※このSSはfuku1450の続きというか、アナザーストーリーです。
※作者の762さん、勝手に設定を使ってしまい、すいません。



















 その日、フラワーマスターの異名を持つ風見幽香は酷く機嫌が悪かった。
 ゆっくりゆうかのせいである。
 本当は違うのかもしれないが、ゆっくりゆうかのせいだと思わなければ、彼女はやっていられないのだ。
 苛立ちを、近くにいるゆっくりを全て叩き潰す事で僅かに晴らしつつ、幽香はそこら辺をぶらぶらと散歩し続けた。





 『ゆっくり後悔し続けてね!』





  • その数日前。

 幽香は、好奇心に満ち溢れた顔で、道を急いでいた。
 自分に似たゆっくりがおり、そのゆっくりは花畑を作っていると言われたためである。
 花の妖怪である自分に似ているのだから、ゆっくりだとしても花畑を作り出すのは当然という思いから、幽香は道を急いでいた。
――ここはこの花よりこっちが良いわ。それに、あそこはもっと肥料をあげないと。あなたが肥料になるかしら?
――あぁ、こんな所に肥料をやっちゃダメじゃないの。あなた、本気で花を育てる気があるのかしら?
 そんな、大量のダメ出しを夢想している幽香は、自分の口が笑いの形に歪んで来ているとは思いもしなかった。
 このフラワーマスター、真性のドSである。
 ともあれ、幽香は目的の花畑にたどり着いた。

「なにこれ……」
 口だけが笑っていた幽香の表情が、驚愕のそれに変わった。
 小さい。
 いや、ゆっくりが育てると考えると、大きめなのだろう。そもそも、花畑の大小はその美しさに関連はないと幽香は考えている。
 種類が4種類しかない。
 これも、ゆっくりが育てている事とここの土壌の質を考えると、これが限界だろう。下手に手を加えては自然の美しさが損なわれてしまう。
 全体的に肥料が少ない。
 ここに肥料をぶちまけようとする者がいたら、幽香によるマスタースパークでチリと化すだろう。肥料はこのままで良い。
 そして、美しい。
 幽香が驚いてしまうほどに、多数の花が、最も美しく見える様に考え抜かれた配置で置かれている。

 その真ん中にいるゆっくりゆうかを見て、幽香はより驚いた。
 泥だらけになりながら、本当に楽しそうに、大事な宝物を扱う様に花を慎重に手入れしている。
――似ているなんてもんじゃないわよ、あれ。
 それは、ただ花と一緒に生きられる事だけで嬉しかった、数百年前の風見幽香そのものの姿だった。

 幽香は、無言でその場を後にした。
 ダメ出しも何もない。ここは、既に完成した花畑である。
 確かにフラワーマスターとしての目から見るとまだアラはあるが、それでも、一個の完成しようとしている作品に手を入れる事はできなかった。



  • その一時間前。

 幽香は、何となく面白くない顔で、道を急いでいた。
 自分に似たゆっくりが作り続けている作品の果てを見届けるためである。
 果てと言っても、マスタースパークをブチ込んで破壊しようという意味ではない。
 むしろ、そんな事をしようとする相手に幽香自身のマスタースパークが5発ほど打ち込まれるだろう。
 幽香は、一個のまだ荒削りな芸術作品の完成を見届けようとしているのである。
 完成後のダメ出しならばいくらでもするつもりだ。自分が手本を見せても良い。何なら連れ帰っても良い。
 太陽の畑を、まだ荒削りなその技術で整えようとして何度も失敗を繰り返し、涙を流しながらも何度もやり直すゆっくりゆうか。
 そして、叱りつつも段々と成長を遂げていくゆうかを眺めて良い気分になる自分……幽香の脳裏に、そんな未来が現実感を持って迫っていた。
 叱る想像をしたから機嫌が直ったのか、笑顔になって更に道を急ぐドS……もとい、幽香。

