卒業式でした。
わたしは、今日この学校を卒業します。
それは、この時代での涼宮さんの観察という任務が終わるということ。
それは、わたしがこの時代をはなれるということです。
わたしに残された時間は、あと30分ほどでした。30分が過ぎれば、
TPDDが起動し、この時代から私が消えます。
それは、卒業後、この町に残るにしても、引っ越すふりをするにしても、
わたしは涼宮さんの興味を惹いてしまうと判断されたからです。
それなら、卒業式の後にそのまま帰還し、住居などの後始末は別働隊が行う、
それが上層部の下した決定でした。
あと30分。
ホームルームが終わった時点でTPDDが起動してもよかったはずなのに、なぜか
それから30分間の余裕がありました。
後から考えたら、上層部の「情け」か何かであったのかもしれません。
でも、そのときは、その残り時間を有効に使うことしか考えられませんでした。
部室には、涼宮さんしかいませんでした。
パソコンのディスプレイの後ろに、いつものように座っています。
いつもならその横のパイプ椅子に座っている長門さんもいません。
「最後の時間は、好きに使えばいい。私が介入ならびに
妨害すべきでないということは、この2年で学んだ。
あなたが消えるまで、部室には誰も近寄らせない」
最後のホームルームの後、教室の荷物をまとめて部室に向かうわたしに、
長門さんはそう言うと去って行きました。
彼女のことを少し誤解していたかもしれません。でも、去り際、
「私には、まだ1年ある」
わたしにしか聞こえないようにそう言い残した気がします
「みくるちゃん、卒業おめでとう」
わたしに気が付いた涼宮さんが、笑顔でそう言ってくれました。
「ありがとうございます…」
ちょっと泣きそうです。でも、泣いてる暇はないですよね。
「まったく、今日はみくるちゃんの卒業のお祝いをするって決めてたのに、
キョンも古泉君も、それに有希もまだ来ないのよ、なってないわね」
長門さんが、二人きりにしてくれているのでしょう。
「それでね、お祝いに新しいメイド服を用意したのよ」
この期に及んで…涼宮さんは、ハンガーにかけてあるメイド服を
取り出しました。
「卒業だから、スカートは短くしてみたけど、どう?」
笑顔で得意そうに、涼宮さんはそう言いました。
今まで着ていたメイド服より、明らかにスカートが短くて…映画の時の
衣装ほどではないですが、多分脚は露出してない部分の方が少ないでしょう。
ああ、全くこの人はさいごまで…でも、今日の涼宮さんの笑顔は、いつもの
夏の日差しのような力がありません。
「もう、この部室も最後なんですね」
あと20分ちょっとが過ぎれば、見慣れたこの光景の中にわたしは居ません。
「そうね、でも、みくるちゃんはSOS団のOB第一号なんだから、いつでも
遊びに来ていいのよ」
「そう、ですね」
それだけしか言えませんでした。でも、最後だから、言ってしまおう。
「ねえみくるちゃん、早速着替えてみせてよ」
「あっあの涼宮さんっ」
メイド服を構える涼宮さんと向き合います。
「わたし、涼宮さんのこと…」
じっと見つめられました。そんな風にされると。
「メイド服も似合いそうだなって思ってました。最後だから、見せてくださいっ」
覚悟したつもりなのに、なぜごまかしてしまったんでしょう。わたしは馬鹿です。
告白し損なったわたしを、涼宮さんは不思議そうに見てました。いつも通りなら、
わがまま言わずに着なさい、と言われて、彼女の手で着替えさせられていたはずです。
でも、今はちがいました。
「…まあ、みくるちゃんの卒業祝いだから、特別サービスよ」
靴を脱ぎ、ソックスもとります。スカートのホックが外れたところで、
「みくるちゃん、私の着替えに興味あるのかしら」
「え、あ、その」
少しでも多く涼宮さんを見ていたかったんです。そう言おうとすると、
「見てていいわよ」
スカートが落ちました。ものすごく無防備な格好の涼宮さんが、余計にかわいく
思えてなりません。
そして、今度はセーラーのブラウスです。以前キョン君が、あいつは脱ぎッぷりが
よすぎて逆に色気がない、と、団ができた直後に言っていたのを思い出しました。
何でも、まだ男子が居る教室で体育のための着替えをはじめたんだそうです。
でも、そんなことはなくって。
わたしは、こんなふうにするとかわいく見えるんだな、と思いながら、下着姿の涼宮さんを見つめます。
「ガーターベルトはつけたことがないのよね」
…そんなものも用意していたんですね。涼宮さんはガーターベルトを着けると、
「ストッキングも、このタイプもつけたことないのよね」
バニーガールの時は切り替え無しのタイツでしたからね…。と、涼宮さん、それちがいます。
「涼宮さん、ガーターベルトのサスペンダーは、ショーツの下に通してください」
「みくるちゃん、流石に詳しいわね」
涼宮さんは、サスペンダー部分をそのまま下着の下に通します。脱いで、
ストッキングを着けてからはき直すという、正しい手順をとらないところが
すごく涼宮さんらしいです。
涼宮さんはストッキングを着けてサスペンダーに止めると、今度は
ミニのワンピースにとりかかりました。背中のファスナーを上げます。
「さすがに、胸が余っちゃうわね」
やはり、わたしのサイズでつくってあったようです。
最後はエプロンでした。
「みくるちゃん、後ろ、結んでくれる?」
エプロンの帯の結び目をきれいに造るのは、意外と難しいんですよ。
わたしは、涼宮さんのうしろにまわると、その背中で結び目をつくります。
涼宮さんの髪から、シャンプーのにおいがしました。いつもの、リボンのついた
黄色いヘアバンドを外して、かわりにプリムを乗せます。
残り2分…もう、ここで言わないと、おしまいです。
私は、離れるかわりに、後ろから手を廻して、そのまま涼宮さんに抱きつきました。
「…みくるちゃん、さっきから言いたがってることは何?」
涼宮さんはそれを振り払おうともせず、廻したわたしの手の上に、その手を重ねてくれました。
「私がいつもしてたように、メイド服着せて抱きつきたかっただけじゃないんでしょう?」
「違いますっ」
もう、顔を見てもらう時間は残ってないでしょう。だから、我慢せず泣いちゃいます。
「ちょっと、みくるちゃん、泣いてたら分からないでしょ」
さっきより力をこめて涼宮さんにしがみついて、そのまま。
「わたし、涼宮さんのこと」
TPDDの起動がはじまりました。急がないと。
「好きです」
言い終わったとき、わたしは、どこでもない場所へTPDDに運ばれていく途中でした。
私の気持ちは、涼宮さんのところに残していけたのでしょうか。
最終更新:2009年02月11日 11:00