(八雲永琳調査メモ)
不審な死を遂げたゆっくりたちについて。
1.死亡したゆっくりの症例
加工所からの情報通り、再思の道周辺において苦悶の表情で死に絶えているゆっくりたちを多数発見した。
外傷はなく、餓死や老衰、病気などの死に至る原因は外見からは判別不明。
数体を解剖したところ、中身の餡がかきまわされての苦痛による衰弱死という直接の死因は判明したが、そこへいたる経緯と
何があったのかは、その時点では推測不可能。伝染病か人為的な何らかの手段を念頭において調査を続行する。
同日、サンプル収集のために調査範囲を拡大。
その結果、多数の同様のゆっくりの死体を発見することができたが、前述以上の発見には結びつかず。
だが、ゆっくりたちの死んだ場所を地図に記入したところ、死体が円状に分布していることが判明。
円の中心に何らかの要因が存在するものとして、調査を開始する。
2.ゆっくりの共同生活
本日、円の中心付近にてゆっくりたちのコミュニティを発見。
総数は見えただけで50匹以上。家族単位での社会生活を好むゆっくりにとって、かなりの大集落といえる。
また、非常に人間及び妖怪を恐れているためか、姿を発見されると同時に整然と隠れ、それらの姿を見失う。非常に統率のとれた行動に、強力なリーダーの存在が伺えた。
ゆっくりが人語をあやつるところから聞き取り調査を目指していたが、ゆっくりたちを過剰に警戒させると、コミュニティの移動などの調査の長期化が予想されるため、外部からの観察の後、新たな手段を検討した。
3.集落の調査方法
観察により、外部からのゆっくりの移住に対して寛容なことが判明したため、永遠亭にて馴致したゆっくりれいむ一家(母一匹、子四匹の計五匹)を入村させ、毎日その生活について聞き取り調査を行った。
その結果、多くのことが判明したので、時事系列順に以下の通り追っていく。
4.調査一日目
群れの指導的に地位にあるのはゆっくりアリスたちだった。
通常、孤立しがちなプライドの高い種であるだけに、このような大規模な集団のリーダーが務まるか疑問ではあった。現に、潜入させているゆっくりれいむは食料の分配方法に強い疑念を抱いている模様。
だが、他のゆっくりたちから不平は一切ないという。余程強い信頼を得ているのだろう。また、村のゆっくりたちは常に笑顔を欠かすことなく、幸せそうだとの印象。
そのためか、外部のゆっくりからの呼称は「ほほえみの里」であり、ゆっくりの羨望の的とのこと。
「ほほえみ里」の成り立ちは、最古参のアリスの元に続々と他のゆっくりたちが集まったことによる。
最古参アリスと接触したれいむ一家によれば、知性的で穏やかなゆっくりアリスとの評。すぐに頬をすりよせて挨拶するほどの友好関係を築けた模様で、より一層の調査を期待する。
5.調査二日目
れいむ一家が報告の前にお菓子をねだる。かなりの空腹状態。
食料の分配において全員分の食料を獲得できず、相変わらず共同体とアリスに対する不信感は強い。
また、飢えているのは新参のれいむ一家だけではなく、アリス種以外のゆっくりはすべて同じ状態とのこと。
しかし、いかなるゆっくりに不満を打ち明けても、アリスが幸せならいいじゃないかと取り合わない。
その忠誠心に、子れいむのうち一匹は強い恐怖をいだいている模様。
念のため、ウドンゲに尾行がないか周囲を探らせていたが、その様子はなし。アリスの優位性にあからさまな不平を口にしても、すぐに何らかの手段にでるわけではないらしい。おとりにならず、残念。
調査を続行させる。
6.調査三日目
れいむ一家の四匹の子供のうち、二匹が死亡。うち一匹の死亡は交尾の強要による衰弱死、そしてもう一匹の死因が、待望の例の変死だった。
その死亡の経緯は興奮気味の母れいむの話によれば、最後尾に一匹でいた子れいむが突然、最古参を除くゆっくりアリスたちによって襲われたとのこと。(たくさん子どもがいるから一人は当然アリス用だよねという言い草は、甘やかされたアリス種特有の傲岸さと思い込みの強さが伺い知れて興味深い)
