「「「ゆ゛~っ!!!」」」
3匹のゆっくりが竹林の中を必死の形相で駆け抜ける。
ゆっくりれいむ、ゆっくりまりさ、ゆっくりありす。
先頭でルートを選択し、後の2匹を導く、ゆっくりありす。
それに続く、ゆっくりまりさ。
運動が苦手なのか少し遅れているのが、ゆっくりれいむだった。
「がおー! たーべちゃーうぞー♪」
3匹は後方に迫る脅威・ゆっくりれみりゃからの逃走の真っ只中である。
普通のゆっくりなら、こんな状況ではすぐに捕まるところであるのだが、障害物の多い竹林と、それを巧みに利用するゆっくりありすの気転により、3匹はゆっくりれみりゃとの距離を保ったまま竹林を突き進んでいた。
しかし、こういう危機にこそ、アクシデントというものは起きる物だ。
最後尾にいるゆっくりれいむが突然つまづいてしまったのである。
ゆっくりれいむは人間でいうところの運動神経に欠けており、もし、ゆっくりありすの先導が無ければ、自ら竹に突っ込んで破裂してしまうのではないか、という程度の運動音痴ぶりであった。
「ゆ゛っ!?」
ゆっくりまりさが立ち止まり、ゆっくりれいむを助けにいく。
それに気づき、ゆっくりありすも立ち止まって、声をかける。
「れいむ! はやく立ち上がってね!」
そもそも倒れているのと立っているのの差もほとんどないのだが、ゆっくり達の概念的には一応存在しているようだ。
ゆっくりありすは正直なところ釈然としない。
なぜなら、この複雑な竹林の中で、ゆっくりれみりゃに追われながらのルート選択という難問の中においてなお、足元の小石などにも配慮して、なるべく走りやすいルートを選んでいたのだ。
すなわち、ゆっくりれいむは何も無いところで躓いてころんでしまったわけである。
以前から、ゆっくりありすは ゆっくりれいむに対し思うところがあった。
ゆっくりれいむのために危機を迎えたのは今回限りの話ではないのだ。
『もし、れいむがいなければ、もっと楽にゆっくりできるのに。』
正直な所、そう思ってしまうことも多々あった。
しかしすぐに、そんな考えを持ってしまう自分を自ら戒める。
なぜなら、ゆっくりれいむも ゆっくりまりさも大事な友人だから。
3匹は子供のころに、それぞれの親を亡くしてしまっていた。
いずれもゆっくり捕食種の襲撃によるものである。親に守られて何とか命拾いした3匹。いつしか出会い、協力して、どうにかここまで生き延びてきたのである。
そんな3匹にもいよいよ生命の危機がそこまで迫っていた。
ゆっくりれいむは急いで立ちあがったものの、次の1歩で再び転んでしまい、今度は横の竹に激突してしまった。もはや、スタミナ切れで、餡子がもつれているのであろう。
そしてその背後にはついに、ゆっくりれみりゃが口を開いており、今にもゆっくりれいむを食べようとしていた。
「いーただーきまーす♪」
このゆっくりれみりゃは胴なしのタイプである。
これは逃走していた3匹のゆっくりにとって不幸なことであった。
もし胴つきの希少種ゆっくりれみりゃであれば、おそらく竹に激突していたのはゆっくりれみりゃの方であろう。
しかし、ここにいるそれは無駄に人間を模した足が無いために激突する可能性は低い。
飛んでいるゆっくりれみりゃはコウモリの性質が強く残っており、超音波を利用した反響定位によって、複雑な地形と化している竹林の中でも、なんなく進んでいけるのである。
「「「ゆ゛~~~~っ!!!!」」」
3匹のゆっくりは死を覚悟した。
ゆっくりれみりゃが今まさに目の前にいる饅頭を食らおうとした際に、3匹のゆっくり達にとっての救世主が舞い降りた。
「お待ちなさい!」
兎のような耳を持つその少女の、赤い瞳が妖しい輝きを放つ。
ゆっくりれみりゃは その瞳にとりこまれるかのように、その場で静止した。
ゆっくりありすは その一瞬を見逃さず、すかさず声をかける。
「まりさ、れいむ! はやくこっちへ!」
「「ゆっ!」」 駆け出す2匹。
その声に反応して、我に返ったゆっくりれみりゃは再び獲物の追走に入る。
しかし次の瞬間……
ゆっくりれみりゃは頼もしく育った1本の竹に、全速で激突した。
「う゛~? う゛~?」
ゆっくりれみりゃには一体何が起こったのかわからない。
目をぱちくりさせるが、そうこうしてるうちに獲物はさらに遠くへと逃げてしまう。
ゆっくりれみりゃは気を取り直して再び浮遊。そして全速で追走に入り……そして全速で竹に激突する。何度も何度もそれを繰り返した。
「う゛わ゛あああああああ!」
