ゆっくりれいむ一向は一刻も早くこの悪夢から抜け出すために森を進んだ。

「ねえ、おかあさん…」
「ゆ、どうしたの?」
多少急ぎながら一家の先頭を今しがたれいむの事をかばった子れいむが小声で耳打ちした。
この子れいむは次女で、今この場に居るれいむ達の中ではれいむに続いて最年長である。
とても賢く仲間思いで聡明で、れいむはまりさの生き写しのように感じて今では特に寵愛している子どもだった。
「どうして…れいむのいもうとはころされたのかな…」
子れいむの顔は餡の気が引いたかのように青かった。
れいむはその質問にごくりと唾を飲んだ。
そして少し考え込んでから慎重に言葉を選びつつ言った。
「…きっとにんげんがやったにちがいないよ、まりさだってにんげんにあんなふうに殺されて…」
「どうしてこんなところににんげんがいるの?ここはにんげんもめったにはいってこないところだってれいむしってるよ…!」
子どもから出た思わぬ反論に再び考え込んでかられいむは言う。
「ことしのふゆはたべものがすくないからにんげんもここまできてさがしに」
「じゃあなんでれいむのいもうとはたべられずにつるされていたの!?」
「…!」

やはりこの子は聡明だとれいむは思った。
ただ、子どもだからか少し安易に確信を突き過ぎる。
「…へんなこときいてごめんね、おかあさん」
沈黙。
重苦しい空気が二人の間を支配した。


「……」
れいむの中を誰がれいむの子どもを殺したのかという疑問が繰り返される。
やはりさっき子れいむと話し合った通り里の人間がわざわざ魔法の森の奥まで来てあの子を殺したという線は薄いように感じた。
かといって虫たちにはあんな殺し方が出来るとは思えない。
まず蔓が結ぶことが出来ないではないか。
森の動物達だって同じだ。
ならば、この辺りをうろついていた別のゆっくりがれいむの子どもを殺したのだろうか。
確かにこの辺りなら、たとえば永夜緩居を目指す他のゆっくりが居る可能性も無くは無い。
だがそれでは動機が全くわからなかった。
ぐるぐると思考が同じところを同道巡りする。
ふと、れいむはひょっとして永夜緩居に居る虫以外の何者かがれいむ達を追ってきて
永夜緩居の秘密を守るために皆殺しにしようとしているのではないかと考えた。
あの場所の異常さはその考えをあらゆる意味で肯定しているように思われた。

そんなふうに思索に耽りながられいむは先に進んでしまった。
そしてれいむは再び自分の不注意で子どもを失うことになった。

巧妙に枯葉で隠された落とし穴がれいむ達の前で口を広げて待っていたのだ。
「ゆ!?」
「ゆああああああああああ!?」
「びっくりー!?」
「ゆ…みんな!大丈夫!?」
それは落とし穴というよりも既にあった大きなくぼみを少し掘り下げて木の枝と枯葉でカモフラージュしたものだった。
れいむは慌てて辺りを見回す。
枯葉にまみれて誰がどこに居るのかすぐに把握できない。
そんな状況がれいむを急激に不安にさせた。
「はやくみんなあつまってね!」
枯葉の下から一匹二匹と子れいむ達が這い出してきた。
すぐにれいむは子どもの数を数える。
「ひとつ…ふたつ…みっつ…みっつ…みっつぅ……!」
四匹居たはずの子どもが三匹に減ってしまっていた。



「でてきてええええええええええ!はやくでてきてえええええ!」
「おねえぢゃあああああん!おねえぢゃあああああああああん!」
「みんな!おねえちゃんからはなれちゃだめだよ!ゆっくりさがすよ!」

子れいむ達は一番上になった子れいむを中心に居なくなった子れいむを探し始めた。
一方のれいむの表情は暗く、覇気が無かった。
れいむの経験が深いことが子ども達よりはるかに子れいむの生存が絶望的なことを知らせていた。
頭を切り替えて先頭に立って探さなくてはならないはずがどうしても切り替えることが出来なかった。
「まりさ…たすけて…ゆっくりできないよまりさ…」
れいむはうわ言のようにつぶやいた。
まりさの忘れ形見である子ども達の数が着々と減っていくことにれいむは心から恐怖した。
まりさの命は人間の手で惨たらしく奪われた。
数の増えた子ども達のためにまりさとの思い出の家も捨ててしまった。
まりさの大事な帽子は人間の手で汚されつくした。
この上でまりさとの間に遺した子ども達まで居なくなったら、れいむの周りからまりさの遺したものは全て消え去ってしまうのだ。
その時、まりさはきっと本当の意味でれいむの所から永遠に離れていってしまう。
そのことをれいむは本当に怖れた。

