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みくる×ハルヒ 朝比奈みくるの誘惑

「みくるちゃぁ~ん! 今日はこんな服着てみない?」
 そう言いながら、涼宮さんが際どい衣装をわたしに着せようとした。
「ひ~ん、やめてください~」
 その余りの際どさに、わたしは抵抗した。
「あら、そう。じゃ、いいわ」
 ……へ?
 あれ、おかしいな。いつもなら、
「四の五の言わずに、さっさと着る!」
 とか何とか言われて、強制的に服を脱がされ着替えさせられるのに。

「みくるちゃ~ん! 今日はこんな服着てみない?」
 そう言いながら、翌日、涼宮さんがまた際どい衣装をわたしに着せようとした。
「え、遠慮します~」
 その余りの際どさに、やっぱりわたしは抵抗した。
「そう……じゃ、いいわ」
 ……あれ?
 その日もやっぱり涼宮さんは、あっさり引き下がった。

 そんなやり取りが一週間繰り返された。

「みくるちゃん…… 今日は、こんな服…… 着てみない……?」
 そう言いながら、涼宮さんが恐る恐る、際どい衣装をわたしに着せようとした。
「お断りします」
 わたしはきっぱりはっきり拒否した。
「そ、そう…… じゃあ…… いいわ……」
 涼宮さんは、未練たらたら、といった風情で引き下がった。

