「到着したぞ。さあこれからここがお前達の新しいゆっくりプレイスだ」
「ゆゆっ、とてもひろくてゆっくりできそうだね」
男に連れてこられたのは村で管理している林の一角だ。
土地を改良し、柵を茂みで巧妙に隠してゆっくり達を閉じこめておく屋外のスペースになっている。
元々は村の人達でゆっくりを食べるために繁殖させていたが、加工場が近くにできたおかげですっかり使われたくなった場所である。
それを男は手入れし続けて何匹かのゆっくりを今でもここで飼っていた。
まりさが見たところ確かに先ほどまでいたゆっくりぷれいすよりは広いが、ただそれだけだ。
「ここはゆっくりできそうだけど、まりさとれいむはかぞくがほしいんだよおにいさん!!」
そのまりさの不満に応えるように男は広場に向かって叫ぶ。
「おーい、お前らー出てこーい」
「「「ゆゆゆゆっ」」」
男の声に呼応したようにどこからともなくゆっくり達の声が聞こえてきた。
よく見ると広場の木の根本にはぽっかりと穴が空いており、そこからぞろぞろとゆっくりが出てきた。わぁと声を漏らしたのはれいむだった。
まりさも感動しつつも冷静にその数を数えていく。
1,2,3,4,5,6,7,8……とにかくいっぱいのゆっくり達だ。
まりさとれいむの目の前には数え切れないほどの子ゆっくりと赤ゆっくりがならんだ。
どれもこれも男がゆっくりの群れから一匹から三匹くらい寝ている間に取ってきたゆっくり達だった。
「これからお前達の親代わりを紹介してやるからきちんと挨拶をしろよ」
「ゆゆっ!! ありしゅのみゃみゃなの?」
「むきゅ、おとなのゆっくりがきてくれるとたすかるわ」
子ゆっくり達は口々にまりさとれいむを歓迎するような言葉を発している。
ここにはれいむやまりさ、ありすやぱちゅりー、ちぇん、みょんなど様々な種類のゆっくりが総勢20匹いた。

「「ゆっくりしていってね!!」」
「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」
「「「「ゆっきゅりしちぇいちぇね!!」」」」
「お前ら、これからこのまりさとれいむがおとーさんとおかーさんだからきちんと言う事聞くんだぞ」
「「「「ゆっくりりかいしたよ」」」」
「れいむがおかーさんなの? このこたちはれいむのちびちゃんとあかちゃんなの?」
「そうだよれいむ。まりさといっしょにゆっくりできるかぞくをつくろうね」
まりさとれいむの周りはすでに沢山の子供達で溢れ、皆が二匹ともに擦り寄っていく。
早くから両親と離ればなれにされたゆっくり達にとってはようやく甘えることのできる相手が来たのだ。
これまでの寂しさを一気に埋めるために子ゆっくり達はどっと押し寄せた。
とくにまりさは成体サイズのれいむよりも一回りは大きい頼りがいのあるまりさである。
子供が見てもとてもゆっくりできていることがわかり、安心して飛びついていった。
その様子に途惑いながらもまりさとれいむはとても嬉しそうだ。
これだけこどもがいればれいむもさみしくないぜ、そうまりさは思い、男に感謝する。
「おにいさんありがとう!! これでれいむがゆっくりできるよ!!」
「どういたしまして。でもこれから大変だぞまりさ。お前がしっかり群れを率いていかなくちゃならないからな」
「ゆっへん、まりさにまかせてよ」
「それは頼もしい。お手並みを拝見させてもらおう」
男の手前虚勢を張ったまりさであったが、確かにこれだけの数の面倒を見るとなると骨が折れる事を覚悟せざるをえなかった。

男がゆっくりプレイスから去ると全員で思い思いにゆっくりしあった。
特に男の部屋から来たれいむはまるで自分の子供であるように十匹の赤ゆっくり達と接し始めた。
「みんなおうたをうたおうね!! ゆ〜ゆゆ〜」
「「「「ゆ〜ゆゆ〜ゆ〜」」」」
「「おかーしゃんのうたはじょうじゅだにぇ!!」」
「れいみゅもおかーしゃんみたいににゃりたいよ!!」
「ゆゆ〜ん、みんなとてもゆっくりできるあかちゃんたちだね!!」