それにより一匹が衰弱死し、ゆっくりれいむたちはわが子を助けるため、周囲に助けを求める行動をとった。だが、周囲の反応はむしろ羨望に近いものであり、ゆっくりれいむたちは祝福を受けたという。それらの周囲の反応と黒ずんで死亡した姉妹の様子に、子まりさが一匹パニックを起こして村の外へ逃亡。
母親がようやく追いついた時、村の外れでわが子の死体を発見。苦悶の表情で息絶えていたとのこと。
至急、子れいむの体を解剖するものの、死にいたる痕跡はやはり発見できず。ただ、死にいたる前の行動が判明したのは大きな前進。
早速調査の続行を命じるが、れいむ一家の一部から調査拒否の言動あり。
重ねてお願いしつつ、一家に残された二匹の子供のうち、一匹の子れいむを大切に保護したところ交渉が成立し、無事調査続行となった。
7.調査四日目
ほとんど調査にならず。
母一匹、子一匹のれいむ一家が、子供を我々に一匹預けているにも関わらず村外への逃走を計画。忽然とその姿を村から消した。
ウドンゲとの探索の結果、村外れから神妙な面持ちで戻ってくるれいむ一家と遭遇。
方向からして逃走を断念して帰ってきたのだろう。新たな潜入ゆっくりを手配する労力との兼ね合いから、その行動を不問と処すもれいむ一家の反応は乏しいものだった。
うつろな表情で、「とにかく、ありすのところに帰らないと」だけ言い残して村に帰還。
無事、村の共同生活に戻ったことを確認した。
8.調査五日目
れいむ一家の報告は奇妙なものだった。
ぶるぶると震えて、体を引きずるように私たちの元へ。ただし、私たちに向けた表情は満面の笑顔だった。
その笑顔のまま「特になにもないよ、アリスはいい子だよと、いっしょにいる自分たちも幸せだよ。だから、もうお姉さんたちは帰ってね」と、前日までの報告とまるで違う様子。
言い終えてすぐに帰ろうとする親れいむを呼び止め、親れいむの子供を犯し殺したアリスが憎くないのか質問。
すると、笑顔のままぶるぶる震えて涙をこぼしはじたかと思うと、突然暴れだす。何者かに打ちのめされるかのように、地面で激しくのうたちまわり、細かく震えて土の上を何度もはねる。押し殺した悲鳴が地鳴りのように響いていた。
しばらく放置していると暴走が治まったので、その転がりまわった土まみれの体をウドンゲに引き起こさせる。
ぜいぜいと荒い息を吐きながら、ふりむいた顔はやはり笑顔。頬に涙の跡を残して、唇と限界まで歪ませた全力の笑み。
子れいむも同様に真っ青な顔色で笑っており、何らかの異常が進行していると見受けられるため、子れいむはサンプルとして残し、母れいむのみを村に帰す。
三日目の保護を約束した個体とは異なるため、早速生かしたままの解剖を実施。逃避を切り取って、内容物を確認した。初見では目立った異変がなく、子れいむの意識を目覚めさせた上で外部から電流による刺激を1時間に及び行い、反応を探る。
そして、ようやく核心に迫るものを見つけだすことに成功。
後は私の推論を実証する証拠を見つけるだけ。それはおそらく、今帰した母れいむを生かしたまま解剖することで手に入れられるだろう。明日が待ち遠しい。
9.調査六日目
定時連絡に母親は姿を現さず、狂気の瞳による目くらましが可能なウドンゲを派遣。餌の収集のために群れを離れたところを捕獲した。
つれてこられた母れいむは相変わらずの満面の笑顔。だが、昨日とはまるで違う幸福に満ち足りた笑み。
違和感を覚え、実験を実施する。
保護していた子ゆっくり一匹を解放。子ゆっくりは泣きながら母れいむにすがりつき、おうち(永遠亭)に帰ろうと呼びかけるが、母ゆっくりは拒絶。村で子供好き(湾曲表現)のアリスたちが待っていることを告げ、笑顔で混乱するわが子を押さえつけると、当方にもう一匹の子供の所在を確認した。
母れいむの反応を見るために、解剖中の子れいむをそのまま見せる。意識があるため、子れいむは母に助けを求めながら、自分がどうなっているのか回答を求めたが、母れいむは「アリスの役にたてない子は、ゆっくりしね」と一蹴する。母としての意識は若干残っているが、それより別種のものへ対するより深い愛情、価値観の変化を確認できた。