「ああああああ!おねえぢゃあああああああん!じっがりじでえええええええ!!!」
「ゆ!まだ、まだいきてるよ!ゆっくりおさえてね!」

「ゆ!?」
まだ消えた子れいむが見つかった上にまだ生きているという言葉を聴いてれいむははっと顔を上げた。
れいむはさっきまでとは別人のようにはっきりした表情ですぐさま子れいむの様子を見に走った。


「ゅう…ぃ…だ…ぃょぉ…」
子れいむには木の枝が刺さっていた。
即興ながら明らかに加工された跡がある。
何者かが子れいむを攫ってこれで突き刺したのだ。
しかし幸いゆっくりは鋭い物に突き刺されるのには強かった。
貫通はするが致命傷に至りづらいのだ。
多少傷口は大きいが枝を抜いて葉っぱで傷口を押さえれば充分治る傷だった。
「ゆ、しっかり押さえててね!」

れいむは子れいむ達に体を抑えさせると木の枝を口で咥えて思い切り引き抜いた。
「ゆぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
凄まじい断末魔と共に引き抜いた傷口が大きく開き、目を見開いた子れいむの体から餡子が大量に飛び散った。
れいむは目を白黒させてそれを見つめた。
さっきまであんなに小さかった傷のあった場所に明らかに致命傷レベルの大きな傷口が開いていた。
木の枝を見る。
その先端には草や蔦で器用に結び付けられた大きな『返し』が付いていた。
「ゆ、ゆうううううううううううううううううううう!?」
れいむには全てが理解できた。
刺す時に返しの部分を開かないように押さえて突き刺し、『返し』の部分が全て入ったら返しを押さえていた蔓か何かを
引っ張ってはずす、これで子れいむの体内で『返し』が大きく開く。
後はそのまま木の枝を引き抜けばごらんの通りだ。

「お、おかあさんがれいむのおねえぢゃんをごろじだああああ!!!!」
「どおじでごんなごどずるのおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」
「ち、違う、違うのおおこれはじこな゛のおおおおおおお!!!!」
下の子ども二匹はありのままを見て受け取り、その結果れいむが子れいむを殺したと理解した。

「じこだろうとなんだろうとおかあさんがころしたんだよ!
このこごろしれいむ!おまえなんかおかあさんじゃないよ!」
子れいむは子どもらしくれいむに率直で辛辣で残酷な言葉を投げかける。


「ゆぎゃあああああああああ!?やべでえええええええええ!!!」
まりさの遺した子ども達に罵倒されることはれいむにとってまりさから罵倒されることに等しかった。
それは深く深くれいむの心を傷つけた。
母としてのれいむの世界が壊れ始めた。
母としての誇り、子どもを愛し大事にしているという自負、それらが音を立てて崩れ去っていった。
れいむは段々と母からただのれいむになっていく自分を感じていた。

「やめでよおおおおお!わ゛るいどはれ゛いむのいも゛う゛どにごれをざじだやづだよ!
わだじだぢあんな゛にゆっぐりじでだがぞぐだっだじゃだいどおおおお!
おがあざんをきずづげるようなごどいわ゛ないでええええええええええええ!!!」
ある程度れいむのやったことが過失だと理解できる現・一番上の子れいむだけがれいむを庇った。
しかし事実までは覆せず、また過失を理解させるだけの力も子れいむにはなかった。

「こんなくずとはゆっくりできないよ!きっとさいしょにころされたおねえちゃんもこいつがやったにちがいないよ!
れいむたちもいっしょにいたらころされちゃうよ!」
「れいむたちはれいむたちでかってにおうちにかえるよ!
ゆっくりごろしはじぶんもゆっくりしね!」
ペッとれいむに唾を吐きかけるとそのまま森のどこかへと消えていった。

「違う…違うの…れいむじゃないの…れいむはやってないの…まりさ…まりさはしんじてくれるよね…まりさ…まりさ…」
れいむはもはや追いかけもせずにただただ焦燥しきってうわ言をつぶやくばかりだった。


