ゆっくりCUBE
※人間は直接的には殺さないです。罪の無いゆっくり達がどんどん死んでいくよ!
まぁゆっくりは生きているだけで罪なんだけどね!







こんにちわ、上白沢慧音です。
なぜ、こんなところで私が出てくるかと言うと、今回の「ゆっくりCUBE」についてのご説明をさせていただくからです。
皆様は、「CUBE」という映画を見たことはありますでしょうか。
箱状の部屋の中に閉じ込められた何人もの男女が、脱出しようと奮闘するのですが、行く先々には残忍な罠が仕掛けられており、一人また一人と命を落としていってしまうという映画です。
しかし、今回の「ゆっくりCUBE」は閉じ込めるのを人間ではなくゆっくり達になっています。
とても血なまぐさい描写になることは避けておりますのでご安心を。
あと、映画の中の罠は実用性が無いものが多い事から、それは別の映画「SOW」からアイデアを頂戴しました。
それと、この「ゆっくりCUBE」の製作者、nitori社の河城にとりさんのアイデアも採用されております。
ですので、映画を見たことが無い、という方でも存分にお楽しみいただけることを約束します。
……そろそろ哀れなゆっくり達が目を覚ます頃でしょう。
では、皆さんまた。


「ゆ……ゆ?」
まだ意識が霞む中、ゆっくりれいむが目を覚ます。
辺りを見回してみると、全面鏡張りでできた奇妙な部屋だった。
自分はなにをしていたのだっけ。
頭の餡子を回転させて思い出す。
たしか、見慣れぬ家の中に入ってそこに餡子があったから食べた。
そしたら急に眠くなって……。
そこから先は覚えていない。
「う、ゆっ」
れいむの背後からうめき声が聞こえる。
吃驚して飛び上がり、振り返った。
そこには、同じように眠りから覚めたゆっくりまりさがいた。
どうやらこのまりさは子持ちのようで、隣に三匹のちいさな子ありすと子まりさがいた。
「ゆ~ん……ありすはとかいは……」
その奥では、まりさの妻であろうゆっくりありす、そしてその隣にゆっくりぱちゅりーがいた。
珍しく、ゆっくり種で代表的なものがそろっている。
「まりさ! ありす! ぱちゅりー! おきて! ゆっくりおきてね!」
体でこつんと皆の体を叩く。
起きた皆は、不思議そうにまわりを見回していた。
「ゆ? ここどこ?」
「わからないよ! でもゆっくりできるよ!」
れいむはここを落ち着ける空間と把握したようだ。
「「ゆっくりしていってね!」」
二人は唱和して、仲間である事の確認を取る。
さらに、まりさは妻のありすに擦り寄っていった。
ぱちゅりーは相変わらず周りを見渡している。
「こんにちわ! ぱちゅりー! ゆっくりしていってね!」
「むきゅ、ゆっくりしていくわ」
少々大人びた様子で、ぱちゅりーは答えた。
しばらくして子ゆっくりたちも目を覚まして、一室はゆっくりハーレムの状態だった。
「これでみんなでゆっくりできるよ!」
「そうだね! でもおなかすいたよ!」
「すいたよ!」
まりさ一家が声をあげる。
確かに、れいむも腹が減っていたし、ぱちゅりーも同じだった。
「じゃあたべものさがしにいくよ!」
「わかったよ! みんなついてきてね!」
「ゅー!」
れいむは辺りを見渡し、出口を見つけるとそこに皆で突っ込んでいく。
その中に混じって部屋を出ようとしたまりさは何かを忘れているような気がして一瞬振り返って部屋を見たが、頭をかしげて後を付いていった。
細い通路を抜けてやがて広い部屋に出る。
さっきと同じ形でできた部屋だった。
ただ、違うのは壁に五本の縦線の飾りがついていることである。
「ゆー……、ここにはごはんがないみたいだからほかにいくよ!」
ぴょんぴょん跳ねてまりさは進んでいく。
そのときだった。
ぴしゅん、と風を切るような音が部屋に響き渡る。
ゆっくり達は一瞬なにがおきたのかわからなかった。
しかし、まりさの帽子が半分欠けて、なにがおきたのかを把握した。
「むきゅ! なんだかあぶないよまりさ!」
ぱちゅりーは異変を感じて叫ぶが、まりさは大丈夫だとまた跳ねてみせる。
その時。
「ぎゅげえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」
突然の悲鳴にまりさ達は声の主を探す。
悲鳴の主はゆっくりありすだった。
恐怖に怯えた顔で停止している。
「ゆ? ありす……?」
れいむが近づく。
すると、その振動でありすが倒れた。
顔の半分だけ。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! あ゛り゛ずがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「おがーしゃーあああああああん!!」
溢れるようにクリームが流れ出る。
れいむの足元一面にクリームが広がる。
「ゆっ! ここはあぶないよ! はやくでようよ!」
まりさの言葉に我に帰り、れいむはまりさの後を追う。
ぱちゅりーはそれを引き止めた。
「むっきゅ! もどろうよ! もどればあんしんでしょ!?」
「だめだよ! またここにくることになるよ!」
一時的な安心より、脱出を考えたれいむ。
今回のれいむはよく餡子が回るようだ。
「むきゅ……わかったよ」
ぱちゅりーは自分の考えを否定されて少しだけしょんぼりとしていた。
だが、自分の命には変えられない。
音の正体はワイヤーだった。
あの、縦線の飾りは、自動的に対象を狙って風の如く切り抜ける。
見れば、飾りの数が増えており、反対側は減っていた。
今のまりさは、運良く前に進んでいたので、帽子だけで助かったのだ。
「あかちゃんたちはくちにはいってね! ここならあんぜんだよ!」
まりさは口を開いて子供を入れる。
次のワイヤーが来ないうちに、れいむたちは次の部屋へ向かった。
「う゛っ、う゛っ……あ゛り゛ずぅ゛……」
危機を逃れてから、まりさは亡き妻を思って涙を流していた。
口から出た子供達もわんわん泣いている。
「お゛がーざんのぶんぼゆっぐりじようでぇ……!」
「ゆっぐりずるよ゛ぉ……!」
れいむも悲しい気持ちになってくる。
助けようと思えば助けられたはずだ。
ワイヤーに気づき、一番近かったれいむがありすを突き飛ばすかすれば、被害は起きなかったはずなのだ。
「ゆぅぅ~……」
れいむも悔しくて涙を零す。
しかし、このこれは『ゆっくりCUBE』。
ゆっくりたちを休ませる暇など与えない。
「むきゅ! あれはなに?」
ぱちゅりーが見た先には小さなギアの着いた鉄の塊だった。
球体状で、その周りには内側に針のついた殻のようなものが着いている。
その中には餡子が入っている。
「ゆ! ごはんりゃろ!」
子ありすがそれに突っ込もうとする。
だが、まりさはそれを制止した。
「だめだよ! あぶないからはなれてね!」
「おがーざんおなかへったよ! ごはんちょーらい!」
文句を言う子供たち。
たしかに、自分達も腹が減っている。
だが、こんな所にいたらまたゆっくりできなくなってしまう。
「だめ! ゆっくりできなくなっちゃう!」
「もうやだ! おがーざんなんがちんじゃえ!」
「どぼじでぞんだごどい゛う゛の゛お゛お゛!? わだじはごどもだぢのだめにいっでるんだよお゛!?」
一匹の子ありすが鉄の塊の中に入る。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」
おいしそうに食べる子ありすを見て、まわりの子供達も文句を言い始める。
「おかーしゃん! ありすだけじゅるいよ! まりさもたべさせてね!」
「あたしも! とかいはのありすにもだよ!」
文句を言っているうちに、子ありすは食べ終えてしまった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ごはんがあ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「ゆっくりちね! ゆっくりちね!」
非難を浴びる子ありす。
だが、とかいはだから当然とばかしに胸をはる。
「いなかもののありすとまりさはたべられなくてとうぜんね! ――ゆっ!?」