ゆっくりれみりゃは ついにその場で泣き出してしまった。
「まんじゅういらない! おうちかえる!」
獲物を諦めたゆっくりれみりゃは 何十回と竹にぶつかりつつ、竹林を後にした。
さきほどまで すいすいと竹林をかき分けて飛んでいたはずなのに急に竹の位置が正確にわからなくなってしまったのだ。
その原因はあの兎少女・鈴仙の赤い瞳から発せられた妖しい光。超音波を狂わせることで、コウモリとしての能力を奪っていたのだ。
これは鈴仙の、無駄な殺生をしたくないという意向が強く働いた結果の措置であろう。
当のゆっくりれみりゃも、この竹林さえ越えれば いつもどおりに飛ぶことができるようになる。そこまで何度衝突するかは知らないが。
「「「おねーさん! たすけてくれてありがとう!」」」
逃走していた3匹のゆっくりは、ゆっくりれみりゃが飛び去るのを確認して、自分達を救ってくれた救世主にお礼を言いに戻ってきた。
「いえいえ、当然のことをしたまでよ。」
鈴仙はやさしく応えて、そのまま言葉を続けた。
「ところで……ここは危ないでしょうし、よかったらもっとゆっくりできるところまで案内してあげるけど?」
先ほどの逃走劇で疲れ果てているゆっくり達には魅力的な提案。
しかし、ゆっくりありすは考える。
『人間達は嘘をつくから気をつけろって、おかあさんが言ってたな』
実際のところ相手は人間ではないのだが。
ゆっくりありすが この申し出は断ろうと口を開く。
「ごめn」「「ゆっくりしたいよ!! ゆっくりつれていってね!!」」
ゆっくりれいむと ゆっくりまりさが、ゆっくりありすの言葉を遮った。
ゆっくりありすは一瞬唖然とするが、しかし理解も示す。
『あああ……まあ仕方ないかしら……』
ゆっくりれいむは この様子では、しばらく歩けないであろう。
この場で回復を待つにしても、確かに危険が無いわけではない。さらにいえば、辺りに食料も見られない。これに乗らない手も無いのかもしれない。
個人的には行きたくないのだが、2匹とバラバラになるのも心細い。ゆっくりありすも仕方なく了承し、3匹は鈴仙に着いていくことにした。
鈴仙が動けないゆっくりれいむを持ち上げる。
「ゆっ! たかいたかーい♪」「いいなーっ、れいむ」
先ほどまでの危機など嘘のように、ノンキである。
鈴仙は3匹を連れて永遠亭へと向かった。
永遠亭に辿りつくと、入り口で3匹に待つように言う鈴仙。
鈴仙はお使いを頼まれていたのだ。
「お師匠さまー! つれてきましたー!」鈴仙は八意永琳に声をかける。
「ありがとう、うどんげ。地下の庭でゆっくりさせてあげて。」永琳は応えた。
鈴仙は入り口に戻ると、3匹を連れて地下のとある部屋まで案内した。
「「「ゆ~っ!!」」」 部屋に案内され驚くゆっくり達。
その部屋の中は、まるで外の自然と同じ物である。
地面には緑が生い茂り、川も流れている。空も青く、雨の心配も感じさせない。
「すごい!おうちのなかなのに、おそとにいるみたい!」
ゆっくりまりさが興奮する。
「でもごはんはどうしたらいいの?」
ゆっくりありすは未だに疑いを捨てきれていないようだ。
そんなありすの疑いを晴らすかのように鈴仙は言う。
「ごはんは私が後でもってきてあげるから、思う存分ゆっくりしていってね。」
さらに追い討ちをかけるように続ける。
「ここならゆっくりれみりゃとか ゆっくりふらんも絶対こないから安心してね。
夜になったら明かりは消すから、好きなところでゆっくり眠ってね。」
「「「ゆ~っ! ゆっくりしていくよ!」」」
絶対的に保障されたゆっくりプレイスの存在に、ゆっくりありすももはや抗うことはできなかった。
それからの5日間、ゆっくり達はまるで理想郷にいるような生活を送った。
広さには限界があり、風景が変わらない点には、多少の不満はあったのだが、生命の安全と食事が約束されていることもあり、毎日毎日 思う存分ゆっくりすごしていた。
しかしゆっくりありすだけは、その生活にかまけているだけではなかった。
「うさぎさんにめいわくかけられないし、そろそろおそとにもどらない?」
ゆっくりれいむと ゆっくりまりさに提案してみる。
無論、そんな提案にのるゆっくりれいむとゆっくりまりさではない。
「ゆっ!? なんででていかなきゃいけないの?」
「ここはれいむたちのおうちだよ! ずっとゆっくりしていくよ!」
ゆっくり達としては当然の反応。
むしろ ゆっくりありすが変わり者のような扱いである。
