名無しなんだ氏からゆっくりレイパーに出された麻雀のお題『デート』
人が賑わう繁華街を、ゆっくりふらんを連れて彼は歩いていた
いつか手を繋いで歩けたら良いな、と考えながら並んで歩く
「?」
道の向こう側から数匹のゆっくりを引き連れた女の子が歩いてきた
引き連れた、というのは正しくない。ゆっくり達が彼女の後を勝手についてきていると言ったほうが正しい
その証拠にゆっくりにストーキングされる本人は非常に迷惑そうな顔をしていた
その女の子とすれ違う
彼は足を止めると振り返り、その後ろ姿を見た
金髪の長い髪が歩きに合わせて軽やかに揺れていた
「どうした?」
先程捕まえたばかりのゆっくりまりさの子供を齧っていたふらんが、彼が急に立ち止まったことを不審に思い尋ねた
「あ、いや。別に・・・なんでもない。行こうか」
それが、彼と彼女のファーストコンタクトだった
「ふーちゃん。そのまりさ少しもらっていい?」
「だめ」
ふらんの歩く速度が少しだけ上がった
(あれ? ふーちゃん怒ってる?)
【登場人物】
女の子:ドスまりさと人間(母)の間に生まれたハーフ。相手をゆっくりさせるゆっくりオーラを持っている。見た目は人間と変わらない
全身が聴覚・嗅覚器官。髪も金色などオーラ以外にもドスまりさの特徴を多々受け継いでいる。だから水は苦手
自分がハーフだという事実は幼いことから知っていた
息子:きめぇ丸と人間(父)の間に生まれたハーフ。ゆっくりに好かれやすい体質をしている。見た目は人間
嗅覚器官以外は彼女と似た体質を持っている
自分がハーフだと知ったのは結構最近
とある土曜の午前。彼は自分の体を研究している大学病院の教授のもとを訪れた
目的は健診だった
健診が終わると老齢の教授はしゃがれた声でこんな話しを始めた
「お前の同類がいる“かも”しれないという情報を仕入れた」
「かも?」
「確定情報じゃない。ということだ。郊外にある住宅がまばらに建ってる区域があるだろ?」
「あの高級住宅ばっかりあるところ?」
あの地域は恐れ多くて彼はあまり近づいたことがなかった
「あそこに居るんじゃないかという噂だ。この話しはこの業界のほんの一握りしか知られていないトップシークレットだ。他人に話すなよ?」
「もし話したら?」
「キャトルミューティレーション」
「・・・・・・・」
雑談を終えて、部屋を出ようとする
「なぁ」
「なに先生?」
ドアを握った状態で止まり、顔だけ向けた
「たまには『先生』じゃなく『おじいちゃん』と呼んではくれんか? 血縁者じゃないが、きめぇ丸はわしにとって娘みたいなものだ」
「先生が父さんと仲直りしたらね」
そう言い、ドアを閉めた
その日の正午
郊外の住宅地に一番近いバス停で彼は降りた
周りは田んぼに雑木林と街の景色とは大きく違っていた
「このあたりに、いる“かも”しれない・・・・か」
病院を出て外で昼食を食べた後、家へは帰らずそのままこの場所へと来た
先生のしてくれた話が気になっていた
自分がハーフだと知って間もない頃、父に尋ねたことがあった
『僕って父さんと母さんの間に生まれたんだよね?』
『ああ、そうだ』
『どうやって?』
『仕方ない、実演してやろう。おおーーい、ぱちぇさーん!!』
『呼ばなくていいから。聞いた僕が馬鹿だった・・・』
――――もし、自分と同様に人間とゆっくりの間で生まれた人間がいるとしたらどんな人生を送っているのだろうか?
今まで一度も考えたことが無かった。もとい自分以外にもハーフがいるという発想自体が無かった
――――生まれたことを感謝しているのか? 呪っているのか?