「おかあさん、れいむはわかってるからね
はやくれいむのいもうとたちもみつけてなかなおりしてみんなでゆっくりしようね…」
焦燥しきったれいむをなんとか子れいむが慰めながら、れいむ達は弱弱しく先に進んだ。
れいむは今もうわ言をつぶやきながらも子れいむに従って歩いていた。
そうやって居るうちにれいむの意識も段々とはっきりしてきた。
れいむは落ち着いて、再び生き残ることを考え始めた。
もう二度と同じミスはしない、そう思って周りに危険なものは無いか神経を集中する。
さっきのようにトラップにかかっては生きて帰れる保障はもうない。

その時、びゅんという風を切る音がれいむの耳に届いた。
「あぶない!」
「ゆ!?」
ドンっ、とれいむは子れいむを突き飛ばしてこちらに飛来する二つの謎の物体を避けた。
その物体はブランコのように弧を描いて木にぶつかるとベチャ、グチャっとなって木の幹に黒い染みを作った。
それが何か理解するのには少し時間が掛かった。
蔓で吊るされたそれが再びこちらに戻ってきてやっと理解する。
「れいむのこどもがあああああああああああああああああああ!?」
「いやああああああああああああああああああ!!!?」
それは蔓に結び付けられたさっきれいむの下を離れた子ども達二人だった。
ぐちゃぐちゃになったれいむの子どもが蔓に結ばれてゆっくり揺れながられいむの顔にべちゃりとくっついた。
甘い餡子の香りがした。

「ゆ゛…ゆっぐぅううううううううううううううううううううう…!!!」
れいむは咽び泣いた。
遂に子どもはあと一人を残すのみとなった。
れいむとまりさの一番大事な絆である子ども達が居なくなってまりさのことがとてもとても遠くに感じられた。
もうれいむの心はボロボロのゴミクズの様になってしまっていた。
「おかあさん…げんき、だしてね
れいむはずっといっしょにいるからね
ぜったいにおかあさんのそばからいなくならないからね」
子れいむが自分も辛いだろうにれいむのことを慰めた。
思えばこの子は本当にまりさの生き写しだとれいむは思った。
聡明で、仲間思いで、やさしく、相手の心をわかり、人のことをかばえて
そして、誰よりもれいむのことを愛してくれた。

「ゆぅ…そっかぁ…ゆふ…ゆふふふふ…」
「おかあさん?どうしたの?げんきでたの?」
『   』がれいむの顔を覗き込んだ。
「ずっといっしょにいてくれたんだね、まりさ」



「まりさは死んでなんか居なかったずっとれいむのそばにいてゆっくりしてくれてたんだね
まりされいむもまりさのこと愛してるごめんねきづかなくてごめんねもうはなさないからね」
「おかあ…さん…?なにをいっているの?」
「そうだまりさいったよふゆをこしたらもう一人くらいあかちゃんをつくろうって
まだふゆまえだけどれいむとまりさの子どもは居なくなっちゃったからいまからにんっしんさせてあげるねまりさあああああああああああああ!!!」
「!?いやあああああああああああああああああ!?」
恋人、子ども、次々と大切な人を奪われ心からゆっくりを失ったれいむの心は壊れた。
壊れたれむが求めるのはまりさただ一人だった。

れいむが子れいむともう一度ゆっくりをするために前から力づくで圧し掛かった。

れいむの目はもはや尋常ならざる光を宿していた。
興奮したれいむの碌に洗う暇も無くて汚れきった体を餡汁が瞬く間にねちょねちょにした。
「はぁはぁはぁ…まりさぁああ!れいむきもちいいよおおおおお!!」
「れ゛い゛む゛はま゛り゛さ゛じゃだいよおお!!おがあざんやべでえええ!!!」
子れいむにはれいむが何故こんな行為に及ぶのか理解できなかった。
行為の意味自体は知っていた、しかしだからこそ親子でこんな行為をしていいはずがないと思う倫理観が子れいむにはあった。
そんな子れいむの気持ちを無視してれいむは餡子汁と泥でべたべたになった体を偏執的なまでに子れいむにこすり付けた。
「やだやだやだあああ!!!」
子れいむは必死に体を振ってイヤイヤをするが子どもの体では体格の大きい大人のれいむを振り払うことは出来ない。
れいむは子れいむの口から底にかけてをぺろぺろと丹念に舐め始めた。
「まりさ…まりさのまむまむぅ…!」
「ぞんな゛どごなめぢゃだめな゛のおおお!!」
嫌がる子れいむだったがその底付近からは餡子汁がだんだんと漏れ始め
息を荒くして顔を赤く染めていた。
「ゆぇっぷにゅう!?」
「むちゅ…んっちゅぅ…」
吐き気を催して思わず開いた口にれいむの舌がぬるりと進入した。
れいむはじゅるじゅると餡唾を飲みながらさらに体をゆすり頬と頬をこすりつけ合わせる。
「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ…」
「ずぎゅ、ずっぎむぢゅぅぢだぐだいどに゛ぶっぢゅうううう!!!」
すっきりしたくないという子れいむの意思とは裏腹に二人の快感は高まっていった。
「すっきりー!」
「すっきりー!」
そして二人は絶頂を迎えた。

