草木も眠る丑三つ時、山にぽっかりと口を開けた洞窟を前に人間達が集まっていた。たいまつを掲げた人間の他に鍬や鎌果ては斧で武装している者もいる。
全員の顔からはほとばしるような殺気が出ており、傍から見れば山賊の類かと思われた。実はこの人間達は山の麓にある村の住人である。
それが何故こんな時間、こんな山中で、こんな物騒な格好をしているのか。事の発端は山に住み着いた
ゆっくりにあった
元々この山にはゆっくりは住んではいなかった。が、いつ頃からかゆっくりが山の中に住み着いたのだ。
そしてそれから少し経つと少しづつではあるが畑や家屋にも被害が出始めたのだ。
一度だけならいざ知らず、何度もそれが繰り返されその度に村に被害が出た。
捕まえ潰したゆっくりを畑に晒し、家の戸締りを厳重にし、大規模な山狩りも行った。
それでも村への被害は収まることが無く、そして山の資源もことごとく荒らされ村にとって大打撃になってしまった。
業を煮やした村の人間達はゆっくりの駆除を決断した。
しかし村側には圧倒的にゆっくりの群れに対する情報が足りなかった、相手側の根城も知らずに駆除など出来るはずも無いのだから。
そこである日、畑から逃げ遅れた一匹を捕まえ拷問にかけ口を割らせる事に成功した。
聞き出せたのは、ドスが率いているという事、それとこの洞窟に住み着いているという事だった。
十分過ぎる程の情報を得た住人達は今すぐにでも駆除に走りたかった、がそれを躊躇させる問題が二つ。
一つはドスがいる事実である。その辺の非力な野良とは違いドスともなればかなりの難敵になる。
人間には遠く及ばないが知性もあり、それにどすすぱーくなる破壊光線までも備えており一筋縄ではいかない相手だ。
二つ目にこの洞窟自体にも問題があった。
以前村の子供が興味本位で入り遭難した事があった。その捜索の際に分かった事なのだが
内部が何本にも枝分かれしておりかなり入り組んだ複雑な構造をしているのだ。
そして通路の幅が狭く、どすすぱーくで狙い撃ちにされてしまう危険もあった。
下手に入って駆除出来ずに村側に被害を出し、最悪気取られて棲家を変えられてしまう。一度の攻撃でこの群れを壊滅させる必要があった。
この問題を解決すべく、村の住人達は一計を案じた。それは…。
洞窟内ではもう起きているゆっくりの方が少なかった。
あるものは夜更かしをし話し込み、またあるものはすっきりーと言いながら子作りに励んでいた。
一番奥ではそんな光景をドスが見つめていた。
いくつものゆっくりぷれいすを見てきたが、これ以上の場所を見たことが無い。
このゆっくりぷれいすは最高だ。周りには美味しいものや畑があり
この洞窟も人がよらず入り組んでいるから例え敵が入ってきてもそうそうたどり着くことは無い。
ここで自分達が幸せに暮らしていくのだと。その時であろうか、黒い煙が洞窟内に立ち込めてきた。
それに気づいた一匹の親ゆっくりが煙に対し体を膨らませ威嚇を始めた。しかし煙に包まれた瞬間にすぐに異常を感じた。
「ゆ!?けむりさんあっちにいっtt…ゆゆゆなんだかくるしいよ…」
「はやくあっちにいってね!ゆっくりできないよ!」
洞窟内はにわかに騒がしくなり寝ていたゆっくりも目を覚まし始めた。
「ゆ!おかーさんうるさいよ!ぜんぜんねむれないよ!」
起きたゆっくり達も騒がしさに不満を漏らすが、すぐに異常を感じ始めた。
「いきがしづりゃいよ!くるしいよ!」
「えほっむほっ!げほっ!」
「ゆゆゆゆゆなんだかこのけむりさんはあぶないよ!あかちゃんたちはくちにはいってね!」
親ゆっくりの達の言葉で赤ちゃんは急いで口の中へと避難した。
赤ちゃんを守る為の適切な行動、しかしこの黒い煙に対してはその対応はかなり危険であった。
「……げほっげほっ!」
「ゆべっぇ!?」
「むぎゃっ!?」
「ちーんぴょ!?」
入れたまでは良いが、この黒煙のせいで咳き込んでしまう。咳と一緒に口に入れた赤ちゃんを勢い良く吐き出してしまったのだ。
そしてあまり体が丈夫ではない赤ちゃんは吐き出された勢いで壁にぶつかり、哀れ物言わぬ粘液と皮へと姿を変えてしまった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛でいぶのあかちゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
「どう゛じでな゛ん゛だぜえええええええ!!!!