その人が自分自身のことをどう思っているのか知りたかった
唐突に沸いた疑問。それを解消する方法は一つだった
「会えるといいな」
期待はいつのまにか願望に変わっていた
(とは言ったものの・・・・)
見つける方法は全く考えていなかった
出会った人に「あなたはハーフですか?」なんて尋ねるわけにはいかない
住宅地を歩き回るが、結局手がかりは無いままぐるりと一周回って、最初に通った豪邸の前まで来た
(ここの家、構造が変わってるな)
塀で囲まれた中に大きな一軒屋と大きな蔵。窓や戸が異様に高いのが特徴的だった
(室内でキリンでも飼ってるのかな?)
そんな馬鹿なことを考えながら、最初に来たバス停まで続く道を戻った
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね・・・・・」
雑木林から飛び出してきたれいむに声をかけられたが、それを無気力に返した
「ゆゆー! おにいさん、げんきがないよ!!」
彼はアテが外れて落ち込んでいた。過度に期待し過ぎていた
「れーむがなぐさめてあげようか!!」
「じゃあお願いしようかな」
彼はれいむを両手で持ち上げた
「ゆゆぅ~~~♪」
カッコイイ(あくまでゆっくり視点で)異性に抱っこされ上機嫌のれいむ
「っ!!」
「ぶべぇへぇ!!!」
抱えたれいむの体の底に思いっきり膝蹴りを入れた
その衝撃と自分で自分の舌を噛み切った痛みでれいむはショック死した
「あ、舌。落としちゃった。まあいいか」
れいむを齧りながらバス停を目指す
「30分待ちか・・・」
バスの時刻表を見て彼は愕然とした。通勤・通学の時間帯は頻繁にバスが行き来するものの、休日の昼間では本数が少なかった
あまり美味しくない部位しか残っていなかったため何の躊躇いも無くれいむを道の脇に捨てる
田んぼの引き水で手を洗ってベンチに腰掛けて、彼は30分後にやってくるバスを待つことにした
5分、10分、15分、と待っていると彼の周りにゆっくりがわらわらと集まってきた
「おにーさんまりさと…」
「れーむたちとこれから…」
「わかるよー。たいくつなんだねー」
「みょーん!」
群がるゆっくりを無視してただバスを待つ。ゆっくりに群がれるのは慣れっこだった
20分が経つ頃、体に違和感を感じた
「なんだろう・・・・・この首のうしろの産毛が逆立つような感覚は・・・・」
あたりを見まわすと少し離れた場所に人影があった。その人影の周りを丸いものがボールのように跳ね回っていた
足でその勝手に跳ねるボールたちを蹴散らしながら人影はこちらに向かい歩いてくる
バス停に沢山のゆっくりが集まった
その中心には少女と少年
「こ、この辺。ゆ、ゆっくりが多いんですね!」
「そ、そうね!」
二人が最初に交わした会話はとてもぎこちなかった
彼はその子のことを知っていた。以前ふらんと繁華街を歩いている時に目撃した
忘れるはずがない。ひまわりのような温かさを感じる金色の髪に、幼さの残る顔立ち。可愛いと綺麗が見事に合わさった容姿
自分と年が近い少女
初対面の相手の顔を覚えるのが少し苦手な彼でさえ人目見ただけでしっかりと記憶していた
その時丁度バスがやってきた
彼女が乗り込んでから彼は乗った。先に乗るのがなぜか失礼な気がした
バスの前列が埋まっていたため、二人は比較近い席にすわることになった
(もしかしてこの子が・・・・・・)
彼女のゆっくりの好かれ方が尋常ではなかった
(・・・いや。それはないな)
こんな美人がゆっくりと人間のハーフなんてふざけた存在なわけがないと思い考えるのを打ち切った
動くバスの中
目的は達成出来なかったが、彼の気分は何故か沈んでいなかった
それどころか恐ろしいほど落ち着いていた
バスの揺れも心地よかったが、それ以外の心地よさも彼は感じていた
彼は非常にゆっくりしていた
「ねぇ。早く降りないと。運転手さん困ってるよ?」
「えっ?」