 だから、幽香は途中で5つの饅頭とすれ違った事に気が付かなかった。いや、気が付けなかった。



  • その数分後。

 幽香は、その場に立ち尽くしていた。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~♪」
「こっちもうめぇよ! ゆっくりできるよ~♪」
「ここはさいこうのゆっくりプレイスだね!」
「ちがうよ! でんせつのゆっくりぱらだいすだよ!」
「ゆっくりぱらだいす!?」
「しっているのかみょん!」
「ちちんぽ……ぜんぜんしらないちーんぽ!」
「じゃあなんでしってるみたいなこといったの? わからないよーwww」
 饅頭どもの爆笑に包まれるそこを見た時、幽香は記憶違いだったかと思ってしまった。
 それほどに様変わりしてしまった元芸術作品の片隅で、幽香はただ立ち尽くしていた。
――そう。
 4つあった花畑は、全てが色とりどりの薄汚い饅頭どもによって食い荒らされていた。
 ゆっくりゆうかはいない。どのゆっくりがやったのかは分からないが、恐らくは殺されたのだろう。食われたのかもしれない。
――あの子は、もういないのね。
「あれ、そういえばあのこたちとめーりんは?」
「しらなーい、まだいじめてるんじゃない?」
「あのこたちもめーりんいじめがすきだよねーw」
「ほんとーw ゆっくりするほうがたのしいのにねーw」
――『ゆっくり』理解させてもらったわ。
「そういえば、ここをかってにせんりょうしてたゆうかはどこ?」
「ゆっくりこっちにすてたよ! あれ、いないよー?」
「あのこたちがつれてったよ、きっと、ゆっくりたべるんだよ!」
「れいむたちもたべたいなー」
「あとでもらいにいこうね! よにんだけなんだから、おねがいしたらすぐくれるよ!」
 食べる。あの子を『四人組』が食べる。
 太陽の畑へと連れ帰る予定だったあの子を。こいつらが、食べる。
――お礼に『ゆっくり』させてあげるわ。永久にね。
 幽香の頭のどこかから、ブチンと何かが切れる音が聞こえた。


  • 同時刻、ゆっくりの群れ。

「あのこたちはすごくゆっくりしてるよね! こんなにいっぱいごはんあるところをしょうかいしてくれたんだもん!」
「だよね! ほんとにあのこたちはゆっくりしてるよ! おれいに、みんなでゆっくりしてあげようね!」
 このゆっくりの群れは、今、心の底から幸せだった。
 たくさんのごちそうがある。たくさんの仲間と一緒にいる。たくさんゆっくりできる。
 それだけの状況が揃っていて、幸せじゃないゆっくりなんてゆっくりじゃない。そう思うほどに、幸せだった。
 不意に、パチンと手を叩く音が響いた。
 それと同時に、何か粉の様な物体が辺りを舞う。
 日の光で美しく輝くそれは、ゆっくり達が初めて見るものだ。
「うわー、あれなにー?」
「ゆっくりしてるね! すごくきれいだよ!」
「ここはみんなのゆっくりプレイスだけど、ゆっくりできるこならたくさんゆっくりしていってね!」
 キラキラと輝くそれを、ゆっくり達は幸せそうに眺めていた。
 また、ぱちんと手を叩く音が響く。
 影が、それに応じてゆっくりの群れの方へと近づいてくる。
 ゆっくり達は、自分の願いが聞き入れられたと思い、嬉しくなって飛び跳ねた。
「ゆっくりしていっぐびゅぅ!?」
 気の早いゆっくりがそれに頬をすり寄せようと近づいた……と思った直後、突然その場でぶるぶると震え出す。
 異様なその状況に、群れのゆっくり達はざわざわと騒ぎながら近づいていった。
「どうしたの? ゆっくりしてよ!」
「どこかいたくしたの? ゆっくりすればなおるよ!」
「なんでなにもいわないの? おくちのなかいたくしたの……ゆびゃぁぁぁ!!! なにごれぇぇぇ!!!」
 近づいたゆっくり達が、一斉にその場から飛び跳ねて逃げる。
 そこに「あった」のは、もうゆっくりではなかった。
 真ん中に杭が打ち込まれた様に、みっちりと何かが詰まっている何か。
 仲間だったものの目から口から、皮を突き破ってどんどんと成長を遂げていくそれを見て、ゆっくり達の群れは恐慌に襲われた。
「ゆぎゃぁぁぁ!!!」
「なにごれぇぇぇ!!!」
「ごわいよぉぉぉ!!!」
 それぞれに泣き叫ぶゆっくり達。
 だが、真の恐怖はこれから始まるのである。
「ゆぎゅっ! ……ぺっぺっ! けむいよ! なにこれ!」
「くちゅん! ゆっくりできないよ! くちゅん!」
 仲間だったそれは、今や完全に樹木と化している。
 それの先端からぶわっと煙の様な何かが撒き散らされ、周囲は大量の花粉に覆われた。
「ゆぎゃぁぁぁ!!! いだい! いだいよぉがぶぅ!!!」
「なにごれ! なにごれぇぇぇぎゃらっば!!!」
「だずげで、ゆっぐりざぜでぇぇぇえひぃぃ!!!」
 ばつんばつんと、音を立ててゆっくり達の体内から、柔らかい饅頭の皮を突き破って樹木が生えていく。
 ゆっくり達の群れは、ほどなく樹木の群れへと生まれ変わったのである。


