??なんかもう異世界です
??ジャンルはミステリーです
??ていうか初期設定が何よりミステリーです
??人間は出てきません。
??虐待が少なくて理不尽設定なのでSSでなくネタ扱いにて。
だいとかいで
湾岸の夜景を一望できるマンションの一室で、ありすは物憂
げな表情を浮かべていた。
しがないただの
ゆっくりだった彼女は、一夜にして富と名声
と、「大都会」を手に入れたのだった。
だが成功は努力無しには得ることは出来ない。
ありすの脳裏に、過去の自分の姿が思い描かれる。
ムリでした。
5分前の記憶すら無いゆっくりに、妹達と野山を駆け巡った
(ゆっくり基準)ことや、まりさとの熱く燃え上がる情愛(あ
りす基準)を深めたことなど、思い出せるはずもない。
せいぜい、昔はゆっくりしてた気がするくらいだ。
若い者として当然の夢を持ち、野心を抱いて上京し、希望に
溢れたあの頃はもう、ありすを訪れることは二度とない。
彼女は既に栄光を掴み、虚栄にしがみ、失意に挫折した現実
しかないのだ。
「ゆっく……り、していってね……」
ガラスに映るありすの瞳には、ゆっくり口1億3千万とも言
われるこの国の頂点に立ったアイドルの面影は見えなかった。
ありすは確かに、「大都会」を手に入れた。そのために彼女
は、あらゆる物を切り捨て、売り捨て、投げ捨ててきた。
友人のれいむを事故に巻き込み、オーディションを有利に進
めた。幼馴染のまりさを差し出し、ドラマの主役を得た。妹の
ありすを担保に、大規模なコンサートの出資を取り付けた。
だが、それがありすに何をもたらしたと言うのか。ありすが
本当に欲しかったのは、友達と、幼馴染と、大切な妹とゆっく
り出来るだけの、たったそれだけの「とかい」であれば十分で
あったはずなのだ。晴れた日に微笑み、雨の日に体を寄せ合い、
ゆっくりしていってねと言い合える、そんな「とかいは」でさ
えあれば満足だったはずなのだ。何が自分をここまで狂わせた
のか、ありすには判らない。
この「大都会」で。
ゆっくりの欲望が生み出した、底知れぬ闇のてっぺんで。
ありすは、ありすであることを辞めた。
***** ***** ***** *****
「ゆぅ……どういうことなんだぜ?」
警視庁捜査一課に所属する刑事まりさは、頭を悩ませていた。
都下の摩天楼を見下ろすマンションの一室。
至急応援に来られたしの報を受け、ゆっとり刀で駆けつけた
彼女を待っていたのは、理不尽な報告であった。
「つまり、……どういうことなんだぜ?」
「ゆ~……、まとめると。被害者は大女優のありすだね。今朝
早く、この部屋で首を釣っていたのを発見されたんだね。ここ
まではわかるよー!」
ふむふむと相槌を打つまりさ。
「発見したのは週刊誌の記者で、ありす本人の遺書が届いたの
で大急ぎで駆けつけたと。ここまでもわかるよー!」
なるほどとうなづくまりさ。
「問題は……わからないよ~~!!」
そう、わからない。
不条理な点はいくつかあるが、何よりもわからないのは。
「死体が多すぎるのぜ……」
目を見開いたまりさの視界を埋め尽くしたのは、512体に
も上る、ゆっくりの死体だった。
***** ***** ***** *****
戦後の高度成長期を迎え、ゆっくり達は豊かな生活と引き換
えに、ゆっくりするココロを売り払った。得るものは確かに多
かった。だが失ったものが、より価値がなかったなどと誰が言
えるのだろうか。売り渡した以上、それは対価なのだ。譲り渡
し、補填しないのであれば、それは歪むしかない。
社会のゆがみに翻弄され、悲しい現実に生きるしかなくなっ
たゆっくり達は、また新たな悲劇を引き起こす。
これは、ココロを失ったゆっくりと闘い続ける、ある刑事の
物語である……。
***** ***** ***** *****
自殺か、他殺か。
マンションの一室にゆっくりが512匹も入り込むなど、ま
ず不可能だ。であれば、誰かに殺されて、部屋に詰め込まれた
としか思えない。
それに、首吊り。
自殺としては一般的な方法ではない。死亡率が低いこと、長
時間苦しむ必要があることがその原因だ。他の動物、例えば犬
や猫などであれば、窒息する以前に体液の循環不足により意識
が途絶えるだろうが、身体の発達した彼女達にとってこの方法
は、自殺すると言う点においては適切ではなかった。
検死の結果、死亡したありすはアイドルとして一世を風靡し
たありす本人であると断定された。後背部に隠れた火傷跡が、
幼い頃に負ったとされるそれであると、取り寄せたカルテで確
認が取れたからだ。
また、他ゆっくりの死因も不可解であった。ほぼ全員が体か
ら蔦を生やして息絶えていたのだ。全員がありすであり、どう
やら発情しすぎた結果らしかった。
取調室からは、被疑者のゆっくり達が発する呻き声で溢れて
いた。
現場付近で見かけた怪しげなゆっくりを約200体ほど任意
同行をかけ、特に抵抗したゆっくりから優先的に「自供」を促
す「説得」を行っている。現時点での説得状況は3割、自供率
は8割程度だ。残り2割は言わぬが花であろう。
「ばあああ! ばでぃざがじばじだあああ! あでぃづのごど
ずぎだっだどでぃいいいい! うだぎっだがだあああああ!
