翌日などにSOS団活動がある日以外、みくるは長門の部屋で過ごすことが多くなった。
長門のベッドの上に腰掛け、ブラウスのボタンに手を掛けると上から順に外す。背中にある下着のホックを外すのに目を後ろにやると、背を向けてに座っている長門の白い素肌が見えた。長門には後ろを向いてもらっている。何をいまさら…な気もするが、一枚一枚脱いでいく姿を長門にじっと見られるのはなんだか落ち着かない。
みくるは脱ぎ終えるベッドにもぐり込み、それに反応するように隣からシーツの擦れる音がした。
長門は同じキルトに包まると、みくるの上に覆いかぶさる。みくるを見つめる姿は相変わらず無表情だ。
「な、長門さんっ」唇が触れ合う寸前のところで、みくるが呼び止めた。
「その…あたし達なんとなくこういう流れになることが多いですよね」
二人で会うのは大抵平日の夜。そのため外に出る機会は滅多にない。そしてこの部屋で過ごすことになるのだが…、会話が難しい長門のために社交的コミュニケーションから、いつしか最後には身体を重ねることがパターン化していた。
「人類は本来、繁殖活動であったはずの性行為をコミュニケーションの一つとして行うようになった。
あなたは私とのコミュニケーションのためにそれを実行している」
「そ、それはそうかもしれませんけど…、なんていうか」
長門はみくるの胸の谷間を指の腹でなぞり、目線もその手の動きに合わせて動いた。
「私はあなたと性的関係だけを望んではいない。不満ならば、別の方法であなたと意思疎通を図るように考える」
「あっ、ふ、不満ではないです。ごめんなさい…気を使わせて」
「………それならいい」
その時ふと目を逸らしたみくるを長門は見つめる。
「……」
みくるの膝に手を置くとそっと足を外側へやった。
長門は広げた足の内に割り込み、彼女の両足の間に顔を近づける。閉ざされた敏感な部分に長門の息がかかったかと思うと、みくるは自分の中に温かくヌルリとしたものが入ってくるのを感じた。
「あっ…」押し入れられた舌の感触。
膣の中をなぞるように動かされた舌は、しばらくするとスルリと引き抜かれる。長門は身体を起こした。
「今あなたの中に精神的作用、性的興奮を高める処置を施した。効果はすぐに表れる」
「え、処置って。な…なにをしたんですか?」
長門の言うように変化はすぐ起きた。内側から押し寄せる痒みに似たようなうずく感覚。
「ひっ…!あ」みくるは身をよじらせた。耐え切られず、手を下にやろうとしたとき、長門に腕をつかまれる。
「自分でしては駄目…私がする」
みくるの脚の間に長門の指が触れた。貫くような心地よい刺激に襲われる。
…私の肩に顔を埋めた長門さんにしがみついた。
「あっ…長門さん、長門さんっ!」
長門の指で身体が震えた。ビクリと身体が跳ね上がる。しかし身体のうずきは収まってはくれない。じわりじわりと再びあの痒みに襲われる。ならば治まるまで彼女に懇願するしかない…もっとして欲しいと。中から溢れでてくる液体がシーツを濡らした。
その時の記憶は暗転し、いつの間にか自分は眠っていたようだ。真っ暗に近かった部屋は薄明るくなっていた。窓に目をやれば空は白んでいる。みくるは身体を起こし、隣の長門を見ると彼女はまだ眠っていた。そんな姿を見ていると昨夜のことが蘇る。あのあと何回達したか覚えていない…。長門有希のアンドロイド思考はときに容赦を知らないところがある。
思い出したように時計を見た。今から自宅に戻り、学校へ行かなければならない。寝台のわきに置かれた服を拾うと、シャワーを浴びるために腰を上げた。
六時前。みくるは「では、また放課後に」と言うと玄関を出て行った。
そんなみくるが階下に下りるエレベータに乗り込んだところ、長門の部屋では玄関ドアを外側からコンコンコンと叩く音がする。今出て行ったみくるが戻ってきたのではない。
「朝比奈みくる…」
長門にはドアの向こうの人物が誰であるか覘き穴を使わずとも分かってる。
玄関に歩み寄り静かにドアを開けると、そこに立つのは朝比奈みくるの異時間同位体、成長した姿の朝比奈みくるだった。
「おひさしぶりです、長門さん」
何度か会ったときと同じように朝比奈はビジネス時の装いではあるが、全体的にタイトな服のために彼女のグラマラスな体形が強調されていた。朝比奈は「上がらせてもらっても構いませんか?」と微笑を崩さず控えめなトーンで言った。
「長門さんは変わりませんね」朝比奈は部屋を見渡す。
ハルヒの持ってきたツイスターゲームを発見すると「あのゲーム懐かしい。涼宮さんがすごく強くて私はあっけなく転んでしまいました」と笑った。
「………あなたが現在この時間に存在するのは朝比奈みくるの監視をするためと推測する」
朝比奈は話題をかえた長門に悪びれる様子もなく受け応える。
「そうですね、そんなところです」
「……」
「あの子がお世話になっているようで…。まあ、それは過去の私のことでもあるのですけれど」