一方でまりさは少し大きめの子ゆっくり十匹と話をしていた。
「みんなはここでどうやってゆっくりしてたの?」
「むきゅ、それはぱちゅりーがせつめいするわ」一番最年長らしいぱちゅりーが前に出る。
「ぱちゅりーはとてもたよりになるんだぜ!!」
「わかるよー。みんなのおかーさんがわりだったからねー」
どうやら子供達だけでなんとかなっていたのはこのぱちゅりーのおかげのようだ。
「そしたらぱちゅりーにゆっくりきいていくよ」
まりさはこの子供達の群れのことが色々と気になったのだ。
この数を無事生かし続けるだけの狩りや巣の話がメインだった。
どうやらご飯に関しては男がある程度持ってきていたことが功を奏したようだ。
辺りを見回せばご飯となるような花や虫、木の実が簡単に見当たるが親から教わっていない子供では食べ物とも判別つかないのだろう。
この状況でよく生きていたものだとまりさは感心する。
巣に関しても自分達で設けた物ではなく、勝手に空いていた穴を利用しただけだったようだ。
しかしさすがにこの数を一度に納めるのは難しいようで、毎夜入り損ねた何匹かは外で眠っているそうだ。
その何匹のことを思うとまりさの胸らしき場所は張り裂けそうになった。

「ゆっくりわかったよ。そしたらこれからまりさがちびちゃんたちにもっとゆっくりできるようにいろいろおしえていくね」
「おとーさんのおかげでようやくらくになるわ」
「とてもとかいはなおとーさんがきてくれたわね」
「まりさがおとーさんっていうのは少しはずかしいね」
まりさは照れながらも、この先の生活が大変になることをようやく自覚した。
日はまだ昇り始めたばかりだが、とりあえず今日は全員がゆっくり巣の中で寝られるようにすることを目標に動き始めた。

ひとまずまりさ組は巣の状況を見に行く事にした。
木の根本に掘られていたそれはおそらく先住のゆっくりによって作られたものなのだろう。
まりさが中に侵入するとたしかに狭い事がわかる。
どうみても一家族分のスペースしかそこにはない。
今日新たに大人のまりさとれいむが来た事も含めるとかなりの工事が必要になると予想された。
さらに全く機能していない食物庫の手入れもしなければならないとまりさは考えた。
確かに今はお兄さんがご飯を持ってきてくれているが、お兄さんも人間なのである。
気まぐれで生かされているだけなら気まぐれでご飯をくれなくなる可能性も捨てきれない。
自分達だけで生きていくためにもこの数を支えられるだけの食物庫を用意しよう。
この子達が無事独り立ちできるように教育という意味も含めてのご飯の確保もする必要がある。
「これはかなりたいへんだぜ……」
突如任された群れの多すぎる問題にまりさは頭を抱えるが、すべては自分が解決せねばならない問題である。

不安な表情を顔に出さぬよう子供達にいろいろと指示を出す。
「よし、これからみんなですをもっと大きくするよ。まりさがすのかべをほっていくから
みんなで土をすのそとへはこんでいってね!!」
「「「「ゆっくりわかったよ!!」」」」
そういったまりさは壁に向かい一心不乱にかじりつき始めた。
子ゆっくりの力では歯が立たないがまりさなら容易に削り出せた。
「がりがり、ぺっ。このつちをだれかそとにもっていってね」
「わかるよー。すがひろくなるんだねー」
最初に土を運び出したのは子ちぇんだった。
従順で運動も好きなちぇん種なら当然だろう。
ちぇんが必死に口に頬張って外に持って行っていく間にまりさは次の土塊を吐き出した。
「つぎはぱちゅりーね」
「ゆっくりはこんでいってね」
二番目は最年長の子ぱちゅりーだった。
リーダーが居ればそれに従うことの多いぱちゅりー種らしい。
次に続いたのは三姉妹子れいむ。次に子みょん。さらに次が子ありす二匹で最後が子まりさ二匹だった。
個体というより見事に種によってその順番に並んでいた。
十匹もいればもちろんまりさの順番が回るまでに素早いちぇんは戻ってきてまりさの仕事を奪っていく。
子ちぇんも子まりさ達も別段それを気にしていない様子だった。
そんな子供達の様子に壁を崩すまりさはきちんと気付いていた。