 …………
 おかしい。この一週間ずっと繰り広げられた光景だけど、何かがおかしい。
 初日は、いつもの軽い感じだった。わたしはいつもどおり断った。涼宮さんはあっさり引き下がった。
 翌日は、少し真面目な感じがした。わたしは少し真面目に断った。涼宮さんは少し残念そうに引き下がった。
 今日は、恐る恐るという感じだった。わたしはきっぱりと断った。涼宮さんは名残惜しそうに引き下がった。
 何というか、彼女の様子がいつもの調子じゃない。団員をグイグイ引っ張っていく、リーダーシップ溢れる団長じゃない。しかも今日は、縋るような目付きというおまけ付きだった。
 ……そんな目で見られたら、何だか断ってるわたしが悪いみたいじゃないですか。
「あの……着てみましょうか?」
 ああ、言っちゃった。折角引き下がってくれてるのに。
「え……ほんと? ほんとに着てくれるの!?」
『ぱあっ』という擬態語がぴったりな明るい表情で問い直された。笑顔が眩しい……
「この部室内だけでなら……」
 これがギリギリの妥協点。他人の視線がないのなら、こんな格好してみるのも良いかな、なんて、最近は思っているから。何だか、すっかり涼宮さんに染められちゃったな。
 喜色満面の涼宮さんから着方の指示を受けて、わたしは着替えることにした。
「あの、涼宮さん?」
「何?」
 物凄く視線を感じる。
「何でそんなに、じっと見詰めてるんですか?」
「え……あたし、そんなにじっと見てた?」
 穴が明くほどじっと見てました。
「あー、あはは…… いや、ほら、みくるちゃん、スタイル良いからさ」
 そんなものなんだろうか。
 何となく釈然としない思いで、取りあえず着替え終わった。姿見がないので分からないけれど、相当すごい格好なんだろうな。
「やっぱり思ったとおり、みくるちゃんにはよく似合うわね! ん?」
 わたしの周りを一周してチェックしていた涼宮さんは、背中側に廻った時に、何かに気付いたようだった。
「あら、ジッパーが上がりきってないわよ」
「そこは、手が届かないんです」
「ならあたしが上げてあげるわよ。……あれ? 結構硬いわね……」
 涼宮さんは、わたしの背中の辺りで何やらカチャカチャやっている。引っ掛かっているのか、ジッパーが上がらないらしい。
「おかしいわね……よっ、ほっ、はっ」
「あの、涼宮さん」
「よっ……ん? 何?」
「あの、手が……ずっと、その……お尻に当たってるんですけど……」
 当たっている、というよりは、掴んでいる、と言ったほうが正確かもしれない。
「ちょうど手を置くのに良い場所だからよ。んん、ジッパーが上がらない……こら、みくるちゃん、暴れるんじゃないの! っとっと……」
 お尻のくすぐったさに思わず身をよじったら、はずみで涼宮さんの手が滑って服が脱がされ、わたしの胸が露になってしまった。
「きゃぁー」
 わたしは思わず声を上げて、胸を抱えてへたり込んだ。
「何よ、女同士なんだし、そんなに恥ずかしがることないじゃない」
 涼宮さんは、口をアヒルのように尖らせて言った。
「それは……」
 この際、言ってみるか? わたしは、何故かこの時、強気にそんなことを考えていた。
「涼宮さんの、視線が、いやらしいからですっ!」
 わたしの、かつてないほどの明確な指摘に、涼宮さんは目を丸くした後、一転、不敵な笑みを浮かべた。
「へえ……それは面白い意見ね。あたしの視線の、どこが、いつから、いやらしいって言うの?」
 何故か強気のわたしは、ここぞとばかりに指摘した。
「全部、最初から、です!」
 初めて出会った時。涼宮さんの目はわたしの胸に釘付けだった。無理やり着替えさせられたのはしょっちゅうだった。胸を揉まれた事もあった。その時の彼女の目は……好奇とそれ以外の何かが入り混じっていた。
「なるほど。それで? みくるちゃんは、どうしたいわけ?」
「どう、って言われても……」
 いやらしい目で見るのをやめてください。
 この一言が、どうしても言えなかった。
「みくるちゃんが言うように、あたしの視線がいやらしいとして。みくるちゃんはそれをどうしたいの? 言ってみなさいよ」
 涼宮さんは不敵な笑顔で、わたしを試すように言ってきた。わたしは、どうしたいのだろう?
「さあ、どうしたいのかな~? んん? どうしたいの?」
 わたしは……わたしは……
「……でください」
「え? 何? 聞こえない」
 わたしは意を決して言った。
「意地悪しないでください!」
 わたしは声を張り上げていた。いけない。これはわたしのキャラクターではない。だけど……取り繕うことができなかった。
「いつもいつもいつも! わたしに恥ずかしい格好させて! どうせわたしのことは、便利な着せ替え人形としか思ってないんでしょう!? 涼宮さんなんか……」
 だめ。これ以上言ったら、関係が壊れてしまう。なのに、わたしの口は止まらない。このままじゃ禁則事項に……
「大っ嫌い!!」
 発言できてしまった!? そんなばかな! これが『禁則事項』じゃないなんて!!
 動揺したせいなのか、言えた事に気を良くしたのか。わたしはこれまで蓄積した思いをぶちまけていた。
「ビラ配りの時も、野球の時も! わたしはあんな格好で表に出たくなかった! それなのに無理やり着替えさせて! あんな格好……」
「…………」
「涼宮さんだけにしか見せたくなかったのに!!」
「!?」
 ……あれ? ちょっと待って。わたしは何を口走っているんだろう!? わたしはとんでもないことを発言してしまったことに気付き、慌てて口を押さえた。でも、もう遅い。涼宮さんも固まってしまっている。
「あ、あの、えと、これは、その……あうあうあう!」
 早く発言を取り消さないと!
(今のは寝言というか、血迷ったというか……とにかくその! 忘れてください!!)
 ぱくぱくぱく。
 わたしは発言できなかった。……これが、『禁則事項』だというの!? ありえない!
「……みくるちゃんのこと、好きだから。 ……って答えじゃ、だめかな?」
 ……はい?
 涼宮さんが、何かとんでもないことを言い出した。口元を手で押さえながら、わたしからは視線を逸らして。
「みくるちゃんが凄いことぶっちゃけたから、あたしもぶっちゃけるわ。だから、その前に……」
 涼宮さんは、少し頬を赤らめて、
「その胸、仕舞ってくれるかしら。目のやり場に困るから……さ」
 言われて気が付く。わたしは胸を隠すことも忘れて、とんでもないことを口走っていた!
「あわわわわわわ……」
 わたしは慌てて服を着直す。……背中のジッパーは上がってないけど。
「……恥ずかしいから一回しか言わないわよ。だからよく聞いてね」
 涼宮さんは、わたしが服を着直したことを確認すると、わたしの目を見つめて言った。
「あたしは、好きな人には可愛い格好をして欲しいと思ってる。それで、周囲に見せびらかして自慢したいと思ってる」
 涼宮さんは真剣だった。
「でも、みくるちゃんはそういうのが嫌なんだったら、もうやめる」
 涼宮さんは目を伏せた。
「あたしの好きな娘はこんなに可愛い娘なんだって、自慢したかった。好きだから、ついつい視線も向いてしまった。でも、それももう終わり。みくるちゃんに嫌われるくらいなら、我慢する。残念だけど……」
 やっぱりおかしい。涼宮さんがしおらしい。こんなの、わたしの涼宮さんじゃない……
「今まで悪かったわね、嫌な思いさせて。でも、決して意地悪してたわけじゃないわ。そこだけは分かって欲しいかな」
 涼宮さんは力なく笑った。
 ……だめだ。わたしは、こんな涼宮さんの顔は見たくない。
「……だけなら」
 こんなことを言ってしまうわたしは、どうかしているのかもしれない。
「涼宮さんにだけなら、どんな格好させられても、いいです」
 涼宮さんの目が光った、ように見えた。
「涼宮さんの前でだけなら、どんな格好でも、わたし、恥ずかしくありません!」
 涼宮さんは、わなわなと全身を震わせて、
「……よく言ったわ、みくるちゃん! その言葉に二言はないわね!?」
 今までの神妙な面持ちから一転して、太陽のように眩しい笑顔になった。
「やっぱりみくるちゃんなら、そう言ってくれると思ってたわ! 好きよ、みくるちゃん、大好き! 愛してる!!」
 そう言うと涼宮さんはわたしに抱き付いてきた。

