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ゆっくりいじめ系2954 野菜の生え方について本気出して叩き込んでみた 前
ゆっくりいじめ系2966 野菜の生え方について本気出して叩き込んでみた 後の続きです。
未読の方は、そちらを先にお読み下さい。
また、厨性能ゆっくりがでます。ご注意下さい。





ぱちゅりーは、とってもゆっくりしていた。
優しいおかーさんぱちゅりー。かっこいいおとーさんまりさ。
そして仲のいい姉妹達に囲まれ、森の中でゆっくりと暮らしていた。

ある日、おとーさんがこう言った。

「にんげんさんのところに、おやさいさんをたべにいくよ!」

にんげんさん? おやさいさん? 初めて聞く言葉だった。

「むきゅ、おかーしゃん、にんげんしゃんってなに?」
「むきゅ......にんげんさんは、ゆっくりできないいきものよ。おやさいさんをひとりじめしてるの」
「おやしゃいしゃんって?」
「おやさいさんは、とってもゆっくりできるたべものよ。つちさんから、かってにはえてくるの。
 でも、にんげんさんは『じぶんたちがそだてている』なんていって、ひとりじめしているのよ」

人間さんはゆっくりできない。お野菜さんはゆっくりできる。

「にんげんさんはれみりゃよりつよいから、みつからないように、
 そろーりそろーりしのびこむのよ。むきゅ。わかった?」
「むきゅ! わかったわ!」

家族全員で、人間さんが独り占めしているお野菜さんの生える場所に忍び込む。

「「そろーり! そろーり!」」
「「「しょろーり! しょろーり!」」」

お野菜さんの前に着いた。お野菜さんは、赤くて小さな、おいしそうな実だった。

「むーちゃ、むーちゃ、ちあわちぇー!」

食べてみると、やはりおいしかった。こんなに甘くてゆっくりした物は初めて食べた。
家族も、みんな幸せそうに赤い実を食べていた。

「「しあわせー!!」」
「「ちあわちぇー!!」」


「こらぁっ!!」

突然、目の前にいたおとーさんが破裂した。
ぱちゅりーの顔に、餡子が飛び散った。

「むきゅうううう!!」

見上げると、れみりゃのように胴体を持ち、それでいてれみりゃよりずっと大きな生き物がいた。

「むきゅう! にんげんさんよ! みんなにげべへぇっ!!」
「おかーさああぁばっ!」
「たじゅげでべっ!」

人間さんが、みんなの頭の上に足を振り下ろす。
おかーさんも、おねーちゃんも、いもうとも、みんな次々に破裂した。残りはぱちゅりーだけになった。

「ったく、懲りないな、この野菜泥棒共!」

低くて大きな声。体がガタガタと震えた。こわい。人間さんは、本当にゆっくりできない。
目の前で、足が持ち上がって、ぱちゅりーの頭の上にも落ちてきて――

「待って! お父さん!」

横合いから入った声に、振り下ろされかけた足がピタリと止まった。

「わぁ、これぱちゅりーじゃない! 私初めて見た」

向こうからもう1人、人間さんがやってきた。今度はかなり背が低く、声も柔らかい。

「やーん、かわいい。お父さん、この子家で飼おうよ!」
「おい、待て、だめだ。野菜を勝手にかじるような野良だぞ。
 この前のゆっくりだって、家の中を暴れ回って、大変だったろうが」
「あれはまりさだもん。ぱちゅりーは大丈夫だよ、頭いいから」