親れいむが収まるくらいの空間を掘りあげた頃、男が全員のご飯を持ってきた。
ここでも男はたい焼きを持ってきていた。
赤ゆっくりには一匹、子ゆっくりには二匹、親まりさとれいむには三匹ずつだ。
「まりさ、わかってるだろうな」
「ごはんのるーるだね!!」
「そうだ。物わかりが良くて助かるよ。分けてあるのはお前の分だからな」男は親まりさの目の前に全員の分のご飯をおいて立ち去った。
三十三個と三個。分けられた三個は親まりさの分だ。
最初にぺろっと自分の分の三個を飲み込むと、まりさは子供達に大きさに合わせた分だけたい焼きを分けていった。
「みんなじぶんのぶんだけ食べるんだよ!!」
ご飯を配り終わった親まりさがそう宣言すると皆元気に返事をする、子まりさ二匹を除いては。
子まりさ達がギクっとしたのもまりさは見逃さない。
「ゆっくりたべてね!!」
「「「「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ〜」」」」
親れいむは自分の分をゆっくり食べ、親まりさは子まりさを視界に納めながら子れいむや子みょんの食事を眺める。
全員で食事をしている広場には実にゆったりした雰囲気が漂っていたが、親まりさの視線だけは緊張感に溢れていた。

子まりさ達は早々に食事を済ませ、赤ゆっくり達の元に近づく。
たった一匹のたい焼きとはいえども赤ゆっくり達にはなかなか大きな獲物であり、やっとのことで半分食べ終えていた。
まりさ達が近寄ったのは二匹の赤ぱちゅりーのそばだ。それぞれが一匹のぱちゅりーの横につく。
兄弟達のなかでも食事の遅い赤ぱちゅりーはまだ七割方のたい焼きを残していた。
「たいやきしゃんはゆっきゅりできりゅわにぇ」
「ゆゆっ、ぱちゅりー。うしろでおかーさんがよんでるんだぜ」
「ゆっくりしてないではやくふりむくんだぜ」
「むきゅ、どうしたのかしりゃ?」
そう言ってぱちゅりー達がご飯から目を離した隙に子まりさ達はぱちゅりーのご飯に飛びつく。
そう、いつもこうして子まりさ達は下の兄弟達のご飯を奪っていた。
そのあと無くなったご飯を必死に探すのを見て笑い転げるのも忘れない。
しかし今日は違った。
「むきゅ、おとーしゃん!!」
赤ぱちゅりーの言葉にまりさ達はたい焼きをくわえたままで凍り付く。
「まりさたちは何をしているの?」
赤ぱちゅりーと子まりさのすぐ後ろに親まりさが立ちすくんでいた。
もしやと思っていた自分の勘が外れる事を期待していたがやはり当たっていた事にショックを受けていたのだ。
「これはちがうんだぜ!!」
「あ、ありすがもってこいっていったんだぜ!!」
「それじゃあ、ありすに聞いてみようか?」
「ゆぐっ……」
「まりさがいったことをきいてなかったの? やくそくのまもれないゆっくりはゆっくりできてないんだよ? ゆっくりごはんをかえしてあげてね」
あくまで笑顔で子まりさ達に接する親まりさ。感情的に接したりましてや暴力を振るってもこのまりさ達のためにならないのはわかっている。
親は子に対して畏怖だけ与えれば十分なのだ。
それにまりさというゆっくりがどういうゆっくりであるかは自分自身のことだからわかる。
自己優先の考え方は非常に他に迷惑をかける。それを子まりさ達に教える必要がある。
自分の悪いところをきちんと理解し、いかに自分で押さえ込めるかがよいゆっくりの道なのだ。
そのためには「それはゆっくりできていない」と言ってやるだけでいいのだ。

ご飯を食べ終わると、群れのゆっくり達は午前中の内容を繰り返す。
別段たくさんのゆっくりがいたところですることは決まっている。
親れいむは赤ゆっくり達の世話を、親まりさは子ゆっくり達と巣の拡充をする。