いっだがら! いっだがらたすけあづいいいいぃぃ……」
「でいぶが! でいぶがじゅやぐでぃだずばずだっだどおおお
おお! あでぃずだんがじんじゃえええええ!」
「むぎゅううううう! じだだい! なにもじだだいわ! ば
んじょんだんがいっだごどな……じだだいいいい! ざっぎあ
だだがばんじょんっでいっだんでじょおおおお! む……きゅ
ぅ……きゅっ」
この様子だと、明日の朝には誰かを容疑者として起訴出来そ
うだった。
根本的な解決になっていない現状を嘆きつつ、最も効率がい
いことに苦笑せざるを得ないまりさは、タバコを加えて嘆息す
るしかなかった。
「やれやれなんだぜ」
***** ***** ***** *****
「つまり、『とかいは』じゃあなかったってことよ」
もうすぐに夕日も沈むだろう。
海風に髪をたなびかせて、ありすは崖の上から海原を見下ろ
す。
「そうね、確かに始めは呪ったわ。でも、辞めた。だって、姉
妹だもの」
「『あんな方法』で殺した相手を、まだ『姉妹』と言うのぜ?」
うつむくまりさの表情は伺えない。
対照的に、ありすは空を見上げて明るく話す。
「ええ、良く出来た『お姉さん』よ」
とかいはじゃあなかったけれど、と重ねて微笑みを漏らす。
「コンサートは成功していたのよ、本当なら。お姉さんたら、
私を二束三文で売り払ったくせに、裏切るとは考えなかったの
かしらね。似ているからって、汚れ仕事ばっかり押付けて、自
分は綺麗な体に綺麗なココロのまんま。まあ、最後に500匹
もの発情したありすに襲われたんだから、本当に、ゆっくり出
来ない人ね」
まりさが顔を上げたとき、ありすはそれを、511体ものゆ
っくりを意のままに操ったその武器を口に加えていた。
「や、やめるんだぜ!」
「ひひへ、やひぇひゃいあ。ほえい、あかいはひゃええあうあ」
「『いいえ、やめないわ。それに、中身は替えてあるわ』だっ
てぜ!? お願いだから止めるんだぜ!」
「あひょうああ。うっふいいんへへ!」
***** ***** ***** *****
「毒ガスを……風下で使うやつなんかいないんだぜ……」
ごふごふと咳き込むありすを支えるまりさ。
「いい、の、よ。わたしも、おね、ちゃんと、同じ、ね。『と
かい』だなんて、くだら、ないわ。ゆっく、り、出来るだけで
いいの、にね」
そう言い捨てたありすは、まりさを突き飛ばし、谷底へと消
えていった。
海に向かって落ちてゆくありす。
落下しながらも剥き出しの岩肌に皮膚を削られてゆく。
途中突き出た鋭利な岩に、体躯の下半分を持っていかれる。
上半分は、海面すれすれで海鳥の餌食となった。
「ありす……。ありすうううううううう!」
叫びを聞きつけて海鳥が群がってきたので、まりさはとっと
と逃げ出した。
刑事まりさの事件簿1 だいとかいで より抜粋
最終更新:2009年02月14日 04:23