彼女に肩を揺すられて意識が戻れば。自分は終点の町の役所前まで乗っていた
「しまった! ゆっくりしすぎた!」
本来なら自宅に一番近いバス停で降りるはずだったのに、なぜかその気が起きなかった
「ごめん。それ多分、私のせいだわ……」
「?」
彼に聞こえない声でそう呟いき、済まなさそうな顔で頬をかいた
役所の中にある市民用の休憩室で初対面のはずの二人は一息ついていた
誘ったのは彼女の方だった。異性と積極的に関わることをしない彼女としては珍しい行動だった
彼を強制的にゆっくりさせてしまった後ろめたさと、彼を一目見た時に不思議な感覚を抱いたのがその理由である
「何の用であの地区に来てたの?」
オレンジジュースの紙コップを片手に、お汁粉の缶ジュースを飲む彼におもむろに尋ねた
「ちょっと。人を探してて…」
「もしかして女の子?」
人探しという言葉に興味を持った
「さぁ?」
自信のない声で答えた
「さぁって・・・性別不明の相手を探してるの?」
「性別どころか、顔も名前も国籍も血液型も、詳しいことは全部。というかこの世に存在してるのかすら怪しい」
(ゴルゴ13?)
彼女の中でその条件に該当する人物はそれくらいしかいなかった
「探してるってことは何か特徴があるってこと?」
「喋ったらキャトルミューティレーションされるから言えない……」
(もしかして宇宙人探してる?)
ドリンクを飲み終えてたので、外へ出る
「見つかるといいわね。宇宙人」
「何でそうなるの?」
役場の建物の壁についている時計を見ると、まだ2時を過ぎたばかりだった
「ところで僕に構ってていいの? 何か用事があってここに来たんじゃ?」
「別に、予定がなくて退屈だから遊びに来ただけ。あの辺りって何もないでしょ?」
普段は友人と遊ぶが、お互いに都合が合わない日というのもある。彼女にとって今日はその日だった
「あなたこの前、ゆっくりふらんを連れて歩いてなかった?」
「覚えてたの? てっきり忘れられてると思った。今まで黙っててアレだけど、僕も君のことは覚えてる。普段は人の顔おぼえるのは苦手なんだけど」
「私も、チラっと見ただけなのにずっと記憶に残ってた」
だからこそ、こちらから話しかけたのだ
「あなたこれからどうするの?」
「電車で帰る」
彼は駅のある方角を指差す
「そう・・・私メインストリートで買い物するからコッチね。バイバイ」
「待って」
去ろうとすると彼に呼び止められた
「メインストリートならこっちの方が近いよ?」
駅の方角を指したまま言った
メインストリートも駅も“コノ場所”を通り抜けるのが最短距離だった
「う゛・・・」
彼女は苦い顔をする
彼が指す方角の先には、ゆっくりが多く生息する市民公園があった
(あんまりここには近づきたくないんだけどなぁ・・・・まぁいいか)
ビビッているのを気取られたくないため、彼女は彼に同行した
その公園はかつてゆっくりレイプ事件が起きた場所だった
市民公園だけあって、その面積は広大だった。横断するだけでも10分以上はかかる
「さっきからどうしてキョロキョロしてるの?」
「だって・・・」
どこにゆっくりレイプに情熱を注ぐ変態が潜んでいるかわからない。両親にそう教え込まれた彼女はひどく警戒していた
「ここって前にゆっくりが襲われた場所よね?・・・・・その、性的な意味で・・・」
「う゛っ」
今度は彼が渋い声をあげた
その事件に少なからず彼は関わっていた
ボブと初めて出会った時を思い出す。ふらんと一緒にいたから現場こそ見てないものの、後から聞いた話では相当な地獄絵図だったらしい
園内にある図書館を横切っていた時
「むきゅー! ひさしぶり!!」
「あら。あんた」
声のかけられた方を見る
「委員長に、ぱちぇさん」
一時期家で同居していたぱちゅりぃと、ぱちゅりぃの現在の飼い主である委員長が声をかけてきた
「本借りてたの?」
「そう…」
「むきゅきゅ、とってもべんきょうになるごほんよ!!」