巣の中では親まりさは壁をかじり、ときおり土を吐き出している。
「がりがり、ぺっ。土をそとにだしてね!!」
「むきゅ、ぱちゅりーがいくわ」
「ぱちゅりーはゆっくりまってね!! 力もちのまりさたちがやってくれるよ!!」
巣の端でサボっていたまりさ達に親まりさからの指名が入る。
「もしかしてまりさ達は力もちのかっこいいまりさじゃないの?」
「ゆゆっ、そんなことはないんだぜ!!」
「まりさがはこぶぜ。ぱちゅりーはやすんでるといいんだぜ」
「さすがまりさね」
「わかるよー、はりきってるんだねー」
「やっぱりわいるどなまりさもすてきね」
「夜はみんなで寝られるようにがんばってね!!」
親まりさの一言に乗せられて子まりさ達は急に働き始める。
昼ご飯の一件もあり、親まりさからの印象をこれ以上悪くするわけにもいかないのだろう。
しかし乗せられたとはいえ、兄弟から誉められるのも悪くはないとまりさ達は思うのだ。
実に簡単な性格をしている。
自分が誉められたり敬われるなら、すすんできついことをこなすからこそリーダーとしての素質がまりさ種にはあるのだ。

「ふむ、あの親まりさはリーダーとしては十分そうだな」
そしてそんな様子をゆっくり達の囲いの外から男はずっと観察していた。
「若干問題のある子まりさ連れてきたが、ここまで上手に扱うのはなかなかのもんだ」
日誌には親まりさの子まりさ達への教育方法を書き連ねていく。
少し前のページを振り返れば、この教育方法の違いにより大きく結果が変わった事がわかる。
見て見ぬふりをしていたある親まりさは一緒になってゲス行動を取り始めたし、感情的に暴力を振るった別の親まりさは決して幸せそうとは言えない群れを作り上げた。
いずれのまりさが作り上げた群れも多くの子ゆっくりが大人になる前にゆっくり達が原因で死に絶えていた。
やはりリーダー次第で群れの善し悪しは決まるのだろう。
そしてある意味最終形とも呼べる目の前の親まりさはこのままいけば実に立派なリーダーと呼べそうだ。

男が晩ご飯を持ってくるとゆっくりの姿がどこにも見当たらず、巣の中からは騒がしい声がしてくる。
親まりさと子ゆっくりの働きもあり、男が晩ご飯を持ってくるころには全員が巣の中に入れるようになったようだ。
男がいるとはいえ、夜に外でご飯を食べるのは止めたほうがいいという親まりさの提案で巣の中にご飯は持ち込まれていった。
親まりさだけは男が直にご飯を与え、食べるのを確認する。
ご飯を巣の中に入れ終えるとまりさは巣の中から入り口を閉じた。
男はきっちりと夜に対する準備をする知識の継承をまりさが出来ているのを確認できた。

「十日目、まりさ三食完食、他のゆっくりのご飯を食べる事はせず。体長およそ一尺三寸。
まりさの要望により急遽林の群れと合流させることにした。まりさは群れのリーダーとして十分な知識と行動を持ち合わせていており群れを見事まとめ上げた。
ゲス要素のあった子まりさ達に対する前述のしつけ行動は最適解といえそうだ。
まりさ本体サイズも順調に増大している。すでに成体れいむより二回りは大きく見える。
やはり体長が大きいほどゆっくり達のまりさへの従順度合いが高くなっているようだ」