 フウバイカ
「風媒花。どう? とてもゆっくりできるでしょう?」
 ぽつりと、無表情に幽香は呟いた。
 風媒花とは、その名の通り風を花粉の媒介として利用する種類の植物である。
 虫を引き付ける必要がないために花びらがないものもあり、またあっても目立たず、香りもほとんどない。花と言えるかどうかも怪しい。
「本当、生物としても食物としても中途半端なこいつらにはお似合いの墓標ね」
 その一言を残して、幽香はその場を後にした。



  • その一時間後。

 幽香は、無表情に道を歩いていた。
 その目は暗く光っており、下手に触れると消滅させられてしまうのではないかと思われるほどの恐ろしさに満ちている。
 幽香は、時々立ち止まっては何かを探す様に周囲を眺めている。
 本来ならば、どんな奥地に潜むものであろうと、草花ですぐに探し出す事が出来る。
 だが、幽香はあえて自力で見つけ出そうとしていた。
 頭に浮かぶのは、僅か数日前に見つけた、泥だらけで楽しそうに花の世話をする数百年前の自分の姿。
 その頃は、自分はここまでの大妖怪ではなく、花との関係も友達のそれであった。
 数百年前の幽香は、花の妖怪ではなく、花の世話をするのが好きなだけのただの妖怪未満の少女であった。
 ならば、花を利用して探し出すなどできっこない。
 幽香は、道の途中途中で見つけたしおれた草花を優しく癒してやりながら、無表情に道を歩き続けた。

「見つけた」
 呟きが、風に溶けていく。
 目の前には、やけに楽しそうな四匹のゆっくり達と、一匹の四角いゆっくり。
 幽香は、誰が見ても分かるだろう作り笑顔で憎むべき饅頭どもの前に降り立った。
「こんにちは、ゆっくりしているかしら?」
「ゆっ! おばさんだれ?」
「ゆっくりできるひと? ゆっくりできないならさっさとどっかいってね!」
「ありすはとかいはなんだからさいこうにゆっくりしてるにきまってるでしょ!? おばさんばかなの?」
「むきゅーん! ばかなおばさんとはゆっくりできないよ! さっさとどっかいってね!」
「うーうー♪」
 ただ笑顔で話しかけただけの幽香にここまでの暴言を吐く四匹のゆっくりと、何が楽しいのか分からないが、ただ笑っている四角いゆっくり。
 だが、ここまでの腐れた根性の持ち主が良く生き延びられたものだと感心するのはまだ早いだろう。
 もうすぐ、五匹は終わる。完膚なきまでに。
 幽香は内心の感情を押し込めて、張り付いた様な笑顔のままで誘いをかけた。
「残念ね。もっとゆっくり出来る場所に案内しようと思ったのだけれど」
「ゆゆっ! ゆっくりできるところならいきたいよ! さっさとあんないしてね!」
「ゆっくりプレイスはみのがさないよ! さっさとつれていってね!」
「いなかものはむだにもったいぶるからきらいよ! でも、ゆっくりできるならいってあげなくもないわよ!」
「むきゅきゅん! ゆっくりできるところならぱちぇもたくさんしってるけど、おばさんのいってるとこはもっとゆっくりできるでしょうね!?」
「うーうー♪」
 早く早くと急かすゆっくり四匹をなだめながら、幽香はゆっくりと歩き出した。
 後ろからフラフラと追いかけてくるうーパックも、せっかくだから連れて行く。
 その方向は、太陽の畑。



