最近、人間の里に新しくオープンした喫茶店がかなりの人気を博している。
ゆっくりの出現によって入手が容易になった上質の餡子をふんだんに用いた様々な和スイーツ(笑)が特に好評だ。
そんな人気の店に潜入し取材を敢行しようとしている彼女の名は射命丸文。
鴉天狗の記者として文々。新聞を人妖問わずばら撒く幻想郷最速のパパラッチである。
ちなみにあくまで潜入取材なので今日はいつもの格好ではなく普通の人間の服を着ている。
扇も隠しているし、カメラも特製の小型カメラだ。靴も普通の草履だ。
一本歯でないからといって誰かにしがみつかないと歩けないといった萌え現象は起こってはいない。残念だ。
「いらっしゃいませ!piaマウンテンにようこそ!!」
「これが噂のpiaマウンテンですか…可愛い制服ですねぇ。椛に着せてみたいです」
小さく呟きながら席に案内される文。よく見れば周りは若いカップルばかり。一人で来ている客は文だけだ。
だが今の文はただの少女ではなく新聞のネタを風神でマッハなパパラッティ。そんな事は気にしない。
仄かに少女臭の漂う巨乳ウェイトレスにメニューを渡され、広げて驚く文。
どのメニューもとにかくえげつない。ざるうどんに餡子だの、羊羹の天ぷらだの、ご飯に果物と餡子を詰めた丼だの、
奇妙奇天烈摩訶不思議で奇想天外四捨五入なものばかりだ。なぜ、こんな店が人気なのだろう。
疑問に思いつつ、『オススメの品』という甘口抹茶小倉蕎麦(れいむ)なるものと珈琲を少女臭ウェイトレスに注文する。
数分でメニューがやって来た。早い。この早さも人気の秘密の一つなのだろうか。こっそりメモする。
さて、やって来た問題のメニューだが、何と大皿の上にゆっくりれいむが載っている。
注文ミスかと思い、少女臭に確認する文ちゃんxxxx歳。
「あの…私が注文したのは甘口抹茶小倉蕎麦(れいむ)なんですが。これはゆっくりですよね?」
「いえいえ。それが甘口抹茶小倉蕎麦(れいむ)ですわお客様。蕎麦はこの中に入っているんですよ」
「あぁなるほど。これは器なんですね」
確かによく見れば頭部が蓋のようになっている。それに横には蕎麦汁の代わりと思しき汁粉もある。
ちなみに本体のゆっくりはまだ生きている。
どうやら舌を切り取られて喋れないようだが、プルプルと震えて涙を流している。
「ではいただきます」
「……………………っっっ!!!」
蓋を開けるとより一層痛そうに顔を歪めるゆっくり。ややSっ気のある文はちょっと嬉しそう。
さて、問題の中身は緑色、というか抹茶色の蕎麦がみつしりと詰まつてゐた。
上には白い生クリームがこれでもかとかかっていて、容器の内縁には壁に沿う様にキウイフルーツが並んでいる。
ちなみに珈琲は普通の珈琲である。容器が花瓶サイズだが。
「な、何という緑色……」
作り立てである事を思わせる熱気が強烈な甘い匂いと共に文の鼻腔を直撃。思わず身を引くパパラッチ。
「い、いやいや。圧倒されていてはいけません。とりあえず気付かれないように写真を……」
目にも留まらぬ速度で甘口抹茶小倉以下略を撮影する文。少女臭だけは遠くからその様子をニヤニヤと見ている。
文もその事に気付いたが、相手に邪魔する気が無いのも分かっているので無視。どうせ暇潰しなのだろう。
無事に撮影も終え、早速食べにかかる。これはスパゲティではなく蕎麦なので使うのは当然フォークではなく箸だ。
抹茶色の蕎麦という中々にシュールな麺類を汁粉に付けて、優雅かつ豪快にすする。
「お、美味しい……!?蕎麦の香りと抹茶の香りがベストなマッチをしていて、汁粉がそれらを彩っている!
また麺の食感もコシがあり、つるつると面白いように口に飛び込んで来て舌の上でシャッキリポンと踊る!!踊る!!」
文ちゃん的にもかなりの高評価。猛烈な勢いでメモるメモる。
蕎麦を取る度に容器がブルブル震えて顔が苦痛に歪むのが辛抱たまらん、と読む者がドン引きするような事まで書いている。
右手で蕎麦を食べ続け、左手で文花帖に料理や店内の様子などを細かくメモる!