翌日、3匹はいつものように食事を終えたあと、川で水分補給をしていた。
並んで川に顔を突っ込む姿は少々滑稽である。
しかし、ここで いつもと違うことが起こった。
水を飲むのを早々に切り上げた ゆっくりれいむと ゆっくりまりさが、水を飲んでいるゆっくりありすの後ろに、しずかに移動した。
「ゆっ?」 影に気がつき振り返るゆっくりありす。
その瞬間、2匹のゆっくりの体重がゆっくりありすへと向けられた。
「ゆ゛っ!?」
何が起こったのかわからないまま、ゆっくりありすは宙に浮く。
そしてゆっくりと川へ落ちていった。
「ゆ゛っ! ゆ゛っ! だずっ…けでっ!」
溺れながら助けを求めるゆっくりありす。
しかし、友人であったはずの ゆっくりれいむと ゆっくりまりさは、川辺で溺れる ゆっくりありすを見てニヤニヤしていた。
「ゆっくりできない ゆっくりありすは、ゆっくりしんでね!」
「これからはれいむとまりさだけで ゆっくりしていくね!」
絶望し言葉を失ったゆっくりありすは、泳ぐ気力も失ったのか、そのまま水没した。
『みんなで生きていくために、がんばったのに。』
『親友、いや……家族のようなものだと思っていたのに。』
実際、ゆっくりありすは3匹の中で一番生存するための技術に長けていた。
それはゆっくりれいむと ゆっくりまりさのため。そして自分のため。ゆっくりれいむと ゆっくりまりさも、それは認識しており、そしてそれを利用していた。しかし、今はもう生存する技術など必要無いのである。
ゆっくり捕食種は襲ってこないし、何をしなくても食事にありつける。
満たされていた ゆっくりれいむと ゆっくりまりさにとって、何にでも疑いを持つ ゆっくりありすは目の上のたんこぶであった。
また、これから家族をつくっていこうにも、3匹では数が合わない。
ゆっくりありすは、ゆっくりれいむと ゆっくりまりさにとって、今後ゆっくりし続けるためには邪魔な物でしかなかったのだ。
ゆっくりありすは いったい何を悔やんでいいのかもわからないまま、水の中で気を失った。
ゆっくりありすは天使の手の中で目覚めた。
「あら、気がついたのね。大丈夫?」 天使が言う。
「ゆっ……!? てんごく?」
ゆっくりありすは、もはや何が何なのか わからない状態である。
「ふふ。残念だけど天使じゃないわよ。」 声の主は八意永琳その人であった。
天使と見間違われたことに、悪い気はしないようだ。
しかしすぐさま真面目な表情に戻る。
「あなた、このままだと死んじゃうわよ。今すぐ手当てしてあげるからね。」
そう永琳は言った。
地下室の庭にある川は、当然ながら自然の物ではない。
流された ゆっくりありすが水を循環清浄している機械のフィルタに引っ掛かっていたところ、それを点検していた鈴仙の手によって発見され、永琳のところへ連れてこられたのだ。
ゆっくりありすは自分が生き残ったことを自覚すると、こう言った。
「いいの……もう……」
子供の頃から連れそった友人達の突然の裏切り。
仮に生き残って、また ゆっくりれいむと ゆっくりまりさに会っても怒りの感情が面にでてしまいそうで、どういう顔をしていいかわからない。
かといって、れいむとまりさが他の場所にいるのに会えないなんていうのは、身を切り裂かれるような想いであろう。
ゆっくりありすは すでにこの世で生きていく気力を失っていたのだ。
「……そう、わかったわ。」 永琳はそう言いながら注射器を取り出す。
「大丈夫、もう1人じゃないからね。あの子達とずっと一緒にさせてあげるから、ゆっくりしていってね。」
やさしくそういって、ゆっくりありすの身に注射をうつ。
ゆっくりありすは その言葉に にこやかな表情を見せて、最後の眠りについた。
翌朝、地下室ではいつものように ゆっくり達が目覚めていた。
「「すっきりー!」」
いつもと違うのは、3匹が2匹になったことだけである。
しかし その事実もまた、残りの2匹のとってはすっきりな事なのであろう。
「ゆ? ゆゆ?」れいむが身の異変に気づく。
「なんだか あたまがかゆいよ! ゆ゛ー! ゆ゛ー!」
特に外見に変化は無い。しかし痒みにもだえる ゆっくりれいむ。
ゆっくりまりさは その姿が心配になり、ゆっくりれいむの頭を掻いてやることにした。
「ゆっ? このあたり? このあたり?」
ゆっくりれいむの頭にのしかかり、かゆみポイントを探りながらごしごしと身をこするゆっくりまりさ。
「ゆ゛っ! ゆ゛っ! ゆ゛っ!
