「あっちぃーねぇ。」
「やめてよ、よけいあっつくなるわ。」
「じゃあ、さむ」
「寒いっていえば寒くなるなんてあほなことゆーなよ。」
二人の少女としえとあきがアイスを食べ、ぶらぶらとだべりながら川沿いの道を歩いている。真夏の太陽の光がさんさんと降り注ぎ、二人の肌からは玉のような汗が噴き出してくる。汗でべったりと張り付くTシャツにとしえは気持ち悪さを感じた。
「……これからどーする?」
「どーって、どうしようか。涼しいとこ、ジョスコかイヲンでも行く?」
「出た、ジョスコ。」あきの言葉にとしえは半ば馬鹿にしたように笑う。
「としちゃん、ひどっ。田舎にとってジョスコは聖地だよ?」
「はいはい。」
いま二人がいるのはあきの母方の田舎であるS県、T市である。県の中心から西に離れたT市は山に囲まれ、今でも多くの緑が残る自然豊かな場所だ。辺りには田んぼや畑がひろがり、二人の歩いている山間の道のそばを流れるA川の水も美しく澄んでおり、二人の住む街を流れる川と同じとは思えない。夏の陽さしが水面に反射してキラキラと輝いている。帰省するあきの家族に誘われ、としえもここにいる。
「さいしょはめずらしかったけどさ。」二人はサンダルを脱ぎ、足を川にいれてつかの間の涼をとる。
「あきには悪いけどさ、やっぱ田舎だわー。やることねーもん。」
「なんどもひどいなぁー、としちゃん。……でもたしかにやることないねぇ。」
「男子ならなんかあるかもしんないけど、うちら女子だし。」
「虫取りとか死んでもしないし。」
「さんぽするのいいけど、なんもないし、あっちーし。」
「そうだねぇ。」
ぱしゃぱしゃと水面をけり、水しぶきをあげる。しばらくの間辺りには蝉のうるさいくらいの鳴き声と、田んぼから聞こえるカエルの鳴き声、そしてあきがたてる水音が響いた。
「あっ、ゆっくりだ。」ふと、あきが声をあげた。
「どこ、あぁ、ほんと。」あき見る方向にとしえも目をむけると確かにそこには一匹のゆっくりれいむがいた。
「田舎にもいるんだぁー。」
「どこにでもいるんじゃない?こどもつくることしか能がないからねぇ。」
「……、てかさ、なんかでかくね?」
そのれいむは二人がいる岸を50メートルほどのぼったところにある木陰にいた。普通の
ゆっくりの大きさであれば、それだけ離れていればここからでは野球ボール大くらいにしか見えないだろう。しかし、どう見てもそのれいむはそれよりずっと大きい。
「たしかに。」そういうと二人は面白いおもちゃをみつけたようないたずらな顔を合わせた。
「行ってみるかぁー、暇だし。」
川のほとりから立ち上がり、濡れた足もそのままでサンダルを履き、二人はそのれいむのもとまで駆け出した。二人にとってはただの暇つぶし、れいむにとっては地獄のような苦しみの時間が始まるのだった。
2
「「でっけぇー!」」二人は意識したわけでもなく、同じ言葉を口にした。
「なにこいつ、ちょーでかいんだけど」
「まじだわ、1メートルはあるんじゃね?」
「たぶん、普通のゆっくりの何倍だ?あぁ、こいつがドスって奴?」
「違うと思うよ。ドスってまりさがなるみたいだし。」
「ふーん、それはいいけど、とにかくでっけーな、こんなでっかいの初めて見た。」
「うぅーん。ゆゆうっ、なんだかうるさいんだよぉ。」
木漏れ日が優しげにふりそそぐ最高のゆっくりプレイスでお昼寝をしていたゆっくりれいむが、ふわぁぁとあくびをしながら目を覚ます。
「ゆゆっ、にんげんさんだ。ゆっくりしていってね!」
寝ぼけまなこに二人のにんげんさんの姿をみとめると、まだ眠いのを我慢してれいむはごあいさつをした。
「「ゆっくりしていってね!!」
としえとあきも笑顔でゆっくりのあいさつを返す。
「ゆゆぅー、にんげんさんもとってもゆっくりしているね!!」
嬉しそうにれいむは答えた。よかったわるいにんげんさんじゃあないみたいだ。
「れいむもね。どうあまさまさん、飴しかないけど食べる?」
「ゆっ、あまあまさんくれるの?れいむあまあまさんだいすきだよっ。」
「そっかそっか、はい、じゃーどうぞ。」
「ありがとー、にんげんさん!とってもゆっくりできるよ、ぺーろぺーろ、……し、し、しあわしぇーー。」
にんげんさんからもらったあまあまさんのおいしさに全身で感動をあらわすれいむの傍らで、としえとあきは何事かを話している。
「…ゲスゆっくりじゃないみたいね。」
「飼いゆっくりでもないみたい。バッジないもん。ねぇ、れいむ」
「しあわしぇーー、ゆゆっ、なぁに、にんげんさん?」
「れいむはどうしてそんなに大きいの?」
「ゆゅ、どうしてかなぁ?」少し考えるように小首をかしげたあと「ゆゅー、たくさんごはんさんをむーしゃむーしゃするからだと思うよ!」と元気に言った。
「それはなに?山にそんなにたべものがおちてるの?」
「それもあるけど、おやさいさんもたべたりするんだよぉ。」
「なに、勝手に畑に生えてる野菜を食べてるわけ?」
「ゆゆぅー、ちがうよ。生えてるのはだめだけど、たべていいよっていうちいさいおやさいさんがあるんだよぉ。それにれいむはいまたくさんむーしゃむーしゃしなきゃいけないんだよ!」
「ふぅーん?そうなんだぁ。」れいむの答えを聞くとひそひそと二人だけで話し始めた。
「つまり、売り物になんないよーな捨てられた野菜をたべてるってわけか。」
「田舎の人はやさしいねぇ。でも積極的に世話してるってわけでもないみたい。むかつくねぇ、ゆっくりのくせに。ゆっくりしすぎだよ。」
「そんなゆっくりはさ…」としえがあきの耳元でぼそぼそつぶやく。「ふふっ、くすぐったい。」ばか、と言ってとしえはそんなあきの頬をつまみながら話を続ける。「こうするのはどう?」、「うわぁ、すっごく面白そう。」、「じゃあ、そういうことで。」、「おっけー。」