昨日発見したものを裏付ける母れいむの変貌に確信をさらに深め、母れいむを解剖のため拘束する。
その際、に嬉しいアクシデントが発生。押さえつけられていた子ゆっくりが解放され、村とは反対側の茂みへ走っていくが、もうすぐ森に入るというところで急に苦しみだした。
確認にいくと、ぺたんぺたんと体を蛇のようにくねらせてのたうち、あぶくを吹きながら悶絶。押さえつけて頭部を切開し、死に至る痙攣が収束するその瞬間まで観察し、変死におけるメカニズムを解明。その後、母れいむも解剖。母れいむの餡子に癒着したその部分を見て、変死を含む今回の全貌について、ようやく確信をもてる仮説を構築し得る。
最後に捕獲すべきはゆっくりアリス。特に最古参のアリスを捕まえれば、すべてが明らかになるだろう。
すぐにでも捕らえに行きたい興奮を覚えるが、ウドンゲの顔色が悪い。六日間、働かせすぎたか。定住している相手でもあり、急ぐことはないだろう。今日はここで調査を終了する。
10.調査七日目
ゆっくりした結果がこれだよ。
(報告書)
永32-042
○○年○○月○○日
ゆっくり加工所
所長 ○○ ○○ 様
永遠亭
薬師 八意永琳
上海蓬莱症候群の調査について(報告)
日頃大変お世話になっております。
先日、貴社よりご依頼のありました標記について調査を完了いたしましたので、下記のとおりご報告いたします。
また、資料として別紙及び標本を添付いたしましたので、ご査収下さい。
記
1.概要
ゆっくりたちの変死体が相次いで発見されたことを受け、依頼により調査を開始。
その結果、ゆっくりとる奇妙な行動の原因として、その内部で活動する寄生虫(標本参照)を発見した。
この小さな生物の母体はとあるゆっくりアリスと共生し、興味深い影響を周囲に及ぼす。
寄生虫の感染経路は経皮感染。生み出された卵が、ゆっくりの親愛感情表現の頬ずりをもって多種に拡散し、ゆっくり内部に
取り込まれ、内部で急速に成長する(成熟まで5日程度)
その成長途上において成長の段階により宿主の餡子内部を移動するため、あらわれる症状は段階ごとに多種多様。
2において、その段階ごとの説明と代表的な行動を取り上げるものとする。
2.感染段階
(1)L1
感染初期。寄生虫の宿主であるアリスと触れ合うなどして、卵を体内に取り入れた状態。無自覚、無症状。この時点までは
母体(最古参ゆっくりアリス)からある程度の距離を置くことで卵が死滅(原因は不明)し、L0(非感染)となる。
寄生虫は生存のために常に母体の近くにいなければならない。
(2)L2
感染一日経過。卵から孵り、寄生虫が内部の餡を少しずつたべながら成長し、ゆっくりたちの深部に向けて移動を開始する。
この時期に母体のアリスから離れようとすると、幼虫がパニックを起こし、一定の距離を超過したところで宿主が死亡するまで
暴れ続け、やがて自らも死亡する。その死骸はごく小さいのために原型を保てず餡子に溶けてしまい、検出が非常に困難。
なお、幼虫が暴れだすまで自覚症状がまるでないため、この段階で犠牲者が非常に多く発生する。おそらく、ゆっくり変死体の原因。
(3)L3
感染二日目以降。成長してしっかりとゆっくり内部にすみついた状態。ゆっくりの思考部位に入り込んでいるため、若干この時期の
ゆっくりたちはぼんやりとした表情をしている。とはいえ、注視しなければわからないほど。
成虫となった寄生虫はしばらく活動を休止するが、母体のアリスと再び接触したとき、目覚めて活動が活発になる。
この時期になると最大の特徴「思考への関与」が顕著となり、母体から遠ざかろうとすると思考部位に働きかけ、強い幻聴を引き
起こして翻意させる。他者の介入により搬出されるなどの要因で引き返すのが不可能となると、その後の展開はL2に準じる。
(4)L4