徐々に顔を紅潮させていく ゆっくりれいむ。何かがおかしい。
その様子に気づいた ゆっくりまりさは、ゆっくりれいむの背後に降りる。
ゆっくりれいむは ゆっくりと、ゆっくりまりさの方へ振り返った。
「まっまっまっ、まりさ!!!」
口にするがはやく、今度はゆっくりれいむが ゆっくりまりさへのしかかる。
どうやら先ほどの行為で発情してしまったようだ。
しかし、おかしい。発情期でもないのに。
「や、やめて! しんじゃうよ! ゆっくりしていってね!」
ゆっくりまりさは抵抗する。なにせまだ成体してはいないのだ。
交尾すれば死がまっている。そのことは ゆっくりありすに教えてもらった。
ゆっくりれいむも その事は知っているはずだった。
しかし、ゆっくりれいむは もう止まらない。
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛! れいむのあいをうげどっで~!」
運動音痴とは思えないすばやい動きで、その身をこすり上げる。
そしてほどなくすると、その行為は終了した。
「すっきりー!」 ゆっくりれいむだけが そういった。
ゆっくりまりさは苦痛に泣いている。
「ないでるまりさもか゛わ゛いいいいいい」
そう言うと、ゆっくりれいむは第2ラウンドへ突入した。
「う゛わ゛ああああ、もうやめでえええええ」
もうボロボロな状態である ゆっくりまりさは もはや悲鳴をあげるしかなかった。
その後同じような事が5ラウンドほど続き、ようやく我にかえった ゆっくりれいむは目の前の惨状に驚く。
「まりさ! なんでこんなことに!? まりさ~!!」
ゆっくりまりさから応えは無い。その生命はもう尽きているのである。
ゆっくりれいむは その場で凍りついてしまった。
少しすると、ゆっくりまりさの頭から5本の蔦が生えてきた。
ここのところ ゆっくりできていたためか、成体していないとはいえ母体としての役割はある程度備わっていたのであろう。
蔦からは小さい蕾が生まれ、そして小さいゆっくりの形状へと変化していった。
それを見たゆっくりれいむに幸せの表情が戻る。
「ゆ~♪ れいむのこども!」
自分が友人を死なせてしまったことも忘れたかのうように、新たな生命の誕生に胸を躍らせていた。
しかし、赤ちゃんの形がはっきりしてくると、ゆっくりれいむは再び凍りつく。
蕾の半数は赤ちゃんれいむが占めていた。
そして赤ちゃんまりさが少数。
残りの赤ちゃんゆっくりは……赤ちゃんありすだったのである。
「な、なんでえええええ!?」
まさか、ゆっくりまりさは浮気をしていたのか。
ゆっくりありすのいない所で、2匹だけで将来を語り合ったこともあったのに。
信頼していたパートナーに裏切られた気持ちでいっぱいである。
自分のした事を考えれば因果応報なのではあるが。
ゆっくりれいむが固まっているところに、八意永琳がはいってきた。
「あらあら、もうできたのね。」
そういうと、ゆっくりまりさの蔦の下に籠を設置する。
「うどんげ! こっちの子をを治療室につれていって! まだ使うから!」
そういって、固まっている ゆっくりれいむを指差す。
「はーい」 鈴仙がゆっくりれいむを回収してどこかへ連れていった。
そうこうしているうちに、赤ちゃんゆっくりは いよいよ誕生の時を迎えた。
次々と蔦から、設置した籠へとこぼれ落ちる赤ちゃんゆっくり達。
「ゆっくりしていってね!」「ゆっくりしていってね!」
総勢20匹以上の赤ちゃんゆっくり達が次々と誕生の挨拶をする。
「はいはい、ゆっくりしていってね!」 永琳のやさしい微笑み。
すべての赤ちゃんが生まれ落ちると、永琳は籠を背負って居間に向かった。
居間には大きめの透明な箱が置いてあり、永琳は赤ちゃんゆっくり達を籠の中から透明な箱へと移しかえてやった。
「「「ゆ~っ! せまいよ! はやくだしてね!」」」
ゆっくり達は不満をもらしているが、永琳が砕いたクッキーを餌にやると途端におとなしくなった。
「う~ん、煩いなー」
その場へと、永遠亭の主・蓬莱山輝夜がやってきた。
