ゆっくりいじめ小ネタ480 巨大な広告塔

※虐待描写は、ほとんどないです
 人間もゆっくりもひどい目に遭っています
 現代ものです。暗いです。



  巨大な広告塔



 青年は、額に油汗を滲ませて、その広告を異常なまでに凝視していた。煌々と液晶画面には、
ゆっくりしていってね、と吹き出しの付いた、赤ちゃんのゆっくりれいむとゆっくりまりさがモ
デルの商品広告が映し出されている。今やゆっくりを飼うのが空前の大ブームとなっていた。突
如、青年は跳ね上がるようにして立ち上がると、カーテンレールに掛けてあったナイロン製のジ
ャケットを羽織り、空っぽになったケージを引っ掴んで、散らかった部屋を飛び出した。
 無理にローンを組んで買ったシルバーの軽自動車に乗り込み、郊外を抜けて、二つ小さな山
を越えた。途中から道は整備されてなかったので、車体は小刻みに、度々大きく揺れた。その度
に溜まっていた泥水を跳ね上げ、車体のあちこちが汚れた。小道になるとそれを目安に青年は車
を降りた。
 数十分歩いて目的の廃墟の町に着いた。湿潤な風に汗は渇かず、シャツは青年の荒れた肌に密
着していた。不快である理由は収まらない興奮のせいか、汗なのか、青年はわからなかった。
 町は閑散としており、ある独特の臭いが鼻をついた。道端の浮浪者たちが、生気を失った目で
通り過ぎる青年を見ていた。にやにやしながら何か言っているのを青年は気にしないよう努める。
俺がここに来たのは正しいんだ、そう自分に言い聞かせながら掴まれた腕を振りほどき、身体の
求める先に早々と向かった。
 一軒の中堅の建物の前で止まる。冷や汗が増える。それでも青年は玄関をくぐった。コンクリ
ートが剥き出しで閉塞的なフロアに先客がいた。カウンターの店主に怒鳴りつけている。ゆっく
りを見せろ、俺はこんなところにわざわざ来たんだぞ。店主は表情を変えずに、お引き取りくだ
さい、と一点張りだった。青年は一旦店を出た。店主は客を一人しか相手にしないので、他の客
がいるときは外で待っていなければなかったからだった。やがて男が顔を真赤にして出て行った。
お前は二度と近づくな、帰って馬鹿面を饅頭相手に垂れとけ。青年は擦れ違いざまに舌打ちして
再び入店した。
「いらっしゃい。」
フロアにはカウンターしかなく、商品のある奥の部屋には店主しか入れない。こうでもしなけれ
ば、この店は経営できなかった。どんなゆっくりをお求めですか、店長はにこりともせずに言う。
青年はそれが気に行っていた。ノルマを気にして、へこへこと客の気色をうかがってくる店員が
嫌いだからだった。
「生後二ヵ月のゲスまりさを一匹」
 店主は驚きを隠せなかった。今回は確実に手に余るぞ、店主は危惧したが青年の様子を見ると
何も言えなかった。
 やがて持ってこられたケージを青年は、興奮に震える指で受け取る。
「ゆっくりしていってね、ゆっくりしていってね!」
 中にいるゆっくりまりさは喜びのあまりに涙を流しながら叫んでいた。代金を払い、それから
ポケットに入れていた紙袋を店主に渡そうとして中身が空っぽのままであることに青年は気がつ
いた。
「ああ、いいですよ赤ゆは次で」
 すいません、と謝って青年はそそくさと店を出た。まりさは店から解放された喜びを噛みしめ
るあまりに店主の不穏な言葉には気がつかなかった。
 車内でまりさは、まだ泣きながら窮屈なケージの中で跳ねていた。
「おにーさん、おにーさん、ありがとう! まりさはいまとってもゆっくりできてるよ」
 思いがけない言葉に青年は狼狽した。こいつは俺が売り払ったのに、ゲスならゲスらしくあれ
ばいいのに。
 まりさは今までの空虚な生活を思い出していた。ある日、目を覚ますと森の中ではなく、見慣
れない空間にいた。パニックになっていると、網の外に人間の顔が現れた。皮膚には深い皺が刻
まれており、物を言わせない面持ちであった。お前は今日から良いゆっくりにならなくてはなら
ない、知ってるか、ゆっくりの幸せはな、人間に上手く飼われることよ、人間さんに飼われてい
れば、悪い子じゃない限りは、ゆっくりできるんだ、あと俺はここのオーナーだ。その人間は一
息もおかずに早口で言った。反論は敵わなかった。店主が消えると、真っ暗になった。助けを求
めたが、誰かに怒鳴られた。同族がいることに嬉しくなって、また口を開くと酷く罵倒された。
泣きながらその日は眠りについた。部屋に充満している酸っぱい臭いが不快でなかなか寝つけな
かった。
 定期的に店主は、まりさの前に現れて餌をやった。毎回まりさは、必ず約束事を唱えさせられ
た。まりさはよわいです、にんげんさんはつよくてかないません。それからお礼を述べて、よう
やく餌はあたられた。固形物のそれは、今まで食べてきたものとは比べものにならない味だった。
衣食住に困ることはなかったが、それでも決して生活はゆっくりしているとは言えなかった。
 酸っぱい臭いが体中に染み付き、さほど気にならなくなった頃、まりさは初めて網の中から出
された。質問しようと矢先、全身に激痛が走って気絶した。次に目が覚めると、いつもの変わら
ない網の中にいた。餌を持ってきた店主に尋ねた。まりさは、出されるんじゃなかったの、おに
いさんはどこにいるの。知らん、それだけ短く返ってくると緊張した。他にも聞きたいことがあ
ったが、店主の険しい表情をみると、気が引けた。自身の内部に違和感を感じることは言い出せ
ず、背中を見送るに止まった。
 無事に郊外付近に着いた頃、まりさは眠ってしまっていた。その顔は涎を垂らしながらほころ
んでいる。これから始まるであろう楽しい生活を夢に見ていたのだ。
 暗闇に赤い棒が三本、揺れている。はーい、停まってくださーい、ご協力お願いしまーす。青
年は潔く停車すると降りさせられた。すかさず警官の脇にいたラブラドール・レトリバーが吠え
始めた。若い警官は息をのんで、真っ青になった青年を見て、車内捜査にとりかかる。飼いゆっ
くりにも関わらず、乱暴にケージから眠っているまりさは取りだされた。そこでようやく目を覚
ます、まりさ。
「ゆっ、おにーさん、まりさおなかへっ……ゆべべべべべっ」
 躊躇なく口に腕が突っ込まれる。餡子が飛び散り、辺りに甘酸っぱい臭いが広がる。まりさは
薄れていく意識の中、思い出していた。この痛みは、そうだ、あの時店主さんは、まりさのお口
から何かを入れた──そこでまりさは、事切れた。ついに、夢見た生活が叶うことはなかった。
 警官は出てきたビニール袋の中のブツを確認すると、震えている青年を連行しにかかった……。



後書き


処女作。麻薬ダメ、絶対。
最後まで読んでくださった方、有難うございました。

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最終更新:2009年05月11日 18:50
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