「ゆぅ・・・ゆぅ・・・」
道端で傷だらけの赤まりさが荒い息を上げている。
そこに通りかかる一人の青年。
「おい、どうした?大丈夫か?」
「ゆ、ゆっくちして・・・」
赤
ゆっくりはお決まりのフレーズを言い切る前に気を失ってしまった。
ボロボロだが幸い命に別状は無い様だ。
だがこのまま放っておけばどのみち死んでしまうだろう。
青年は赤まりさを優しく抱き上げると彼の家へと急いだ。
「しっかりしろ!絶対に死なせないからな・・・!」
「ゆ・・・?」
赤まりさが目を覚ますとそこは今まで見た事の無い不思議な場所だった。
真っ白な天井に柔らかい光、そして今まで居たところと比べるととても暖かかった。
「やぁ、気がついたか?」
柔和な笑みを浮かべながら青年は赤まりさ向かって声をかけた。
「ゆゆっ?ここはどこにゃの?」
「ここはおにいさんのお家だよ。君が怪我をしていたからお兄さんが連れてきたんだ。」
「ゆー?まりしゃはけがなんてしちぇにゃいよ?どこもいちゃくにゃいよ!」
「おにいさんが治療してあげたんだよ。でももう痛くないんだね。よかった。」
青年がホッとした顔でそう言うのを見て、赤まりさは青年が良い人間だと思った。
「そうなんだ!ありがちょうおにいしゃん!ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
「どういたしまして。元気になったみたいでお兄さんも嬉しいよ。そうだ、お腹すいてない?
よかったらお兄さんとご飯を食べないかい?」
「ゆ!いいにょ?おにいしゃんのごはんでしょ?」
「遠慮なんてしなくていいよ。さ、こっちへおいで。」
「ゆぅー!ありがちょうおにいしゃん!まりしゃおなかぺこぺこだよ!!」
青年と食卓へ行き赤まりさは生まれて初めて人間の食べ物を食べた。
今までろくな食べ物を食べていなかった赤まりさは一口食べた瞬間涙と涎を滝の様に流しながら
「むーちゃむーちゃ・・・ちあわちぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
と叫びながら一心不乱にかきこんだ。
青年はその様子を見ながらニコニコと微笑んでいた。
「ゆゆー。とってもゆっきゅりできるよ!おにいしゃんありがちょう!」
食後に風呂に入れてもらい赤まりさは青年が敷いた布団の上でとてもゆっくりしている。
「ところでまりさ、君はどうして一人であんなところに居たんだい?」
「ゆ・・・それは・・・」
途端に赤まりさの顔はかげった。
「無理せず少しずつでいいからおにいさんに教えて欲しいんだ。」
思い出したくないのだろう。赤まりさはプルプルと震えている。
しかし、青年はこの赤まりさの生まれてから今までの短い人生にどのようなドラマがあったのか知るつもりだった。
赤まりさは思った。
この人間は優しい。とてもゆっくりできる。この人間になら・・・。
「・・・まりしゃにはおかあしゃんがいないよ。」
そしてポツポツと自分のこれまでの人生を語り始めた。
生まれた時にはすでに母親が居なかったこと。
一緒に生まれた姉妹達と食べた黒いあまあまが美味しかったこと。
少し留守にした間に知らないゆっくりに家を奪われていたこと。
取り返そうとした姉妹達は殺されてしまい自分だけが逃げてきたこと。
苦い草を食べてなんとか生きてきたこと。
獰猛な猛獣(チワワ)に襲われて命からがら逃げ延びたこと・・・。
「なるほど・・・それであんなところに倒れていたのか。」
「ゆぅぅぅ・・・きょわかったよぉ・・・ゆえーんゆえーん!」
思い出している内に我慢できなくなったのか赤まりさは涙をボロボロとこぼしながら泣き始めた。
辛かったのだろう。恐かったのだろう。
この小さなゆっくりが生きてきた壮絶な人生は大の大人ゆっくりの一生にも匹敵するものだった。
「でももう心配しなくていいよ!君はこれからお兄さんのお家で住むんだ!」
「ゆ!?いいの・・・?」
「もちろんだよ。今まで辛かっただろうけどそれも終わりだ。これからはお兄さんのお家でゆっくりしていってね!」
「ゆゆゆっ!ゆっきゅり!ゆっきゅりぃぃぃ!!」
さっきまで悲しそうに泣いていた赤まりさは、今は本当に幸せそうに泣いていた。
悲しみに満ちた生活は終わり、これからは幸せに生きていくのだ。
赤まりさの人生に新しいページが綴られていくのだ・・・。
「話してくれてありがとう!それじゃぁ・・・。」
『ベチャッ』
赤まりさの人生は幕を閉じた。
その短い人生を終わらせた張本人である青年・・・彼が興味があったのは赤まりさのドラマである。
そしてこれからの幸せで退屈な展開に興味は無かった。
だから、自分の手で話を終わらせた。青年の望むエンディングへ。
波乱のドラマを聞き終えて満足そうに微笑みながら青年は黒く汚れた手にタバコを持ち、煙を吹かしながら余韻に浸った。
「饅頭にハッピーエンドはありえねぇ。」
最終更新:2008年12月09日 18:03