L3発症から24時間経過後の症状。ゆっくりの思考部位のうち、痛覚に該当する部分に移動し、宿主への影響を顕著とする時期。
この頃ともなると、感染ゆっくりにも頭部に何かが「ある」ことを自覚するが、すでに自由に考えることが不可能となっており、
もはや手遅れとなる。(もっとも、L2の時点でゆっくりの人生は終わったも同然だが)
成虫の行動原理は単純明快。母体に敵愾心を抱く宿主には苦痛を与え、常に特定の表情(頬を緩ませ、口の端を歪ませ、目尻を下げる
……いわば、「笑顔」)になっていなければ、同様に激痛を与え、宿主をコントロールする。
そのため、感染者は何が痛みにつながるか学ばされ、常に笑顔で浮かべたまま、寄生虫の要求する行動をとるようになる。
(5)L5
最終段階。完全に思考部位をのっとり、苦痛ではなく幸福でゆっくりの思考を支配した状態。
この時期では、母体アリス(及びその同種)に対して、宿主は青天井の好意をいだき、ゆっくりの本能を乖離した行動すら
ためらわない。(生存に関わる食料の提供、性奉仕、それらに関する血縁者の提供)
結果、アリスのためだけの幸福な奴隷となり、その生涯をささげる。
3.末期発症後
飢えと性交によりほとんどが衰弱して死亡する。
また、宿主が死亡するとほぼ同時に寄生虫も死を迎えるのだが、このときに始めて寄生虫は宿主の体から外に這い出してくる。
その折に幼生は奇妙な呼吸器官を震わせ、声に似た音を発生させる。
寄生虫の断末魔を「かな表記」であらわせば、「しゃんはーい」と「ほーらい」に近い。
これが症候群の名称の由来となった。
4.感染ゆっくりの見分け方
L1~L3までは見た目では症状がわからないが、L4からはいかなる状況でも笑顔を見せるようになるので、注意深く観察すれば
判別は容易。
なお、発症者は常に笑顔となり、その様子は他のゆっくり視点では幸福そのもの。ゆっくり間の稚拙な情報伝達も相まって、多種を
コミュニティに引き寄せてしまい、結果、感染が拡大する要因となった。
5.最後に
なお、寄生されたゆっくり及び母体となったアリスについては、私、八意永琳によって全滅が確認されている。
調査の最終日、我々がアリスの捕獲のために乗り込んだとき、アリスのコミュニティは、その防衛能力を上回る「ゆっくりゆゆこ」に
襲撃され、脆くも崩壊していた。
直接の被害はゆっくりれみりゃ四体と、我々が集落にたどり着いた時にちょうど飲み込まれたゆっくりアリス一匹のみ。
だが、母体が一体だけという極度の中央管理体制だったためか、その死は種族の死を意味し、断末魔とともに一斉に悶死していくゆっくりたち。
それに対し、続いて響く「しゃんはーい」「ほうらーい」の連なる声は種族としての断末魔といえよう。(その断末魔も、鳴り止む前にゆゆこの
口に吸い込まれていったため、余韻すら残らなかったが)
急ぎゆゆこを切開し、研究のためにアリスの残骸を探したが、ゆゆこの体には少量の餡子が残るのみ。寄生虫に関する資料の大部分が
このとき消滅したといえよう。
そのため、この報告自体が寄生虫の死骸以外は物証のない推論による報告書となったことを深く恥じ入る次第である。
○追記
なお、変死をもたらした寄生虫の詳細、その発生源についての解明にたどり着くことはかないませんでしたが、その死骸を分析したところ、
人の皮膚や消化器にはまったくの無力な構造をしており、ゆっくりに特化した寄生虫であることが判明しました。そのため、健康被害などを
もたらす影響は現状では考えられず、今後は風評被害のみを考慮に入れて対処された方がよろしいかと存じます。
また、その際には我々も微力ながら協力させていただきますので、いつでもご相談いただければ幸いです。
(完)
あとがき
正解率99%の謎にようこそ、小山田です。
幸福を強制されるパラノイア的世界をつくりたいなあと設定をこねっていたら、
今回はわかりづらい内容になりました。申し訳ありません。
次回はもっとすっきりカタルシスを目指します。
最終更新:2022年05月03日 18:12