 はめられた。

 これまでの一週間も、今日の神妙な面持ちも、全部、涼宮さんの演技。わたしに『どんな格好でもする』と言わせるための演技。
「これからは、もっと過激な衣装にも挑戦するわよ~! ああ、どんなのを着せてあげようかしら!」
 でも、わたしは、そんなことはもうどうでも良かった。自分の気持ちに気付いてしまったから。わたしは、抱き付いている涼宮さんの頭を抱き締めた。
「うわあ、みくるちゃんの胸、柔らかい……っぷ! ちょ、ちょっと、みくるちゃん! 苦しい……!」
 しっかりと抱き締めたものの、涼宮さんに凄い力で引き剥がされた。さすがに腕力では敵わないな。
「はあ、はあ……どうしちゃったのよ、一体……」
「わたし、言いましたよね? 涼宮さんの前でだけなら、どんな格好でも、恥ずかしくない、って」
「? みくるちゃん?」
 わたしは黙って服を脱いだ。涼宮さんの大きな目が、更に大きく見開かれる。
「どんな格好でも、というのは、つまり、そういうことなんです」
 わたしは下着を一気に引き下ろした。涼宮さんの顔が、見る間に真っ赤に染まった。
「ちょ、ちょちょちょちょ、ちょぉっと、みくるちゃん! ままま、まずはおちけつ!」
 落ち着くのはあなたの方です、涼宮さん。
 さすがにこんな事態は想定していなかったのか、思いっきり焦る涼宮さん。うふ、可愛いな。
「……わたし、自分の気持ちに気付いちゃいました」
 ずいっ、とわたし(全裸)が一歩前に出るたびに、じりっ、と涼宮さんが一歩下がる。
「わたし、涼宮さんのこと……」
 わたしが更に一歩踏み出すと、涼宮さんは後ずさって壁にぶつかり、そのままへたり込んだ。
「好きです。大好きです」
 わたしは涼宮さんの前に跪くと、最後の言葉を言った。
「……愛してます」
 そう言うと、わたしはへたり込んだ涼宮さんを抱き締めた。もう離さない。
「あああ、あの、あの、みくるちゃん! その、好きになってくれるのは嬉しいけど!」
 涼宮さんは、わたしを引き剥がすことも忘れて、上ずった声を上げた。
「ととと、取りあえず、服を着てくれないかな? かな?」
 動転して、呂律が怪しくなってる。ああ、本当に可愛いな。
「こういうのは、その、やっぱり良くないと、そう、思うわけなのであってね?」
「……それは、わたしも涼宮さんも女の子だから、ですか?」
 余りに根本的な質問に、再び涼宮さんは固まった。
「『愛してる』って言ってくれたのに。あの言葉は、嘘、だったんですか?」
「あああ、あれは、その、何ていうか、言葉の綾?」
「……やっぱり、嘘だったんだ……」
「ち、違う! そうじゃなくて!」
「…………」
 涙目になっている涼宮さんをたっぷり見つめた後、わたしは、
「な~んちゃって☆」
 と、満面の笑顔を涼宮さんに向けた。
「……はへっ!?」
 案の定、呆気にとられた顔をしている。
「うふふ、どうでした? わたしの演技。かなり迫真の演技だったと思うんですけど」
「!? !? !?」
「でも、涼宮さんも、いきなり全裸で迫られると、やっぱり驚くんですね」
「あ、あー、あ? ああ。つまり、これは、ええと? あたしは、みくるちゃんの演技にすっかり騙されたってこと??」
 わたしはウィンクを一つ。
「さっきの涼宮さん、とっても可愛かったですよ。うふふ」
 涼宮さんはまだ混乱しているようだったけど、何とか自分を納得させようとしていた。
「そ、そうよね。みくるちゃんが、いきなりそんな、ありえないわよね。うんうん、違いない……」
 あのまま迫ると涼宮さんが壊れてしまいかねなかったので、わたしは助け舟を出したのだ。憔悴しきった涼宮さんは、ヨロヨロと机にしがみつきながら、やっとの思いで立ち上がった。
 わたしはメイド服に着替えながら、
「今度はどんな格好させてくれるんですか? 楽しみにしてますね☆」
「え、あ、ああ、任せなさい! みくるちゃんに似合うような、飛びっきり可愛いの着せてあげるから!」
 わたしは笑顔を湛えたまま、すっと低い声で、
「……涼宮さんの前でだけなら、どんな格好でもしますから」
 と、涼宮さんの耳元で囁いた。

 焦る必要はないんだ。これからいくらでも、二人きりになる機会が訪れる。そうやって少しずつ距離を近付けていけばいいんだ。そう考えると、今後どんな衣装が用意されるのだろうかと、少し楽しみになってきた。

 彼女に捧げるための、ファッションショー。

 それはそのまま、わたしが涼宮さんを誘惑する、目くるめく舞台となるんだ。

「ほんとうに、楽しみですね」

 再び床にへたり込んだ涼宮さんを後目に、わたしは水を汲みに出掛けた。

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最終更新:2017年09月10日 15:39
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