  • その二時間後。

「「「ここがゆっくりできるばしょなの!?」」」
「うー、ううー♪」
 太陽の畑。
 そこは、ひまわりが咲き誇る幽香の庭であり、故郷であり、砦でもある場所。
 四匹のゆっくりにうーパックを含めた五匹は、珍しそうに辺りを眺めていた。
「ええ、あなたたちにはここで永遠にゆっくりしていただくわ」
 そんなゆっくり達に、幽香はキラキラと光る何かを振り掛けた。
「ゆゆっ!? このきらきらしたのなに? きれー」
「あまくないけど、きれいでしあわせー」
「むきゅん! これはきんぱくね! きらきらしてきれいだわ!」
「きんぱくくらい、とかいはのアリスはしってるわ! とかいのマナーのひとつだわ! おばさんにしてはわかってるじゃない!」
「うーうーうー♪」
 キラキラと光る何かを振りかけられて、うーパックは素直に喜び、四匹のゆっくり達も口調が悪いが嬉しそうにしている。
「本来ならばあなた達には絶対に寄生しない菌類なのだけど、特別にあなた達のために性質を変えさせてもらったわ」
 嬉しいでしょう? と微笑む幽香に、ゆっくり達は大喜びで跳ね回りだした。
「ありがとう! じゃあ、おばさんにはもうようはないからゆっくりどっかいってね!」
「ゆっくりしたかったらべつのところでしてね! ここはまりさたちのゆっくりプレイスだよ!」
「ここはとかいはのアリスたちのゆっくりプレイスにしてあげるわ! ありがたくおもいながらどっかにきえなさい!」
「むきゅ、にんげんがいたらゆっくりできないから、さっさときえてね!」
「う、ううー?」
 豹変する仲間についていけないのか、オロオロとしだすうーパック以外のゆっくり達が口々に出て行けと叫ぶのを聞いて、幽香は穏やかに頷いた。
「分かったわ、じゃあ、私はこれで失礼させてもらうわね。あなた達は、永久にそこでゆっくりしていきなさい」
 じゃあね、と口の端のみに浮かべた笑顔を残して消える幽香。
「ゆぎゅっ、きえちゃったよ!?」
「にんげんはゆっくりしてないね!」
「むきゅ、これはてじなね、あのおばさんはマジシャンなんだわ」
「ま、まじしゃんくらいはとかいのじょうしきよね! もちろんアリスもおせわしてあげたわ! あのおばさんもアリスをそんけーしてるはずよ!」
 ゆっくり達は目の前からいきなり消失した人間に少々面食らったが、ゆっくりできるのだから言う事はない。
 お腹が空いたらそこら辺にあるひまわりをかじれば良いし、この辺りには危険な捕食種もいない様だ。
 ゆっくり達は、思い思いにゆっくりし始めた。
 うーパックはまだオロオロとしていたが、仲間がゆっくりしているのを見て、一緒にゆっくりしたくなったようで、大人しく近くに羽を休めた。



  • その二時間半後。

「「「ゆっくりしていってね!」」」
 ゆっくり達は、ゆっくりするのにもう飽きたらしく、跳ね回って遊んでいた。
「ゆっくりたのしいねー!」
「すごくゆっくりできるよ! さすがまりさたちのゆっくりプレイスだね!」
「むきゅ、ゆっくりできるね。おばさんにごほんもってきてもらえたらもっとゆっくりできたんだけどね。きがきかないわねあのおばさん」
「パチェはほんだいすきなゆっくりだからね! とかいはのアリスは、ほんがなくてもゆっくりできるよ!」
「むきゅ、ただのうてんきなだけよ。アリスは」
「アリスはどっかのゆっくりと『ゆきずりのすっきり』ができたらいいんだもんね! ゆっくりしようよwww」
 げらげらと笑い合うゆっくり達。
 その様子をのんびりと見守っているうーパックは、ゆっくりしているためか、自分の体内に不思議なかゆみが出てきた事に気付けなかった。
 それが、自分の生命を左右するとも知らずに。



