「ゆっ!人間が来るよ!」
「ゆゆ~?にんげんはゆっくちできにゃいよ!」
「みゃみゃ!早くなんとかちてにぇ!」
その日、飼育委員会の集会を終えた僕は久しぶりに一人きりで下校していた。
東京都の端にある僕の通う小学校だが、家まで30分も歩く通学路は緑で一杯だ。
そんなある日の帰り道の、ある曲がり角の向こうから奇妙な声が聞こえて来た。
「おちびちゃん達!お母さんのお口の中にゆっくり隠れてね!
ここならゆっくり出来るからね!」
「ゆゆ!にんげんきょわいよ!」
「みゃみゃのお口にゆっくちかくれりゅよ!」
あぁ、ゆっくりだ(本当は知ってた)
ある時期に急にこの辺に降りて来て、急にどこかへ行った謎の饅頭生物。
詳しい事は知らないが『ゆっくり』が好きらしい(その概念も人間とは異なる、とかテレビで言ってた)
「ゆっくち!ゆっくち!」
「みゃみゃ!ゆっくちかくれちゃよ!」
「っゆ!これで安心だね!静かにゆっくりしててね!」
さて、そんな事よりこの赤いリボンのゆっくり。ゆっくりれいむだが
僕が曲がり角を曲がった時点でもう1匹だけになってた。
先程まで何者かと話をしていた筈なのだが…?
口を結び、眉を吊り上げ、睨みつける様にこちらを見つめている
膨れているのは威嚇の為だ。小学生の僕でも知ってる。
「ゆっくりしていってね」
「ゆっくしていってね!ゆゆ!お兄さんには用は無いよ!
ゆっくりバイバイだよ!」
やっぱり『ゆっくりしていってね!』って返した。感動だ。
でもそんな感動をくれたゆっくりれいむを帰すわけにはいかない。
僕はゆっくりに対して、ある疑問を一つだけ抱いているんだから。
今までにもその疑問を果たそうとしたけど
もうこの辺じゃあほとんどゆっくりなんて見ないんだからね。
「ゆゆ?何してるの?おりぼん掴まないでね!ゆっくり離してね!」
「まぁまぁ、ゆっくりしていってね」
「ゆっくりしていってね!」
「僕とちょっとだけ遊ぼうよ」
暴れる…と言っても前方に低くピョコピョコ跳ねるだけだが
僕から無言で逃げようとするれいむ。
ゆっくりとか言う名前の癖にゆっくりしてないな。
人が怖いようだが、なら降りて来なければいいのに。
「…ゆっ?お遊び?」
「そうだよ、ちょっとだけ遊ぶだけ、それで終わりだよ」
逃げようとしていたゆっくりれいむは『遊ぼう』と聞いて
跳ねるのを止めてこちらに振り向いた。
どうやら『遊ぼう』はゆっくり出来るワードの一つのようだ。
「いいよ!れいむと一緒にちょっとだけ遊んでいってね!」
「うん、じゃあ早口言葉で遊ぼうね」
「ゆ?はやくちことば?」
僕の持っていたゆっくりに対する疑問。
それはゆっくりしないで話す事は可能かどうか。
それを確かめる為に話しかけたのだ。
実際、ゆっくりが早口で喋ったところを僕は見た事が無い。
ゆっくりは叫ぶ時だってゆっくり大きな声で叫ぶのだ(器用だと思う)
「早口言葉って言うのはね、君の好きなお歌とおんなじさ」
「ゆゆ?ゆっくり詳しく教えてね?」
「まぁまぁ、それじゃ僕が言う言葉をなぞって喋ってね!」
東京都特許許可局局長。
小学生の使うポピュラーな早口言葉だ。
「とうきょ…?」
失敗だった。
当然だ。初めて聞く言葉、意味の分からない言葉、その上長い。
「あ、いや今の無し
こっちにしよう、生麦生米生卵」
「ゆゆ、なまむぎ、なまごめ、なまたまご!
出来たよ!こんなのかんたんだよ!」
何となくゆっくりの好みそうな早口言葉を挙げたが、成功だったようだ。
しかしゆっくり言えば簡単だろうがそれじゃ遊びにならない。
もっとゆっくりしないで言ってもらわないと。
「本番はこれからだよ、もっとゆっくりしないで言ってね!生麦生米生卵!」
「ゆ!?ゆっくりしていってね!なまむぎなまごめ!なまたまご!」
「おそぉい!もう一回!生麦生米生卵!!」
「なまむぎなまごめなまたまご!」
「生麦生米生卵!!」
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ゆっくりがゆっくりしないで喋る事は可能。
それから10分足らずの実験を終えて、僕はそう結論づけた。
「生麦生米生卵!ゆふふ!簡単だよ!お兄さん!」
「お上手お上手」
初め抱いていた警戒心はどこへやら、
今では僕の課した遊びを習得したれいむは得意げに
僕に向かって胸?を張って気に入った早口言葉を何度も何度も復唱している。
それを教えてる間、数人の児童が僕の近くを通りかかって少々恥ずかしかったが
それはまぁいい、僕の知的欲求は解消されたのだから。
「遊びは終わりだよ!れいむ!それじゃあゆっくりしていってね!」
「ゆっ?お兄さん帰っちゃうの?ゆっくりしていってね!」
残念だがもう帰ってピアノ教室に行かなくちゃいけない。
もしまた会える機会があったらもっと色々教えてあげるね、とれいむに言って
最後に今日の早口言葉を言ってお別れにしようとした。
「じゃあねれいむ、生麦生米生卵!」
「ゆっくりバイバイだよ!なまむぎなまごめなまたまゆ”!!」
あら、舌噛んだのかな?最後の最後に締まらないヤツだな。
でも、良い子だ。
その昔、女の子に怪我させたとか言う話があったけど嘘なんじゃないだろうか?
僕は解消された疑問とともに、ゆっくりの子供の様な純粋さも知る事が出来て嬉しかった。
ピアノも頑張って、明日の授業も頑張ろう!
「ごべんね”ぇ…ごべん…おぢび…ぢゃん…」
まだ若く、希望溢れる少年が自分の未来に向かって微笑む頃、
舌を噛む代わりに、口の中の我が子を噛み殺したゆっくりれいむは
泣きながら自分のゆん生について考えていた。
ーーーーーーーーーーー後書きーーーーーーーーーーーー
赤ゆは○ね!!!
最終更新:2009年05月11日 18:52