そう言って、小さな人間さんはぱちゅりーを両のてのひらで包み込んだ。

「むきゅん! はなして! たしゅけて! おかーしゃん!」
「大丈夫よ。私はあんたにひどいことしないから」
「......むきゅう?」

優しい声。ぱちゅりーは、この人間さんは何だかゆっくりできると思った。

「ったく。じゃあ最後のチャンスだ。ちゃんとしつけするんだぞ」
「ありがとう、お父さん!......ぱちゅりー、今から私があんたのお姉さんよ」

こうして、少女とぱちゅりーの生活が始まった。





ぱちゅりーは、とってもゆっくりしていた。
優しいお姉さん。一日三回、必ずおいしいご飯を食べさせてくれる。
毎日3時になったら、あまあまさんも持ってきてくれる。

ぱちゅりーは、お姉さんから色々なことを教わった。
数の数え方や、文字の読み方、薬草の見分け方、ゆっくりできるおまじない。

「いい、薬草は野菜と同じように根っこがあって、その根っこの形が......」

お姉さんはゆっくり教えてくれるので、ぱちゅりーは全部理解することができた。
「やっぱりぱちゅりーは頭いいね!」と、頭をなでてくれるのが嬉しかった。

ぱちゅりーの楽しみは、お姉さんと一緒に雑誌やテレビを見ることだった。

「みてみてぱちゅりー! このきれいなウエディングドレス!
 あぁー、いいなあ! 私もいつか、こんな素敵な結婚式あげたいなあ!」
「......すごい、あれ、催眠術だって。うわ、何もないのにラーメンすすってるよ。さすがにやらせかなぁ、あれは」

何もかもが楽しかった。外で生活していたときよりずっと快適だった。
家の中にいれば、れみりゃに襲われる心配もない。

しかし、家にはゆっくりできない人間もいた。
ある日のこと。ぱちゅりーは玄関の脇に置いてあった段ボールの中をのぞき込んでみた。
そこには、昔食べたことのあるお野菜さんがぎっしり詰まっていた。
小さくて、赤くて、甘くて、おいしい実。
ぱちゅりーはつい、それに飛びついてしまった。

次の瞬間、ぱちゅりーは吹っ飛ばされていた。廊下をごろごろと転がっていく。

「きゃあああああ!! 何するの、お父さん!」
「うるさい! お前、しつけちゃんとしてるのか!? また野菜に手を出したぞ!」
「ち、ちゃんと言っといたよ! お野菜さんは食べちゃダメって......」
「現に手を出してるだろ! 商品に傷を付けるようなゆっくりは、うちには絶対に置いておけんぞ!」
「......」
「いいか、次はないぞ。脳の随まで叩き込んでおけ」



お姉さんの部屋に戻っても、ぱちゅりーは目眩が収まらなかった。

「むきゅ......あのおじさんは、ゆっくりできないわ......」
「......ねえぱちゅりー。うちのお父さんが育てたお野菜は、食べちゃダメよ」
「むきゅう! あのおじさんは、おやさいさんをそだててなんかいないわ!
 ただ、はえてきたおやさいさんをひとりじめしてるのよ!」
「違うの。野菜は、お父さんが畑を耕して、種を蒔いて――」
「ちがう! ちがうわ! おやさいさんは、かってにつちさんからはえてくるのよ!
 おかーさんがいってたのよ! おかーさんが......むきゅうぅぅ......」

ぱちゅりーの奥底から、悲しみがせり上がってきた。
実の家族を、ぱちゅりー以外皆殺しにしたあの人間。
あのゆっくりできない人間が、お野菜さんを独り占めしてるんだ。絶対そうだ。
ぱちゅりーの目から、すうっと涙が流れ落ちた。
お姉さんは大きくため息をつくと、優しくぱちゅりーに話しかけた。

「わかったわよ。それでいいから、もう絶対に野菜を食べちゃダメよ?
 お野菜さんはみんなのものだけど、ぱちゅりーだけの物じゃないんだから」
「......むきゅ、わかったわ」

納得はできなかったが、ぱちゅりーは頷いた。
確かに、野菜を食べたらあの欲張りなおじさんにゆっくりできなくさせられてしまう。
味方はお姉さんだけだった。基本的に人間はゆっくりできない。でも、お姉さんだけは特別だった。



