今日、私は鶴屋さんの家に遊びに来ていた。
庭に珍しいお花が咲いたというので、見せて貰いに来たのだ。
天気予報によれば、本日快晴。
お出かけには絶好の一日となるでしょう、とのことだった。
「いやー、見事に大ハズレだねっ」
「うう、すごい雨ですー」
午前中は晴れ渡っていた空も、午後から大崩れ。
午前のうちに鶴屋さんの家に来たから、濡れることは無かったんだけど。
「これは帰れそうにないねっ。車で送っていってもいいけど、これだけ降れば逆に危ないっさ」
「そんな……どうしましょう?」
外を見れば、まるで滝のように、大量の水が地面に打ち付けられていた。
この雨ではせっかくのお花もダメになってしまっただろう。
「問題ないっさ! 今日は泊まっていくにょろ!」
「ふぇ? いいんですか?」
みくるなら、いつでも歓迎するよっ。毎日でも泊まって欲しいくらいっさ」
確かに、この雨では家に帰ることは難しいと思う。
仮に帰れても、おそらく風邪を引いてしまうだろうし、事故に会う可能性だって充分にある。
「わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます」
私がそう言うと、鶴屋さんは嬉しそうに両手を広げた。
「そうこなくっちゃっ! 今夜は寝かせないにょろー」
そして、がばっと、包み込むように両手を私の背中に回す。
「ちょ、ちょっと鶴屋さん!」
「みくるを抱き枕にして眠れるなんて、雨に感謝だねっ」
「だ、抱き枕って、その」
「うん? 何か問題でもあるのかなっ?」
鶴屋さんが腕に力を込める。
結果、私の体は鶴屋さんの方へと引き寄せられた。
「ちょっと、鶴屋さん顔が、近いです」
「んー? みくるは私が近くにいるのか嫌なのかい?」
鶴屋さんは意地悪そうに笑っていた。
「いえ、その、そうじゃないんだけど、でも」
「じゃあ、問題ないねっ。 いやー、みくるはめがっささふわふわで気持ち良いにょろ」
私は答えられないことを良い事に、鶴屋さんは私はさらに強く抱きしめる。
結局、私は鶴屋さんに開放されるまで、なすがままにされていた。
その夜、私は鶴屋さんの部屋にいた。
最初は客室か、離れに布団を敷いてもらうつもりだったけど、
鶴屋さんがどうしても、と言うので一緒の部屋で寝ることになったのだ。
もちろん、布団は別に敷いてもらったけれど。
「さあ、夜はまだ始まったばかりさっ!」
そう言う鶴屋さんの手には、いわゆるアルコール飲料が握られていた。
「あうう、お酒はダメですよー」
「大丈夫っ。これはお酒と言ってもチューハイだからねっ」
「チューハイ、ですか?」
「ジュースみたいなもんさっ。これならめがっさどんどん飲んでも酔わないのさっ」
コップに移されたジュースのような液体を受け取る。
鼻を近づけて、くんくんと匂いを嗅いでみたけれど、アルコール独特の匂いは全く無かった。
「お酒の匂いがしませんね」
「だからみくるでも酔わないのさっ! ささ、ぐいっといくにょろ!」
口に近づけて、ちびちびと舌を付けてみるが普通のジュースと全く変わらない。
甘いピーチ味のそれは、よく冷えていて、とても美味しかった。
これならば大丈夫だろう。
私は鶴屋さんの言うとおりに、ぐいっとコップと傾けた。
「これは予想外だねっ。まさかチューハイで酔っ払うとは」
呆れたように、それでいて、愛しそうに、鶴屋さんが笑う。
「酔ってなんかいまへんよ。わたしはふつうですー」
「はいはい、わかったから今日はもう寝るっさ」
私の頭をよしよしと撫でると、子供をあやすような口調でそう言った。
それがなんとなく、気に入らなかった私は、少し反抗してみることにした。
「まだ大丈夫れふ。だいたい鶴屋さんはいつもわたひを子供あつかいするんれすよ」
「それは、みくるが可愛いからさっ」
「答えになってませんよー」
鶴屋さんに覆いかぶさるように、もたれれかかる。
鶴屋さんは私を優しく受け止めてくれた。
「その話は明日ゆっくりするから、今日はもう寝るにょろ。ね?」
鶴屋さんの肩に、私の顎を乗せる体勢で、ふわりとシャンプーの香りが漂ってきた。
「鶴屋さん……いい匂い」
「へ?」
不思議な気分だった。
ただ、なんとなく、鶴屋さんが無性にに可愛く思えて
気が付けば、押し倒していた。
「ああ、そう言えば、私のこと抱き枕しないんですか?」
「ちょ、ちょっと……みくる?」
「しないなら、私がしちゃいますよ」
唇を鶴屋さんの頬に当て、なでるように横にずらす。
一旦、唇を離すと、次はおでこに口を付けた。
左手を鶴屋さんに腰に置いて、そのまま上に這うようにずらしていった。
「ちょ、みくる! やめなっ」
「無理ですよー、やめれません」
「わかったから、一旦ストップするっさ! ちょっとがっつきすぎにょろ」
「ふぇ?」
鶴屋さんは珍しく、真剣そうな表情になっていた。
私も手を止めて、鶴屋さんの言葉を待つ。
「本当はみくるが正常のときに聞きたかっただけど仕方ないさっ」
「なんですか?」
「こういうことは、好きな人としかしないものさっ。
みくるは、私のことが好きにょろ?」
わずかだけど、鶴屋さんは震えていた。
まるで、答えを聞くことが怖いかのように。
「はい、もちろんですよ」
ぱあ、とまるでスイッチを入れたかのように、鶴屋さんの表情が明るくなる。
いつもの、私の好きな鶴屋さんだった。
「鶴屋さんは、私のこと好きですか?」
「もちろんっさ。めがっさめがっさ大好きにょろ!」
どちらからともなく、私たちはキスをした。
外から聞こえる雨音が、私たちに世界で自分たちしかいない、という錯覚を与えてくれる。
「じゃあ、あとは好きにしていいっさっ」
そう言って、鶴屋さんは目を閉じる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
どうやら、抱き枕にされる係は鶴屋さんになりそうだった。
オッワーレ
最終更新:2009年01月10日 10:38