塊から出ようとしたありすは驚きの表情を浮かべる。
さっき入れた場所の鉄の扉が、開かない。
何度体当たりしてもびくともしない。
その時、どこからか声が聞こえた。
それは、聞きなれない声。
「皆さん、ゆっくりしていますか?」
声の主は稗田阿求。
病弱で、とても可愛らしい風をしているが、とても変わった趣味を持っている。
ゆっくりを潰して遊ぶ事だ。
破壊衝動に見舞われたときは、親に内緒でかなづちでそこら辺を歩いているゆっくりを潰して遊んでいる。
ある意味妖怪より怖い。
「ゆっくりできないよ! ありすをたすけてね!」
「くすくすくす、助けられますよ。 この部屋のどこかに鍵を設置しました。しかし、もうすぐそれは壊されてしまいます。あと3分以内に助けなければ、その間抜けなありすは死んでしまうでしょう」
まりさは怒りに膨れる。
「どうしてこんなことするの!?」
悲鳴ではない、確かに怒りを込めた声。
れいむたちは初めてまりさが本気で怒ったのを見た。
だが、人間にしてみればそれはただの威嚇だ。
「どうして? くすくすくす」
壁の向こうで顔をゆがめて溢れる笑いを必死に堪えようとする阿求。
その顔からは狂気が見えた。
「楽しいからに決まってるじゃあないですか? もちろん皆さんが死んだ後は皆で餡子をおすそ分けしますけどね」
「ひどいよ! なんでまりさをころそうとするの!?」
「馬鹿ですねぇ、あなた達は何を食べて生きていますか?」
その質問に、れいむが返す。
「むしさんとくだものさん!」
「そうでしょう? そして私達がゆっくりを食べる。私達が死んで土に帰り、植物や虫を育てる、それをあなた達が食べる、それを私達が食べる。立派な食物連鎖ってやつですよ、理に叶ってると思いますが」
「そんなのかんけいないよ! まりさたちをたすけてね!」
「助けて欲しかったら自分の手で何とかしろぉ! あぁ!? あと一分しかねーぞ、おい?」
いきなり怒声を浴びせられ、まりさたちは飛び上がる。
そして、ありすの事を思い出して必死に部屋の中を探した。
やがて、小さな箱を見つける。
「これだね! いまからあけるよ!」
その小さな箱を口で開けようとするが、開かない。
その上に乗ってジャンプしても、開かない。
口に入れてから放り出して壁に叩きつけても、あかない。
「どおじであがないの゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!?!?!?!?!」
再び笑い声が響き渡る。
「ばぁーか、箱を開けるにはさらに鍵が必要なんだよ! あと三十秒!」
子ありすの死へのカウントダウンを告げる阿求。
まりさは必死になって鍵を探した。
そして、見つけたのは部屋の隅のシュレッターの中に今にも飲み込まれそうな鍵。
しかし、まりさはためらう。
ここで今鍵を取りに行ったら、自分の体も飲み込まれてしまうかもしれない。
「おかーしゃん! たすけてねぇ! おねがいいいいい!!」
塊から悲鳴が聞こえる。
そうだ、あれは自分とありすの子だ。
親は子を守る義務があるのだ。
そう考え、意を決して飛び込む。
鍵を咥えて取る事に成功はしたが、問題は着地だ。
部屋の隅にあると言う事は、必ず前方と横一面には壁がある。
失敗すれば自分はシュレッターの中に飲み込まれてしまう。
「ゆうううううううっ!」
まりさは、壁を蹴ってボールのように飛び跳ねた。
着地したとき、体を刃が削ったが、気にならない。
れいむはまりさを応援した。
「すごいよまりさ! がんばってね!」
「むきゅ! すごい、すごいよ!」
急いで箱の中に鍵を入れて中から扉を開ける鍵を見つける。
そして急いで子ありすの元へ走った。
「はい時間切れー」
阿求のその言葉とともにバチン、とばねの力で勢いよく殻が閉じる。
内側の針が、子ありすの全身を貫いた。
「ゆぎゅぎゅぐぐぐぇえええええええええええっ!!」
そんな悲鳴を上げて、子ありすは息絶えた。
まりさは鍵を取り落とし呆然としている。
れいむも、何が起きたかわからないという顔をしていた。