「テーブルの上にある食べ物は全部食べていいからね! じゃ、いいこにしててねー!」
「むきゅ! いってらっしゃい!」

お姉さんとおじさんは、2泊3日の旅行に出かけていった。
ぱちゅりーは留守番だ。居間のテーブルの上には、きっちり3日分の食料が置いてある。

「むきゅ! しっかりるすばんするわよ!」


だが、3日後。お姉さん達は帰ってこなかった。

「むきゅ......どうしたの? おねえさん......」

3日分しかない食料は当然尽きた。ぱちゅりーはお腹が空く一方である。

「こうなったら......しかたないわね」

ベランダの鍵は開けてもらっていた。ぱちゅりーが暑さで倒れないように、という配慮だ。
おかげで、ぱちゅりーは自由に扉を開け閉めできる。
扉を開けてベランダへ、そして柵の隙間を抜けて、その外へ飛び出した。
目指すは、隣接している畑。

「むきゅ。しかたがないのよ。ちょっとくらいわけてもらってもいいはずよ」

食べたことのある赤い実の野菜はなかった。そのかわり、緑色の細長い実を付けた野菜が生えていた。
ぱちゅりーはそれに歯をつけた。

「ぱちゅりー! ごめん! ちょっと事故に巻き込まれちゃって!」

その時、家の奥の方からお姉さんの声が聞こえてきた。

「お腹空いたでしょ! いっぱいお土産買ってきたから......あれ? 居間にいないなあ」
「おい、まさか畑にいるんじゃないだろうな」
「えー、そんな訳ないよ! ちゃんと言っておい......たし......」

窓越しに、お姉さんと目があった。
するとお姉さんは血相を変えて、ベランダの柵を飛び越えて走ってきた。靴も履かずに。

「むきゅ、おねえさんおかえりなさ――」

お姉さんに抱きかかえられた。そのまま連れ去られる。

「む、きゅ、もっと、ゆ、ゆっぐ、りして、ね」

疾走するお姉さんは速かった。家からどんどん離れていく。

――ごめんね、ごめんね。

後ろにすっ飛んでいく景色に目を回しながら、ぱちゅりーはお姉さんの謝る声を聞いた。

――ごめんね、ごめんね。

お姉さん、どうして謝るの? どうして、泣いてるの?

前のまりさは潰されちゃったって......どういうこと?


ようやくお姉さんは止まった。ぱちゅりーは地面に降ろされる。
そこは、見たこともない山の中だった。

「ごめん、本当にごめんね。でも、こうするしかないの。
 ごめん......ぱちゅりー、生きてね」

涙をぽろぽろこぼしながら、お姉さんはそれだけを言って、踵を返して走っていった。

「......むきゅ?」


捨てられた、と理解するまでに、ぱちゅりーは長い長い時間を必要とした。

ねえ、どういうこと? どうして捨てられたの?
お野菜さんを食べてたから? だから、お姉さんもぱちゅりーを捨てたの?
お姉さんも、お野菜さんを独り占めしたいの?
だから、あんな怖い顔してたの? 泣くほど悔しかったの?




その後、親切なゆっくり一家が通らなければ、ぱちゅりーの命はその日のうちに尽きていただろう。

ぱちゅりーは、悟った。
人間は、自分で野菜を育てていると主張し譲らない。
強大な力を持っているにもかかわらず、勝手に生えてくる野菜の独り占めしか考えない、強欲な生物。

拾われたゆっくりの家族の中で、ぱちゅりーは今までに得た知識をフル活用して役に立とうと努めた。
実際にぱちゅりーは重用された。これだけは人間に感謝した。

季節が一回りする頃には、ぱちゅりーは群れの長になっていた。
群れを統率する規則も作った。医者として、たくさんのゆっくりを治した。
結果、群れのゆっくり全員から、絶対の信頼を勝ち得た。


......それなのに、それなのに――







「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛......ば、ばりざのあたまがあ゛ぁぁ......」
「む、ぎゅう......」