ご飯も食べ終わるとすぐにゆっくり達は睡眠に入る。
夜に巣の入り口を塞ぐのはそこにゆっくりがいることを隠すのが一番の理由だ。
それならば起きて騒ぐのは全く理にかなわないので静かに寝てしまうのだ。
広くなったとはいえ、何とか全員が収まるようになっただけの巣では動き回る事もできないので子供達も寝てしまうしかない。
親れいむは子守歌を歌い、親まりさは近くの赤ゆっくり達に頬擦りをしてやる。
そして次第に巣の中は寝息で満たされていった。
「れいむ、そろそろまりさたちもゆっくりねようね」
「そうだね」
一言二言交わすとすぐに親れいむも眠り始めた。
すると昼間に比べると静かになった巣の中でまりさは独り考える。
目が覚めて太陽さんがのぼってきたら、狩りの練習をしよう。
子ゆっくり達には少し早いかも知れないがいざというときの蓄えも欲しい。
そのうちにきっと子まりさ達は兄弟の中で認められる存在になれるはずだ。
よし、目が覚めたら一日をかけてご飯の集め方を覚えさせよう。
そう考えている内、まりさに眠気が襲ってきた。
寝てしまう前にぐるりと巣の中に異変はないか見まわす。
全てのゆっくりが入るのを確認して最後に自分が入ったから数えられないけどきちんと全員いるはずだ。
ふと隣にいる赤ゆっくりちぇんに目をやると口元にご飯がついていた。
ふふふ、と小さく笑いながらまりさは舌で綺麗に拭ってやる。

そのときまりさはたしかな違和感を覚えた。
それはまりさの食べたご飯と赤ゆっくりちぇんの食べたご飯は味が違うのだ。
形はたい焼き型で甘みを感じる味であるのは共通しているが、風味が異なっている。
なぜ違うのだろう。
しばらく考えたがその理由はまりさにはわからない。
そのうち気のせいだろうと思い、ゆっくりと眠りについた。
そしてその晩まりさは不思議な夢を見た。



一面真っ白で地面も空も真っ白な空間にまりさとその目の前に知らないまりさがいる夢だ。
目の前のまりさはどこか自分に似ている。まりさはそう感じていた。
「ゆっくりしていってね!!」先に挨拶したのはまりさからだった。
『ゆっくりしていくよ!!』挨拶を返したのは知らないまりさだった。

「まりさはまりさだぜ。おまえはだれなんだぜ?」
『まりさもまりさだよ』自己紹介に自己紹介で知らないまりさは応える。
自分の近くに現れた理由を知らないゆっくりにまずは聞いてみる。
「どうしてまりさはここにいるんだぜ?」
『それならまりさはどこにいるの?』
「ゆゆっ、まりさは……。まりさはここにいるぜ」
意味の分からない質問が返ってきたがまりさはかろうじて答えた。
『ここはどこなの?』
「ゆゆ゛っ、わからないよ」
それが分かるなら教えて欲しいとまりさが思った。
すると『ここはまりさのなかだよ。』と不思議な事に知らないまりさは心を読んだように答えてくれた。
「それならまりさはまりさのなかにいるんだね!!」
『だからまりさもまりさのなかにいるんだよ。』
「ゆゆゆっ、まりさのなかはまりさだけのものだぜ!!」
まりさがこう言うのも無理はない。自分の中に別のまりさがいるというのは不自然な話だからだ。
『まりさのなかにれいむがいたらおかしいからね。』
「それはおかしいぜ」
『まりさもまりさだからまりさのなかにいてもいいよね!!』
「ゆゆゆゆっ!! それはだめだぜ!?」
『でもまりさはまりさなんでしょ? まりさもまりさだよ? どうしてだめなの?』
「ゆゆゆゆゆっ!? よくわからなくなってきたぜ!?」
『とにかくまりさのなかだからまりさはいていいんだよ。』
「そうなのか?だぜ……」
『そうなんだよ』
まりさはとてもはぐらかされた気分になったが会話のどこがおかしいかはわからない。
それに目の前の知らないまりさが何か悪い事をするようすもないし、悪いまりさにも見えないのだ。
特に居て困った事にはなってないのでそのままでいいのだが、いつの間に自分の中に入ったのだろうか。
どこか自分に似たまりさはとてもゆっくりできそうな笑顔をしながらスーッと消えていった。そしてこの知らないまりさを夢で見る事はもうなかった。



