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長門×みくる サイエンスフィクション

※エンドレスエイトのネタバレ注意




八月の二週間を延々と繰り返し無限ループの次元に放り込まれたという衝撃の事実を知ってから後も、すぐ打開策が出るわけもなく、ハルヒの意志を尊重して今夜も天体観測という活動に参加するしかなかった。もっとも、長門だけはハルヒの監視役という任務を組織に忠義をつくす軍人のごとく遂行していた。

みくるは「望遠鏡」という古典的な言葉に魅了されつつ、しばしその鏡筒から月を眺める。
「個人が趣味で使うシンプルな構造の天体望遠鏡ですよ。現代の観測技術では、遠くの物体の電磁波を捕らえる方法が使われています」
アマチュア望遠鏡に興味津々であったみくるに古泉が付け加えた。
…私の時代ではどんなだったろう?昨夜、未来との交信を何度も試みたが無駄に終わったことが思い出され、また少し沈んだ気持ちになった。その表情を読んだ古泉が「すみません」と苦笑する。
「UFOと交信できる人っていたじゃない?手をつないで念じるの、あれってマネ出来ないかしら」
「やめろ、頼むから」
そんなハルヒとキョンのやり取りを聞きつつ、みくるは少し距離の置いたところで腰を下ろした。視線をどこか遠くに向けていた長門が、座り込んだ自分に目を向けたが気疲れを起こしている今はあまり気にならないことだった。

「朝比奈さん、起きてください」というキョンの声で目が覚める。
そこにあった望遠鏡は片付けられ変わりに重そうなケースと三脚をもった古泉がいた。少し眠ったおかげで頭はすっきりしていた。
「今夜はお開きにしましょう」
「じゃ明日は…。そうねぇ、信憑性の高い心霊スポットをネットで検索して夕方から探索に行くわ!」
明日の志向を高らかに宣言するハルヒを囲み、ぞろぞろと一階に降りるエレベータに乗り込んだ。そのあいだハルヒの会話が途切れることはない。玄関に出ようとするところ、一番後ろを歩いていた長門は不意にみくるを呼び止めるように右腕を静かにつかんだ。
「これ…」
小さく折りたたまれた紙だった。
「あとで読んで」
そろそろと手を出すとその上に紙が置かれた。
明るいランプ色の玄関から長門が無言でメンバーを見送る中で解散となった。しばらく四人で帰路に着き、みくるは他のメンバーと別れるとさっき長門から手渡された紙を広げる。
____今夜、自室にて待つ。
みくるは他の三人に見つからないように長門のマンションへ引き返す道をたどった。正直一人で長門に会うのは心もとないことだったが、メモでこっそり渡すぐらいであるから内密にして欲しいのだろう。

玄関に備え付けられた共同のインターホンの前に立つ。部屋番号、そして呼出を押す。オートロックが解除される。エレベータで昇ると、目的の部屋へ足を進めた。長門と書かれた表札に目をやり、ドアをノックする。その場で待っていたかのようにすんなりドアが開かれた。
「あ、あの」
「入って」
長門はドアを閉めるとリビングへ進む。みくるは靴を脱ぐのに手間取り、長門の背中を見ながらおずおずと後に続いた。
「長門さん、私に何か…」
「涼宮ハルヒが作り出した長い時間のこと」
長門は相変わらず直立で、みくるに背を向けていたが構わず話を続けた。
「時間の流れは定日時から再び戻され、類似した別の時を刻む。ゆえに以降の未来が来ない状態に陥っている」
「あ、はい。そうです」
「私はあなたと接触する機会を涼宮ハルヒに関連した事項でなければ持つことができない」
「それは、……私もそうだと思います」
「でも今のあなたには元の未来が存在しない。私は朝比奈みくるという一個人に関心を持っている。未来を失った朝比奈みくるはこの世界で孤立している。あなたの元の時代の何者とも接点を持たないのならば、現在所持している目的から反れた行動を起こしても誰からも咎められることはない。私は今のこの状況下であなたと接触をすることが可能と考えている」
長門はそこまで言うと振り向いた。黒い瞳をみくるへと向ける。
「…わ、私の世界の情報が欲しいのですか?」
「違う、あなたは勘違いしている。前もこの部屋で私はあなたに同じ事を言った。しかし、あなたは私を拒絶した」
「前回もですか…?だって、今の話はそのように聞こえます」
「交渉を要請しているが情報が目的ではない……私の伝え方が悪い…」
みくるは長門の言葉を待った。前の世界で長門さんは私への説得が失敗している…ならば今回はどうすればいいか悩んでいるように思えた。長く重い沈黙のあと、長門が口を開いた。
「私はあなたに関心をもっている………それは、私はあなたが好きだということ」
「……」
好きというのは好意?長門の思わぬ告白。みくるは「信じられない」という顔をした。
「そ、そんな…、私は」
戸惑うみくるの手に触れ、軽く握る。アンドロイドとは思えない人肌の感触と温もりが伝わった。
「あなたを愛している。……これら以外に該当する言葉がない」
長門の目が伏せられた。手は握られたままだ。みくるはそんな長門の仕草に、情報統合思念体というものではなく自分の発言した言葉に恥じらいを感じ、次にどうしたらいいか分からないという一人の少女のように感じた。

清楚な顔をした小柄な少女。今このときはタイムトラベラー、ヒューマノイドというSF的な肩書きは他所へ追いやり、自分はこの時代の女子生徒、長門さんは真面目で読書好きな下級生…、そんな設定でもいいと思う。
「これは私の一方的な願い。私はあなたに強要しない…あなたの意思に委ねるものである」
握られた手から、長門の指がわずかにピクリと動いたことが分かった。
(緊張しているのかな?)と考えたみくるは、ふふふっと笑い出す。長門はその声に顔を上げた。
「ごめんなさい。でも『何々である』…とか、ロボットみたいです」
みくるは握られた手を握り返した。
「では、あなた次第、好きにしていい…」
「好きにしていい、なんて言ったら私は長門さんに何をしてもいいことになりますよ?」
「……」
「あの、抱きしめてもいいですか?」
「…いい」
みくるは長門の肩口へ腕を伸ばすと、両手で自分の身体に引き寄せる。長門は顔にみくるの胸の感触と背中に回された両腕を感じた。長門はそろそろと両腕をみくるの背中に腕を回す。しばらくすると、どちらかともなく床に座り込み、お互いの身体が離れた。
みくるは長門に唇を塞がれる。みくるは少し乾いた唇の感触を感じつつ、彼女に押し倒されるようにして背中が床に付いた。互いの吐息が感じられるほどの近い距離。
「たぶん数日後にはまた二週間前に戻り、このことは私の記憶から無かったことになります」
「…」
「長門さんの中に私の記憶を残して」
「そう」
「それってズルイ気がします」
「あなたにとっては、その方がいい」
長門さんが私の鎖骨に口付けた。スカートのホックが手際よく外される。
(それじゃ、長門さんの告白は無駄に終わってしまう…)
衣擦れの音が響く部屋の中で、みくるは思う。それなら、長門さんの脳裏から私を忘れることができないように今この時を二人で過ごす。それがこのような行為であっても。それに…あと数日残っている。もしかしたら私の記憶にも残るかもしれない、長門有希という少女らしい一面を見せたヒューマノイドを。何より今回でこのループが終わるならば、私は彼女を忘れることはない。
その時、私の未来はどう変えられるだろう。
長門さんは私の首筋へ舌を這わせる。私は短い吐息とともに彼女の頭部を掻き抱いた。

end

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最終更新:2009年07月16日 14:14
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