頭に乗っている重い痛み。どうしようもない喉の渇き。

「よう、ぱちゅりー、まりさ。今日も元気か?」

全ては、この男のせいだった。



一週間前、群れの成体ゆっくり達は人間をやっつけに山を下りていった。
ぱちゅりーと子ゆっくり、赤ゆっくり達は、突撃隊が帰ってくるのを今か今かと待っていた。

しかし、帰ってきたのは指揮をしていたまりさだけ。ゆっくりできないおまけも付いていた。

「ば、ばづりーはあぞごだぜぇ! あぞごのきのじだだぜぇ!」

ぱちゅりーは人間に捕らえられた。襲撃は失敗に終わったのだ。
人間は子ゆっくりと赤ゆっくり達を無視し、ぱちゅりーとまりさだけを連れ去った。

その日から、2人の拘束監禁生活が始まった。
ビニールハウスの中にある木の板。その上に2人並んで接着剤で固定された。
そして頭に小さな粒を埋め込まれた。

「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛ぁぁ!! やべろ、やべるんだぜえ゛え゛ぇぇ!!」
「む、むぎゅう゛う゛う゛う゛ぅ!!」

すぐにかけられた甘い液体のおかげか、その日の痛みはすぐに治まった。

しかし日が経つにつれて、チクチクという痛みから、じわじわと慢性化した鈍痛に変わっていった。




「ほら、これが今のお前だよ」

男が、まりさの目の前に板のような物を立てて見せた。鏡だ。

「ゆ゛わ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!! ばりざの、あだまがら、くきさんがあ゛あ゛あぁぁ!!」

おそらくそこには、頭から野菜の茎を生やしたまりさが映っているのだろう。
2人は同じ方向を向いて横に並んで固定されているので、真横のまりさを見ることはできない。
だが、見せられている物の予想はおおよそ付いていた。

「ぱちゅりーも見てみるか?」
「むきゅ、けっこうよ! そんなものみたくもないわ!
 それより、はやくさいみんじゅつをときなさい!」

そう。ぱちゅりーには分かっていた。これは、れいむが掛けられたのと同じ催眠術だ。
この痛みも、異常な喉の渇きも、全てが幻。
どうしてこんなことするのだろう。一体何がしたいんだろう。
そんなに、ぱちゅりー達に大ボラを見せることが楽しいのか。痛めつけるのが楽しいのか。
無駄なことをせずに、早く殺してしまえばいいのに。

「催眠術......ね。お前、本当にそう思ってるのか」
「あたりまえよ! まりさ! だまされちゃだめよ!」
「......ふーん」

今日の男は、これまでの一週間と違い饒舌だった。
表情も今までのような無表情ではなく、口元がニヤついていた。

「ぱちゅりー、ちょっと話をしよう。
 お前の考えでは、れいむは催眠術に掛けられていて、野菜が自分の頭に生えていると思い込んでしまった。
 そしてその術は周りにもうつり、群れのゆっくり全員がそう思い込んでしまった。そうだな?」
「むきゅ! そうよ!」
「つまり、れいむの体自体は実は何ともなくて、外傷もなく、皮に異常もなく、いつも通りだった。そうだな?」
「むきゅ、だから、そうよ! れいむのからだにはなんにもいじょうはなかったの! 
 ただ、やさいがはえているというまぼろしをみせられていたのよ。それだけよ!」
「それだけだな?」
「それだけよ!」

なんなんだこの男は。未だにニヤニヤと笑っている。図星をごまかすためか。
喋る度に頭に響くのだが、小馬鹿にされているようで許せなかった。

「じゃあ、本題に入ろう。
 お前、れいむの体がぱりぱりに乾燥してるのを、見たよな?」
「......むきゅ?」

それと今の話と、どう関係が......?

