※悲劇系です。
「またやられとるわ……」
無惨にも荒らされた畑の野菜たちを見て、農民は肩を落とした。
幻想郷にゆっくり達が出現して以来、農民にとって一番の害虫がゆっくりだった。
きちんと柵をつくり、監視できるようにできる農家ならともかく、どこの農家も対策ができるわけではない。
倒していけばそのうち少なくなるかと、来るたびに潰したりもしたが、ゆっくりの繁殖率は並じゃなく、後から後から湧いてくる。
つい先日も撃退したばかりだったので大丈夫だと思っていたのだが、油断した結果がこの荒らされた畑だった。
いつまでも気を落としていても仕方がないと、農民は顔を叩き、無事な野菜を収穫していく。
そんな農民の様子を樹の影から、きめぇ丸が観察していた。
「……」
樹の根っこ辺りで見え隠れするきめぇ丸の姿だが、農民が気づく様子はない。
きめぇ丸は人間観察を趣味としている。自身も確たる理由があるわけではないが、遠く離れた場所からつい見てしまう習性のようなものがあった。
そのせいか、普通のゆっくり達より頭が良く、知識も多い。
今、観察していた農民が、他のゆっくりの被害にあって困っているのは手に取るようにわかった。
「……」
きめぇ丸は頭をいつものようにぶんぶんと動かすと、樹から猛スピードで離れていった。
人間が困っているのを見るのは忍びない。
取りあえず悪さをしているゆっくりを、黙らせようと思っていた。
ゆっくり達が畑を荒らす際の方法はいくつかある。
1番多いのが偶然見つけた場合。この場合は家族連れなのが多いので、全部潰すか恐怖を与えておけば、次から来ることはほとんどなくなる。
そして2番目に多いのが、群れの餌探しに来ていたゆっくりに見つかる場合である。
その場合、逃がしてしまうと、群れのゆっくりが替わり替わりに畑を襲うことになり、ほぼ永遠に争いは続く事になる。
きめぇ丸が観察していた農民はまさにその状況だった。
そうなると、荒らせないようにするにはただ1つ。
ゆっくりの群れを全滅させる事だった。
「ゆっ! ゆっ!」
涙が地面に落ち、飛び跳ねて移動するゆっくりまりさに跡をつける。しかし涙を気にする余裕はない。
急いで逃げなければ、まりさはあっという間に餌食になるだろう。
群れのゆっくりたちのように。
「ゆっぐっ! ゆっぐっ! みんだぁああぁあっ!!」
自分を残して死んでいったゆっくり達を思い浮かべ、まりさの涙の勢いは増していった。
しかし仲間たちは浮かばれない。
みんなが必死に身を守っていた瞬間、「まりさは関係ないよ! みんなゆっくりしていてね!」とまりさは勝手に逃げ出したのだから。
まりさは後ろを振り返る、遠くに見える岩。ここからでは見えないがその麓がまりさ達の住処だ。
「はぁ……はぁ……」
ここまで来たら大丈夫だとまりさは動くのを止め、その場でぐにゃりと体を潰した。
うぉんっと。
奇妙な音が響き渡った。
「……ゆっ?」
まりさ自身、聞き覚えのない音が辺りに響いている。
徐々に大きくなっていく音が、一際大きな音を立てた時。
突風と共に、きめぇ丸が現れた。
「ゆっ、ゆぅううううぅううぅううぅっ!?」
「……」
ゆっくりときめぇ丸はまりさに近づいていく。
見たこともない謎のゆっくりに、まりさはただ恐怖に震えるばかりだ。
きめぇ丸は、まりさを体をつかって樹に押しつけると、そのままいつものようにぶんぶんと左右に体を動かし始める。
「ゆゆゆゆゆゆっ!?」
初めは痛いというよりくすぐったいに近い感覚だったが、徐々にまりさの体は熱くなっていく。
「ゆ、ゆゆゆゆゆ……っ」
激しく動く体の振動に、欲情して来ていた。
しかし、きめぇ丸の動きは止まることなく、さらに激しく動き始める。
「ゆゆっ! ゆぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ!!」
快感も過ぎれば痛みに変わる。
「ゆぐりっ! ゆっぐりじでよ゛ぉお゛おぉおっ!! いだいい゛いぃい゛ぃいいっ!!」
まりさの言葉に耳は貸さず、さらにきめぇ丸は激しく動き始める。
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ぐぱぁはっ!!」
何かを吐き出したような声を上げて、まりさはまるで動かなくなってしまった。
きめぇ丸は体を退け、まりさの様子を見る。
悶絶したまりさは、白目を向いたまま事切れていた。
「……」
きめぇ丸は、元の場所へ戻っていく。
後には、放置されたまりさの死体だけが残っていた。
ゆっくりの群れを滅ぼしてから半月後。
きめぇ丸はあの時の農民がどうなったか、様子を見にやって来ていた。
樹の影に隠れて様子を伺うと、道ばたで農民が別の人と話をしている。
「ここのところ、ゆっくりが出なくなってよかったなぁ」
「ホントだわ、ずっと悩んどったけど、ようやく肩の荷が下りるね」
どうやら狙い通り、ゆっくりの被害はなくなったらしい。
依然とは違った前向きな笑顔を浮かべている農民を見て、きめぇ丸はいつもより激しく左右に体を動かし始めた。
きめぇ丸の頭が割れたのは、そんな時だった。
横に大きく吹き飛ばされ、頬が地面に擦られる。
頭の殻が砕けているのが、きめぇ丸にもよくわかった。
「お……おい! やったか!」
「ああ、みろ! 頭が割れたぞ!」
「おおっ!! よくやった!! これで村も安心じゃて!」
棒を持って楽しそうに話している村人たちがいる。
村人に殴られたのだろうか……きめぇ丸にはきちんと断言できない。
なぜ自分が殴られるのか、きめぇ丸には理由がわからないからだ。
「お、おい! いま動いたぞ!」
「こいつまだ生きているのか! 気持ち悪い奴め!」
「虫の息だ! 全員でたたきのめすぞ!」
振りかぶり、そのまま一斉に体を襲う棒。
次々と割れる殻の感触が、きめぇ丸はどこか他人事のように思えていた。
いつも遠くから人間を観察していたきめぇ丸は、自分は人間から見ればどう思われるのか把握できていない。
ただ嫌われたりはしないだろうと、漠然と思っていた。
それなのに理由もわからず、ただ殴られる事実が、きめぇ丸は悲しかった。
「よしっ! とどめだ!」
「やっちまぇ!!」
きめぇ丸の瞳に目掛けて樹の棒が迫ってくる。
その時、雫が頬を伝った。
殻の割れる音が響くと共に、きめぇ丸の意識は飛んでいった。
きめぇ丸は気づかなかった。
自分は人間が好きで、しかし相手には恐れられている事に、最後まで気づかなかった。
End
最近意図せず10k以上書いていたので、意識して短めに書いてみた。
しかし内容は悲劇系。たぶん暴力的に好き勝手、虐待されるきめぇ丸を見たい人も多いと思うけど、思いついたのはこれだった。最近は悲劇と喜劇を交互に書いてばかりから困る。
そろそろ1度、スカッ! とするような内容を書きたいですね。
元ネタはスレで前に出ていた、人間に外見で害虫だと思われて迫害を受ける。というのを使わせてもらいました。ありがとうございます。
by 762
最終更新:2022年05月04日 22:16