「有希、出来たわ!」
有希はテーブルの上に重そうな本を置き、黙々と読書をしていた。
私が声をかけると、トコトコとまるで何かに引き寄せられるように寄ってきた。
有希を引き寄せたその何かは、鍋の中でぐつぐつ煮られている。
スパイシーな香りは、それだけで食欲をそそられる。
私特製のスペシャルカレーだ。
見れば、有希はさっきから物欲しそうに鍋の中を見つめていた。
なんだか可愛くて、その姿をもう少し見ていたかったが、やめておいた。
私だってお腹が空いてるし、なにより早く有希に私の料理を食べてもらいたかった。
「食器をテーブルに運ぶのを手伝いなさい」
「わかった」
有希はカレーを見つめながら、いつもより1.1倍ほど早くうなずいた。
コップにスプーン、サラダの入ったボウルに大盛りのカレーを二人でテーブルに並べる。
「いただきます!」
「………いただきます」
有希はスプーンを持つと、ゆっくりとカレーとご飯をすくい、口に含んだ。
それからモグモグと租借する。
私は黙ってそれを見ていた。
お腹は空いていたけど、それよりも有希の反応が気になるからだ。
「どう?」
私が聞くと、有希はコクリと頷く。
そしてまた、カレーをすくい、租借すうる作業に戻った。
有希に料理を作ってあげたことはこれが初めてでない。
SOS団の活動のときに作ってあげたときもあれば、
最近はよく、こうして有希の家まで来て作っている。
有希はいつも私の料理を美味しそうに食べてくれるし、残したことは一度も無い。
今日だって、女二人で食べるには多すぎる量のカレーを作ったけれど、きっと明日には残らないだろう。
私が「美味しい?」と聞けば、いつだってコクリと頷いてくれる。
結局、想像通りにカレーが余ることは無かった。
一晩置いたカレーは美味しいから少し残念だけど、それ以上に有希に食べてもらえたことは嬉しかった。
ただ一つだけ、不満なことがある。
有希は、食後の熱い緑茶をちびちびと口を付けながら、テレビに映し出されたお笑い芸人を眺めている。
「楽しい?」
「ユニーク」
聞くと、すぐに返答は返ってきた。
30センチも離れていないところにいるのだから当然だ。
最近の有希のお気に入りの場所は私の膝の上だ。
今もあぐらをかいた私の足の上にちょこんと座っている。
あれだけ食べたにも関わらず、体重はほとんど感じない。
その代わりと言ってはなんだけど、私のおそろいのシャンプーの匂いが私の鼻腔をくすぐる。
この体勢は嫌ではない。
むしろ、有希が近くに感じられて、幸せを感じる。
「ねえ、有希」
「なに」
「カレー美味しかった?」
「とても」
「なら美味しいって言ってよ」
私がただ一つ不満なのことは有希が「美味しい」と言ってくれないことだ。
美味しいかと聞けば、肯定してくれるし、本当に美味しそうに食べているのもわかる。
でも、それでも私は有希の口から美味しいという言葉を聞きたかった。
「なぜ?」
「女の子はね、好きな人に美味しいて言ってもらうと嬉しいものなのよ」
言ってから、恥ずかしくなった。
カレーで火照った顔に、更に熱が集まるのがわかった。
幸いなことにこの体勢だと有希は私の表情を見ることは出来ない。
私も有希がどんな顔をしているのかは見えないから、お互いさまだ。
不意打ちだった。
有希は、くるりと私の体を回転させた。
元々、密着状態にあった私たちは、それだけで唇が触れ合う。
それだけなら、まだしも、舌になにか温かいもの感じた。
有希は舐め取るように、私の口内で舌を動かした。
普段なら嫌じゃないが、カレーを食べた後のディープキスは遠慮したい。
私は体をねじって逃げようとしたが、有希はびくともしない。
毎度毎度どんな力してんのよ。
そう思うと同時に、毎度毎度、押し倒されてる自分に気がついた。
いい加減に抵抗するのも気力も無くなり、有希に体を任す。
有希を執拗に舌を絡ませた後、ゆっくりと抜き取った。
唇をつなぐ、白い糸がたらりと伸びている。
「いきなり何すんのよ」
「美味しい」
「は?」
「貴方は言った。女の子は好きな人に美味しいと言われると嬉しい、と。
だから実践した」
「ば、ばか! そう意味じゃないってわかってやったでしょ!?」
「その可能性はない」
有希は白を切るつもりらしいが、私は騙されない。
あの有希の目は、焦る私を見て、楽しんでいる目だ。
いい加減、団長たる私が団員に弄ばれるのは気に入らない。
今日からの主導権は私が取ってやる。
「それなら、こっちにも考えがあるわ」
「考え?」
「有希が認めないなら、もうご飯作ってあげないわよ」
「………」
有希は無言だけど、あきらかにショックを受けていた。
「これに懲りたら、私をからかうのもやめなさい!!」
ビシッと指を突きつけて、反対の手を腰に当て宣言する。
これで私が主導権を取れる、と油断したのが間違いだった。
有希は突きつけられた腕を引っ張った
突然のことで私はバランスを崩され、有希のほうへ倒れこんだ。
有希は私は軽々と受けてとめ、そのまま、またもや私の唇と奪った。
「貴方が作ってくれないなら、貴方を食べるまで」
そう言って、またいつもの様に、押し倒される。
なにが悔しいって、押し倒されるのも悪くないって思える自分が悔しい。
「有希、ちょっとは優しくしなさいよ!」
「それは推奨しない」
「どうして?」
「あなたが満足できないから」
「そんなこと……」
「ある」
有希は勝手にそう決め付けた。
反論しようとした私だったけど、本日三度目のキスで口をふさがれてしまう。
訂正。
有希に押し倒されて幸せな自分が悔しい。
今日もまた、私は有希の家に泊まることになりそうだ。
最終更新:2009年01月10日 10:58