「ゆっ! なんでそのことをしってるんだぜ!? やっぱり、さいみんじゅつでまりさのあたまのなかを......」

その時、まりさが口を挟んできた。

「......あー、そこも説明しなくちゃならんのか。面倒だな」

男は懐から小さな黒い2つの物体を取り出した。
1つは四角い板。もう1つは奇怪な形をした、管のような物。
男は板をまりさの前に、管のような物をぱちゅりーの前に置いた。

「こっちがマイクで、こっちがイヤホン。まりさ、何か喋ってみろ」
『「ゆぅ? なんなんだぜ?」』
「むきゅう!?」

ぱちゅりーは飛び上がった。いや、足を固定されてはいるが、飛び上がったつもりだった。
まりさの声が真横と、目の前の管から同時に聞こえてきたのだ。

「わかるか? 盗聴器って言ってな、離れたところの音を聞ける機械だよ。
 これをれいむの頭に埋め込んでたんで、お前らの会話も筒抜けだったわけ」
「ゆ、ゆぅ!? じゃ、じゃあさいみんじゅつじゃなくて」
「話を戻すぞ、ぱちゅりー」

男はまりさを無視して、再びぱちゅりーと向かい合った。

「お前、れいむが乾いてるのを見たよな。
 そして、『このままではひからびてしまうわ!』とも言ってたよな」
「む、きゅ......」
「そして、群れのゆっくりに水を掛けるように指示した」
「む......!!」
「れいむの体に、水掛けたよな。だいぶ長い時間掛けてたよな。何ともないはずの、れいむの体に」
「む、むきゅ! むきゅ!」
「おかしくないか? あれだけ水掛けられたら、普通のゆっくりは溶けちゃうんじゃないか?
 溶けないとしても、その日のうちに、山から俺の家までマラソンするのは無理なんじゃないのか?」
「ち、ちが!」
「お前も今、喉カラカラだろ? それはな――頭に生えた野菜が、水分を吸い上げてんだよ」

違う。違う。そんなわけない。

「むきゅ! ちがうわ! それは......むれのみんなに、みずをもってこさせるというさいみんじゅつよ!
 みずをかけたのもまぼろしなの! じつはれいむにみずをかけていないのよ!」
「......自分で言ってて苦しくないか?」
「そんなことないわ! 
 そうじゃなかったら、れいむがおにいさんのいえにいったのがまぼろしで......む、むきゅう!」
「うん、まあ、考えててくれ。納得できる答えは出ないと思うけど」

男は背中を向けて歩いていった。

「まりさ、だまされちゃだめよ! さいみんじゅつなのよ!」
「......だぜ......」
「むきゅう! まりさ!? ねえ、きいてるの? まりさ!!」

まりさは口の中で何かをブツブツと呟いている。
ぱちゅりーは底知れない不安を感じた。

「ああ、そうそう。言い忘れてた」

男はビニールハウスの出口で振り返って、こう言った。

「今日、すごい面白いもの見つけたんだ。
 自然に根がお前らを突き破って終わりにするのを待とうと思ってたんだけど、
 それじゃあちょっと早すぎるから、それ以上粘ってもらうからな。
 大体60日後くらいまで、死なずに頑張ってくれ」




それからの日々は、四六時中ゆっくりできなかった。
日に日に増していく、体の中に異物が深く潜り込んでいく感触。
少しでも体を動かせば訪れる激痛。
目の奥をねじられ、視界がどんどん狭まっていく恐怖。

「ゆ゛あ゛あ゛あ゛ぁ......いだい、ぜぇぇ......」
「むぎゅ、ぎゅう゛......」

生クリームを吐き出してしまったのも一度や二度ではない。
しかし、その度に男がやってきて、“オレンジジュース”という甘い液体を掛けていくのだ。
すると、ぱちゅりーの体は潤い、腹は満たされ、力が湧いてくる。
地獄から解放させないための処置だ。鬼。悪魔。
「ジュース代がかさむんだよなぁ」とか言いつつ、男は惜しげもなくジュースをかける。
それなら、さっさと掛けるのを止めてくれればいいのに、楽にしてくれればいいのに――
ああ、違うか。これらは全て、催眠術なのだ。わざわざジュースをかけて回復させる幻まで見せる。
なんて悪趣味なんだ。