「十一日目、まりさ三食完食、与えたたい焼き以外に草や虫を食べていた。体長およそ一尺四寸。
まりさは子ゆっくり達に狩りと称するご飯集めを教えていた。とくに野生種ではメインに狩りするまりさやちぇん、みょんを除いたゆっくり達に指導していた。
狩りをするのは自分達の役目ではないと言ったれいむ達に、狩りが出来れば番になる相手のゆっくりや自分の子供達させることができると説いて納得させていた。
他のゆっくり、特に自分の子供をゆっくりさせてやることに変な責任感をもつれいむ種には働かせる良い理由であることには違いない。
まりさは自分達がご飯を集めるとたい焼きを持ってこなくなる心配をしていたが、子供達が独り立ちするまでは支援すると宣言してやった」

「十二日目、まりさ三食完食、与えたたい焼き以外に草や虫を食べていた。体長およそ一尺四寸。
ご飯をやった時に子供達の口を拭う仕草が見られた。首を傾げている様子からそろそろたい焼きの中身の正体に察しが付く頃だろう。
午前中は子ゆっくりと狩りの練習をして、午後はすっきりについて子供達に言い聞かせていた。
子供達はすっきりするにはまだ早い事、愛し合った番でないとすっきりしては駄目な事を強く言っていた。
子ありす二匹をわざわざ発情させてみせたのには驚かされた。一匹は通常の発情、もう一匹がいわゆるれいぱー状態になった。
どうやられいぷで生まれたありすが子ゆっくりにいたようだ。
まりさはすぐさま二匹に水を浴びせかけて発情状態を解いて、野生の中にれいぱーありすと呼ばれる危険な存在がいること、そしてありす達には都会派であるには淑女であるようにと厳しく言いつけた。
他人に自分の価値観を押しつけず、しとやかなゆっくりが本当の都会派であると言ってやるとありす達は真に受けて言葉遣いから変えていたようだ」

「十三日目、まりさたい焼きの中身を確認しながらも全て完食、与えたたい焼き以外に草や虫を食べていた。体長およそ一尺五寸。
成体サイズを超えて大きくなったまりさはれいむににんっしんっしたのかと聞かれたが本人は否定。
でぶまりさになったわけでもないので活発に動き回れていることもアピールしていた。
ぱちゅりー種はきちんと運動をすれば健康でいられることをまりさに教えるとさっそく子ぱちゅりーを子まりさ達と遊ばせていた。
巣の中の食物庫の備蓄はこの数のゆっくりだと一週間は過ごせるだけのものがすでに集まっていたので今日は遊ぶ日のようだ。
まりさはれいむに任せていた赤ゆっくり達を順番に帽子の上に乗せてあげて日がな一日一緒に遊んでいた。
ときおり空を見上げながら何事か考えている動作が見られた」

十四日目の朝、男がご飯を持っていくとゆっくり達は巣の外で寄り添って日向ぼっこをしていた。
「ゆっくりしているか」
「ゆゆっ、お兄さんゆっくりしていってね!!」
「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」
「ほら、ご飯だぞ」
そういうといつも通りたい焼きの山をまりさの前に置く。
「みんな自分の分だけもっていってね!!」
「「「「ゆっくりりかいしたよ!!」」」」
たい焼きの前にきちんと整列したゆっくり達は自分の大きさにあった分だけたい焼きを取っていって食べ始めた。
全員に行き渡ったて食べ始めたのを確認した男は親まりさがご飯に手を付けてないのを見つける。
「まりさは食べないのか?」
「うん、たべるまえにお兄さんと二人きりでお話がしたいよ」
男が家に連れてきたときよりも体積で三倍強は大きくなったまりさが話をしたいと持ちかけてきた。
そろそろとは思っていたが案外早かったなと男は思いながらまりさと共に林の囲いから出て行く。

「なあまりさ」
「何お兄さん?」
「お前が疑問に思っていることを俺から話してやろう。今のお前なら大方察しはついてるだろうがね」
男の言葉にまりさは黙り込み、それをみて男はまりさに問うた。
「まりさ、普通のまりさとドスまりさの簡単な違いはなんだ?」
「どすはまりさにくらべて大きくてかしこいよ」
「そうだな。なら何故ドスは賢いと思う?」
「……」まりさは答えたくないかのように口をつぐむ。
「それなら別の質問にしよう。どれだけ食べても一定以上大きくなれない大人のゆっくりが、
どうやったらドスにみたいに大きくなれると思う?」
「……」さらにまりさは沈黙をつづける。
「ドスにまりさが多くて他のゆっくりのドスが少ないのはなぜだろうか?」
「!!」まりさはこの質問にはまりさは怒気を含んだ視線で返した。
「賢くなった今のお前なら全ての答えがわかるだろう。それは……」
俯くまりさに男は答えを叩き付ける。

