板挟み
「むきゅう……さすがにむしさんをつかまえるのはつかれるわ……」
自分の巣に帰ってきたぱちゅりーは、長いため息をつく。
ぱちゅりーは群れの中でも古参のゆっくりだった。
既に伴侶のまりさとは死に別れて久しい。
子供を作る暇もなく、まりさは人間の里に野菜を採りに行って帰らぬゆっくりとなった。
それからは、バカな行いに走ることもなく、いつしか群れに頼られる存在となっていた。
ぱちゅりーが採ってきた食料を口に運ぼうとしたとき、騒がしい客が来た。
「ぱちゅりー! おじゃまするよ!」
れいむだった。
ぱちゅりーはうんざりしていた。最近、よくれいむの愚痴を聞かされるからだ。
「ゆゆっ、ちょうどごはんだったんだね! ちょうどよかった! れいむにもちょっとおすそわけしてね!」
「むきゅっ、それはぱちゅりーの」
有無を言わさず、れいむはぱちゅりーの採ってきた食料を口にほおばった。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー」
「むきゅう……」
目の前に残る、半分になった食料を見てぱちゅりーは落ち込んだ。
「ふう、それなりだったよ! ぱちゅりー! もっとえいようのあるものたべたほうがいいよ!」
厚かましくも、れいむはこう言い放つ。ぱちゅりーは、ため息をつく。
「せっかくぱちゅりーがあつめてきたのに……」
「ゆっ! せこいこといわないでね! れいむはこころにきずをおってるんだから、ちょっとぐらい、やさしさをわけてね!」
「むきゅ……どうせまたまりさがうわきしたってはなしなんでしょ」
「そうだよ! またあのどろぼうねこありすとうわきしてるんだよ! れいむみたんだよ!」
またその話だ、とぱちゅりーはうんざりする。
いくらゆっくりの物覚えが悪いとはいえ、こう毎日のように聞かされれば、嫌でも頭にすり込まれる。
大体、話はいつも同じだった。
赤ちゃんを産むまでは、ゆっくりいちの、仲良し夫婦だった。
それが、赤ちゃんが育ってきてからは、ありすのほうに目移りしている。
もう愛はないのか。問いつめても、答えをはぐらかされるだけ。反省の色はない。
そもそも、あんな気取っているばかりのありすのどこがいいのか分からない。
何とかありすを遠ざけられないものだろうか。
「むきゅ、そうはいっても、うわきはおっとのかいしょうというものだし……」
うんざりしているせいで、森の賢者と他のゆっくりに尊敬されているぱちゅりーの答えも、どこか投げやりだ。
「ゆゆっ、ぱちゅりー、まりさのかたをもつの!? かわいそうなのはどうみてもれいむでしょお!?」
「べつにそんなことはいってないわよ、そんなにありすとまりさがいっしょにいるのがいやなら、ありすにちょくせついえばいいのよ」
「いってもむだだよ! あのどろぼうねこ! なんどいっても、こりないんだよ!」
「はああ……いい? れいむ、ちゃんとまりさはれいむとこどものごはんをとってくれているんでしょう? それにたいしてかんしゃしなきゃ」
「かんしゃするすじあいなんかないよ! かぞくをたべさせるのはおっとのやくめだよ!」
「だからね、そういうたいどばかりとっているから、まりさのほうも……」
「ほらやっぱりまりさのかたをもっているよ!」
一事が万事、この調子で、ぱちゅりーは心身ともにげんなりする。
言うだけ言って、ようやくすっきりしたのか、れいむは飛び跳ねて帰って行った。
「むきゅ……ようやくごはんをたべれるわ……いただきま」
「ぱちゅりー! ちょっときいてくれる!?」
飛び込んできたのは、先ほどまでれいむに泥棒猫呼ばわりされていたありすだった。
「むぎゅう……どうせれいむとまりさをわかれさせるほうほうをおしえろっていうんでしょ」
「あら、わかってるならはなしははやいわね! あ、さっきまでまりさといっしょにあそんでいたら、おなかすいちゃった! ちょっとごはんをわけてね!」
そして、ぱちゅりーの食料は四分の一になった。
「ほんと、しんじられないわ、どうしてあんないなかもののれいむとずっといっしょにいるのかしら!」
「それは、あいてにもかぞくがいるんだから」
「もうまりさは、れいむにあきているのよ! あのごうよくれいむは、まりさにあまえてなまけているだけよ!」
「そうはいっても、やはりかぞくをかんたんにはきりすてられないじゃない……」
「そう、それよ! そのかぞくが、いまのまりさにはおもにになっているのよ!」
「それでなに? こんどはありすが、まりさのおもにになりたいっていうの?」
「なによぱちゅりー! れいむにかたいれするの!?」
さっきと似たセリフを聞いて、ぱちゅりーは嫌なデジャブを覚えた。
言うだけ言って、ようやくすっきりしたのか、ありすは飛び跳ねて帰って行った。
「むきゅう、どうしてあんなに、まりさはむだにもてるのかしらね……」