嬉しそうにぱちゅりぃは借りたばかりの児童向けの絵本を掲げる
委員長に文字を教わり、最近ひらがなを読めるようになっていた
「主人よりも先に喋るな!」
「むぎゃん!!」
掲げていた本を取り上げて、それでぱちゅりぃの頭を叩いた
「相変わらずのスパルタだなぁ。えっとこの二人は・・・・」
委員長とぱちゅりぃを紹介しようと振り返る
「どうしたの?」
彼女は彼の背後に回り込み顔を隠すように竦んでいた
「だれそれ? なんで顔を隠すの?」
委員長が彼の背後に隠れる彼女の顔を見ようと首を伸ばす
その首の動きに連動して彼女も体を動かす
「あらアンタ?」
「うわぁ。バレた!!」
観念して隠れるのをやめる
「えっと・・・・委員長とこの子は知り合い?」
「ピアノ教室の元同級生よ。こうして会うの久しぶりだけど・・・・・ところで、今もコンクールとかで賞取ってるの? 私途中でやめたから情報が一切入ってこないのよ」
「えっと、一応は…」
彼女はピアノの才能があり、現在も活躍中だった
全身が聴覚器官の彼女はずば抜けた音感を持っておりそれが大きな武器になっている。全てのピアニストが欲する才だった
「すごいね。僕音楽とかからっきしだからそういったことは全然」
「あんたは耳良いくせに音楽の成績悪いわよね」
「そうなの? 彼も耳がいいの?」
「そうよ。この前の放課後、教室で骨伝動スピーカーの携帯じゃないのに、顎に電話当てて通話してたのよ。お前は全身が耳かっつーの!」
「全身が耳・・・」
彼女は彼を変わっていると思っていた
ゆっくりオーラは人間相手ならすこしだけ気持ちを落ち着かせる程度だ。間違ってもバスを乗り過ごすような強力なものではない
ここまでオーラに感化される人間を見るのは初めてだった
バス停で出会った時、彼の周りに沢山のゆっくりがいたことを思い出す
繁華街ですれ違った時もそうだ。人に滅多に懐かないゆっくりふらんと一緒に歩いていた
彼は自分と同じようにゆっくりに好かれやすい体質なのだと理解した
彼女は彼から感じていたシンパシーめいたものの正体をようやく理解した
(でも、まさか・・・・・・ね)
そんなホイホイとハーフが生まれてたまるかと思い、それ以上考えるのをやめた
「むきゅん! ぱちぇをむししないでね!」
自分を置いていきぼりにして進んでいく会話が気に食わなかったらしく割って入ってきた
「うっさい。この下僕!」
ぱちゅりぃの帽子を取り上げる
「おぼうしかえしでえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
「やぁよ」
帽子を持った手を高く掲げてぱちゅりぃに取れないようにする
「がえじでええええええええええええええ!! おねがいだがら゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
両手を上げて、届くはずのない帽子を取ろうと懸命にジャンプする
虐められるぱちゅりぃには悪いが、二人はその動作を可愛いと思ってしまった
「あ・・・」
調子に乗って指先で回していた帽子が、回転の勢いを強めたせいで指から外れて飛んでいった
生地の薄い帽子はそのまま風に乗り、ビオトープの池の真ん中に落ちた
「むぎゅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」
落ちた帽子を取ろうと池に飛び込もうとしたぱちゅりぃを彼は後ろから羽交い絞めにして押さえた
「はなじでっ!! ぼうしが!! ぱちぇのおぼうしがあああああああああああああああああああああああ!!」
「諦めよう。水に落ちたらぱちぇさんがただじゃ済まない」
「そうよ」
二人がなだめる
「がんだんにいわだいでぇ!! あなたたちもゆっくりなら゛、おぼうじのだいぜづざをじっでるでしょおおおおおおおおおおおおおおお!!」
