ステージ上で一匹の
ゆっくりが喋っている。
ゆっくりの名前はれいむ。
野生の
ゆっくりだったがプロデューサーに見初められ、厳しいオーディションに合格し、晴れて
ゆっくりがボーカルを務める「ゆー・ふぁいたーず」の一員となったのだ。
というのはれいむの脳内ストーリーで、実際にはマネージャーが遅刻してきた
ゆっくりを叩き潰してしまい、
あわてて野生のれいむを捕まえてきたのだ。一応簡単な身体チェックをして。
だがそんなことに関係なく、れいむはとにかく嬉しいようだった。
確かに森では一番の
ゆっくりシンガーだった。れいむが切り株の上で歌っていると、近くの
ゆっくりも遠くの
ゆっくりも、
さらには狩りに行っていた
ゆっくりまでもれいむの歌を聴こうと集まってきた。
おともだちのまりさも
「れいむのうたはとっても
ゆっくりしてるね!きいてるだけで
ゆっくりできるよ!」
と言ってくれた。だが人間に認められたのは初めてだったのだ。
「ゆゆー、こんなもんでいいよ!」
何がいいのか分からないが、とにかく満足したようでれいむはもみあげで丸を作った。観客席も大方埋まったようである。
他のメンバーは頷きあうと合図を送った。すると今まで明るかった会場内の照明が絞られ、スポットライトがステージを浮き彫りにした。
それを確認するとれいむはマイクに向かって喋り始めた。
「みんなっ!きょうはきてくれてありがとう。れいむがんばってみんなのために……ゆびゃっ!?
ゆっぎゃぁぁぁあああああああああああああ!!???」
突然ギターがれいむを蹴り上げ、れいむの叫び声に呼応するようにドラムがリズムを刻み始めた。
れいむは訳が分からず、ただ痛みに対し反射的に叫ぶだけである。そしてれいむが叫ぶたびに観客のテンションが上がっていく。
「ゆっぎゃぁっぁぁぁゆっ!ゆっっべえっ!ゆうっ!?」
ベースで殴られ形が変わるれいむ。それがアクセントとなり曲にメリハリを持たせた。
れいむはギターにも殴られ飛ばされ、ドラムに打ち返され、スピーカーに餡子を揺さぶられた。
そのまま3曲目が終わろうかという頃、不意にれいむはこれまで味わったことのない浮遊感を味わった。
「ゆぅ、おそらをとんでるみたーい♪ゆべしっ!
いたいっ!かみをひっぱらないでね!れいむのあんよつかまないでね!
とげとげいたいよ!やめて……ゆひぃっ!めが、れいむのめがぁぁぁああ!」
メンバーの一人がれいむを掴んで観客の方へ投げ込んだのだ。
四方八方から伸びる手に、れいむは髪をつかまれ、足を突かれ、時々思いっきり殴られ、
観客のリストバンドに引っかかれ、指が目に刺さりながら徐々にステージの方へ進んでいった。
そうしてれいむが「ベチョッ」と音を立ててステージに戻って来ると、ようやく曲が終わった。
小休憩らしくステージ上でオレンジジュースをかけられながらも、れいむは意味が分からなかった。
自分の歌を聞いて
ゆっくりしてくれる友達の顔を思い浮かべ、目の前の人たちも同じように
ゆっくりしてもらおうと、
そう思って喋り始めた所に、強烈な痛みが襲ってきてそのままもみくちゃにされたのだ。
あまりにも予想不可能な出来事。森で母親と共に
ゆっくりと箱入りで育ったれいむは、ただ痛みのままに涙を流すのが精一杯だった。
およそ1分ほど経ち、
ゆっくりの驚異的な回復力で傷のふさがったれいむは、スタッフの手によってアコギの中に入れられ、
ギターはそのアコギの弦をチューニングしなおすと弾き始めた。
当然、中のれいむにとってはたまったものではない。大音量でただでさえ痛む傷跡が刺激されるのだ。
「ゆひぃぃいいいい。やべでねぇぇぇえ
ゆっぐりやべでねぇぇぇええ」
アップテンポの曲で疲れた観客達は、アコギの音色とかすれたれいむの声を楽しんでいた。
2曲終わった所で、ギターはアコギを叩きつけて壊し、息も絶え絶えのれいむを出した。
「ど……どぼじで……こんなこと……」
だがそんなれいむに応えることなく、今度はドラムがれいむを掴むと、前面の開けられたドラムに放り込み閉めた。
軽くドンドンと叩き、れいむが中で怯えているのを確認すると16ビートを刻んだ。
ボーカル抜きのインストである。普通なら少しだれる所であろう。
だがステージを見つめる観客は夢中であった。
「ゆびびびびびっゆっぐりできないいいい!?……ゆ?なんだがきもぢよぐ……すっきりー!
ゆべべべべべ……すっきりー!ゆぼぼぼぼぼ」
クリアなバスドラムに入れられたれいむが、音と振動ですっきりと
ゆっくりできないを繰り返していたのだ。
ひとり顔芸を繰り返すれいむ。ちなみに曲の名前は「天国と地獄」である。
ギターとベースも
ゆっくりの動きに合わせ、曲調を変えていく。
ヒートアップした二人は、演奏を続けながらも
ゆっくりのいるバスドラを蹴り飛ばしていく。
「やべでっ!すっきりー!のぼぼおおおっっ!にげっられなぃいいい!?」
二人に蹴られないようドラム側に逃げると、ペダルが迫り来る。
かといって横を向けば音に直で耳をやられる。下を向いてもすっきりー!で前を向いてしまう。
メンバーの蹴りと同様、体を突き抜ける音ももはや暴力であった。
そして今のれいむに暴力に対抗する手段はなく、ただ耐えるのみであった。
「すっき……ゆ?」
曲が終わり、ドラムはれいむを取り出した。
そして動けないよう押さえつけてから、飾りで汗をぬぐい観客に向かって放り投げた。
突き上げる手に取り合われ、グチャグチャになるれいむのリボン。
この数十分でボロボロになったれいむにもこれは効いたのか、今日一番の大声で叫ぶ。
「やべでぇぇぇええ!ぞれはでいぶの、でいぶのどっでもだいじなぁぁああああ!」
その叫びに共鳴するように、バンドが音を奏で始めた。ラストスパートを象徴するかのように、激しく、勢いを持って。
「もうだめぇぇぇえええ!おうぢがえるぅううううううう!!」
メンバーの気持ちを感じ取ってか、れいむの叫びもいっそう激しくなるのであった。
※
実際のライブではスタッズつきのベルトとかバングルはNGです。
ダイブとモッシュも禁止の所が多いです。虐待と同じでルールを守って楽しみましょう
最終更新:2022年01月31日 02:58