れみりゃいじめ
十京院 典明
私はれみりゃを連れて野原に来ていた。
「う~おうぢがえるぅ~ごーまかんでぷっでぃんたべるのぉ~」
嫌がるれみりゃをなだめすかしてここまで引っ張ってきた理由はただ一つ。
れみりゃに運動をさせるためだ。
人に飼われるようになっても屋外での活発な行動を好む他の
ゆっくりとは違い、
れみりゃは与えられた”こうまかん”に特別な愛着を持ち、生活のほとんどをその場所で
過ごすために運動不足に陥りやすいのだ。
まずは準備運動。
「うっう~うあうあ☆」
そもそも人間のような骨格と筋肉で体を動かしているわけではないれみりゃだが、様式というのも大事だ。
しばらく好きに踊らせておく。
「それじゃあ、今日はマラソンだ」
「あう?」
走らせる、というただ一事においても、怠け者のれみりゃを動かすのは簡単なことではない。
「う゛う゛~ぷっでぃんまっでぇ~」
「早く来ないと食べちゃうぞー」
「たべぢゃだめなのぉ~」
後ろ手にプリンを持ち、れみりゃが諦めない程度の速度を保って走る。
「えぐぅぅぅー!」
「はっ、はっ」
翼を上下させ一生懸命に後を追ってくるれみりゃ。その翼は、飛ぶことを忘れて久しい。
肥え太って飛ぶことができないのである。いずれは飛ぶことも思い出させなくてはならないだろう。
「う~う~づがれだぁ~もうやなのぉ~」
「……」
すぐにへこたれて地面に座り込むので、運動そのものの疲れよりも精神的な徒労感がきつい。
とはいえ何事も慣れである。やがてれみりゃが運動好きになってくれることを期待し、繰り返す。
「おそともでるのやぁなの~!!」
「早く来なさい」
「やぁだぁ~ざぐや~ざぐや~」
すっかりれみりゃはお外が嫌いになってしまった。
特に今日はぐずりが酷い。
「仕方あるまい……」
れみりゃを引っ張り出すのを一旦あきらめ、ゆっくりを扱う店屋へと足を運ぶ。
「ううー!しゃくやー!」
「おぜうさま?ゆっくりしていってくださいね!」
れみりゃとの仲のよさに定評のあるゆっくりさくやを買って来た。
「しゃくやーいっしょにあそぶのー!!」
「そうですわね、ゆっくりおそとであそびましょうね」
「あう?」
さくやには前もって、れみりゃを外へ連れ出すことに協力するよう言い含めてある。
「そうだぞ、れみりゃが運動しないなら私はさくやと遊ぶことにするよ」
「そうですわよ!」
「う゛う゛ーーー!!」
私とさくやの説得の甲斐あって、なんとか今日も連れ出しに成功する。
「ざぐやーまってぇー」
「おぜうさまゆっくりがんばってくださいー」
さくやを買って来た日から、状況は少しずつ好転してきた。
人間の私とではなくさくやと一緒に追いかけっこをすることで運動の楽しさに目覚めてきたらしく、
最近では自分からお外に出たいと言い出すようになった。
「ざぐやーおそとへでるのー!おいかけっこするのー!うっうー☆うあ☆うあ☆」
今ではさくやに声をかけ、私に外に出たいとせがむほどになった。
(そろそろ頃合か)
私はさくやを木の枝の上に置く。
「うう~しゃくや~」
「おぜうさまーたすけてくださいですわー」
れみりゃは涙目になり、さくやは若干棒読みでれみりゃに助けを求める。
「しゃくや~いまたすけるの~!うー!」
両の握りこぶしを天に突き上げ、れみりゃは跳んだ。しかしさくやのいる高い木の枝にはまだ全然届かない。
「うー!うー!」
「おぜうさま~」
れみりゃは翼を大きく動かし、少しずつ上昇していく。
「うー!うー!
……づがれだ~!」
「おぜうさまー!?」
「う゛ー!う゛ー!」
汗まみれになりながら、しかしそれでもれみりゃは飛びつづける。
「しゃくやー!つかまえたのー!」
「おぜうさま…!」
数分のホバリングを経て、ついにれみりゃはさくやをその手に掴んだ。
「うーうー!」
「おそらをとんでるみたいですわ~!」
れみりゃは野生時代の飛行能力を完全に取り戻した。
ほんの三週間前まで、外に出るのも嫌がっていたとは思えないほど活発になり、
若干ながら体型も良くなったように見える。
「おにーざーん!ざぐや~!いっしょにあそぶのぉ~♪」
「さて」
「う~ぴかぴかしてきれいなの~!」
例の店に出かけ、買って来たのはガラス箱。
ゆっくり用として一般的なもので、大きさもれみりゃの背丈に合っている。
「さあ入って」
背中を押してれみりゃを押し込める。
「う~せんまいのやだぁ~。だしてくれないとぉ、たーべちゃーうぞ~」
私はそれに鍵をかけると、物置へと運んだ。
「あう?おにーさんどこいくのぉ?」
「おぜうさまはぁ、これからおそとであそぶの~」
「くらいのやぁ~!せまいのやだぁ~!」
「おそとでたいのぉ~~!!」
「だんすできなくてつまんないのーー!」
「じゃぐやーー!じゃぐやーー!」
「だじで~~!だじでぇ~~!」
私は物置の扉を開ける。
「あ゛う゛!おにーざん!」
「やあ、れみりゃ」
「おそとでたいの!おそとだして!」
「お外に出て、何をするの?」
「うー♪はじめにぃ、うっうーうあ☆うあ☆ってじゅんびうんどーするのぉ♪」
れみりゃはうあうあと手を動かそうとするが、ガラスに阻まれて満足に動かすことは出来ない。
「うっうー、うあうあってか」
私はれみりゃの動きを真似てやる。
「そうなのぉ!うっうーうあ☆うあ☆おにーさんもだんすがじょうずになったのー♪ほめてあげるのー♪」
「その後は?」
「うー♪おにーさんとぉ、しゃくやとぉ、おいかけっこするのー♪」
「追いかけっこは楽しいな。それから?」
「おいかけっこたのしーのー♪はやくしたいのー♪
おいかけっこがおわったらぁ、しゃくやといっしょにうー♪するのー♪そしたらしゃくやもおそらをうーできるのー♪」
「そうか、さくやは空を飛べないものな。一緒に飛んであげるのか。偉いな」
「そうなの!おぜうさまはえらいのぉ!だからおにーさん、はやくおそとへだしてほしーのー♪」
「それじゃ、俺はこれで」
「あう?……おにーざん?でてっちゃだめなのー!おぜうさまもつれてってくれなきゃだめなの!
やだ!やだぁぁぁ!やぁぁぁぁだぁぁぁぁぁ!!!でびりゃおぞとでだい!おぞどだじでぇぇぇぇぇ!!!!
あ゛う゛ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!
おぞどでだいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
END
最終更新:2011年07月28日 12:37