「はい、約束したミジュマルちゃんだよー!」
「
ありがとう、お兄ちゃん!かわいがるね!」
今日もどこかの町のだれかの家の前で、ご主人さまは生まれたてのポケモンをニンゲンの子供に
プレゼントする。
僕は空をとべるポケモンで、ご主人さまを背中に乗せて、こうして毎日どこかの町のだれかの家
へとご主人さまと赤ちゃんポケモンを送り届けている。
赤ちゃんポケモンをわたすご主人さまも、うけとるニンゲンの子どもも、どちらも凄くうれしそ
うだけど、赤ちゃんポケモンは不安でいっぱいのまなざしを、さっきからずっと僕に向けていた。
でも僕は赤ちゃんポケモンに無言で別れを告げて、ご主人さまを背にのせ再び空へと舞い上がる。
ポケモンのたまごをご主人さまへ渡す人がいる町へと向かうために。
僕には、どうすることもできない。
ご主人さまとの長い旅の後、しばらくするとご主人さまはポケモンたちをある家にあずけ、産ま
れたポケモンのたまごを大量に孵すようになった。
理由はまったく分からない。けれどもご主人さまには何か目的があるらしく、ポケモンたちは次
々に産まれて片っぱしから僕たちの巣“ボックス”へと入れられていった。
いのちをもてあそぶことに罪悪感があったのだろう。ある日僕は“ボックス”から外に出されて、
赤ちゃんポケモンを連れひさしぶりに大空を翔けた。
そうして向かっていった先が、ニンゲンの子どもが住む家だった。
ニンゲンに親切をして得意げなご主人さま。ポケモンをもらえてうれしそうな子ども。だけど僕
には、いらないポケモンを配りまわっているという事実がおもくのしかかっている。
それは簡単にものを欲しがる者は、簡単にものを捨てるから。
ある日僕は、飛んでいる最中に野生のポケモンにからかわれた。
お前がバラ撒いてるガキどもは、しばらくしたら野原にポイだ、と。
ご主人さまは知らない。
森の奥に、ご主人さまが捨てたポケモンたちが身を寄せ暮らしていることを。
ご主人さまは気付かない。
道路の茂みから、かれらはご主人さまをにらみつけていることを。
ご主人さまが偶然、道をそれ茂みに入ったとしても、
かれらはさっと逃げ去って、ご主人さまに関わることを避けている。
そして僕は、ご主人さまから逃げられない。
今日もどこかの町のだれかの家の前で、ご主人さまは生まれたてのポケモンをニンゲンの子供にプレゼントする。
僕は空をとべるポケモンで、ご主人さまを背中に乗せて、毎日どこかの町のだれかの家へとご主人さまとがくがく震える赤ちゃんポケモンを送り届けている。
ある時から、僕はふとこんなことを思うようになった。
ここからご主人さまを突き落とせば、僕は楽になるのだろうか。
僕のこころにはまだ、ご主人さまとの
思い出がのこされているけど、
時々すべて消し去りたい気持ちで胸がつまって、僕はどうにかしてしまいそうなんだ。
今はまだ、でもいつかきっと、このままの暮らしが続くようなら、その時は――
最終更新:2011年07月30日 21:49