時間の感覚が薄れ、今は何日目なのかも分からなくなったとき。

「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

隣のまりさが突然絶叫した。もうそんな余裕はないはずなのに。ちょっと声を出しただけでも全身が痛むのに。
何事かと、ろくに動かない目をゆっくりと右に向けた。

「む、ぎゅう゛う゛う゛!!」

ぱちゅりーも叫んでしまった。まりさの前に、ポテンと落ちている白い球体。
目玉だった。

「何だ何だ、どーした? おお、ついに開通か。それもちょうど目の部分が」

悪魔がやってきた。オレンジジュースを片手に。
まりさの頭にジャバジャバと掛ける音がする。

「うーん、さすがに目は復元しないか。でも、ちゃんとふさがったな。根っこは飛び出てるけど。
 これで餡子が流れて行かなくて済むぞ、よかったなまりさ」
「......おでぃーざん」
「ん?」
「ばりざを、ばりざをだずげてくだざいぃ!」

ついに、まりさが折れてしまった。

「むぎゅう! だめよ、まりざ! たえて!」
「もう、おやざいざんどか、さいみんじゅづどか、どおでもいいから゛あ゛あ゛あ゛!
 まりざを、だずげで、ゆっぐりざぜでくだざい!」
「無理」

即答だった。

「どぼじでぞんなごどいうのぼお゛お゛ぉぉ!」
「だから、言ったろ。60日耐えろって。今日であの日からちょうど20日。あと3分の2だ。頑張れ」
「ゆああああ!! ゆっぐりじだいんだぜえええぇぇ!!」




まりさはそれから、「あ゛、あ゛」と言うだけの置物になってしまった。

「ばりざ......がんばって......」

ぱちゅりーが精神を保っていられるのは、これが催眠術である、と知っているからだった。
絶対に、あんな男には屈しない。あの男からは、あの強欲なおじさんとそっくりな臭いがする。負けてなるものか。
しかし催眠術を解かれたとしても、素直に放してくれるはずがないとも分かっていた。
間違いなく殺される。だがもういい。心残りはない。

......いや、1つだけあるとすれば、群れに残してきた子どもや赤ちゃん達だった。
ぱちゅりーの家の中で全員で待機していたのだが、家には食糧の貯蓄はほとんど無かったはずだ。
方々の家から取ってきたとしても、一週間も持つまい。
子ゆっくりの中には狩りができる者も数匹いたが、自分の分が満足に取れるかも怪しい。
ましてや、たくさんの赤ゆっくりを食べさせるほどの食料は取れるはずがない。

想像したくないことだが、阿鼻叫喚のさなかで共食い劇を演じた可能性もある。
その前にれみりゃに襲われたかもしれない。どちらにしろ、全滅は間違いなかった。

ごめんなさい、みんな。ぱちぇをゆるして。


「あ゛、あ゛、あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

まりさは、たまに絶叫をあげるときもあった。根が新たに皮を突き破ったときだ。

「む、むぎゅう゛う゛う゛っ!」

それはぱちゅりーも同じだった。根は1日に1回は、新たな穴を開けた。

「はーい、オレンジジュースですよー。
 ......しかしお前らすごいな。もう10本くらい飛び出てるぞ」

オレンジジュースをかけられた貫通部分は、根を飛び出させたまま塞がる。
根の中腹を、復元する皮が隙間無く握り込むのだ。
そして次の日、その根はまた伸びて、塞いだ場所をまた引きちぎる。

