は…“何を”助けるために赤ちゃんを食べてたんだっけ?」











「ゆびあやあやあいあいあおあお゛あお゛あお゛あお゛あ゛あ゛おあおあ゛おあお゛あお゛あ゛あお゛!!!???」

全てを理解した母れいむは、狂ったように跳びはねて壁に体当たりする。

「そうそう!赤ちゃんは君のお腹の中にいるからね!ゆっくり助けてあげてね!!」
「ゆぎゃあぁあぁぁああぁぁ!!!どうじでどうぢせどうじじぇああぁぁぁああぁぁ!!!!」
「ふふふ!急いで吐き出せばまだ間に合うかもしれないね!!」

おそらく間に合わないだろう。既に母れいむの餡子と混じってしまったに違いない。
だが、そんなことも分からない母れいむは何とか子供を助け出そうと自分の身体を痛めつける。

「ゆぶ!!ゆべべべべべえええぇえっぇぇえぇ!!!」

口から吐き出すのは、餡子ばかり。赤ちゃんゆっくりは一匹も出てこない。
母れいむは餡子の山を崩して必死に子供を探すが、やはりそれらしい姿は見つからなかった。

「どうしでぇえぇぇえ!!!どうしでででごないのおおおぉぉぉぉ!!!??」
「そりゃあ、君が美味しそうに食べちまったからな。むーしゃむーしゃしあわせー♪って」
「ぐぎゃああぁぁっぁあぁ!!!あがだんででぎでええぇぇぇぇえええ!!もうだべだりじないがらああぁぁぁあ!!!」

何度も何度も、身体の皮が破れても壁への体当たりを止めない母れいむ。
無知で無能なこいつも、母性だけは一人前のようだ。

「ゆぶえ!!ゆべべべべ…!!」

体力も尽きかけていた頃、母れいむの口からあるものが出てきた。
それは…赤ちゃんれいむのリボン。そして、赤ちゃんまりさの帽子だった。
餡子化に時間のかかる髪飾りだけが、餡子にならずに体内に残っていたのだ。

「おー、飾りだけは無事だったみたいだな。どうする?これだけ持って帰る?」

くすくす笑いながら問いかける。
母れいむは、もう理解したようだった。自分の身体の中に、もう赤ちゃん達は残っていないということを。
口から出てきたこの髪飾りが、何よりの証拠である。

「ゆ゛…あがぢゃん゛…どうしで…?」

そして、母れいむは理解したようだった。
…自分が、二度とゆっくりできないということを。

「ゆっがあああぁぁぁあぁぇぇぁぁぁぁぁあゆッぐりじねえああぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

狂った母れいむは、今までにない叫びを上げながら暴れ始めた。
壁に体当たり、花瓶に体当たり、本棚に体当たり。それでも狂気は止まらない。
そして、血走った目で僕を見つけた母れいむは…

「ゆっぐでぃじねえ゛え゛え゛ぇぇぇえ゛ぇえ゛ぁああ゛あぁぁぁ゛!!!!」

ゆっくりとは思えないスピード、ゆっくりとは思えない跳躍力で僕に飛びつき…左腕に噛み付いた。
痛みはない。ゆっくりの力など、たかが知れている。

「っしねぇ!!じねええぇぇ!!!ゆっぐりじねえ゛え゛ええ゛ぇぇぇぇぇええ゛え゛ぇ!!!ぶぎゅえっ!?」

母れいむを左腕から引き剥がす。そして…

「…もう、お前はいらない」

口に腕をねじ込んで、背中の皮を掴んでぐいっと一回転。
背中の皮や餡子が口から出てきて、代わりに顔面や毛髪が口の中に吸い込まれていく。

「あびゃばyばyばあおあおあおあおえろpgかえぽrgこあけpご……!!??」

“裏返し”になった母れいむは、ぼとぼとと中身の餡子を全て床の上に撒き散らし…皮だけとなって絶命した。
その餡子の山をスプーンでかき回すと、残っていた髪飾りが出てきた。
さっきの分も合わせると、合計で6つ。食われた赤ちゃんゆっくりの数と一致する。

「あーあ…かわいそうに。お母さんがバカだったせいで…」

そんな同情の声も、赤ちゃんゆっくりにはもう届かない。
僕は餡子を一口だけ味見すると、散らかった部屋を片付け始めた。





「さて!」

餡子の山を始末し終えて、押入れを開く。
底面の焼け焦げたまりさたちが入った袋を担いで、僕はもう一仕事始めることにした。

「お前らには、お兄さんが直々に自然の厳しさを教えてやるぞ!!」

袋の中のゆっくりまりさたちの震えが、しっかりと伝わってくる。
きっとこいつらなら、もっと面白いものを見せてくれるに違いない…

そう確信して、僕はゆっくりの生息地である草原へと向かった。



(終)



あとがき

スレに自分が書き込んだネタと、他の人が書いたネタも使わせてもらいました。

ちなみに、お兄さんの手品はタネのない手品です。

作:避妊ありすの人

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最終更新:2022年05月03日 16:08