「あっはははは! 残念、子ありすは助かりませんでしたー」
閉じた殻の隙間からこぼれる餡子。
それを見てまりさは絶叫した。
「なんでよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!! かぎどっだのにい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」
「鍵なんて入れて回さなきゃ鍵じゃないでしょーが」
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
れいむも悲鳴を上げていた。
せっかく助かると思っていたのに。
少しでも犠牲少なく助けられると思っていたのに。
ぱちゅりーは泣いていた。
知識しかない無力な自分を悔いた。

結局、阿求に笑われながら開いたドアをくぐり、新しい部屋に入った。
今度はマス目が書かれた、奇妙な部屋。
五匹は慎重に、マスの上に乗る。
すると、何かの機械が作動したような音がした。
「ゆっ、こどもたちはこのなかにはいってね!」
慌ててまりさは子供達を口の中に入れる。
れいむとぱちゅりーも寄り添って、何が起こるかと震えていた。
その時、ズルンっ何かが滑り落ちる音がした。
見ると、マスが一個かけている。
再び、同じ音が鳴る。
また、マスが消えた。
「いそいでおくにいくよ!」
危険を察知したれいむが走り出す。
後を慌てて二匹が追う。
だが、だんだんとマスが欠けるスピードが速くなっていく。
そして。
「むきゅうっ!?」
ぱちゅりーの足元のマスが落ちていく。
れいむが振り返ってぱちゅりーの髪を掴んだ。
「ゆっぐぐぐぐ……!!」
ぱちゅりーを落とすまいとするれいむ。
その時、ちらりと下を見た。
そこには、毒々しい緑色の液体。
落ちたマスがその液体に漬かると、一瞬で溶けてなくなった。
「さんだぁあああああああああああああっ!!」
ぱちゅりーは悲鳴をあげる。
れいむは限界までひっぱり、ぱちゅりーに上がってくるように言う。
だが、ぱちゅりーは元々病弱で、体力はないに等しい。
「ゆっぐ、むっきゅ……!」
がんばろうとするが、途中で疲れてしまう。
そうしている間に、れいむの周りのマスも落ち始めていた。
その時。
「ゆっ!?」
れいむは突き飛ばされ、思わず口を開く。
今までの支えがなくなり、ぱちゅりーは落ちていった。
「むっきゅうううううううううううううう!!! どうじでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!? ぎゅおぎぃごごぎごががぎぎごあいが!!」
悲鳴を上げながら落ち、酸の中に飛び込むぱちゅりー。
意味不明な叫び声をあげて、溶けて消えた。
「どおじでごんだごどずるのま゛り゛ざぁ!?」
「もうだずがらないがらだよ! あのままじゃれいぶもじんじゃうよ!」
涙ながらに叫ぶれいむに涙ながらに返すまりさ。
確かに、あのままの状態が続けばいずれれいむのマスも落ちて二匹は死んでいた。
だが、まりさは犠牲を少なくするために、れいむを助けたのだった。
「まりざのゆっぐりごろじ! じねっ!」
「うるざいよ! まりざだっでじだぐながっだよ!」
二匹は涙ながらににらみ合う。
しかし、周りのマスが落ちていくのを見て、まず自分の命を最優先にしようとして二匹は部屋を出た。
そして、新たな部屋。
今度は黒い床だった。
まりさとれいむの体から汗がにじみ出る。
部屋はとてつもなく暑かった。
舌を出して息をしても、焼け付くような空気が体の中に入ってくるだけだ。
「いくよ、れいむ……」
「さしずしないでね……ゆっくりごろしのまりさのいうことなんてきかないよ」
れいむは反発しながらも進む。
今この場でいがみ合っても死が四匹を待っているだけだ。
黒い床の上に乗ると、二人は苦悶の表情を浮かべる。
「あじゅ、ゆ゛っぐりでぎだい……!!」
黒い床の正体は鉄板だった。
下では木を何百本もくべて、火を焚いている。
部屋の奥までまだ遠い。
「あ゛づい゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!」
