地雷注意
おなかが、すいたよ。お外で、あそびたいよ。
おねだりをすると、お母さんがいやなお顔をする。
だから私は、そんなことは言わなくなった。
お姉さんたちとおなじくらい、ごはんがたべたい。
お姉さんたちとおなじくらい、お外であそびたい。
おなじことをすると、お母さんにぶたれるので、しなくなった。
いたいよって言うと、もっとぶたれる。
かなしいよって言うと、もっといやなお顔をする。
だから私は、いつもお顔を、にっごりとさせている。
私は、お母さんも、お姉さんたちも、みんなが好きだ。
お母さんも、お姉さんたちも、ほんとうはみんな私のことが好きだ。
だって、かぞくだもの。
だって、かぞくだから。
私にはお母さんがひとりしかいない。
よく知らないけれど、お姉さんのおともだちのまりさや、れいむは、
お母さんがふたりいるみたい。
お母さんに、お母さんはひとりしかいないんだね。と、言ったことが
ある。
お母さんのお顔がゆがんで、ああ、またぶたれるんだなと思ったら、
きゅうになきだした。
私もかなしくて、ごめんなさい、ごめんなさいと、お顔をゆがめてあ
やまった。
うれしいお顔をずっとしているから、こんなときどんな顔をすればい
いのか、思いだせない。
いちばん上のお姉さんはまりさお姉さん。
私が生まれたときには、もうお姉さんだった。
だから、妹の私たちより、ずっと大きいお顔。
つぎに上のお姉さんは、れいむお姉さん。
とてもよく似たふたごで、そろいのおりぼんが、とってもきれい。
お母さんにお姉さんがさんにん。
これが、私の大すきなかぞく。
れいむお姉さんたちは、とてもいたずらがすきみたい。
まりさお姉さんがいないところで、よく私にいたずらをする。
かみをひっぱったり、おかざりを取ったりする。
私は、やめてとも、いやだとも言わないから、いつもやりすぎて、ま
りさお姉さんにおこられる。
そうして、ふたりとも私をにらんだりする。
そんなとき、まりさお姉さんは、悲しそうなお顔をする。
いやだ、って言えばいいんだぜ。そう言いながら、悲しそうに、私をぺ
ーろぺーろしてくれる。
私はべつに、いやじゃあない。
もう、ずっとだから、何がいやなのか、何がすきなのかも、良くわから
ない。
こうしてまりさお姉さんに甘えていられるし、あれ、でもそれって私が
すきなことなのかな。
よくわからない。
れいむお姉さんたちは、れいぱーのこどものくせに、と言う。
お母さんがそう言ったのだそうだ。
「れいぱー」が何なのかはわからないけれど、ゆっくり出来ない感じが
する。
でもみんな私が好きなのだから、そんなことは関係なく、とてもゆっく
り出来るはずなのだ。
いつものようにお顔をにごにごとしていると、れいむお姉さんたちは一
緒に遊んでくれるのだ。
大切な家族。
ごはんを食べていないからかな、とても眠い。
気がつくと明るくて、ぼーっとしてるともうお休みのじかん。
だからおなかも、あんまりへらない。
お母さんに、かってにごはんを食べる子はおしおきだよ、とすごくおこ
られた気がするけど、それもよく覚えていない。
れいむお姉さんたちが、うれしそうなお顔で私を見てる。
ああ、きっとお姉さんたちだね。
しあわせー♪ 、できたのかな。
私はごはんを食べて、しあわせー♪ した思いでが、ない。
だから、お姉さんが私のかわりにしあわせー♪ できるなら、それはイ
イコトなのだと考える。
その日から、ごはんがほんとうに少なくなった。
私だけじゃなく、かぞくみんなの食べるものが、もうないみたいだ。
冬のために、たいせつにとっておいたごはんも、無くなった。
お母さんはまいにち、かりに出かけるけれど、お姉さんもてつだってい
るけど、私はてつだえなくて、みんなにおこられる。
お外に出たことはないし、むしさんはゆっくりしていないし、何がおい
しいものなのかもよくわからなくて、まりさお姉さんのうしろで、気がつ
いたらもう暗くて。
れいむお姉さんたちは、私をずっとにらんでいるし、ごはんを食べたの
はお姉さんのはずなのに、でもみんな私がひとりでしあわせー♪ したっ
て言ってる。
そうだったっけ、でもみんなが言うなら、そうなんだろう。
大すきなかぞくが、うそを言うはずがないもの。
あたまが、おもい。
とても、さむい、あさ。
さむく、くらい、あさ。
お母さんが、ふたりでゆっくりぷれいすに行くよ、と言った。