「まりさ、もういくよ
もっとすっきりしたいけどここはゆっくりできないばしょだからはやくいかないと」
「………どう…じで…」
子れいむはれいむに引っ張られるまま虚ろな瞳で空を見つめていた。

その時ドン、と音がしたかと思うとれいむの体を蔓で編んだネットが捕らえていた。
子れいむは呆然とその光景を眺めていた。
「ゆ!?なにするの?ゆっくりでれないよ、はやくだして!」
「ゆっくりできないゆっくりになっちゃったみたいだね、れいむ」
二人の行為をずっと隠れ見ていたのか茂みの奥から黒い影が現れた。
黒い帽子に金髪の髪、その姿はれいむの思い描くまりさと瓜二つだったが決定的に何かが違った。
「ゴミクズ…」
そう、それは永夜緩居で死んだはずのゆっくりまりさのゴミクズだった。

「まりさにはじちょうしてねっていってたくせにはげしいすっきりだったね」
「うるさいよ!れいむはまりさといっぱいかわいいあかちゃんつくるんだよ!
それをかってにみてるえっちなゴミクズのほうがゆっくりできてないよ!
ゴミクズはゆっくりでていってね!」
れいむは行為を盗み見されたことに怒ってまりさを口汚く罵った。
「ふーん、まあどうでもいいよ、まりさはぱちゅりーのかたきをうつだけだから」
その言葉を聞いてれいむははっとした。
こいつが、れいむ達を付回してれいむとまりさの子ども達を殺していたのだと気付いた。
それもぱちゅりーが死んでしまったという八つ当たりに等しい理由でだ。
「ゴミクズぅぅぅぅぅううう!!よ゛ぐもれ゛いむ゛とま゛り゛さ゛のこども゛ぉををおおおおおおお!!!」
れいむはネットの中で暴れるが皮が痛むばかりでネットは自力では外せそうになかった。

「れいむ、わるいけどこっちにゆっくりきてね」
「ゆ…」
そう言うとまりさは子れいむのリボンを咥えるとそれを手綱の様に引っ張って子れいむを傍らに寄せた。
子れいむは何も反抗しようとしなかった。
「れ゛い゛む゛の゛ま゛りざにざわ゛ら゛な゛いでねええええええええええええええええ!!!!」
まりさに連れて行かれるということがどういうことなのか、れいむにははっきりとわかっていた。
れいむは餡子汁を顔中から垂れ流して懇願したが子れいむでさえその言葉を聞き入れようとはしなかった。
まりさは憐れそうにれいむの方を見ると隠し持っていた先を尖らせた木の枝をぺっと吐き出してれいむの方に投げた。
「子れいむをたすけたかったらそれであみをきっておってきてね」
そう言うとまりさは茂みの奥へと消えていった。



れいむがネットを切り裂いてまりさ達を追った先には枯葉の絨毯が敷き詰められた少し開けた場所があった。
「ゴミクズ…」
れいむは憎しみの全てをこめてまりさをそう呼んだ。
「ひさしぶり、ゆっくりしていってねれいむ」
まりさの瞳には最初に会ったときのような光は無くただただドブ川のようにどす黒いものが渦巻いていた。
「まりさを…わたしのまりさをどこにやったの?」
れいむは辺りを見回しながら言った。
まりさは怪訝な顔をした。
「あれはまりさじゃなくてれいむだよ
まあそれはどうでもいいよ、れいむがまりさをころせたらおしえてあげるよ
ぱちゅりーをころしたときみたいにやればかんたんだよね?」
その恨みったらしい言い草にれいむは苛立った。
「まだそんなことをいっているの、このゴミクズが
れいむ達は…だれよりもいきるためにいっしょうけんめいだったのに…
そんなりゆうでみんなをころしたんだね
やっぱりおまえはゴミクズだよ!ゆっくりできないゴミクズだよ!!」
れいむは最大限の侮蔑と軽蔑をこめて吐き捨てた。