まりさが限界を感じて口を開いた。
その時。
「あちゅい! ゆっくりできないよおおお!!」
子まりさが一匹、口から飛び出してしまった。
口の中はサウナと同じ様な状態で、もう一匹の子まりさも熱さで衰弱していた。
子まりさが鉄板に体を乗せたとき、厚さに叫び声をあげる。
「ゆじゅじゅじゅじゅじぃ! おがーざんだずげべべべべべ!!」
まりさは急いで子まりさをひっぱる。
だが、取れない。
「どおじでえええええええええええ!?!?」
子まりさの足が鉄板に焼きついてしまったのだ。
成体のれいむやまりさは多少皮膚が固くなっているので焼け付く事はなかったが、脆い子ゆっくりが鉄板の上に乗ればひとたまりもなかった。
「あじゅっ! ゆっ! ぐぇっ! じぇでぇ!」
そのまま黒焦げになり、子まりさは動かなくなった。
「あ゛がじゃん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!!」
「い゛ぐよ゛まりざぁ……ごごがらでだいどみんだじんじゃうよ゛ぉ……!!」
れいむは無理矢理まりさを引っ張る。
まりさは残った子供の為にも泣く泣く部屋を後にした。
次の部屋は、さっきとまでは違うつくりになっていた。
殺風景で坂があり、その頂点に、光る扉があった。
体はもうボロボロで、精神もぼろぼろだった。
ぴしゅん。
「ゆ?」
何かが飛ぶような音。
ぴしゅん。
また聞こえる。
ぴしゅん、どすっ。
「ゆぎぇえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」
何かががれいむに当たる。
まりさが見たとき、それは矢だった。
れいむの頬がやぶけ、餡子があふれ出る。
「ゆぶっ!?」
まりさも、同じ物を頬に食らった。
貫通して、頬を通り抜ける。
「ぎ、ぎぎぎ……」
痛みを堪えているとき、ふと口の中にいる子供達を思い出した。
今、矢は自分の口の中を通り抜けていった。
だとすれば。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!! ま゛り゛ざのあがじゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
口の中に入った矢は、一匹の子ゆっくりの命を容赦なく奪った。
悲鳴は聞こえなかった。
口からこぼれる我が子の餡子。
「あ、ああ……」
もう、守るものもいない。
あるのは、絶望のみ。
後ろには、さっきから何の役にも立っていないれいむ。
「うふ、うふふふふふふふっ」
まりさは、れいむを抱きかかえた。
「ゆっ!? まりさ、はこんでくれるの!?」
れいむは、驚いていた。
まりさが自分を助けてくれる。
ただそれだけが嬉しかった。
再び、矢が飛んでくる。
れいむは、まりさが助けてくれるだろうと思った。
「ぷぎゅげっ!?」
れいむの体を再び矢が突き抜ける。
「い゛だいよ゛まりざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「しらないよ、やくたたずのれいむはまりさのたてになってね」
落ち着いた様子でれいむを抱きかかえるまりさ。
そして坂を登りきったときには。
「ゆ……ゆぇ……」
息も絶え絶えの矢が何本も刺さっているれいむ。
頬に傷があるだけのまりさがいた。
「さよなられいむ、えいえんにゆっくりしていってね!」
そう言って、れいむを投げ捨てた。
その顔は、どうして、と訴えかけるような目をしていた。
まりさはそれを無視して扉の前に立つ。
「まりさだよ! ゆっくりだしてね!」
その言葉にがちゃりと扉は開く。
まりさは、出られると思いそこから嬉々として飛び込んでいった。
だが、あったのはまた鏡張りの部屋。
「ゆ? なんで? どうして?」
戸惑うまりさ。
そこに、慧音が現れる。
「やはり、お前が残ったか。まりさ」
「ゆっ! おねーさんここからだしてね!」
「ああ、出してやるとも。じゃあ鍵を出してくれ。」
鍵?