「何故あなたが私のところへ来たのか問いたい。朝比奈みくるの行動に問題があるのならば、私ではなく彼女に伝えるべき。私は朝比奈みくるの意志に逆うことはない」
朝比奈は無表情な長門を見つめ返す。
「いいえ、その必要はありません。これによって未来へ迫害を受けることは今のところないのですから。
シナリオ通りに進んでいると言っておきましょうか」
「………」
「この時間の私の存在こそ未来に影響するのかもしれません」朝比奈は苦笑した。
「…私が長門さんと過ごした過去の話でもしましょう。参考にしてもらっても聞き流してもらっても構いません」
朝比奈は話を続ける。
「かつての私はあなたに遠慮がちであったので言えませんでしたが…、できれば長門さんと普通に出歩いてデートとかしたかった。今の関係に退屈していたわけでありませんが、長門さんはいつも涼宮さんを優先していましたから。私にとっては仕事熱心な夫を持った妻のような気持ち…みたいたものですかね。我ながら恥ずかしいですが」
「……そう」
長門のしごく簡潔な返事に朝比奈は微笑むと、長門に歩み寄った。
「そろそろ戻らなければなりません。実は任務外のことをしているのは私のほうなんです、ここまで来たら長門さんに会いたくなって。さて帰ったらどう始末書を書きましょうか」
「私がマンションの廊下であなたを見つけたことにしておく」
「そう上手くいけばいいですが。私は今でも不器用なんですよ?」
腕につけた時計らしきものをチラリと見た。朝比奈は少しかがみ込むと長門の耳元でつぶやく。
「…それより、長門さんは未来が気になりませんか?私の世界に長門さんは存在するのか?長門さんと私の関係がどうなるのか…」
「……必要ない。知らなくてもいい」
「そう…ですね、この先なんて知らないほうがいいです」安心したような言い方だった。
朝比奈は長門から離れる。長門をしばし見つめると朝比奈は口を開いた。
「それでも、私は今も長門さんを愛しています」
…その台詞はかつての恋人をいとおしんで言ったのか、状況は未来においても変わらないと告げているのか。朝比奈は長門が未来に存在しているともいないとも言っていない。長門は再び玄関から出てゆく彼女の姿を見ながら、最後まで問うことはなかった。
その日の放課後、SOS団部室。バーン!ととてつもない勢いでドアを開けたのはハルヒ団長。もうそろそろドアの建て付けが悪くなっているかもしれない。
「今日はすごいのを入手したわよ!謎の飛行生物が映っているビデオテープッ」
生き生きとした顔のハルヒはさっそく検証するのよっ!と張り切っている。善は急げとばかりにビデオデッキとモニターを部室へ持ち込むため、男性陣を率いて職員室へ向かっていった。静まり返った部室には、ティーポットを持ったまま呆然としているみくると、何も動じずに黙々とSF小説を読みふける長門だけが残された。
みくるはハッと金縛りが解けたように、紅茶の葉をポットに入れるため戸棚を開ける作業にもどった。
紅茶はあと一回分ぐらいの分量しか残っていない。そういえば買出しに行くのを忘れている。
「…私も行く」
真後ろから長門の声。みくるは振り向いた。本から顔を上げていた長門と目が合う。
「え、お茶を買いに行くのですか?」
「涼宮ハルヒが持ってきた記憶媒体を解析し、明日はおそらく現場検証。そのあとならば構わない」
「そうなんですか。あ、でも、一度長門さんとお買い物に行きたいなって思ってました」
みくるは「嬉しいです」と顔をほころばせた。
廊下からゴロゴロとキャスターが転がる音がする。「おまたせしました」と古泉に続いて、部室には分厚い旧式テレビとビデオデッキが運び込まれた。気だるそうながらも配線の準備をしているキョンを満足そうにハルヒが後ろから見ている。ビデオテープに手を伸ばすと、口元が笑んでいるみくるに気が付いた。
「ん、どうしたの?みくるちゃん。何かいい事でもあった?」
「ええっ?あたし、いえ、別にっ。そ、そのテープ面白そうですね」
「うん…まあいいわ。当然よ、これはこの近辺で撮影されたものなの。明日は現場へ行って何か証拠を探すわ」
なるほど長門の言う通りの流れになってきている。ハルヒは「じゃお弁当期待してるわね、みくるちゃん~」とみくるに抱きつきスリスリとすり寄せる。「は、はいー」みくるは気の抜けた返事をした。ビデオが再生されると、ハルヒは真剣に映像を見ていた。両脇には怪訝そうにしているキョンと真面目に検証に参加する古泉がいる。長門とみくるはそんな三人の後ろに立つ。
「…明日楽しみにしてますね」
モニターを見つめる長門にみくるが呟いた。
今回のことは朝比奈の言葉があったからだ。なぜ彼女に従ったのか?私を今も愛しているといった朝比奈は自分の望む未来となるように助言したのだと思いたい。ここではない遠い未来に私が存在するならば、私の隣で「あの時は楽しかったですね、長門さん」と大人びた声の朝比奈みくるの声を聞くことができるような気がした。
end
最終更新:2009年08月08日 15:34