顔の全ての穴から液体を垂れ流しながらぱちゅりぃは訴える
「ああもう! 泣くな! 私が悪かったわよ!! 帰ったら新しい帽子用意したげるから静かにしなさい! みんなが見てるでしょう!」
泣くぱちゅりぃを委員長はむんずと掴んだ
「ほら行くわよ!・・・・・これからもピアノ頑張んなさいよ。デート中邪魔して悪かったわね・・・・・・・ああ煩いわね! 黙りなさい豚が!!」
ぱちゅりぃを引きずり委員長は悪態をつきながら二人の前から去っていった
「あれで、クラスでは『おしとやかで可憐』で通ってるんだよ」
「へー」
「ところでなんで隠れたの?」
「虐められるような気がして・・・・・・・実際は一度も虐められたことはないんだけど」
委員長のゆっくりを虐める気質に彼女の中のゆっくり分が拒否反応を起こしていた
ぱちゅりぃと委員長の姿が完全に見えなくなっても、残された二人はその場を動かず未だ立ち尽くしていた
現在、二人の頭にはある言葉が回っていた
『あんたたちもゆっくりなら』とぱちゅりぃは言った
―――あなた“たち”もゆっくりなら・・・・
“たち”とは複数。つまりあの時ぱちゅりぃの目の前にはゆっくりが二匹いたことになる
人間とゆっくりのハーフは人間には人間として(当たり前だが)認識されるが、ゆっくりにはゆっくりとして見られていた
つまり、その言葉の意味することは
「もしかして君ハーフ? ゆっくりと人間の?」「もしかしてあなたハーフ? 人間とゆっくりの?」
少女と少年はお互いに指を向けて同時に尋ねた
「いやまさか」「いやまさか」
「「え?」」
二人の声が綺麗に重なった
公園の噴水広場に腰掛けて二人はお互いの素性を明かした
片や父が人間で、母がきめぇ丸
片や父がドスまりさで、母が人間
父が母をレイプして生まれて男子
父と母が恋愛をして生まれた女子
「「あはははははははははは!」」
腹を抱えて笑った
「真逆だね僕たち」
涙腺に浮かんだ笑い涙を拭う
「本当ね、こんなにも近い体のつくりしてるのに」
再び大声で笑った
二人に寄っていた鳩もその笑い声に驚き一斉に飛び立った
腹筋が痛くなった頃、ようやく二人は笑うのをやめた
「どおりで一度会っただけなのに、お互いを覚えていたわけだ」
彼のゆっくりを引き寄せるフェロモンのようなものと、彼女のゆっくりをゆっくりさせるゆっくりオーラ
彼女のゆっくりオーラで彼は自分の降りるはずだったバス停を逃し
降りそびれた彼に彼女は興味を持って声をかけた
「家族の人は、優しくしてくれてる?」
訊かれ彼女は母とドスまりさを頭に思い浮かべる
「うん。毎日、うるさいくらいに」
彼女の言葉にも、浮かべた笑みにも偽りはなかった
「良かった」
「あなたは?」
彼も彼女同様、脳内で家族を思い浮かべる。父ときめぇ丸、そしてふらん
「まぁそれなりに・・・・」
こめかみを押さえながら答えた
だが言葉のわりに、その声は満更でもないといったニュアンスだった
「良かった」
だから彼女は自分が言われたのと同じ言葉を彼に返した
「いつ自分がハーフだって知ったの?」
「わかんない。物心がついたときには。自分はそういうモノだってずっと教えられて育ったから」
「そっか」
「あなたは?」
「半年くらい前・・・」
「まだ最近だね。辛くない? 私もそういう時期あったし。悩みとかあるならハーフの先輩として…」
彼は俯いて彼女を視界から外した
もし自分以外のゆっくりのハーフに会えたら、生涯で最初で最後の弱音を聞いて貰おうと密かに思っていた
「初めて聞かされた時、なんていうのかな・・・・世界がひっくり返ったような気がした」
「うん」
正常だと思っていた自分が異常だと気付かされた
真実を知った瞬間。人間だった自分は死んだのかもしれないとも思った
「時間が経つにつれてその事実を無意識に受け入れて行く自分も存在してて・・・」
沢山悩んだ
「他人に知られるのが怖かった」
「その気持ちわかる。私も水とかには気をつけてる」