容器の底の方の蕎麦は餡子が絡められていた。ただでさえ量が多いのに、終盤になってこの糖分ラッシュ。
「流石ですねpiaマウンテン…ですがこれ位では私は倒せませんよ!」
もう文本人も何をやっているのか分からなくなっている。甘い物の過剰摂取でテンションが狂ったのかもしれない。
悪戦苦闘して中身を空にする。だがまだこのメニューは終わってはいない。そう、容器だ。
容器すらも食べ尽くして初めてこのメニューを完食したと言える。文はそう結論付け、口直しに容器にとりかかる。
既に完全に白目を剥き、涙も出てこない容器を手でちぎり、口に入れる。
「くそ!やられた!piaマウンテンめ……こんな屈辱は生まれて初めてです……!!」
その容器は、ただのゆっくりの皮ではなかった。薄い二重構造になっており、皮の真ん中にたっぷりとシロップが塗られている。
しかも皮そのものもこれまた甘い。どうやら甘い物を大量に食わせて育てたゆっくりらしい。ギトギトだ。
「まさかここまで手が込んでいるとは……やられました。完全に私が甘かったです。いえ甘いのはこれなんですけど」
顔に影を作りつつ妙に芝居がかって悔しがる。店員や周囲の客は見て見ぬフリをしている。
珈琲で口直しをしつつ必死で皮をやっつける。皮を間食する頃には2リットルはあった珈琲も空だ。
「何と緻密に計算されたドリンク…これもまたpiaマウンテンの陰謀、ですか。侮れません」
文花帖に高速メモ。風神少女はこんな所でも最速だった。
「ではそろそろ厨房に行くとしますか。この甘口抹茶以下略を作ったのは誰だぁ!!」
「ヒィ!か、海原雄○山!!?」
店内に、一陣の風が舞う。風は人々にパンツをチラ見せしながら厨房に突入取材を敢行していた。
「あなたが料理長さんですか!?」
「は、はいそうですが。貴方は一体……まさか私を美食倶○楽部に!?」
「いえいえ私はしがない新聞記者でして。是非ともあの美味しい料理とこの店の人気の秘密を知りたいと思いまして」
「し、新聞記者!?はっまさかあんたは…山岡士○郎!」
「違いますよ!私のどこが井○上和彦ボイスなんですか!私は文々。新聞を発行しております射命丸文という者です」
「あ、あの鴉天狗のパンチラッチか!」
「それを言うならパパラッチでしょう!何ですかパンチラって。私をビッチと呼んだ奴は表へ出て下さい」
「それはともかく、取材ですか。せっかくですが私共はそういった事はお断りさせて頂いておりまして…」
「で、でもっ!あんなに美味しい料理、もっともっと皆さんに知ってもらいたいんですぅ」
急に甘口以下略の様に甘ったるい声を出す文。さり気なく胸元を緩めるあたり、ビッチ呼ばわりされても仕方ないかもしれない。
「し、仕方ないですねぇ…少しだけですよ」
「わあ!ありがとうございますぅ!」
そそくさと胸元を戻したのでやっぱりビッチじゃない!文ちゃんはビッチじゃないぞ!!