  • その三時間後。

「うー……うー……うぐっ!」
「ゆぎゅ!?」
「ゆあっ!?」
「あぎゃ!?」
「むぎゅ!?」
 びくんと、五匹同時にその場に立ち止まった。
 異常な何かが、物体となって自分の内側からどんどんと膨れ上がっていく感触。
 おぞましいその感覚に、五匹は身を震わせた。
「おばざん! まじじゃんのおばざん! なんがへんだよごれぇぇぇ!!!」
「なにごれ、ぎもぢわるいぃぃぃ! おばざん、ざっざどだずげでよぉぉぉ!!!」
「ぎもぢわるいぃぃぃ! ぎもぢわるいよぉぉぉ! どがいはになんでごどずるのぉぉぉ!!!」
「むぎゅ……きぼぢわどぅい……げほっ、エ”ホッ! ばぎぞうだよぉ……」
「うぐぐぐ……うー! うー! うー!!!」
 いくらもがいても、自分の内側から膨れ上がってくる感触が押さえられない。
 四匹は、泣き叫んで様々な者に助けを求めた。うーパックは、感触を少しでもどうにかしたくて、ただただ暴れまわっている。
「「「おばざん! おがーぢゃん! ……ぐずめーりん! ざっざどだずげろ!!!」」」
 ゆっくりめーりん。ずっとバカにしていたそいつは、先ほど自分達の手で二度とゆっくり出来なくした。
 だが、そんな事もアンコ脳には残っていないのか、ゆっくり達は延々と文句を喚き続ける。
「なにゆっぐりじでんのよぉぉぉ! ざっざどごっぢぎでだずげろばがめーりん!!!」
「おまえにやれるのはぞれだげなんだがら、まりざだぢのやぐにだであほめーりん!!!」
「ありずのがわりにいながもののおまえがどうにがじろまぬげめーりん!!!」
「むぎゅ……いらないごっていわれだぐながっだらざっざどだずげにごいぐずめーりん」
 口々に怨嗟の声をあげるゆっくり達の目はにごり、もうどれだけの愛好者であってもこんなゆっくりだけは愛せないだろうと思えるほどに醜かった。
 そんな中、症状の重かったうーパックが、凄まじい悲鳴を上げた。
「うぎゅあぁぁぁぁぁ!!!」
「「「ゆ……ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!!」」」
 がくがくと震えるうーパックの口から目から、様々な場所から、黒色の植物の芽の様なものが次々にはみ出してくる。
 そのおぞましい光景に、ゆっくり達は悲鳴を上げる。
 だが、慌てて口を閉じ、目を硬くつぶった。
 いつ、自分からもあの芽が伸びてくるかわからない。それを考えると、目を開ける事も口を開く事も恐ろしかった。

「無駄よ、それはあなた達の体を突き破って出てくる。口を閉じようが目を閉じようが結末は何も変わらない」
 不意に、近くからニンゲンの声が聞こえてきた。
 その声が先ほどのマジシャンだと分かったまりさは、即座に口を開いて抗議しだした。
「おばざん! ざっざどまりざだぢをだずげでよ! おばざんがごごにづれでぎだんだがら、おばざんがなんどがじろぉぉぉ!!!」
 抗議と言っても、ゆっくりではダダをこねる程度の事しか出来ない。
 幽香は、笑顔で一言だけ答えた。
「あなた達を助ける気なんて毛一本ほどもないわ」
 更に何か言おうとしたまりさの口から、数本の芽が飛び出してくる。
 まりさは、文句を言う気など消えうせ、芽が様々な場所から生えだそうとするその感触を耐える事しか出来なくなった。
 四匹のゆっくり達は、完全に寄生植物の宿主と成り果てたのである。


 トウチュウカソウ
「冬虫夏草。あなた達に植え付けたのは、そういう名前の植物よ」
 あえぐゆっくり達に対して、無表情なままの幽香は、独り言を漏らす様に告げた。
 冬虫夏草とは、虫や植物に寄生して成長するタイプの菌類……キノコやカビなどの一種……である。
 普通の冬虫夏草ならば、ゆっくりに寄生する事はありえないし、宿主を殺してから成長するのだが、これは幽香の特製である。
 このゆっくり達は、もう死ぬ事も動く事も出来ず、冬虫夏草の奇妙な茎部分としてこれからずっと生き続けるのだ。
「あなた達に潰された草花の気持ち、そこでゆっくり理解すると良いわ」
 じゃあ、さよなら。一言だけ残して、幽香はその場を後にした。
「まっでぇぇぇ! ゆっぐりざぜでよぉぉぉ!!!」
「おば……おねえざんんん! まりざだげでもだずげでよぉぉぉ!!!」
「ありず、いながものでいいでずがらだずげでぇぇぇ! おねがいでずぅぅぅ!!!」
「むっぎゅー!!! ばぢぇじんじゃう! ほんもよめないごんなどごじゃじんじゃうぅぅぅ!!!」
「うぎゅ……うー……」


 五匹がそれぞれに境遇を嘆くその姿を、ひまわりがあざ笑うかの様にゆらゆらと揺れながらただ眺めていた。







 花を食べたゆっくりは花に仕置きされるという事で、幽香りんにいじめてもらいました。
 このゆっくりは、うーパックも含めて永久に苦しみ続ける事でしょう。

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最終更新:2022年05月04日 22:11