彼女は同意してくれた
それがすこし嬉しかった
「今は・・・・もう大丈夫。両親には感謝してるし、生まれてきて良かったと思ってる」
「そう」
彼女は静かにうなずいた
そのあとの話しも彼女は親身になって聞いてくれた
全て話し終えて彼は少し楽になった
「ごめんね。変な話をして・・・・・・・どうしよう。今になってメッチャ恥かしくなってきたんだけど?」
終わってからやってくる羞恥心
「『初めて聞かされた時、なんていうのかな・・・・世界が~』」
彼の口真似でリピートする
「うわああああああああああああああああああああああああああ!!」
「黒歴史一本入りまーす♪」
「言わないでええええええええええええええええええ!!」
痛みに悶えるゆっくりの如く転がる
それを見て彼女はまた笑い出した
半年間、彼の胸につかえていたものはその声に流されていった
公園の一角には毎週休日になると縁日で見かけるような屋台がやってきたり、バザーが開かれたりしている(もちろん、市に事前の申請がいる)
二人はそこに立ち寄った
「ここのクレープ安い」
「たい焼き屋は結構並んでる」
「このマグカップ可愛い」
「あの露店の服、僕も持ってる……」
あれこれと店を見ながら進んでいると変わった屋台を見つけた
「ゆっくりの人形?」
本物そっくりに作られた人形が大・中・小揃っていた。ゆっくりの種類も豊富にある
「なんだろう、『YUNGA』って?」
「さぁ?」
聞き慣れない商品名に首を傾げる二人
小さな女の子が店の前までやってきた
「おじさん、このお人形さん頂戴」
そう言って小銭を出した
すると店の男は首を横に振った
「ごめんね。このお人形さんを売れるのは18歳以上の人だけなんだ」
済まなさそうな顔で答えると、女の子はしょんぼりして帰っていった
「ごめん、ちょっと待ってて」
「え? うん」
彼女を少し離れた場所に置いて店の前まで来た
「いらっしゃい・・・・・なんだお前か」
「なんだじゃないよ父さん。こんなところで何してんだよ?」
店の男・・・・父に話しかけた
売り子の中に身内が混じっていた
「お前も買ってくか? 特別に売ってやる・・・・・この口の中に入れたらキモチイイぞ」
人形の口に指をかける
そして人形の口を開いた。シリコンで出来ているトンネルが見えた
「くぱぁ・・・」
「やめろ」
ゆっくりの形をしたオナホールを売っていた
この露店はゆっくりレイプ同好会の出店だった
「市民の憩いの場でオナホなんか売るなよ!」
「オナホとは人聞きの悪い。ちょっとだけ“精巧”に出来た人形だ。役場にそう届出を出したらちゃんと受理されたぞ」
「じゃあなんで対象が18歳以上なんだよ!? 明らかにおかしいだろ!」
「年齢制限なんて売る側の勝手だろ」
法や制度の抜け穴を通るのに定評があるレイプ同好会
「こういうのもあるぞ」
ゲージに入ったちぇんを台の下から出した。人形ではなく本物だった
「フェラ用に調教したものだ。上級会員にしか売らない代物だ」
アンチには決して気付かれていない取引方法。全国各所でこれと同じ方法で取引が行なわれている
このように人目を誤魔化しながら、日本のレイパーは物資を秘密裏に流通させていた
「ところで」
「なに?」
向こうで待つ彼女を父が見た
「もしかしてあの子とデート中か?」
(そういえば委員長にもそう言われたな)
少し前の出来事を思い出す
役所の休憩所で一緒にお茶→公園でおしゃべり→露店を見て回る
「これデートなのかな?」
「男と女が一緒にお出かけしたら、それをデートと言わずなんと言う?」
急に気恥ずかしくなった
顔が少し赤くなる
「ふーちゃんとの交際は認めているが人間との交際は・・・・・・・あれ?」
父は目を袖で擦った
「あの子人間だよな?」
「人間だよ(一応)、当たり前じゃないか」
「おかしいな。父さん初めて人間相手に本気で可愛いという感情を持った」
(なんだろう、この感じ?)
