ゆっくりいじめ小ネタ511 梅雨っくり

六月。
梅雨で雨が降り続ける。
水に弱いゆっくりにとって地獄のような季節だ。





「ゆぅ…きょうもかりにいけないよ…」
「まりさ……だいじょうぶよ、まだごはんはたくさんあるんだから!」
「あ、ありす…!」

こんな仲睦まじいカップルも、一週間雨が降り続けば…。

「まりさ!はやくかりにいきなさいよ!もうごはんがなくなってるのよ!?」
「おそとはあめなんだよ!まりさがずっとゆっくりしてもいいの!?」

こんな喧嘩ができるのも元気がある今だけ、梅雨も中盤に差し掛かる頃には…。

「ゆ゛ぅ……は゛でぃざ、おながずいだわ…」
「ゆ゛ぅ……もう、あめがふっででも、おぞどにいぐじがないね゛……」

無謀と知りつつ雨の中、巣から出る二匹。

「「ゆ゛が あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!か゛ら た゛か゛と゛け゛る う う う う う !!!」」

ただでさえ衰弱した体に、覚悟していたとはいえ冷たい雨が当たる。
まりさとありすの体は徐々にふやけて、今にも溶けてしまいそうだ。




二つの饅頭が原型を失くそうとした時、偶然にも雨が止んだ。

「ゆ…ありす、あめが…やんだよ…。」
「…………。」
「あ、ありす…?ありす、ありす?」

まりさはありすに呼びかけるが返事は無い。
そしてまりさは呼びかける以上のことができない。
原形を失う寸前まで雨に曝されたまりさには、既に足が無かった。

「あ゛て゛ぃ す゛う゛う゛う゛う゛う゛!!??」
「…………。」












「ゆ゛っ…ゆ゛っ…」

まりさは食料を求め這い回っていた。
ありすが返事をしなくなった、自分はありすの分までゆっくりしなくては。
そう考えたところで空腹を思い出し、食料を探しにでかけた。
足が溶けて無くなっているため『狩り』は行えない。
移動は体を尺取虫のように動かして少しずつ前に進む。

「いぢゃいよ…あんよがぁ…」

ずーり、ずーり。
少しずつ前に進むものの、その速度は跳ねて移動する時とは比べ物にならない。
ただでさえ雨に濡れて弱った体は道路で容赦なく削られる。




そもそも、食べ物が都合良く落ちているはずがない。
辺りはアスファルトで舗装されており、雑草すら生えていない。
もし仮に食料が手に入ったとしても、こんな姿では長く持つまい。
すぐに物言わぬ饅頭に成り果てるだろう。
そんなこと分かっていた。
しかし、それでも、ありすの分までゆっくりしなくては。
その一心だけでまりさは動き続けた。




泥まみれになりながら、溶けていた足どころか顎の部分まで擦り削り、まりさは一つの『食料』に辿り着いた。
それは、ブロック状の、ゆっくりから見れば大きな――カロリーメ○トだった。
人間の落し物だろう。
それをまりさは泣きながら頬張る。
雨に曝され、ドロドロに溶けたそれに齧りつく。
黴が生えたそれを、天の恵みとばかりに。




本来なら、ゆっくりどころか人間が食べても優良な栄養食たり得るカロリーメ○ト。
しかしそれも真っ当な状態であればこそだ。
道路脇で数日間、排ガスの溶け込んだ水溜まりの中にあったそれは、既に食料ですらない。
おまけに表面には黴まで生えている。
それを、極限まで衰弱しているまりさが食べた。
ありすの分まで生きるどころではない。

「ゆ゛っ!?ゆ゛…ゆ゛…ゆ゛……エレエレエレエレエレ」

吐いた。今齧ったカロリーメ○ト、そして体内にあった餡子の大部分を。

「ゆ゛っ げ え え え ぇ ぇ ぇ …あでぃす゛のぶんまて゛……ゆっぐり…じだがっ……た゛……」











ありすは、

「…………。」

生きていた。
口の中まで雨に溶かされ、喋れない。
まりさより酷く足を溶かされ、這いずることもできない。
去っていくまりさを止めることもできなかった。
それでも、生きていた。




だが、こんな体では何も出来ない。
食料を手に入れるどころではない。
口が溶かされているので咀嚼すらできないのだ。
ここは歩道の真ん中、いつ人間に踏み潰されても不思議ではない。
いつまた雨が降ってもおかしくない。
カラスか野良犬でも来ればあっという間に食い尽くされる。
人間に踏み潰されず、雨にも降られず、カラスや野良犬にも見つからない奇跡をありすはひたすら祈った。
生きてさえいればきっとまりさが迎えに来てくれる。
それだけを信じて。




そして、その奇跡は叶った。
奇跡的にこの一週間、雨は降らなかった。
人間は汚物を避けるようにありすを避けて歩いた。
その町ではカラスや野良犬の駆除に力を入れていたため、それらは現れなかった。
だけど、まりさは来なかった。




一週間前、ありすは自分の空腹は限界だと思った。
今、ありすは自分の体の丈夫さを呪っている。
限界だと思った空腹から更に一週間、飲まず食わずで過ごしたのだ。
まりさが戻ってくることだけを信じて、次第にそれが諦めに変わって。




相変わらずナメクジのように溶けた体だったが、この一週間で変わったことがあった。一週間放置された体は程よく乾き、声が出せるようになっていたのだ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……お て゛か゛い 、た゛れ か゛…あ て゛ぃ す゛を こ゛ろ し゛て゛……」

やっと声が出るようになった喉は死だけを求めて機能する。
本当の限界が来るその時まで、ありすは路上で死を求め続けた。

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最終更新:2009年06月08日 03:46
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