何の事だ?
ありすを助けるときに使った鍵か?
いや、あれは鉄の扉を開けるための鍵だ。
「なんだ? 一番最初の部屋においておいたのに気づかなかったのか?」
一番最初の部屋?
まりさは思いだす。
そうだ、あの時一瞬振り返ったのは鍵のためだったのだ。
だが、そうとは分からずに進んでしまった。
「残念だな、また戻るしかないぞ」
戻る?
あの矢と鉄板と酸とワイヤーの中を?
「そんなのできるわけないよ!」
「じゃあここで餓死するんだな」
そう言って慧音はボタンを押して人間用の出入り口を開ける。
そこに入ろうとまりさも突進するが、慧音に蹴られてしまい、扉は閉じてしまった。
「う、う、う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」
幻想郷で一番醜い悲鳴が、CUBEの中に響いていた。

■■■

「はーい、残念ながら生き残ったゆっくりはいませんでしたー」
残念、というばかりに手を上げる阿求。
周りの観客は落ち込んだり怒声を上げながら自分の手にある券を投げた。
「これ生き残る奴いるのかよー」
「ああ、ゆっくりふらんとかなら助かるらしいぞ、人気高いけど」
里の者達は愚痴を吐きながらとぼとぼと帰っていく。
「いやぁ、今日も大盛況でしたねにとりさん」
阿求は札束をもってにんまりと笑う。
にとりも、悪代官のような顔をする。
「いいでしょう、マジックミラーでゆっくり達には分からずとも私達からは丸見え。どのゆっくりが生き残るか賭けて勝負する『ゆっくりCUBE』。誰もこんなの考え付きませんよ、ねぇ慧音さん?」
「ん、ああ」
慧音は恥ずかしそうに頬を掻く。
「どうしたんですか?」
「いや、さっきの演技ちょっと恥ずかしくて……ああいうの苦手なんだ」
「そんな! 迫真の演技でしたよ! 今回の山分けは慧音さんに奮発します!」
にとりは慧音を褒めちぎった。
慧音はまんざらでもないような顔で笑う。
そして、今回の賭け金を山分けした。
「これで、子供達の教育費もまかなえるな」
「慧音さん熱心ですねぇ」
「あたりまえだ、子供の未来のためならゆっくりなぞいくらでも犠牲にできるぞ」
「じゃあ今日は私のおごりです! 近くにおいしい店があるのでにとりさんも慧音さんもいらしてください!」
こうして、三人は『ゆっくりCUBE』を後にする。
里の奥にできた巨大施設。
里の人間がゆっくりを使い誰が生き残るかを予想するギャンブル。
18歳以上の方なら券をご購入いただけます。
毎週日曜日に行っているので、ぜひいらしてくださいね。


あとがき
構造的にCUBEにしただけで罠はSOWとオリジナルにしました。
SOWの罠はヘッドギアとワイヤーが張り巡らされた部屋をモチーフにしています。


書いたジグソウ:神社バイト

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最終更新:2022年05月03日 16:46