小さな寒気が彼女を襲った
「お前の父として、ちょっと挨拶し…」
彼女の元へ行こうとした父の服を掴む
「あの子に声をかけたら、この方法を全国のアンチ同盟に流す」
「ぐっ」
「あの子に半径8m近づいたら・・・・・刺す!」
脅しでないのはその声色から嫌でも伝わってきた
ボブが自分に邪な好意を持つように、万が一父が彼女に邪な好意を持ってしまったら?
それだけは絶対に阻止しなければならなかった
「いいね。絶対にあの子に関わったらだめだよ! ・・・・・・あ、あとこの事をふーちゃんに話してもアンチにバラす」
「そんなことしないから安心しろ」
釘をさしてから、店を離れた
急いで彼女に駆け寄る
「ごめん、待たせて・・・・大丈夫?」
「なんか知らないけど突然寒気が」
寒気の元凶から遠ざかるために急ぎその場を離れた
「家に来る? お父さんとお母さんに紹介したらきっと喜ぶ」
駅へ向かう彼に彼女がそう提案してくれたので、予定を変更してそれに甘えることにした
田舎道に設置されたバス停に再び降りる
「ここから十五分くらい歩いたところが私の家」
「あのキリンハウスが?」
「キリンハウス?」
出発しようとした瞬間
「「!!!?」」
横の雑木林から威圧感を感じた
彼のうなじの産毛がもの凄い勢いで逆立った
彼女の中に眠るゆっくりの生存本能が大音量で警鐘を鳴らした
林の中に“何か”がいる
「あなたが先に振り向いて」
「ここはレディーファーストで」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「「せーーーーー、のっ!!」」
同時に振り向いた
「ハイ! ムスコクン」
私服姿のボブがいた。シャツのボタンの左右の高さがちぐはぐだった
明らかに事後だった
「知り合い?」
「まさか」
「ツレネーコトイウナヨ!」
彼女を自分の後に下がらせる
「テンプレだから訊いてやる。ここで何してた?」
ボブは親指を立てた
「ユックリレイプ~♪」
「いつから?」
「アサカラ」
彼が最初にここにきた時感じたのはボブの気配だった
「コノアタリニ、ドスガイル、ッテキイタ」
(そ、それ私のお父さんのことだっ!)
