- いうまでもなくこのSSのみの設定です。虐待なし。オリキャラ登場注意
幻想郷の辺境に一人の魔法使いがいた。名前はおろか性別も知られていない。
その行動を見るに、おそらくは格の低い魔法使いなのかと思われる。
その魔法使いは甘味をこよなく愛していた。なかでも和菓子を。
甘味好きが高じて、自作するまでにもなっていたが、魔法使いはとても不精でもあった。
買いに行くにせよ、自分で作るにせよ、その手間を省く方法はないかと長い間考え続けていた。
ひとつの方法として、菓子を作る人形を作ろうと試みたが、うまくいかなかった。
人形は作れたものの、納得できる品質の菓子を作らせることができなかった。
だが、この失敗からひとつの着想を得ることが出来た。
それは人形ではなく菓子の方に生命を付与するという手段だった。
そして、動物のように繁殖させるのだ。元の菓子が美味しければ、子供も美味しいに決まっている。
魔法使いは試行錯誤を繰り返した果てに、植物、動物、饅頭、大福を混ぜ合わせたような性質を持つ、まったく新しい菓子を作り出した。
魔法使いはうぉ~と叫んだことだろう。
生ゴミのような粗末な食物でも育ち、急速に殖えることができ、どのような環境化で育とうとも常に美味。夢の菓子生物が誕生したのだった。
「ゆっくりしていってね!」
生きている饅頭は生れ落ちてすぐさま第一声を放った。
なぜ
ゆっくりなのかというと、おそらくは魔法使いのサボりたい気持ちが移りこんだ結果こうなったのだろう。
バグに近いものだったが、魔法使いはそのままにした。
来客に供された饅頭が「ゆっくりしていってね!」と言ったとしたら、面白いもてなしの趣向ではないか。
食べ物なのだからゆっくりしてくれた方が好都合でもある。作り直すのが面倒でもあったのだろう。
魔法使いはいい加減な性格だったので、この饅頭をそのまま「ゆっくり」と呼ぶことにした。
ちなみに、この原種ゆっくりは饅頭に目と口がついただけのシンプルな姿である。ハゲまんじゅうを想像してもらえればよい。
こうして魔法使いは寝ているだけでも三食甘味三昧の生活を手に入れたが、そこで欲が出てきた。
(売り物にならないだろうか?)
食物兼ペット兼家畜兼玩具として大流行するに違いないと魔法使いは安易に思い込んだのだ。
(これだけでは弱いな……)
このままではただの生きている饅頭だ。なにかもうひとつ“売り”になる要素を追加したかった。
そこで魔法使いの目に着いたのが、幻想郷の歴史を綴った一冊の書だった。また、魔法使いは新聞もとっていた。
それらの書には幻想郷で起きた異変や、それを解決した巫女、弾幕合戦のことが書かれていた。
(これだ!)
魔法使いはゆっくりを一種のキャラクター商品として売りこむことに決めた。
ゆっくりを幻想郷の少女たちをかたどった饅頭にするのだ。
まず最初にもっとも有名な二人の人間を題材に、ゆっくりれいむとゆっくりまりさを作り上げた。
とにかく殖えてもらう必要があったので、れいむには強めの母性本能が付与された。
これにオリジナルの神社を守るという設定が組み合わさって、縄張り意識が強まり、“おうち宣言”の習性を得ることになったのだろう。
まりさは偏見込みのモデルそのままだ。野菜を盗むのは、図書館から本を盗むという記述に影響されたのだろう。
こんな調子で、モデルの性質を奇妙にゆがめた(顔面もゆがんだ)幻想郷のゆっくりたちが作られていった。
だがさっぱり売れなかった。
理由はいろいろあるが、やはり喋る饅頭は気持ち悪かったのだろう。
モデルの不興を買うことを恐れたというのもあるだろう。言うまでもなく許可などとっていない。
欲に目の眩んだ魔法使いは大量の在庫ゆっくりを抱えることとなった。
この在庫が意図的に投棄されたか、管理がずさんなせいで逃げ出したのか、
野生化し、増殖し、里に現れ……あとは皆のよく知るところである。
魔法使いは儲けられなかったが、ゆっくりは幻想郷に定着することとなった。
今更出てきて権利を主張することはないだろう。前述の通り、モデルに許可を取っていないし、
方々でゆっくりによる少なくない被害が出ている。
魔法使いは今でも知られざる庵にて、ゆっくりたちと暮らしている。
そこには捕食種、希少種、変異種も含めたすべてのゆっくりたちがいる、ゆっくりの故郷だ。
魔法使いはたまに創作意欲が湧き上がると、新たな種類のゆっくりを生み出して野に送ると噂されている。
これらはすべて人づてに聞いた話である。真偽のほどは定かではない。
ところで、もしこの記述を目にしたゆっくりがいたのなら警告しておく。
この魔法使い、ゆっくりの創造者を探そうなどとは考えないことだ。
「どぼじでー? そのひとはゆっくりのかみさまなんでしょ? きっとそこならすごくゆっくりできるにきまってるよ!」
などと言い返すかもしれないが、この創造者が、ゆっくりを食べるために生み出したことを忘れてはならない。
魔法使いはゆっくりを愛している。だが、それはあくまで甘味としてだ。
書き忘れたが、この魔法使いは大層大食いだそうな。
自分を食べられないためには、ひたすら子供を産み続けるしかないということだ。
最終更新:2008年12月09日 18:04