「そういえば有希の誕生日っていつなの?」
いつものように集まった喫茶店の席で、思い出したような顔でハルヒが聞いた。
長門は手元の分厚い本から目線を上げ、不思議そうな表情で団員それぞれの顔を見たあと、
ハルヒを見つめて固まってしまった。
「どうしたんだ?突然」
「やっぱり団長たるもの団員の誕生日くらいは祝ってあげないとね」
ハルヒは有難がれとばかりに胸を張っている。
俺の誕生日は知らんくせに。
「で、いつなの?過ぎてからではお祝いのしようもないからね」
続けられた質問に、長門はきょとんとした無表情のまま俺のほうに顔を向ける。
「どうすれば」と言わんばかりに。
そう言われてみると、長門の誕生日はいつになるのだろう。
厳密に言えば3年前の情報フレアとやらの日なんだろうが、それじゃこいつは3歳ということになってしまうしな。
まぁ誕生日なんて調べてわかるもんでもないだろう。
適当に決めちまえばいいさ。
ながとだから7月10日とかね。
産まれた日がいつかなんてハルヒも気にしやしないさ。
そんな風に考えながら笑顔を向けてやると、長門はわかったとばかりに数ミリだけうなずいて、ハルヒに向かって
「今日」
と告げた。
おいおい、お前の誕生日が何月何日でも誰も迷惑しないが、今日ってのはないだろ。
突然すぎるぞ。
しかし、言ってしまってはもう遅い。
ハルヒはテーブルに勢いよく手をついて立ち上がると、
「何で言わなかったのよ!?有希?」
店内に響き渡る声でツバを飛ばしながら叫んだ。
朝比奈さんまで
「そうですよー」
なんて言って困った顔をしている。
あなたは気付いてください。
それは長門が今設定した誕生日ですよ。
古泉は古泉で、
「プレゼントを用意していませんね」
などと肩をすくめて微笑んだ。
お前は芝居がかりすぎだ。
「そうよ!プレゼント!準備してないじゃない!」
ハルヒは立ったまま続け、
「有希、今欲しいものある?」
テーブル越しに、こればっかりは優しい口調で問いかけた。
「今日は有希の誕生パーティに変更するわ!さぁ、なんでも好きなものを言っていいのよ」
長門はやっぱり無表情のまま…それでも考えるような仕草をわずかに見せて、
「遠慮することないのよ」
と微笑みかけるハルヒの胸のあたりに視線を止めた。
「え?何?」
俺も興味があった。
ハルヒを見つめる長門が、何を欲しいと言い出すのか。
真っ黒な瞳が少しだけ動き、「いいのか?」と問うようにハルヒの顔を見上げて、
「洋服」
「…服?」
長門が見ていたのはハルヒの体ではなく、着ている布のほうだった。
「いいわ!有希、思いっきり可愛いの選んであげる!」
ハルヒは、先ほど驚いたときと同じ様に机を叩いて立ち上がり
長門の好みを問いただし始めたが、長門の視線はハルヒの胸あたりに固定されたまま動かない。
何かを言いそびれたように、俺には見えた。
「涼宮さん」
長門の表情を読もうとしている俺の向かい側に座っていた古泉が口をはさむ。
皆の顔が自分のほうに向くまでゆっくりと間をつくってから
「僕が思うに、長門さんは今涼宮さんが来ているそのカーディガンが欲しいのではないでしょうか。違いますか?」
微笑みたっぷりで妙なことを言いやがった。
確かに、長門の視線はそこに止まっていると言えなくもないが…
「そうなのか?長門」
重金属みたいな瞳がゆっくりとこちらを向いた。
「そう」
わずかに顎を引く。
「許されるなら」
そう言ってその瞳は、俺から視線をはずしてハルヒを見上げた。
その時俺は真っ白い能面みたいな無表情の中に、
小動物が抱いてくれと懇願するときの様な、そんな雰囲気を感じとった。
「そりゃいいけど…。お古でいいの?サイズもちょっと大きいかもよ」
若干照れながらハルヒは着ていたカーディガンを脱ぎ、顔の横で示すように広げた。
長門はそれを肩から先だけ動かして受けとると、確かめるように胸に抱き締めた。
「あなたが着ていたという事実が大切」
横で朝比奈さんが顔を真っ赤にして口元を押さえている。
俺も少し赤くなっていたかも知れないが…。
誰より赤面していたのは、他でもない、ハルヒだった。
次の週末、いつもの駅前には珍しく私服の長門がいた。
少し大きめの白いカーディガンの袖口から、生地よりもっと白い指先だけが見えている。
最終更新:2009年01月10日 10:34