まりさはこれ以上の言い争いは無駄だというかのようにれいむに向かってきのこを投げた。
「そのきのこはもうどくで、ぺろぺろしただけでもゆっくりできなくなるよ
さっきわたしたきのえだのさきにさしてぬけば…わかるよね」
れいむはまりさの方から目は離さずに念のために持ってきていたその枝をきのこに刺した。
まりさも同じように木の枝を取り出してきのこに突き刺す。
数瞬の沈黙があった後両者は同時に木の枝をきのこから抜いて、それが開始の合図となった。

「ゆっおおおおお!!!」
口に咥えた木の枝でれいむは勇猛果敢にまりさに向かって突きを繰り出す。
まりさはあとずさりながら突きを受け流し防戦に徹した。
木の枝が空を斬りお互いの間の空間が歪んだように見えた。
死闘は続いたが、まりさはろくに反撃も出来ないままで葉っぱで埋まった木の洞の前に追い詰められた。
「もうにげられないよおおおおおおおおお!!!」
「……」
「ゆっくり、しねえええええええええ!!!」
これで終わりだとばかりにれいむは木の枝を引くとまりさに向かって必殺の突きを繰り出した。

『ゆぐぅ!?』

ブスリ、と木の枝がまりさを貫通してまりさは木の洞の中に押し込まれた。
「はぁ…はぁ…」
確かすぎる手ごたえを感じてれいむは木の枝を口から離した。
「はやく…はやくれいむのまりさのばしょをおしえてね!」
れいむの問いにまりさはにやりと笑うと目で後ろを指し示した。
れいむの中を悪寒が走った。
確かすぎる手ごたえ、れいむには最悪の予想が見えてしまった。
れいむは慌ててまりさを退かす、刺さっていた木の枝がボキンと折れた。
舌を使って洞の中の木の葉を掻き分ける。
そのすぐ下に、まりさを貫通した木の枝に刺された子れいむが居た。
「あ、あああ…」
れいむは愕然としてその姿を見つめた。
小さなからだの子れいむは致死性の毒が周り次の瞬間には死んでしまうであろうことは明らかだった。
「ぉかぁ…さ…ん…」
「まりさあああああああああああああああああああああああ!?」
子れいむの頬を涙が伝ったかと思うと子れいむは息を引き取った。


「ゆ…ゆふふふふふっふふふふふふうふ…」
れいむは笑い出した。
遂にまりさとの繋がりは完全に断たれ、一人ぼっちになったのだ。
もうれいむには何のために生きて良いのかわからなかった。
「どう、だった…まりさのしかけ…」
まりさは持ち前の体力で毒の効果からなんとか持たせているようだったが死は時間の問題だった。
それを理解した上で遺言のようにうわ言をつぶやく。
「さいしょにつるしたこどもも、つるでくちをしばっておしゃべりもできなくしてあったけど、いきてたんだよ
しんだのは、れいむがつるをきってから…」
まりさはれいむにたいしてこの上なく恐ろしいことを言い出した。
れいむはピタリと笑うのをやめて青ざめてまりさの言葉を聴いた。
「つぎのこは、れいむのみてたとおり
れいむにむかってなげたふたりも、ちゃんといきてたんだよ…
れいむが、うけとめてあげてたらしななかったのにね…」

れいむは諤諤と震えだす。
「そのこは、だれがみてもかんたんだよね」
まりさは木の洞の中の子れいむを見た。
「れいむがころしたんだよ」

「も゛う゛やべでえええええええええええ!!!!」
遂に耐え切れなくなったれいむは半狂乱で悲鳴を上げる。
れいむの目からは餡子がそのまま流れ出していた。
人で言うなら血涙であろうか。

