「みかん」
場所は有希の部屋。季節は冬。
二人でコタツを囲い、有希は本を読んで、私はそんな有希を見ていた。
「食べたいの?」
「そう」
要するに「みかんが食べたいから皮をむいて」ということらしい。
「全く、それくらい自分でやりなさいよ」
そう言いながらも、爪を立てて、みかんの皮に指を入れる自分がいる。
我ながら有希には甘いと思う。
でも、なんだか有希に頼まれると断れないというか、嬉しいというか。
なんだか変な気持ちになる。
今だって、みかんの皮をむくなんて面白くもない作業のはずなのに、すごく楽しい。
有希がみかんを食べてるところを想像するだけで、頬が緩む。
有希がみかんを口に入れたら、「美味しい?」って聞こう。
そしたら有希は「わりと」と答えるだろう。ただそれだけのやり取りがすごく楽しみに感じる。
そんなことを考えていたら、みかんは既に丸裸になっていた。
「ほら、できたわよ」
手を伸ばして、みかんを差し出すが、一向に受け取る気配は無い。
有希は視線を本からみかん、そして私へと移す。
そして、何を思ったのか立ち上がり私の方へと歩いてきた。
みかんを受け取るのかと思い、差し出すが、やはり受け取る様子はない。
「どうしたの、って何してんのよ!」
「問題ない」
「あるわよ! どこ入ってんの!?」
有希はコタツをめくり、そのまま隣に座るかと思いきや、私のコタツの間に無理矢理入ってきたのだ。
つまり、今現在、私の両足の間に有希が納まっている。
「みかん」
私の質問には当然のように答えず、再びその単語を口にする。
有希の肩から覗き込むように見ると、口を小さく開けて待っている。
仕方なく、私はみかんを一切れもいでその口に放り込む。
はむはむと咀嚼して、再び口を開ける有希。放り込む私。
「美味しい?」
「わりと」
一分も予想を裏切らないやり取り。有希は予想通りの答えを返し、私は予想通りに嬉しかった。
これなら、みかんの皮むきも悪くないなとも思ってしまう。
「はい、これで最後ね」
最後の一切れを有希の口に入れる。
結局、自分でむいたのに一口も食べなかったな。
自分用にも一つむこうかなと思い、カゴに手を伸ばす。
みかんに手が届くか、と言ったところで有希が一言。
「おすそわけ」
振り向くように、私と顔を近づける有希。
ちゅ、という可愛らしいような間抜けな音がした後、
私の下はみかんと食べることなく、みかんの味を堪能していた。
最終更新:2009年01月10日 11:45