少々残念そうな顔の店主に、
「では甘以下略を作る過程だけ見せて頂いても構いませんか?」
「まぁ、それ位ならいいでしょう。こちらへどうぞ」
連れて行かれた調理台では、今正にゆっくりれいむが大きな鍋の中で茹でられていた。
「がぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」
「え、これ茹でて大丈夫なんですか?べしゃべしゃになるんじゃ」
「皮全体に砂糖を溶かした菜種油を丹念に塗っておけばある程度持つんですよ」
「はぁ~そんなもんですか」
数分間茹でられたゆっくりれいむがざるで掬い上げられる。
「あ゛づい゛よ゛!ゆ゛っぐり゛でぎな゛がっだよ゛!!お゛じざんゆ゛っぐり゛あ゛や゛ま゛っでぶばっ!!」
素早く氷の浮いた冷水に浸けられるゆっくりれいむ。
「ああして茹で上がった直後に冷水に浸けると全体が引き締まってつるつるとした食感が出せるんですよ。
ちなみにあのゆっくりは事前に蕎麦粉を大量に与えています。だからあの蕎麦風味が出せるんですよ」
「えっ!あれ容器じゃなくて麺だったんですか!?」
「その通りです。まあ見ていて下さい」
冷水から上がったゆっくりがすぐさままな板の上に乗せられる。
「ざざざざざぶい゛よ゛!!ざぶぐでゆ゛っぐり゛でぎだい゛よ゛!!はや゛ぐあ゛だだべでゆ゛ぎぃあ゛!!」
包丁で髪から上を切り落とされるゆっくり。
「がびが!!れ゛い゛む゛の゛ぎれ゛え゛な゛がびがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
泣き喚くゆっくりを力ずくで抑えつつ細く切っていく。その技は正に職人技。
「ゆ゛ぐぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ゆ゛っぐり゛、ざぜでぐだざい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」
あっという間に細長いゆっくりの束になる。完全にみじん切りするまで死なせないとは見上げた技術だ。
そして細い輪になった皮を丁寧に取り分け長さを整えて抹茶色の鍋で再度茹で、餡子をボウルに移す。
「はぁ~。まさか麺がこんな風になってたなんて、想像もつきませんよ。だからあそこまでマッチしてたんですね」
「その通りです。同じ食材を使う事によって味に統一感を持たせつつ個性を持たせる。それがうちの美味さの秘訣です」
「なるほどなるほど。これはいい記事が書けそうです」
麺が再び茹で上がる頃、別のゆっくりが厨房の奥の部屋から運ばれてくる。
麺ゆっくりよりは一回り小さく、容器ぐらいの大きさだ。
「おじさん!!はやくもってきてね!!ここでゆっくりさせてくれるんでしょ!!?」
例の口上で大人しくさせて連れて来たらしい。暢気に持ち前の図々しさを発揮している。
まな板の上に置かれ、今か今かと来る筈の無い食事を待つゆっくり。包丁一閃、頭の上が切り取られた。
「ゆ゛ぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!い゛だい゛よ゛お゛じざん゛!!は゛や゛ぐあ゛や゛ま゛っでね゛!!」
当然謝罪などする事無く、中身を半分ほど取り出す。
「ゆ゛っぐり゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!?れ゛い゛む゛の゛な゛がみ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」
取り出した餡子を先程のボウルに入れ、別の者がそれを良くかき混ぜて汁粉を作り始める。
「ああ、あそこでも『統一感』ですか。皮にも麺にも合いますね、あれなら」
「ええそうです。記者さんは中々飲み込みが早いですね。どうです、うちで働いてみませんか?」
「遠慮しておきますよ。ここで働くと文々。新聞が出せませんから」
話している間に、餡子を半分取り出されたゆっくりの皮の真ん中に切れ込みが入れられる。
「ゆ゛っぎぃえ゛え゛え゛え゛え゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!だずげでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「あれは何ですか?包丁の割に随分ペラペラですけど」
「あれは糸鋸を改良したものですよ。あれを使えば皮を突き破る事無く切れ込みを入れられるんです」
「はあ、なるほど。道具一つにもきちんとこだわりがあるんですね」
話しつつ要点を高速メモ。
皮の谷間にシロップが塗られ、茹で上がった抹茶色の麺が残った中身と混ぜ合わされる。
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ぐっ、り゛っ!」
かき回される度に、まるで自身の意思ではないかのように声を上げるゆっくり。
麺がよく混ざった所で内側にキウイが並べられ、残りの麺が載せられる。そして生クリームをたっぷりとかけ蓋をする。
最後に舌を根元から切断され、口を利けなくされた。
「舌はなるべく最後に取らないと餡子の甘みが落ちるんですよ。不思議な事に」
「生命の神秘ってやつですかね」
大皿に載せられて既に出来上がっている汁粉と一緒に、まだ見ぬ客の元へと運ばれていく甘口抹茶小倉蕎麦(れいむ)。
「はぁ~。大変参考になりました。出来上がったらここの皆さんにもお配りさせて貰いますね」
「ははは。それはありがとうございます。今後も普通のお客様としてのご来店をお待ちしております」
会計を済ませ、晴れやかな顔で店を出る文。早速記事を作るため、今日も最速で仕事場へ戻る射命丸文であった。
WELCOME TO "piaMOUNTAIN" END
作:ミコスリ=ハン
最終更新:2008年09月14日 09:24