「それはゆっくりを食べたからだ」
男がそれを仮定し、何度も実験を重ね、そして今目の前に結論が生まれようとしている。
「やっぱりまりさはしらないゆっくり、それもまりさばっかりを食べさせられたんだね」
「そしてお前はこれからドスになる」
「あこがれたドスたちはみんなダメなまりさたちだったんだね」
「それに関してはまだドスになる方法が一つに確定した訳じゃないからなんとも言えないな」
男のその言葉にまりさは少し救われたような気がした。
「れいむにきこえない声はまりさの中のまりさたちの声だったんだね」
「ああ、そうだな」
「あのひめいは……」
「いけないことをしたまりさ達は俺が罰を与えたからだ」
「だからあのときすごくいやな気分になったんだね」まりさは男をじじいと呼んだときのことを思い出しているのだろう。
「今は他のまりさ達の記憶ももらってるからどんなことをすれば嫌な気分に襲われるか理解している。だからそれを回避する事もできているはずだ」
「そうだね、子まりさたちをうまくそだてるのはみんな苦労したみたいだね」
「ああ、みんな失敗してた。でもお前はうまくいってるみたいだな」
「ゆゆっ、今はよろこんでいいのかわからないよ」
「誉められたんだから大いに喜べ」
まりさは複雑そうな笑顔をした。
「でもまりさをどうしてドスにしたの」
「ゆっくり達は馬鹿だ。だからお前をドスにした」
男はまりさにゆっくりと村の仲介役になるドスになってもらいたかったのだ。
それも人間の話を良く聞くドスに。
「それがひいてはゆっくり達をゆっくりさせられるんじゃないかと俺が思ったからだ。沢山の犠牲の上になりたった理想だがそれは仕方あるまい」

男の話を聞いていたまりさは思い立ったように大声を出した。
「お兄さん!!」
「急にどうしたまりさ」
「それならまりさたちはもうここを出て村の近くのもりにゆっくりおひっこしするよ」
「もっとゆっくりしていってもいいんだぞ?」
「みんながお兄さんのごはんになれちゃったらたいへんだからね」
「やはりお前は賢いな」
「かしこくされたんだよ!!」
そういやそうだったと一人と一匹は笑いあった。



それからしばらくした頃村の近くには一匹のドスまりさが現れたと騒ぎになった。
男が見に行くとドスまりさは案の定男が育てたまりさですでに男の身長をゆうに越すほど大きくなっていた。
人間にとても友好的なドスの群れは森で静かに暮らし、一切の迷惑を村人に掛けなかった。
その代わりに人間もドスの群れと思われるゆっくりに対してはいかなる干渉もすることはなく、それを友好の印とした。
そしてときおり男はドスまりさの元にお土産を持って出かけた。
今度こそゆっくりできる本物のたい焼きの味を堪能してもらうために。





あとがき
あれー?デジャビュをテーマに書き始めたのにただのトラウマになってた(´。ω。`)
途中までホラーっぽいものにしようかと思ってたけどそんな力量はなかったというSSです。
ドスまりさは某王スライムみたいに群体としてその賢さを得たと考えてみたり。
普通の食料は食べるとただの餡子に、ゆっくりの餡子を食べると人間で言う骨や肉にそのままなるみたいな雰囲気で巨大化できるんだよと妄想したり。
ドスサイズにまりさが多いのはまりさにゲスな性格が多いからとか思ってみたり。
ゲスなまりさが仲間を食べてドスになっちゃたんだよとか俺設定なので注意です。

今まで書いたSS
  • ちぇんと猫
  • ちぇんと死に至る病
  • ちぇんとタチ
  • おれがあいつで
  • ちぇんと幸福論
  • そういうプレイ
  • ゆっくりでさっぱり
  • ゆっくりガラパゴス的退化

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最終更新:2022年04月16日 23:26