でもそこは、ゆっくりできるけど、ゆっくりできないゆっくりぷれいす
なんだとも言った。
よくわからな、かったけれど、お姉さんたちといっしょに行きたいけど、
でもお母さんとふたりだけみたい。
お姉さんたち、付いてきたいって。けど、お母さんがこわいお顔をした
ので。
れいむお姉さんたち、私をにらんで。
つめたいみちを、お母さんの後ろ、だまってついて、く。
ふたりで、くのがうれしくて、ついおかあしゃ、つぶやいて。
風がぴりり、音を立てて、こおりついた。
お母さんは、ゆっくり歩くの、やめて、振り返らない。
「イラナイコ」、いう。
あるひ、授かったけど、かわいくない、ゆっくりできない、「イラナイ
コ」、という。
やく、立たないし、どんどんゆっくりできなく、なる「イラナイコ」。
おもいだ、すと、かなしく、て、くやしくて、れいむの、かわいい子、
はずなのに、おまえみたいな。
やっぱりよく、わか、ないだけど、とてもゆっくりない、ことだと思う。
でもそんな私、育ててくれるお母さん、とても、ゆっくり。
きっと、あいされて、る。
あさ、くらい、つづく。
お母さんがかくれた、まね。
ゆっくりぷれいすついた。
人間さん、いるかも、いう。
見つかったら、ゆっくり、もらいなさい、という。
ゆっくりぷれいすで、あそべる、とてもゆっくり。
おやさいさんとって、わたす。
お母さんは、うっめ、これめっちゃうっめ、と。
食べるもの、なかったから、しあわせー♪ してくれ、と、ゆっくりで
きる。
かさりと立てて、お姉さんたち、くる。
お母さんおこる、ど、みんなむーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪
まり、ねー、いな、い。
おやさ、でてなくて、土さん、ほるのに、かかる。
ぜんぜ、たりないよ、ぐずだ、はげましれる。
おおき、こえ。
おばらだでじ、とか、ふといおと。
にんげ、さん、うれしい、あそん。
にんげ、さ、あそぶは、じめて。
きっと、ゆっく。
ユック、って、なんだ、け。
あさ、くらい、みんな、くらい。
にんげ、さ、おどろいて?
にんげさ、ん、ふえて、そろーりそ、とおかあさ、なぐっ。
おかあさ、おねーさ、ゆっく、やべでで、と。
わたし、は、やべでね、おがあざ、じめるの、やべでで、おかお、えがおする。
えがお、なんだ、け。
「でいぶから生まれたぐぜにゆっぐりでぎない子はにんげんさんにあげるよ!
だがらでいぶをだずげ……そっじの子じゃだいいいいい! やべでえええ!」
「おがあざあああ!! おがああああざああああああ! ゆっぐりでぎない
にんげんざんばゆっぐりじぎゃああああ!」
「あんなゆっくり出来ない子はゆっくりじゃないもん! 『イラナイコ』、れい
ぱーの子供なん……ゆぎゃああああやべでえええええ!」
おかあさ、おねーさ、の声で、くらい朝だけど、すこし明るい。
だいすきな家族をいじめる、な。
にんげんさんはお母さんもお姉さんたちもいじめる悪いにんげんさん。
お手てやお足をいっぱいにのばして、おもいきりたたきつける。
お母さんはこれをすると、とてもきもちが悪くなるので、でも今こうしないと
お母さん。お母さん。お姉さん。
「じぢぢがいばずう……ざらっだんじゃ、あ、ありまぜん……げふっ! 人間ざん
に……ばでぃざど大事だおちびじゃん……づぶざれで、無理やりずっぎりーざぜら
れで……にんっじんじだんで、ずう……。でぼあんだ変だど、でいぶのごどぼのは
ずがだいどおお!! お飾りはないし、お手てもお足も変だし、ごぼっ、ごっ!
あいづどぜいで、ゆっぐりでぎだい……あいづざえいだげでば……あいづ……ざ
え……全然ゆっぐりでぎなっ……がっ……」
きがつくと私は大きなにんげんさんにかこまれて、こわくて、みんなこわいお
顔で、どこかかなしそうなお顔で、それはまりさお姉さんのようなお顔で。
その中のおねえさ、が私だきしめて、かわいそな、ふびんな子と泣いて、でも
私はとてもこわくて、おかあ、さ、おねー、さ、わたし、大すき。
かぞく、だもの。
わたし、たち、かぞく、もの。
おかお、こびりつ、て、うごか。
きゅうに、よるみた、くらなっ、けど。
あ、ここ、あったか、ねえ。
ゆっく、ぷれいす、ねえ。
しあわ、せ、……♪
最終更新:2009年02月24日 19:14