単刀直入に言わせて貰うよ。
あのポケモン達はいらなかったんだ。
綺麗事なら聞かないよ。僕はおぼっちゃまであり、廃人だから。
─── ああ、名前?確かにつけたさ。区別のためにね。でもそれが何?名前を付けて逃がそうが、無名で逃がそうが同じことだろう?
さぁ行った行った。僕は忙しいんだ。ジムリーダーだかウエイターだか知らないが、君みたいな子供に付き合ってる暇はないんだ。


草原のような髪色が特長的な少年に何やら問い詰められていた青年は、そう言うと自転車に乗りさっさとその場を去って行った。
"忙しい"彼が向かったのは三番道路と呼ばれる横長の道。
「さぁて、今日も頑張るかな」
彼は自転車にまたぎ直し、同じ道を往復しだした。所謂タマゴの孵化作業である。

「今日こそ良固体が産まれるといいな。………ん?」
不意に、目の前に何かの影が見え青年は自転車を止めた。
青年の目に写ったのは、道路の真ん中にちょこんと居座る一匹のココドラだった。
「ココドラ?……ああ、昨日僕が捨てた奴か。noいくつかな?なにしろ、生きていられて良かったじゃないか」
影の正体を確認すると、青年は再び自転車をこぎだそうとペダルに足をかけた。その時。

「あーっ!ねぇみてみてせんせい!みたことないポケモンがいるよ!」
後方からカン高い声が聞こえ、青年は振り向いた。そこには、園児であろう5歳くらいの女の子と、彼女の手をしっかり握っている保母さんが此方に向かって歩いてきている姿があった。
二人は青年とココドラの合間くらいの位置でピタリと止まった。

「せんせー!このポケモン、なんていうのかな?」
「ふふふ、なんでしょうね?」
「うーん…。わかんなーい!」
「じゃあ、先生がポケモン図鑑で調べてあげましょうね」
保母さんは懐のポケットからポケモン図鑑を取り出し、ココドラに向けた。彼女の表情は幸せに満ちている。しかし、ココドラの情報が図鑑に提示された瞬間その表情は少し曇ってしまった。

「? せんせい!このおなまえ、なんてよむの?」
「"no347"?おかしいなぁ…。このポケモンはココドラって名前のはずなのに?」
保母さんの言葉に、青年は耳を疑った。あの名前は確かに自分がココドラにつけた識別名だ。しかし、ポケモン図鑑の提示に個別のニックネームが表示される筈がない。そう思ったからだ。
「先生、新しいの貰ったばっかりだから、使いかた間違えちゃったのかな。……ごめんね、また今度にしようね」
「ぶー!」
保母さんが園児の手を引き、二人は幼稚園へと帰っていった。二人が見えなくなった後も青年は呆然としてしまい暫くその場から動くことは出来なかった。

後に、青年がサンヨウシティのジムリーダーから聞いた話だ。
彼が言うに、イッシュには生息しない筈のポケモンが三番道路に大量発生し、更にポケモン図鑑で調べると本来の種族名でない名が表示され、近辺の新人トレーナーや子供を混乱させているらしいのだ。
頭を悩ませていたところ、町内でポケモンを逃がしている青年を発見し、事件の原因ではないかと思い声をかけたそうだ。

自分の行動が、近辺にまで影響を及ぼしてしまっていた。
犯罪まがいの行動であり下手をすれば警察沙汰になりかねない。そう判断した青年はそれ以降、過度の厳選から足を洗ったそうだ。
しかし厳選作業をしているのはこの青年だけではない。今後も廃人トレーナー達の説得及びポケモン図鑑の修繕が必要そうである。


おわり。

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最終更新:2011年08月01日 18:11