辛うじて致命傷に至らなかった赤ちゃんもいたが、すぐに黒煙に飲み込まれ息が出来ない苦しみの中朽ちていった。
洞窟の中は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。そこ等じゅうから悲鳴が上がり、壁じゅうに餡子やカスタードがぶちまけられ、床には白目をむき苦しんだ顔のまま死んだゆっくり達。
「げほっ!げほっ!このままじゃあぶないよ!えほっ!みんな!おそとににげるよ!」
悲鳴しか聞こえない洞窟でドスが咳き込みながら張り叫ぶ、それが人間の思惑通りだと知らずに。
住人達が案じた策、それは火あぶりであった。正確に言えば、煙であぶり出す作戦と言う方が正しいのであるが。
まず洞窟の入り口に藁や木とにかく燃やせるものを積み上げて、灯油や油をぶっ掛け火をつけた。
勢い良く燃えていく炎の固まりから黒煙が立ち上っていた。
それを大きな団扇で扇ぎ、洞窟内へと煙を充満させ外へと誘い出す。
出てこなくても中で死に絶え、出てきても入り口付近で自分達で殲滅する事が出来る。
二段構えのこの策を“もぐら叩き”と住人達は名づけていた。
程なくして洞窟の入り口から何匹ものゆっくり達が飛び出してきた。
「ゆっくりー!すーはーすーはー!いきができるよ!」
「くうきさん!ありがとうね!」
人間がいる事など知らずに次々にゆっくりが飛び出し、空気に対しての礼を述べていた。
憎たらしい顔、生きてるのが不思議なくらいな形状、見ているだけで住人達は怒りを抑える事が出来なかった。
「………死ねッ!」
そう小さく吼えると男が手の鍬で一匹を叩き潰した。
「おいお前等も殺っちまえ!!」
その言葉が引き金になり一気に住人達はゆっくりへと武器を振り下ろしていった。
ある者は畑の恨みと叫んで、突き刺し
またある者は取っておいた干し柿の恨みだ!と言いながら薙いだ
「どぼじでえええええええばりゅ!」
「だぢゅげでええええええんぐれいぶ!」
逃げ出すゆっくりも勿論おり、何匹かは運よく包囲網から抜け出せたものもいた。
「ゆっ!ゆっ!ゆっ!まぬけなにんげんさんだね!まりさはつかまらないよ!」
振り向きながら罵っていたまりさであったが何かにぶつかり吹っ飛んでしまった。
「いたいんだぜ!だれかはしらないがはやくまりささまにあやまるんだぜ!」
そういいぶつかった正体を確かめようとすると…それは人間の足だった。
「どう゛ぢでい゛る゛ん゛だぜええええ゛ぐばゅ!」
加減もせず思い切り踏みつけるとまりさは潰れてしまった。
何重にも人間は構えており、例え包囲から抜け出せても次の包囲で殺される。ここから逃げ出せるゆっくりなど一匹もいはしなかった。
洞窟内以上の地獄絵図が洞窟前で展開されていた。
逃げ遅れたゆっくりを助けながら最後にリーダーであるドスが洞窟から飛び出してきた。
出てきて最初に目に入ったものそれは一面に広がる、餡子餡子餡子餡子。
先ほどまで寝ていた赤ちゃんも子作りをしていたつがいもみな平等にぐちゃぐちゃにされていた。
ドスは状況を理解できず、混乱していた。
なんで?どうして?なんでにんげんがいるの?巣の位置がどうしてわかったの?
頭を過ぎる多くの疑問、ドスといえど餡子脳。処理しきれずパニックに陥ってしまった。
その隙を住人達は見逃さなかった。
「あの世で後悔しろやぁぁ!クソ饅頭!」
そう叫び武器を構えて何人もの人間がドスへと突撃していった。
パニックに陥っていたドスであるが、自分の体に走る痛みがドスを我に返らせた。
「ゆぎゃああああああ!!い゛だい゛い゛い゛い゛!!!!!」
気づけば全身は何重にも切り刻まれ、あちこちから餡子が漏れていた。
それでも反撃しようと力を振り絞ろうとするが、あの黒煙の中ゆっくりを助けていたのだ体力も限界であった。
とうとうドスの巨体が崩れ落ち、最後に目に移った光景それは自分に振り下ろされる数々の武器であった。
夜にもぐら叩きを始め、群れを殲滅する頃には夜が明けていた。
辺りに一面には強烈なまでの餡子臭、それと焼けた餡子の匂いが漂っていた。
何匹か死に底ないが呻いていたが、それにも止めをさす。
これでまたもう村への被害は出ることは無いだろう。
そう思いながら朝焼けに包まれながら男達は村へと引き揚げていった。
終わり
最終更新:2009年02月22日 00:34