「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「むきゅう゛う゛う゛う゛!!」

開いた傷口から生クリームが噴き出す。体の十箇所から噴き出す。
しかし一日の終わりには修復される。また、その日新たに根が飛び出した場所が作られる。

日に日に、血が噴き出す箇所が、増えていく。
きっと今の2人の姿は、見るもおぞましい化け物の姿だろう。

「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! だずげで、だずげでおにーざあ゛あぁん!!」

幸い、まりさの残った方の片目と、ぱちゅりーの両目が飛び出すことはなかったが。

「む、ぎゅうぅ......」

負けない。これは催眠術なんだ。
おかーさんが言ってた。人間は独り占めする生き物。
おやさいさんは、つちさんからかってにはえてくるのよ。ぱちぇのあたまから、はえてくるわけないの。






「おつかれさん。約束の日だ」

ぱちゅりーは、そう言われても何のことだか分からなかった。
オレンジジュースをかけられた直後でも辛い。
何もしなくても押しつぶされてしまいそうなほどに、今のぱちゅりーの頭は重かった。

「面白い物を見せてやるって言ってただろ? これだよ」

男は、大きなカゴを持ってきていた。成体ゆっくりが3人は入りそうな、木で編まれたバスケット。

「お前らも見たことあるはずだぞ。ほら――」

地面に置いたカゴに両手を入れ、引き出す。






「――おさ、やっぱりれいむたちがまちがってたよ」

れいむだった。
群れに置いてきたはずの子ゆっくり。今はもう野垂れ死んでいるはずの、子れいむ。
確か、頭に茎を生やしていたれいむの妹......


ぱちゅりーは、頭を思いっきり殴られた気分だった。

「むぎゅうう!! どぼじでえ゛え゛えぇ!!」

男がぺらぺらと喋り始めた。

「いやぁ、驚いたね。お前らが襲ってきたときから一週間くらい経って、
 そういえば残してきた子ゆや赤ゆはどうしてるかなあ、生きてたら潰してきた方がいいかなあ、と思ってさ。
 群れに着いてみたら、ボロボロの子れいむが口に水含んでよたよた歩いてた。
 何してんだって聞いたら、お野菜さんを育てるって。一本だけ、小さな芽が生えてたんだよ。
 いや、本当に驚いたわ。土もちゃんと柔らかくしてあったし。野菜の育て方を知ってた。
 そこで俺は急いで帰って、救急道具を持ってとんぼがえりして......」

うそよ。
うそようそようそよ。
ありえない。ありえない。ありえない。

「......でさ、まだぱちゅりーは生きてるよって言ったら、ぜひ会いたいって言いだして」

男は次々にカゴの中に手を入れ、引き出す。
その度に1人ずつ、群れの子ども達が出てきた。
子まりさ、子ありす、子ちぇん、赤れいむ、赤ちぇん、赤みょん――

「たねさんからおやさいさんがはえてきたよ! とってもおいしかったよ!」
「つちさんをたがやして、おみずさんをあげれば、ゆっくりそだったわ!」
「おさがうそをついてたんだねー! わかるよー!」
「おかーしゃんも、おとーしゃんも、おしゃのせいでゆっくちできにゃくなったんだよ!」
「ゆげぇ、おしゃ、きもちわりゅいよー......でも、じごうじとくにゃんだよー! わかっちぇねー!」
「ちち、ちんぽっ!」

赤みょんがぱちゅりーに向かって跳ねてくる。ぱちゅりーの頬に体当たりした。
普通ならなんてことない攻撃。でも、今のぱちゅりーには身体の芯まで響いた。

「むぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛!!」

「みょん、だめだよ。もどってきてね」

子れいむがみょんを諭し、落ち着いた口調で話し始めた。

「あのよる、おねーちゃんはまよってたよ......おさか、おにいさんか、どっちがただしいのか。
 あのときのおさはおかしかったよ。ぜんぜん、ゆっくりかんがえてなかったよ。
 そして、ただしいのはおにいさんのほうだったよ」

うそ......よ。
れいむが......こんな、こと......いうはず......ないもの......

