「ぷくー!」
れいむは頬を膨らませていた。
威嚇である。
邪魔してはいけない。
頬は通常の倍ほどの大きさにまで膨れ上がっている。
これだけぷくーすれば皮は伸びに伸びて、れいむは痛みの余り頬が本当に張り裂けるのではないかと不安に思った。
それでもこのぷくーをやめるわけにはいかない。
目の前には
ゆっくりまりさがれいむと同様にぷくーして威嚇をしていた。
まりさは悪しき人間の手先であった。
理由はわからない、まりさは一言も喋らずにただ人間につき従っていた。
まりさのぷくーは恐ろしいほど威圧的なものだった。
全身は愚か帽子までもが均等に膨れ上がりその全体の体積を二倍三倍にまで膨れ上がっているというのに
未だにより膨れることをやめない。
その威圧感は対峙するだけで餡子が強張りかなちーちーが股間からだくだくと漏れ出すほどである。
だがいまれいむはかなちーちーする訳にはいかない。
かなちーちーすればそれだけ体積が減って威嚇効果がなくなってしまう。
何故これほどのまりさが人間に従っているのか。
れいむには理解出来ない。
守るべきもののためか、恐怖で支配されているのか、さもなくば欲のためか。
だがれいむには関係のないことだった。
絶対にこのぷくー勝負で負ける訳にはいかないのだ。
「おかーしゃんがんばっちぇ!」
「がんばっちぇ!」
何故なられいむには家族が居た。
かわいいかわいい子れいむが二匹。
お歌がうまくて優しくてお母さん思いで
れいむにとって目に入れても痛くないほどかわいかった。
今、自分がぷくーをやめればまりさは瞬く間にれいむに襲い掛かり
かわいい子れいむ達も惨たらしい目にあわされることだろう。
れいむは絶対に退かず媚びず省みずの強靭な精神でもって限界を超えつつあるにもかかわらずぷくーをし続けた。
既に息を出来なくなって久しい。
呼吸困難で既に顔は真っ青だ。
それでもぷくーをやめまいと噛み締めた唇からは餡子がにじみ出て顎に伝っていた。
目も閉じてしまおうと思ったが、それでは威嚇にならない。
閉じるまいと生理現象を拒否し続けた瞳は逆に飛び出して赤く血走り涙が流れ続けているにも関らず乾ききっていた。
だが、限界を超えたれいむのぷくーは、れいむからその意識を一瞬で奪い去った。
眼球がぐるんと上へ動き白目を剥いた。
意識が消える。
そしてれいむのぷくーもそこで終わりを迎える、はずだった。
「おかあしゃーん!」
「もうちょっちょだょ!もうまりしゃはげんかいだょ!」
子どもたちの声がれいむを現実へと引き戻した。
「ぷっくっくー!!」
れいむは最後の力を振り絞りぷくーをしなおした。
しかしもう5秒ともたないだろう
その終焉は間近だった。
4
3
2
…1
パァン。
れいむ達は自分の目を疑った。
限界を超えてぷくーし続けたまりさが、破裂したのだ。
れいむは呆気にとられて思わずぷくーをやめた。
「ちぇっ、俺たちの負けか」
「お前が空気入れすぎるから」
「帰ろうぜ」
悪しき人間達は、まりさに繋いでいた道具を片付けるとそそくさと引き上げた。
後には、小さくしぼんで小指より小さくなったまりさの皮だけが残っていた。
不思議なことに中身はどこにもなかった。
残ったものは皮ばかり
その皮も、ためしに伸ばしてみるとゆっくりのものとは思えないほど伸縮自在。
そして何故か少し苦い味がした。
れいむは身震いした。
「おかーしゃんやったね!」
「おかーしゃんちゅごい!」
その時は、子れいむ達の言葉が全てを忘れさせてくれた。
だがれいむは心の底で、これがぷくーをし続けた者の末路かと恐れたのだ。
それから数日後、今度は流れ者のゲスまりさがれいむの巣へと略奪をしかけた。
もちろんれいむはぷくーでまりさを威嚇し、まりさも負けじとぷくーで威嚇し返した。
「ぷくー!」
「ぷ、ぷくー!」
まりさのぷくーは貧相で、れいむに負ける要素は見当たらなかった。
まりさは既に負け戦を悟り顔面蒼白で油汗を垂らしている。
れいむはぷくーしながら心の中でニヤリと笑う。
「おかーしゃんちゅよい!」
「しょんなまりしゃやっちゅけちゃっちぇね!」
もう一踏ん張りして追い払おうと顔に力をいれようとして
視界の隅にまだ片付けていなかったこの前のまりさの残骸が入った。
それはちょうどまりさの目が付いている部分だった。
あの時のまりさが脳裏を過ぎる。
このまま力をいれたら、れいむも、あのまりさみたいに
「ぷふー、!?」
れいむのその迷いが、力を入れるべきところで逆に力を抜かせてしまった。
自分でも信じられない思いでれいむは慌ててぷくーしなおそうとした。
「!ちゃんすだぜ!」
だがまりさはその隙を逃さない。
まりさはさらにぷくーしてれいむを威嚇し、ぷくーしてないれいむは思わず竦みあがってしまった。
「ゆっ」
「いまなのぜ!」
そしてまりさに隙だらけのところを体当たりされて、後はもう悲惨の一言だった。
散々乗っかられて押しつぶされて、泣き喚く子れいむ達の前でたっぷりと時間をかけてれいぷされた。
そしてれいむが足腰立たない状態のまま、今度は子れいむ達が巣の中で犯された。
れいむは何も出来ずにその光景を見るしかなかった。
胸が張り裂けそうになった。
目から餡涙がにじみ流れ出た。
叫び声はただただ掠れきっていた。
そしてまりさが犯すのに飽きた時、子れいむ達は殺された。
れいむは憎悪の余りそのまま憤死しかけた。
その時風が吹いた。
ふわりとれいむの目の前にひらひらとしたものが舞い込んだ。
あの時の、破裂したまでぷくーしたまりさの皮にはりついた絵みたいに薄く薄くなった瞳と目が合う。
れいむは最後の瞬間その瞳に尋ねた。
まりさはだれのためにぷくーしてたの?
最終更新:2009年05月18日 13:42