ホームルームが終わると、俺とハルヒはまっすぐ文芸部の部室に向かった。
ハルヒと肩を並べて歩いていると、こいつが妙に上機嫌なことに気がついた。
俺の視線に気がついたのか、ハルヒを顔を上げて俺に言ってきた。
「私がどうして機嫌がいいのか知りたいでしょ?」
別に。まあ、無理を言うなら聞いてやらんことも無い。
一週間後の天気くらいには気になるからな。
「駅前に新しくできたケーキ屋さん知ってるでしょ?」
ああ、先週オープンしたばかりのあれな。妹が行きたいとか騒いでたから覚えてる。
「そうよ。あそこのプリンはね、それはもう、天国と地獄が入れ替わるんじゃないかってくらい美味しいの」
それって美味いのか? というか天国と地獄が入れ替わったら神様を大混乱だろう。
「だから昼休みにこっそり抜けて、買ってきたの。最後の一つだったんだから!」
昼休みに見かけ無いと思ったら、そんなことしてたのか。
よくもまあ、プリン一つにそこまで頑張れるものだ。
「それくらい美味しいのよ!」
いつの間にか、俺達は部室の前まで来ていた。
ハルヒはいつものように勢いよくドアを開ける。朝比奈さんが着替えてたらどうすんだよ。
幸か不幸か、麗しいメイド服の先輩の姿は無く、読書好きの宇宙人の姿があった。。
「ちょっと、有希、それって!」
「………つい」
訂正。食い意地の張った宇宙人がプリンをもぐもぐと咀嚼してる姿があった。
見れば、容器の中はすでに空で長門の口に入ってる分で終わりらしい。
「あんたねえ……」
いつものハルヒならブチ切れているところだが、今は怒るに怒れないでいる。
長門の申し訳なさそうな顔を見たら怒れないという気持ちは分からんでも無い。
長門には、大甘なこいつなら、なお更のことだろう。
「………」
「まあ、もう良いわ。有希には怒れないし、誰にでも食べられるところに置いてた私にも責任があるから」
言うまでも無いが、俺がハルヒのプリンを食おうものなら大激怒でも済まないだろうね。
一体、どんな罰ゲームをさせられることやら。
その時、、さっきまで無言だった長門が立ち上がった。
「私という個体は今回のことを非常に申し訳なく思っている。せめてものお詫びをしたい」
「え、別のいいのよ。言ったでしょ、私も非があるって」
ハルヒはいつになく饒舌な長門に驚いたのか、しどろもどろに答えを返した。
「あなたに非は無い。完全に私の責任」
そう言って、ハルヒに一歩近づいた。
「あなたはプリンを生命維持の為ではなく、嗜好品として摂取しようと考えていたと私は推測した」
長門はまた一歩、ハルヒに近づく。
「ちょ、ちょっと有希、あなた何する気よ?」
「よって、あなたがプリンの味覚情報を得れば、完全ではなくてもあなたの欲求は満たされるはず」
また一歩近づく。長門とハルヒの距離は50cmも離れていない。
長門はハルヒの腰に、両手を伸ばした。
「有希、待ちなさい! あんたまさか!?」
「幸い、プリンの成分の一部は私の口内に残存している」
「ゆ……ん、むぐ」
何かを言おうとしたハルヒの唇は、長門の唇によって多少、強引にふさがれた。
長門はハルヒの腰に添えられた左手をそのままに、右手をハルヒの後頭部に回した。
まるでハルヒが逃げられないようにするために。
ハルヒは長門の唇から逃れようと身を捩ったが、いかに馬鹿力のハルヒと言えども宇宙人の前には無力だった。
しばらく、それでも長門の腕の中で暴れていたハルヒだったが
ピチャピチャと何かが絡み合う音が聞こえてくる頃には、抵抗することやめていた。
そうしてハルヒは開放された。
時間にして30秒ほどだったが、やけに長く感じた。
俺は結局、二人の熱い接吻をじっくり見入るように眺めていたことになる。
ハルヒは腰が砕けたように床に、萎れるように座り込んだ。
先ほどまでの行為のせいか、それとも俺に見られていたからか、顔は人体の限界に挑戦するかのような赤さだった。
「な、な、なななな」
あまりのショックのせいか、言語を発せられないらしい。
「私は先ほどの行為では、完全に満足していない。私はあなたを欲求を叶えるために先ほどの行為を行った。次はあなたが私に協力することを推奨する」
ちょっと、待て。お前は結果はどうあれ、ハルヒのプリンを食べた償いにさっきのキスをかましたんだろうが。
それで、次はあなたってどう考えてもおかしいだろう。詭弁、もしくは詐欺ってやつだ。
ていうか、単にお前がやりたかっただけだろ。
長門は、床に座っているハルヒを同じ目線までしゃがむと目を閉じて、わずかに唇をハルヒに突き出した。
「有希、私はしないからね!」
ハルヒが至極当然の返答を終えると、ほぼ同時にドアがノックされた。
朝比奈さんか古泉だろう。
流石に今の状況は不味いと判断した俺は、急いでドアを開けると外に出た。
なるべく中の様子を見せないように。
そこにいたのは、朝比奈さんと古泉の二人だった。
「なにごとでしょうか?」
「いや、今は少しまずいんだ」
「ふぇ? 何かあったんですか?」
「たいしたことじゃ無いんです。気にしないで下さい」
「涼宮さんと長門さんは中に?」
「何があったんですかー?」
俺が二人の質問に答えていると、不意にドアの向こうから長門の声がした。
「この部屋の情報を書き換えた。今から二時間は誰も入ることはできない」
おいおい、ちょっと待て。お前は二時間で何をするつもりだ。
「その問いに答えることはこの国ではセクハラに分類される」
………もう、何も言うまい。
俺は横で状況を飲み込めないでいる、朝比奈さんと古泉に事情を話すと家に帰ることにした。
鞄は部室の中だったが知ったことか。今日は疲れた。やれやれ。
翌日、長門と手をつないで登校する二人を目撃した生徒が続出したことを谷口から聞いた。
最終更新:2009年01月06日 13:56