「ぱちゅりーだけれいむにころされるなんてゆるせない、だから、だからみんなれいむにゴフッ!
ころさせてやったんだよ!ざまあみてね!まりさがゴミクズなら、こどもをぜんぶころしちゃったれいむはもっとゴミクズだよ!
うふふふふふふふふふふふふふふ…」
「うわああああああああああ!!!!」
れいむは木の枝を咥えるとまりさに向かって突き刺した。
「ゆぐっ…、うふふ…、やっぱり、こんなことしてもぱちゅりーはわらってくれないね…」
まりさは餡子を吐きながら、空を見つめていた。
きっとその先にはぱちゅりーが見えているのだろう、死の淵にあって穏やかな顔をしていた。
「ゆっくりできなくて、ごめんね…」
とてもすまなそうにそう言うとまりさは息を引き取った。

「れいむが…れいむが子どもを…れいむが…れいむが…れいむが…まりさ…まりさ…まりさが…」
れいむは、自らまりさとの繋がりを全て断ってしまったことに気付かされ、その罪深さに絶望に打ちひしがれた。

「う゛わ゛あああああああ!ま゛りさ!いっじょにゆ゛っくりし゛てよ゛おおおおおお!まり゛さ゛ああ゛あああ゛あ゛ああ!!
ゆ゛あああああわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
ま゛り゛ざあああああああ!!!ゆ゛ぎゃあああああああああああ!ゆ゛ぎゃあああああああああ!!!!」

れいむは木の幹に向かって何度も何度もぶつかった。
そのうちに頭からは餡子が流れだし、口許にまでとろりと流れた。
その時、自分の命の味を味わいながられいむはふと気付いた。
「そうだ…まりさ…まりさはまだいる…」
それに気付き、れいむは笑い出した。

「れいむ!れいむがいるよ!まりさがいのちをかけてまもってくれたれいむがいるよ!
れいむのいのちがなくならないならまりさともずっとつながってる!
やったよ!やったよまりさ!あははははは!いっしょにゆっくりしようね!ゆっくりしようね!」
れいむはけたたましく笑い続けた。
もはや支離滅裂の狂気の理論としか言いようが無いが実際れいむは狂っているのだからしかたの無いことだった。
ただ、そのけたたましい笑い声は永夜緩居から追ってきた物を呼び覚ましてしまった。
「ゴミクズ!ぱちゅりーはわらってくれなかったんだってね!ざまあみろ!れいむのまりさはわらってくれたよ!
やっぱりおまえがゴミクズ」
れいむがまりさの顔を覗き込んで勝利宣言をしている最中、まりさの頬がぐぐっと膨らんだ。
「ゆ?」

れいむが不思議に思ってそこを覗き込むと頬を突き破り、何かが現れてれいむの体を突き刺した。
「ゆぎゅぅぅぅう!?な゛ん゛な゛の゛おおおお!?ゆっぐりでぎだよおおお!?」
それはまりさの体の中にずっと潜んでいたカブト虫だった。
永夜緩居を出る時からずっとまりさの体の中に住んでいたのだ。
そんな習性はカブト虫には無いが、永夜緩居の狂った虫達は一匹たりとも永夜緩居から獲物を逃すつもりはなかった。
カブト虫は、その角でれいむの体を抉りながら甘い餡汁をぺろぺろと舐めた。
「やべ、やべでええええ!!!」
まりさの頬からは次々とカブト虫が現れ、れいむの体を抉っていった。
抵抗しようにもここまで戦い続けてきたれいむにはもはや抗う力など残っていなかった。
ただただゆっくりと食べられていくだけである。
「やべでえええ!!!れ゛い゛む゛ばっ!れ゛い゛む゛ばいぎなぎゃだめなのおお!!
れ゛い゛む゛がぢんだらま゛り゛ざがああ!!!ま゛り゛ざがいなぐなっぢゃううううう!!!
やべでええええ!れ゛い゛む゛ぢんだらだめ゛な゛の゛にいいいい!!!
ま゛り゛ざま゛り゛ざあああああああああああ!!!!」
れいむの断末魔が森に木霊する。
新たに生きる意味を見つけたばかりでれいむはゆっくりと食べられ死んでいった。
いっそ新たに生きる意味を見つけずに後ろからカブト虫に突き刺されて
殺されていたらこうも無念を感じることはなかっただろうに無残なことだ。


これで、この度永夜緩居に挑んだものは全て永夜緩居に呑まれた。
永夜緩居の秘密を漏らす者は無し。



永夜緩居― ゴミクズ

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最終更新:2022年05月03日 18:08