ゆっくりいじめ小ネタ444 ゆっくりスタンプ

現代設定です



 スタンプゆっくり




 ガラス箱からゆ木が突き出ていて、その先端は別のガラス箱へと伸びている。
 一方の箱には、もはや涙も枯れた妊娠まりさ。もう一方の箱には、今まさに新しい生命が生まれ落ちようとしていた。
「ゆゆっ!まりさのおちびちゃん……」


 まだ意識のない、しかし生まれる寸前の子まりさがゆ木からぷつんと切り離され、ガラス箱に落ちる。


 ゆ木を介して伝わる胎ゆっくりの気配が消え、まりさは子供が生まれたことを知る。
「かわいいおちびちゃん、ゆっくりしていってね!」
 まりさは大きな声を上げた。今まで何度も繰り返してきた、届かないわが子への祈りを。


 * * * *


 最初に感じたのは、振動と音。どこかへ運ばれているらしかった。
”ゆっきゅちうごいてるよ!きっとみゃみゃにはこんでもらってるんだにぇ!”
「ゆっきゅちちていってね!」
 子まりさは産声を上げた。蛍光灯の明かりも、曇りガラスからおぼろげに見える視界も、
 ガーとかジジジーとかいう不思議な音も、全てが初体験の刺激である。
 だが、待ち望んでいる親ゆっくりの声が聞こえなかったので、子まりさはもう一度挨拶をした。
「ゆっきゅちちていってね!」
 やはり答えはない。身じろぎをしようとしたとき、まりさは底部がきっちりと固定されているのを知った。
 これでは跳ねて親を探しにいけない。もっとも探しに行こうにも四方は壁で囲まれているのだが。
「ゆえーん!ゆえーん!みゃみゃどこにいるのーー!?」

 やがて箱がガタンと小さく揺れ、振動と音が停まる。ベルトコンベアの終端まで来たのだった。
「ゆすん…ゆすん…どーじでみゃみゃきてくれにゃいの…?ゆっきゅちちたみゃみゃのまりしゃだよ…?」
 やがてまりさは浮揚感を覚える。
「おしょらをとんでるみたい…!きっとこれで、みゃみゃにあえるにぇ…!」
 ガラス箱は人の手で運ばれ、倉庫へと移されて積み重ねられる。

「くらいよー!こわいよー!」
「ゆっきゅりできないよー!」
 倉庫の中は、か細い子ゆっくりの鳴き声で満たされている。
「みゃみゃー!みゃみゃー!」
「おかーしゃーん!おかーしゃーん!」

 しばらく経ち、倉庫内のスピーカーが気だるげに音を吐き出し始めた。
「ジジ…ブツン。おちびちゃん、ゆっくりしていってね」
 抑揚の無い、どの種のものともわからない不思議な声。
「みゃみゃ!?ゆっくりちていってにぇ!」
「おかーしゃん!?ゆっきゅちちていってね!」
 箱の中のゆっくり達はそれを我が親のものと思い雀躍する。
「ジジ…ジ…いまはいってあげられないけど、がまんしていいこでいてね」
「ゆん…ゆん…!」
「ゆっきゅちりかいちたよ!ゆっきゅりしゅるよ!」

 機械音声は数時間に一度流れるようになっている。それは、箱の中の子ゆっくり達の唯一の心の支えだった。
「みゃみゃ!おにゃかすいたよ!」
「ジジ……ゆっくりしていってね」
「どーじでごはんもってきてくれにゃいのぉぉぉぉ!!!」
「ゆっくりしていってね」


 * * * *


 三ヶ月が経った。すでに子まりさの心の中には、ゆっくりと時間をかけて染みこまされた諦念しか残っていない。
 喋ることも、それ以前に何かを思うこともほとんどなく、時間の感覚もなく、固定されたあんよは何にも触れたことがない。
 数時間おきの機械音声の「ゆっくりしていってね」だけが反射を呼び覚まし、辛うじて生命を維持しているにすぎない。
”ゆ っ き ゅ ち ち て い っ て に ぇ”
 身体能力は縮小し、思考は鈍磨し、ただまりさは生きていた。生きるために、生きる――

 時たま、光が差すことがある。ドアが開かれ、あわただしく足音がして頭上のガラス箱が物音を立てる。
 それはガラス箱の中身が上から順番に消費されているということなのだ。

 そんなことを何度か繰り返して、まりさの”順番”がやってきた。
 バタン。カッカッカッ、
”ゆ ゆ ゆ ?”
 ドアの開く音、あわただしい足音――そこから先がいつもと違う。
 自分の箱の前面の曇りガラスに黒い影が映り、曇りガラスが取り払われる。
”ゆ っ く ち き れ い だ に ぇ”
 それはまりさが生まれて初めて見る、曇りガラスにぼやけていない世界だった。
”し ゅ っ ご く  ゆ っ き ゅ ち ち て る よ”


 * * * *


 そこから先は、ジェットコースターのような刺激の連続。
 にんげんさんの分厚い手がほっぺたを掴み、すさまじいスピードでどこかへと連れて行かれる。
 四角い箱をかぶせられ、視界が真っ暗になるのも初めて。倉庫の中は、いつも薄ぼんやりと明かりが点いていたから。
 あんよにも箱をあてがわれる。
”み ゃ み ゃ に あ い た い よ 
 に ん げ ん さ ん ゆ っ き ゅ り つ れ て っ て に ぇ”
 暗闇の中でまりさは、面影しか残っていない親との再会を夢想する。

 エンジン音。恐ろしいほどの加速度と振動。
 三十分ほどの時間を経て、ようやくそれは止まった。
 まりさは先ほどと同じように手で掴まれて移動する。
”お し ょ ら を と ん で る み た い …”
 人間が会話をしている。
「空き巣に入られたと通報があったのはこちらですか?」
「はい…そうです…」
「それでは、お邪魔します」
 また、物音。数人の人間が移動する気配の後で、片隅に置き去られていたまりさが持ち上げられる。
「それでは、指紋を取りますね」
 ぺたん。
”ゆ ゆ ぅ ぅ ぅ ぅ ぅ ぅ ! !”
 まりさはあんよに激しい刺激を感じた。そのままべったりと押し付けられ、それは、
 生まれて一度も跳ねたことのないまりさにはもはや激痛だった。
”い ち ゃ い よ ゆ っ き ゅ り や め て に ぇ”
 箱暮らしのまりさに痛みを逃れるための運動能力は育まれていなかった。助けを求める咽喉はすでに枯れ、
 涙も出なかった。
”い ち ゃ い よ ぉ ぉ ぉ ぉ !”
 従来の粉末を利用する指紋採取方式にとって替わった、
 生まれて一度も跳ねたことのない子ゆっくりを使用したスタンプゆっくり―― 
 もしこのまりさスタンプに上蓋が無かったとしたら、この現場で同じようにスタンプとして使用される
 何匹もの同類たちの姿を見られただろう。 




 * * * *


 そしてまた、箱の中にいる。
”お も ち ろ か っ た に ぇ”
”に ん げ ん さ ん ま た お そ と に つ れ て っ て に ぇ”
 ゆっくりとまりさは思考する。
 蛍光灯の明かりと、視界を遮る曇りガラスだけの世界。その世界でまりさは幸せだった。
”は や く み ゃ み ゃ に あ い た い に ぇ”

 まりさは知らない。二度とお外に出ることも、親まりさと再会することもないということを。
 そして、採取した指紋をデータバンクに登録したあとで、
 リサイクル工場行きという末路がすべてのスタンプゆっくりを待ち受けていることも。




 END

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最終更新:2009年04月05日 02:58
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