「れ、れいぶ......」

隣で、まりさのかすれた声がした。

「ほがの......おちびちゃんたちは......どうじたんだぜ......?」

そうだ。子ゆっくりや赤ゆっくりはもっとたくさんいたはず――

「――みんな、ずっとゆっくりできなくなったよ......!」

子れいむが、絞り出すように答えた。
その言葉は、ぱちゅりーを真っ直ぐ貫いた。



「うがあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁっ!!」

狂ったように大きな絶叫が響き渡った。

「ぜんぶ、ぜんぶおざのぜいだあ゛あ゛あ゛っ! 
 おざのぜいで、でいぶも、みんだも、ゆっぐりできなくなっだんだぜえ゛ぇっ!」

「あーあ。れいむ、みんな一旦出た方がいいな」

「じね゛え゛え゛えぇぇっ! じね゛え゛え゛えぇぇっ! なにがざいみんじゅづだぜえ゛ぇ゛ぇぇ!」

まりさもぱちゅりーも、動けない。
しかし、一方的に右半身に叩きつけられる悪意がビンビンと伝わってくる。

「じね゛え゛え゛えぇぇっ! じねえ゛え゛えぇぇっ! うそづぎばづりーはざっざとじね゛え゛ぇぇ!」

いや、まりさは動いていた。
必死に右の方向に向けた目が捉える。
足を固定されているのもかかわらず、全身を根に押さえつけられているのもかかわらず、
ぱちゅりーの方へ向かってこようとするまりさ。

「じね゛え゛ぇぇっ......! じね゛ぇ゛ぇ゛ぇぇ......!」

体を強引に揺らすまりさは、こちらに倒れ込むようにしてぐちゃぐちゃに崩れていった。
その姿は、踏みつぶされたおとーさんそっくりだった。

「ばづりー......じ......ね......」

ぱちゅりーの頭に、何かがバサリと落ちてきた。
まりさの頭に生えていた、お野菜さんの苗だった。
両目の間でぶらんぶらんと揺れる物がある。

ずっと昔に見たことがある、赤い実だった。

男が近づいてきて、その実をもいだ。

「......このまりさは、とことんゲスだったな」

半開きのぱちゅりーの口に、実を挟んだ指が突っ込まれた。
舌の上に、瑞々しい果汁がしたたる。

久方ぶりに味わった。
ゆっくりできるけど、ゆっくりできない、“ほんとうの”おやさいさんのあじだった。

「む゛ぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う」





「ちなみに、俺は何も嘘はついてないぞ? みんな実話だ。
 俺が群れに着いたときも、あの7匹しか生き残りはいなかった」
「......」
「あいつらは、あの子れいむがいる限り大丈夫だ。あいつ、ゆっくりにあるまじき頭の良さだぞ。
 それこそ、お前とは比較にならないほどのな」
「......」
「まあ、それでも7匹じゃ群れとしてやっていくのはむずかしいしな......いざとなれば、保護も考えてる」
「......」
「あの、頭に茎生やしたれいむも悩んでたみたいだし。そうとは知らずに、決めつけてやっちまったけど。
 ......罪滅ぼしという意味でも、あいつらを助けていこうと思う」
「......」
「じゃあな、ぱちゅりー。今まで引き止めて悪かったな。最後まで、ゆっくりしていけよ」





もはや痛みは感じない。ただ、体が重い。
全身から生クリームが噴き出し始めても、男はオレンジジュースを掛けに来てくれなかった。

もし。
もしもよ。
これが、ほんとうにさいみんじゅつだったら。
ぜんぶがぜんぶ、もうどこからなのかわからないくらいから、さいみんじゅつだったら。

そのなかでしんだら、どうなるのかしら。

生クリームを全て噴き出すまで、ぱちゅりーはそんなことを考えていた。



あとがき
長編は実力が出ますねえ......もっと精進します。
最後まで見てくださった方、本当にありがとうございました。

過去作品

  • ゆっくりバルーンオブジェ
  • 暗闇の誕生
  • ゆっくりアスパラかかし
  • 掃除機

  • ゆっくり真空パック

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最終更新:2022年05月19日 14:00