怯える彼女の前に立ってボブを睨む
「そう。なら頑張って探して。僕らはもう行くから」
会話をしながら二人は少しずつ後ずさっていた
一定の距離を取って踵を返す
「マッテ」
呼ばれ、走り出すタイミングを外され、前につんのめる
「ナンデカナァ・・・?」
ボブは自分の顔に手を当てる。そのせいで表情が窺えない
「ムスコクンダケジャナク、トナリノコモ・・・・・・・・ムラムラスル」
指の間から見えたボブの目は血走っていた
「まずい!! レイパーモードに入ってる!」
「えっ!?」
彼女の手を引き走り出そうとした瞬間
「ゆゆーーーー!!」
ドスまりさが降ってきてボブを押しつぶした
娘の危機を第六感で察知し、家を飛び出していた
「お父さん!」
「ナイスドス!」
驚く娘とガッツポーズをする息子。対照的な動作だった
圧し掛かられて動かなくなる黒人
慎重に近づき棒でつついてから手の脈を取る
「この人、気絶してる」
「ゆ~~。ごめんね。通せんぼするつもりだったんだけど。とびすぎちゃった・・・・」
「いや。よくやったと思うよ。今のうちにトドメさしとこうよ」
「それはちょっと・・・」
「ゆ~~」
彼の発言に親子は引いた
気絶したボブを担ぐ
「じゃあ、僕はこいつを始末…じゃなくて病院に連れてくから」
「救急車を呼んだほうがいいんじゃない?」
「実は彼、不法滞在者なんだ。救急車を呼ばれるといろいろまずい」
「そうなんだ・・・」
嘘である
「じゃあまた今度遊びに来て。その時はお母さんも紹介する」
「うん、近いうちに」
連絡先を交換して二人は分かれた
名残惜しくはなかった。いつでも会えるから
後ろ姿を見送る
仲良く揺れる二つの金色。どこからどう見ても二人は親子だった
「肩車いいなぁ・・・」
父にしてもらったのは何時のことかと、記憶を手繰りながら彼は家路についた
余談だが、ボブを雑木林の中に放置して帰った翌日。普通に家に遊びに来ていた
「ただいま」
「おかえりなさい」
リビングで洗濯を畳んでいたエプロン姿のきめぇ丸が彼に言葉を返した
「お爺さんはなんと?」
健診の結果を尋ねる
「異常無し。いたって健康」
「それは何より」
「喜んでくれるのは嬉しいけど、顔をシェエイクしないで、せっかく畳んだものが微妙に崩れてる」
週一ではあるが、きめぇ丸はこうして家を訪れて家事の手伝いをしてくれている
「父さんは帰ってきてる?」
「あちらでふーちゃんと遊んでます」
母は窓の外、庭の方を見た
「どんどん行くぞー!!」
「こい!!」
「オラオラオラオラーーーーーーーーーーーーー!」
父がふらんに向けて丸めたティッシュを1mほどの距離から次々と投げつけていた。父の持つカゴには丸めたティッシュが大量に入っている
体を左右に振って投げつけられたティッシュを全てかわすふらん
「良い感じだふーちゃん! だが、たまに微妙に湿ったティッシュも入っているから油断するな! 速さが違うから虚を突かれるぞ!! ちなみにちょっとイカ臭い!」
「何投げてんだよ!!」
勢い良く窓を開けて叫んだ
いろいろな家族がいる。そんなことを学んだ一日だった
fin
~~~あとがき~~~~
普段は書かないんですが、今回は書かせていただきます。
最初に名無しなんだ氏と、ゆっくりボールマン氏にお礼を申し上げます。クロス作品を書いて頂き本当にありがとうございます。
拙い私の作品に様々な装飾を施し、彩りをつけてくださった両氏には感謝の気持ちが尽きません。
今回
名無しなんだ氏のお考えになった少女が、あの街で偶然彼と出会ったらどうなるんだろう?と考えてこの話を書きました。
この話を書くうえで一番外せないのがヒロインの性格でした
彼女は面倒くさがり屋なんだろうか? 真面目? 高圧的な性格? 実は熱血屋? 他人思い? 無口なクール系? 達観者?
氏の作品を何度も読み返して、今回のような性格で書かせていただきました。
勝手に委員長の知り合いにしてごめんなさい。預かっているお子さんを好き勝手に動かしてすみません。
オリジナルと違うという批判は存分に受け付けます。他にも指摘したい点がございましたらお気軽に仰ってください。
最後に
僕はこうして~のシリーズのワンシーンを絵にして下さる方がいらして、非常に光栄です。その絵を拝見した時、感激のあまり手が震えました
この場を借りてお礼申し上げます。登場人物を可愛らしく書いていただき本当にありがとうございます。勃起しました。
最終更新:2022年05月03日 22:16