ぱちゅりーは残った食料を、なるべく急いで口に詰め込む。
「むーしゃ、むーしゃ……たりないわ」
日も暮れた。新たに餌を探しに行くことも出来ず、ぱちゅりーは仕方なく、空腹のまま眠りについたのだった。
朝になって、空腹の体を引きずって、ぱちゅりーは食料を採りに出かけた。
「あ、ぱちゅりー! ちょうどいいところにきたわ!」
すっごく嫌な予感がして、振り返るとありすだった。
「ああ、ありす、おはよう……わるいけど、はなしならあとで」
「いいにゅーすがあるわ! ありすのおなかのなかに、なにがあるとおもう?」
「むぎゅっ!? ま、まさか……」
「そう、そのま・さ・か! ありすとまりさのあいのけっしょうよ!」
自慢げに、ありすはそのお腹を突き出した。
「む、む、むぎゅ」
このとき、ぱちゅりーが考えていたことはただ一つ。
この場にれいむが現れませんように。
だが、現実はぱちゅりーの考えている以上に冷酷だった。
「ゆうううううううっ!! ありずううううううっ!! このどろぼうねこおおおおっ!!」
思わず、中身のクリームを吐き出しかけた。
「あらあ、まむまむにくものすのはった、いなかのおばあさんがなんのようかしら?」
いきなり、ぱちゅりーの胸にぐさっとくるセリフをありすが吐く。
「れいむとまりさのしあわせなかぞくに、これいじょうちょっかいをかけるとようしゃしないよ!」
ものすごい形相で、れいむが怒鳴る。それに対して、ありすには余裕がある。
「しあわせなのはれいむだけでしょ? まりさはちっともゆっくりしてなかったわよ」
「そんなことないよ! れいむやこどもといっしょにいることが、まりさにとっていちばんゆっくりできるんだよ! しょせんありすとのかんけいなんて、ゆっくりできないひあそびなんだよ!」
その言葉に、少しありすの顔が怒りにゆがむ。
「なによ! まりさがいってたわ! もうゆっくりできないれいむとはわかれたいって」
「ゆっ! そんなことないよ! まりさのいちばんは、れいむとこどもたちだって、いってたよ!」
ありすが、せせら笑う。
「あら! いつまでもそんなうそをつかせているなんて、まりさもこころぐるしいでしょうね!」
「ゆぎいっ! ……ちょうどいいきかいだよ、ぱちゅりーもここにいるし、どっちがただしいかおしえてもらおうね!」
「むぎゅっ! なんでぱちゅりーが」
「いいわよ! どうかんがえても、ありすのほうがただしいにきまってるもの、ねえぱちゅりー?」
答えに窮するぱちゅりー。ちょうど顔は('A`)になっている。
「もう……みんなで……なかよくするっていうのは……だめ?」
「「ぱちゅりー! ふざけないでしんけんにかんがえてね!」」
空腹が、ぱちゅりーの理性を削り取っていく。
そもそも、どうして自分がこんな愚にも付かぬ饅頭の浮気話を聞かされねばならぬのか。
そして、どうして自分がその浮気話の解決の責任を負わねばならぬのか。
まったく答えが思いつかなかった。
こういうときには、とりあえず食事をしてゆっくりしなければ。
ちょうどいいタイミングで、目の前には二つの饅頭がある。
ぎゃあぎゃあと、耳障りな言葉でわめきあっていた。
「むっぎゃああああああっっっ! うるさあああああい! いただきます!!」
そしてかぶりついた。カスタードクリームの味。
理性の糸が、完全に切れた。
「ぎゃああああっっ! ありずのおかおがあっ! まりさにほめられたすべすべのおはだがあっ! 中身がこぼれるううっ!」
「ふんっ! いいきみだよ! やっぱりれいむのほうがただしかったんだね、ぱちゅ――げびゃんっ!」
勘に障る声を出した、もう一方の饅頭にもかぶりつく。
こっちは正統派な、餡子の味だった。
「どぼじでええええっっ???」
「ゆうっ! ありす、れいむ、ぱちゅりー! これはいったい、どういうことなんだぜ!?」
そして、その場に現れた、もう一つの饅頭。
全ての騒ぎの、元凶。
「むぎゃっぎゃっぎゃっ! まんじゅうがそもそもうわきなんかするなああっ!」
そう言って、ぱちゅりーはまりさに跳びかかった。
「ぐぎゃああああっ!?」
まりさはぱちゅりーを振り払おうとしたが、なかなか離れず、かえってその歯が体に食い込んできた。
近くの木にぱちゅりーを叩きつけるのと、致命的な噛み傷を負ったのは、同時だった。
こうして、多くの犠牲を伴って、ぱちゅりーは浮気騒ぎを何とか静めたのだった。
残されたれいむの子供達は、人間の里に行って全て潰された。
あとがき
ひらがなが多くなっちゃったなあ……
それにしても、浮気騒ぎってほんと、周囲の人間をげんなりさせるよね。
浮気する男はバカだし、浮気された女はねちっこいし……
今まで書いたもの。
飼いゆっくりと鬼意山(笑)とお兄さん達と
最後の言葉
山犬
最終更新:2022年05月22日 10:48