「あら丁度よかった。今できたところなんですよ? 試してみませんか?」
永琳はそう言うと、赤ちゃんれいむを1匹とりだして輝夜に手渡した。
「ゆっくりしていってね!」
赤ちゃんれいむは何をされるかもわからず、輝夜を目の前にして言い放つ。
「普通のゆっくりじゃない。これがなんだっていうの?」
つまらなそうな表情で そう言いながらも、赤ちゃんれいむを口にする輝夜。
咀嚼。
次の瞬間、つまらなそうだった表情が、とろけるような表情へと変わった。
「お……おいひー! なにこれ?」
新鮮な味への驚きによって、輝夜の声が弾みだした。
永琳は応える。
「はしたないですよ、もう。……それがあなたに言われていた、新しいお茶受けです。」
最近、永遠亭のお茶受けといえば ゆっくりである。
永琳が研究がてら選別したものを出しているため、味は良いのであるが、さすがに毎日それでは飽きるのも必然であろう。
そこで、輝夜は永琳に新たなお茶受けを用意するように、命じていたのだ。
とはいえ、研究のついでに、しかも安価で手に入るゆっくりはお茶受けに最適であるため、これを利用しない手は無い。
そこで永琳は新しい中身を開発して、味を変化させようと思いついたのである。
あの日、瀕死のゆっくりありすを注射で眠らせた後、ゆっくりありすの頭を開き、カスタードクリームを絞りとった。
火にかけてクリームの水気を少し抜き凝縮させた後、その日の晩の夕食に混ぜた睡眠薬の効果で眠りこけている ゆっくりれいむの頭を開き餡子を少し取り出して、変わりにクリームを入れたのである。
そしてさらに秘密の薬を流し込んた上で縫合し、翌朝を迎えたのである。
翌朝すぐに赤ちゃんができた事は想定外であった。
ゆっくりれいむの頭の縫合がしっかり馴染む前に朝になってしまったのだろう。
しかし、結果的にそれが怪我の巧妙となり、早々の完成に至ったわけである。
通常の赤ちゃんゆっくりにクリームを注入するだけでは、この味は出せない。
縫合面などの影響がどうしてもでてしまうだろうし、カスタードと餡が馴染まない。
その点、出産という一手間を挟むことによってできた、自然な味のカスタード餡ゆっくりは、赤ちゃんであるために身もやわらかく、まさにお茶受けに最適のお菓子であった。
永琳は、後からきた鈴仙にもカスタード餡ゆっくりを手渡してやった。
鈴仙はそれに舌鼓を打ちながら、今回の研究についての感想をのべた。
「なんか だましているようで申し訳なかったけど……」
鈴仙は あの3匹を助けようとして助けたわけではない。
ただ、研究素材に頼まれていた物がたまたまいて、たまたま襲われそうになっていたから、それを守っただけなのである。
鈴仙は続ける。
「でも、ゆっくりできる状況におかれても、仲間を殺すなんて……ゆっくりは本来ゆっくりできない生物なんでしょうか。」
「そうね、だからこそ ゆっくりしたいのかもしれないわね。」
永琳がそう応え、続ける。
「にしても、人格の融和までには至らなかったわねえ。実験は半分成功で半分失敗かしらね。」
秘密の薬は、その辺りの実験も含めて作った物であるようだ。
「本能だけ残っちゃいましたね。」
鈴仙はそう言う。たしかに、あのときのゆっくりれいむは、まるで発情期のゆっくりありすを見ているようでもあった。
見たところ、あのゆっくりありすは発情したことがなかったようだが、それでも本能に刻まれている部分なのであろう。
その発見は今回の実験の1つの成果であるといえる。
2人が実験の感想を言い合っている中、いつの間にか輪に入っていた因幡てゐが、カスタード餡ゆっくりを無言で食していた。
輝夜はその横で2つめのそれに手をつけていた。
透明の箱の中にいる赤ちゃんゆっくり達は、自分達の仲間が食されていく光景を見て、凍り付いている。甘みも一層増すことであろう。
後に永遠亭のお茶受け・カスタード餡ゆっくりは知人の間で話題になり、特に用もない来客がしばらく後を絶たなかったという。
最終更新:2022年05月22日 10:54